Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女 作:楠崎 龍照
たった一人の大切な人を守るために存在していた。
それはとても自分勝手で
しかし、純粋で真っ直ぐな少女の思いだった……。
ヒバナちゃんとヒガナちゃん。
二人の少女は長い時を得て邂逅を果たす。
引き裂かれた家族を再び一つにするために……。
お母さんを救うために……。
だが、それを引き裂く存在が近づいていた。
もう一度、注意喚起します。
原作ファンの方は閲覧注意です。
私と由奈、Kさん、ヒガナちゃんの4人は、聖域の壊れた空間から飛び込んで外へとやって来た。
それはあの時と同じような半壊した回廊だった。
扉を開けて、長い真っ直ぐの廊下を渡ると、そこにヒバナちゃんが立っていた。
この世界の崩壊が近いのか、度々揺れが起こった。
「ヒバナ!!」
ヒガナちゃんが走って駆け寄っていく。
その声を聞いたヒガナちゃんは少し驚いた様子で、「貴女、ヒガナ……? どうしてここに……?」といった。
「私もずっとこの世界にいて、皆が助けてくれたの。でも詳しい話は後」
「そう……あなた達が……」
ヒバナちゃんは私達の方を見た。
あの時とは違い敵意の気配は一切なかった。
「お母さんはいま、とても苦しんでいる。私のせいで、お母さんはあんな姿に……」
ヒバナちゃんは俯いて、いまにも泣き出しそうな声で言った。
抱き締めたいぐらい可愛いのは私の気のせいだろうか???
「私が何とかする……ヒガナは隠れていて」
そういってヒバナちゃんはヒガナちゃんにそういった。
しかし、ヒガナちゃんは「私も手伝う」とヒバナちゃん訴えかけた。
それをヒバナちゃんは拒む。「ダメよ危ないから隠れていて」と……。
本当に心優しい娘だな……と私は心の底から感じた。
化け物と言われた少女……。
本当の化け物は、蛭南村のアホな大人たちだったのでは?
いや、根源はあのクソ狸か。
「ヒバナの言うことは、もう聞かない!! あなたはいつもそう! 全部一人で背負い込んで……!!」
ヒガナちゃんは心に溜め込んでいただろう言葉をヒバナちゃんに吐き出した。
「昔から私はヒバナに守られてばかりだった。その度に、ヒバナばかり傷ついて……。もう嫌なの、なにもしないで、隠れてばかりで、後悔したくないの……!!!」
ヒガナちゃんはそういって泣きながらヒバナちゃんに抱きついた。
二つの意味で泣けてくる。
あぁ、尊い……!!
「それに、私たちのお母さんじゃない。二人で一緒に助けましょう」
「ヒガナ……あなた……。……ありがとう……」
ヒバナちゃんもヒバナちゃんをグッと抱きあった。
姉妹の再開に私達は不要。
私達は少し離れて、彼女たちの邂逅を見守った。
「でも……」
「わかってる。私たちだけの力で、お母さんを止められるかどうか……」
邂逅が終わったかな?と思ったタイミングを見計らい、私は2人に頷いてゆっくりと二人に近づいた。
「あの……」
それに気づいたヒバナちゃんは、申し訳なさそうに少し俯いてから、「ヒガナを……ヒガナを助けてくれて……ありがとう。本当に……本当にありがとう」と言った。
感謝で今にも泣きそうな声だった。
私は「気にしないで」と満面の笑顔返す。
「こんなこと、言えた義理ではないことは分かっています。ですが……どうかお願いします」
そういって、ヒバナちゃんは私にあの能面を出現させた。
「この面を被って、貴女の力を貸してください。前にも言いましたが、貴女は素晴らしい魂を持っています。この面に適応し、力を使いこなせるでしょう」
「ふむ、あの天狐の面のようにですか?」
私は由奈が被っている天狐の面を指さす。
それを見たヒバナちゃんは「はい」と頷き、話を続ける。
「加えて、この面はいままでの物より遥かに強力です。貴女の力をすぐに引き出せるようになっています。それだけ負荷は相当なものになります。ですが……その負荷は、私が全て肩代わりします」
「ちょっと待って、それはダメだと思う!」
ヒバナちゃんの提案に私は待ったをかける。
ヒガナちゃんも同様の意見のようだ。
「アリスの言う通りだよ!! ヒバナの身が持たない、死んでもおかしくないよ!!」
「それでも……お母さんを助けるには……」
そういいかけたとき、奥底からあの巨大な金魚が雄叫びをあげながら現れた。
肥大化した憎悪……。
お母さんの成れの果て……。
「時間がありません。どうかお願いします……」
「……うーむ」
私が渋っていると……。
「なら、俺も手伝おう」
Kさんが名乗り出た。
それを聞いたヒバナちゃんは顔を上げて驚いていた。
「俺にもお前から貰った面がある。俺の持つ力でヒバナ、お前から受ける代償の半分程度なら肩代わりできる」
そう言うと、ヒバナちゃんは「いいの……ですか?」と消え入る程の声量で言った。
「ああ。この際だ。やれる事はやった方がいい」
その言葉にヒバナちゃんは泣くのを堪えながら「ありがとう……ございます……」と必死に感謝を述べていた。
「なら私とアリスで、あのデカ金魚をやっつければいいわけね!」
由奈は腕をブンブン振り回しながらやる気満々だった。
私は「死なないでくださいね……」と言って、ヒバナちゃんの持つ能面を被った。
すると、私の奥から何かのエネルギーがあふれでてくる感覚に襲われる。
「うっ!」
「ぐぅ……!!」
ヒバナちゃんとKさんは悶え苦しみながら地面に踞った。
「お母さんを守る障壁は、私たちが何とかする……。アリスと由奈はその隙をついて攻撃してください!!」
ヒガナちゃんはヒバナちゃんとKさんの側に寄り添いながら私にそういった。
「お前達、任せたぞ……!!」
ヒガナちゃんとKさんの言葉に私と由奈は「オーケー!!」とグッドサインをして、外へと飛び出した。
由奈は天狐の面を深く被る。
「おー凄い、勾玉が転がってる!!」
外は倒壊したヒグラシの回廊と思われる場所だ。
見るも無残な光景という言葉がしっくりと来るほどに、そこは荒れ果てていた。
壁は砕け、屋根は落ち、それのおかげで畳は汚れ、霊魂の淵叢以上に朽ち果てていた。
そして、由奈が言っている通り、そこら中に勾玉が散らばってある。
この勾玉を使って、肥大化する憎悪を浄化する訳か。
ただ、向こうは空を飛んでる分、有利なんだよね。
まぁ、どうにかしてやるしかない。
『ぐぅぅぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』
呻くような重厚な声を天に轟かせ、巨大な金魚……もとい肥大化した憎悪は私達に急降下して突撃してくる。
「あ、これ普通にやばいやつ!!」
「一旦回避いいいいいいーーーーーー!!」
私達は二手に別れて回避。
肥大化した憎悪……以降は金魚とする。
大口を開けて、外壁や畳、タンスを丸ごと飲み込んだ。
「あの金魚イカれてるでしょ!?」
「Crazy(頭おかしい)……」
私と由奈は食べられた場所を見てドン引きする。
そんな事をしている間にも、金魚はUターンをして突撃をしてくる。
私達はまた走って避けようとした時だ。
『グゥウウウウウウッ!?』
突如、雷が落ちて、金魚を覆っていた膜が無くなった。
ヒガナちゃんが何かしてくれたのだろう。
「今だ!!」
「やああああああ!!」
私達は拾った勾玉を金魚に向けて撃った。
回廊から逃げ回ったと思えば、まさか最後はシューティングアクションになろうとは……。
だが、これはこれで……燃える!!
由奈も同じ考えだろう。
2人の母を救ってやろうという気持ちと、シューティングアクションゲームのような事を出来るという気持ちが混ざりあっている。
私と由奈が撃った合計10発の勾玉は緑色の残光を走らせて、金魚の顔に直撃する。
『グゥウオゥっ!?』
ちょっと間抜けな雄叫びをあげながら、金魚は怯んだ。
そして、再び薄い膜を張って身を守る。
Iフィールドみたいね……。
「また膜を破壊してくれるまで勾玉を集めるしかないね」
由奈はいそいそと散らばった勾玉を回収し始めた。
『グゥウオオオオオオオオオオオ!!!』
金魚はグルグルとキリモミしながら夕日の空を泳ぎ、1つ目の小金魚を大量に射出した。
金魚から放たれた小金魚達は奇声に近い鳴き声をあげながら、こちらに突撃してくる。
その様子はさながら魚雷である。
「うわっ!?」
「アリス大丈……わっ、ちょっ!?」
その小金魚雷は壁や襖の悉くを破壊した。
私達は床に伏せて攻撃から凌いだ。
「何あれ……」
小金魚雷の攻撃が止んだ後、私はゆっくりと頭をあげて呆気にとられる。
「無茶苦茶だよ、あの金魚!!」
由奈は金魚を指差してキレ気味に騒ぐ。
そんな事を気にも止めずに、金魚は優雅に空の水中を泳いでいた。
「こんにゃろう……!!」
優雅に泳ぐ金魚を見た由奈は悪態をつきながら、勾玉を集めまくる。
私も、急いで勾玉を再度集め始めた。
「この勾玉ビー厶って頑張ったら色んな事できそうだね」
「例えば?」
「拡散ビー厶撃ったり、結界みたいなやつを作ったりとか」
「まぁ、頑張ったら意外と出来そうなのかな?」
「ちょっとやってみよ」
そう言うと、由奈は勾玉を一発撃つ。
その勾玉は目にも止まらぬ弾速で、金魚に飛んでいく。
『グゥウオオオオオオ!』
金魚は再び小金魚雷を発射する。
それを見た由奈は「あ、ヤッベ……」と漏らして壁のある場所へと逃げ込む。
私は「えいっ!」と言って、持っていた7つの勾玉を力を込めずにサイドスローの要領で全弾、小金魚雷目掛けて撃った。
すると、その勾玉ビー厶は低速で飛んで行ったのだ。
それを見た由奈は「え、アリスそれどうやったの!?」と壁からひょっこりと顔を出して訊いてくる。
「え、なんか力を込めずに撃ったらできた」
「OK! 力の有無で勾玉の速度変えれるのね。意外な事ができそう」
そういった由奈はゆっくりと小金魚雷に迫る勾玉に狙いを定めて、思いっきり力を込めた勾玉を一発撃つ。
その勾玉はソニックブームを発生させながらぶっ飛んでいき、瞬く間に私の撃った勾玉に直撃した。
そして、その勾玉同時がぶつかり合い、爆散すると同時に光の粒が周辺に飛散し、小金魚雷をいっぺんに撃破した。
「ワァッツ!?えっ!? 凄っ!?」
全く予想していなかった出来事に、私は大いに驚いた。
これコメディアニメだったら目ん玉飛び出てたと思う。
だが、それを行った当の本人も……。
「えええええーーーーーすごーーーーーー!!?」
と、大口開けて驚いていた。
あんな事も出来るんだ。
勾玉の可能性の高さに私も何か出来るんじゃないかと思ってしまう。
再び、雷が落ちて金魚を覆うバリアが消失した。
私はさっきの攻撃で勾玉が0になったので、急いで回収しに回る。
「それなら、これはどうよ!!」
由奈は3つの勾玉をサイドスローで撃ち飛ばす。
そして、時間差を空けてから、力を込めた3つの勾玉を先程撃った勾玉に当たるように放つ。
初段で撃った勾玉が金魚に当たる寸前に、2段目に撃った勾玉がぶつかり合ったことで、砕けた勾玉が前方に拡散。
それらは金魚の全身に直撃した。
目を瞑りたくなる程の緑色の爆閃が、この世界を照らして、金魚は断末魔と共に吹っ飛ばされた。
『ウグオオオォオォオォォォォォォ!!』
爆発の衝撃はとても強く、優雅に泳いでいた金魚は目にも止まらぬ速度で綺麗な直線を描き、剣山のような岩に叩きつけられる。
「由奈ナイス!!」
「これ結構面白いね! 勾玉攻撃のセンスが問われるよ」
「私、センスないからあんな攻撃出来そうにないのが……」
ニッコニコで言う由奈に、私は肩をガクリと落として言葉を垂らす。
だが、そんな余裕はなかった。
砂煙を薙ぎながら、金魚はバリアを纏って再び飛翔する。
『グウウオオオオオオオオオ!!!』
金魚は雄叫びをあげた。
すると、私たちの足元から紫色の光の柱が現れ、その柱は腕と化して私達の掴もうとする。
この攻撃に見覚えのある私は由奈の腕を掴んで退避した。
「わ、アリス!?」
「あの腕に触れたらヤバい!!」
「経験者?」
「そう! 魂を吸われる!」
「えぇ……怖……」
由奈は引き気味に言葉を返す。
あの攻撃はヤバい。
そんな事を言っている間にも、私達の足元から紫色の手が伸びてくる。
新手の触手プレイみたい……。
「わー勾玉拾ってる暇ないじゃんこれ!!」
と、言いつつもちゃっかり勾玉を幾つか拾う由奈。
私も何だかんだ言って、勾玉を少しだけポケットに入れた。
紫の手攻撃を回避していると、再び雷が落ちてバリアが消滅する。
「よし! 今のうちに!!」
由奈は襲い来る手を躱しながら、先程まで拾った勾玉を全弾ブッパする。
私も持っていた勾玉を放つ。
しかし、金魚はこちらに突撃しながら、前方に小金魚の弾幕を張って勾玉ビー厶を相殺した。
「え、IQ高くない?」
「由奈、そんな事言ってる場合じゃないよ!!」
金魚は再びバリアを張って突撃する。
私たちは間一髪の所で避けることができた。
本当にやばかった。
普通にヒレや尾に触れるんじゃないかって距離だ。
危うく金魚に食べられるところだった。
「……あれ?」
由奈は何かに気づいたのか、眉をひそめて声を零した。
「どしたの?」
私がそう聞くと、由奈は「あのバリアの膜って、勾玉だけ防ぐのかな?」と言った。
その言葉に私は「??」と首を傾げる。
「さっき金魚を避けた時に、手がバリアをすり抜けた」
と手を見ながら言った。
そして、何か悪い事でも思いついたのだろう。
由奈は不敵な笑みを浮かべた。
「由奈、悪役みたいな笑みをしてるよ」
「出来るか分からないけどね」
そう言って、由奈は勾玉を集め始める。
だが、金魚も小金魚を飛ばして攻撃してくる。
最早、半壊していた回廊は、既に跡形もなく崩れ落ちて橙色の空が私達を照らしていた。
隠れる場所がない。
私は力を込めていない勾玉を、小金魚目掛けて一発だけ撃つ。
「由奈お願い」
「あいさー、えいっ!」
由奈は私が撃った勾玉に、狙いを定めて撃つ。
私の勾玉と由奈の勾玉がぶつかって、光の粒が辺りに散らばり小金魚をバラバラに砕いた。
そして、雷が落ちてバリアが消滅する。
「えやっ!!」
私は力を込めて、勾玉を撃つ。
ビュンッ!!と音が鳴り、勾玉が恐ろしい速度で金魚に飛んでいく。
『グゥウオオオオオオ!!?』
爆速の勾玉が金魚の腹に直撃、雷が近くで落ちた時と同等の爆音が耳を貫く。
金魚もふらつきながら、あちこちの岩肌にぶつけて怯む。
『ウオオオオオオオォォォォォォ!!!』
だが、すぐさま態勢を立て直して、目が赤く光を放つ。
頭と耳がキーンとする。
視界は赤く更にノイズが走り、表現できない感覚に襲われた。
「あぐ……うぐぐぐぐぐ……!!!」
「ちょっ……こんなところで、それは……!!!」
頭痛と吐き気に苛まれながら、私は由奈を連れて残っている壁まで向かう。
「あが……ギィィィィィィ!!」
「グゥ……おえっ! ……グゲ……!!」
嗚咽を漏らしながら、何とか遮蔽物のところまでたどり着いた私たち。
天狐とヒバナちゃんの能面が無ければ十中八九死んでいただろう。
「グィウ……ねえ、アリス……あれ、なに?」
頭を抱えて苦しそうな口調で訊いてくる由奈に、私も嗚咽を漏らしつつ、あの目に晒されると体力奪われるとだけ答えた。
「はぁ、はぁ、じゃあ、見なけれりゃ……いいわけね」
「ゲホッゲホッ……だね」
私達は一旦奪われた体力を取り戻す為、遮蔽物に隠れながら水筒に入った赤い液体を少しだけ飲んだ。
すると、頭痛や吐き気が見る見るうちに治まっていく。
呪いの光も治まり、再び紫の手攻撃を開始した為、私たちはその場から離脱する。
「由奈、さっきの笑みはなんだったの?」
「え、ちょっと出来るか分からないけど、そのタイミングが来たらやってみようかなって」
「??」
由奈の言葉に私は頭を傾げる。
そんな時、雷が落ちてバリアを貫通し、再び消滅する。
「私ちょっと勾玉集めるから、アリスお願い!!」
「りょーかーい」
私は全力で辺りにある勾玉を収集し始める。
だが、再び呪いの光が放たれる。
「グゥ……!!」
「こんなタイミングで……!!」
私は怯むが、赤い液体を口に含み、それをジワジワと喉に通して頭痛を和らげながら金魚の顔目掛けて勾玉を数発撃つ。
そして、時間差で一発を力を込めて撃った。
「数打ちゃ当たる!! てか、当たれ!!」
先程由奈がやったように、先発の低速勾玉ビー厶に後発の超速勾玉ビー厶が当たり、勾玉が砕けて前方に拡散するように小さな勾玉ビー厶が散布され、金魚の顔面にヒットする。
しかも、その数十発が金魚の眼に直撃し、金魚は今まで聞いたことのない断末魔をあげて、暴れ回った。
『ウギュアアアアアアアアァァァァァァァ!!!』
金魚は眼を瞑り、顔をブンブン振りながら、グルグルと空中を暴れ回る。
その様子は優雅とは程遠いものだ。
相当痛かったんだろうね。
「わー、痛そー」
由奈は物凄い他人事のような口調で無様に暴れ狂う金魚を見つめていた。
「よし、この隙に勾玉収集ー!!」
そう言って、由奈は再び勾玉集めを開始する。
『グゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
そんな中、正気?を取り戻した金魚が雄叫びをあげて、私に突撃してくる。
その様子、形相からしてマジギレしているのだろう事は火を見るより明らかだ。
「ヤーバい……」
冷や汗を流して焦る私に、由奈は悪役なんじゃないかと疑うレベルの笑みを浮かべ、私の前に立った。
「由奈、何するつもり?」
「まぁ、見てて!」
そう言うと由奈は手鏡を取り出して、私に「これ持ってて」と言って差し出した。
私は「え、あ、うん」と頷いて手鏡を受け取る。
「うるああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
大きな口を開けて迫る金魚に、猛々しい声をあげて走り出す。
「ちょっ!?」
私は由奈を引き留めようとしたが、時すでに遅く。
彼女は、バリアをすり抜けて金魚の口の中に飛び込んだ。
そして、金魚はそのまま私の方に突進してくる。
唖然とする暇もなく、私はそれを回避。
「由奈!?」
私は由奈の声を上げるが、彼女の声は聞こえない。
変な汗が滴る。
だが、その心配は直ぐに消え去った。
『グゥウオ!?』
Uターンし、再度私に突進しようとした金魚が突如苦しみもがきだした。
「……え?」
私はそれを呆然と立ち尽くしながら見つめる。
よく見ると、金魚の身体の所々が緑色の爆閃が走っていた。
そして、その時だ。
『グゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
一際うるさい断末魔を上げたかと思えば、金魚の身体が緑色の大爆発を発生させて、断末魔を上げながら回廊の残骸を破壊しながら墜落する。
「よっしゃ!! 何とかなるもんだよ!!」
由奈の声が聴こえたかと思えば、私の持ってる手鏡からフワッと現れた。
「どうアリス? 凄くない?」
「……えっと、何したの?」
ドヤ顔でそう言う彼女に、私はポカンとした表情で訊いた。
由奈はドヤ顔をやめることなく、さっきの出来事を簡潔に説明する。
金魚の中で集めた大量の勾玉(数にして57個)を全弾暴れるように撃ちまくったらしい。
更に、最後の20発は掌で力強く握りしめて一斉射撃したそう。
身体中に緑色の爆閃が走っていたのはそういうことだったのかと、私は心の中で納得した。
で、最後に持っていた手鏡で、私の持ってる手鏡にワープしたらしい。
「由奈、せめて私に一言だけでいいから言って。結構心配したよ」
私は由奈の肩を掴んでそう訴えた。
それを聞いた彼女は、「あー……ごめん」と申し訳なさそうな表情になっていた。
そんなやり取りも、この世界を覆う光によって中断することになる。
墜落した金魚の全身が光が包み込まれ……魂の爆発を起こした。
その爆発の衝撃は、この空間の割って私たち全員を巻き込んだ。
私達は、さっきいた夕日が赤く包まれた場所とは異なる空間にいた。
聖域でも見た彼岸花が赤く煌々と辺りを照らす、神秘的であり、幻想的でもある場所だ。
また虚空には、ひび紫色に割れた箇所がいくつもあり、この場所がさっきとは違う世界だとわかった。
「はぁはぁはぁ……」
「お母さん!!!」
ヒガナちゃんは、燃えて消えゆく肥大化した憎悪に叫ぶ。
私と由奈、Kさんは何も言わずに、その消える憎悪を見つめていると……。
突如、5つの火の弾が私に射たれた。
「……え?」
「アリス!!」
「アリスちゃん!!」
正直、私は呆然として居た為に完全に対処が遅れてしまった。
このままでは当たってしまう。
その時……。
「危ない!!!」
「ヒバナ!?」
私の前にヒバナちゃんが割り込み、5つの火弾をヒバナちゃんが庇った。
「う"ぅ……!!!」
ヒバナちゃんはバタリと倒れる。
「ヒバナちゃん!!?」
「ヒバナ!!!」
「おい、大丈夫か!?」
私達は急いで彼女の元へ駆け寄った。
「お願い……します……」
今にも絶えそうな声で、最後の力を振り絞りヒバナちゃんは言った。
「お母さんを……助けて……」
「ヒバナ……ちゃん……」
ヒバナはそう言うと、力尽きて、私が被っていた能面は音を発てて砕け散った。
そして、炎が立ち込める場所には、1人の女性が姿を見せた。
その女性は天狐の面を被っており、まるで翼を羽ばたかせるかのように、煌々と赤く光りを放った彼岸花の花びらを天に吹き飛ばしながら、四本の赤い尻尾を生やした。
私と由奈、Kさんは構え、ヒガナとヒバナの母に対峙した。
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!』
だが、思わぬ乱入者が現れる。
空間が溶けるように崩れ落ち、そこから1つの化け物が姿を見せた。
私は、その姿を見て絶望する。
巨大な身体中に27個の顔が生え、背中からは54本の腕が異形の翼のように伸び生え、全ての手には桑や刺股などの農具を持った化け物と呼ぶに相応しい姿。
2人の母を襲った27人の男たちの魂が、長きに渡る怨念によって侵食されて形を成した存在だ。
名を二十七の怨念と呼ぼう。
「何でコイツが……」
外縁で1度出会い、事実上殺されたアリスは有り得ないほど冷や汗を流した。
「あれは、この世界の礎となった27人の人柱!? どうして!?」
ヒガナも冷や汗を流して狼狽している。
二十七の怨念は母や倒れたヒバナを見て、口を開いた。
『化け物の親子がいたぞ!! 殺してやる!!』
その声は醜悪そのもので不快の一言だ。
思わず耳を塞ぎなくなる衝動に駆られてしまう
『お前たちも、その親子に味方するなら、全員殺してやる!!』
私や由奈、Kさんを見た怨念はそう言って、二十七個の顔に着いている眼がギョロリと向く。
「おい、俺がアイツの足止めをする。アリスと由奈はその間に、4尾の天狐を救え……」
「岸谷さん、ですが……!!」
ヒガナはそれを制止する。
二十七の怨念は最早、強大等というレベルでは無い程の強さをしている。
いくら強靭な魂を持っているKでも勝ち目は無い。
しかし、それはK自身も分かっていた。
だが、それでも誰かがアレを抑えなければ、全員が皆殺しにされてしまうことは分かりきっている。
故に、誰かがやらねばならないのであれば、自分が行くべきだと悟ったのだろう。
例え、死んだとしても。
覚悟を決めた彼はゆっくりと二十七の怨念に近づく。
「待って、おじいちゃん!! 死んじゃう!やめて!!」
私は必死に止めた。
だが、彼は「アリス、ありがとう」と一言呟きら力を解放しようとする。
『化け物の親子を庇うなら、皆殺しだ!!』
二十七の怨念は呪いの眼で彼を殺そうとする。
しかし……。
─ドンッ!!─
虚空から何者かが殴る音が聴こえてくる。
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
と。
二十七の怨念は攻撃をやめて『なんだ? 何が起きている?』と空を見渡した。
それに私達も辺りを見渡す。
その間も、ドン!ドン!ドン!殴る音が聴こえる。
それは次第に大きくなっていき、遂には虚空にヒビが入った。
外から何モノかが殴っている。
そのヒビは徐々に大きくなっていき、空間の破片が散らばっていく。
そして……。
─バリンッッッ!!!─
窓ガラスが木っ端微塵に砕けるような音と共に空間が割れ、巨大な影が巨大な翼を羽ばたかせ、急降下しながらやってきた。
それは私達の前に姿を顕す。
6本の脚が突起になった東洋竜や大蛇を彷彿する身体。
背中からは左右に3本の触手のような翼がウネウネとしているのが確認できた。
そして、その竜はアリスに話しかける。
『『『遂に見つけましたよ。我が主よ』』』
3つの声が同時に聴こえてくる。
それを見たアリスは驚愕する。
「え? ギルティア!?」
ギルティア。
アリスの友神であり、反物質・この世の反対を司る神龍。
宇宙を創造した神の分体の1柱。
その名を呼ばれた神はニッコリと微笑む。
『『『私達は解を得ました。この幽世に……強い想いが形を成した世界に行く手段を探し当てました』』』
三神の話は続く。
『『『故に、ディアルナとルキアが一時的に肉体を捨てて魂だけの状態なり、私の身体に入り三神分の力を無理矢理得ることで、あの世へと行く術を体得しました』』』
ギルティアが喋っているが、その声には確かにディアルナとルキアの声も混じっており、三柱が同時に喋っているように聞こえる。
『『『私たちは直ぐにあの世への扉を開き、オリジンフォルムとなって三途の川を渡りました。アリスの事を思えば、境界や三途の川を超えるのは造作もありませんでしたよ』』』
なんかすんごいことをサラリと言ってる気がする。
Kさんも由奈もヒガナちゃんも、突然の神の登場に今までに無いぐらい驚いているよ。
『『『さて、この状況はあまりよろしくないと思われますね。それに、あの怨念は……』』』
『……!?』
ギルティアはギロリと二十七の怨念を睨みつける。
神の眼光に一瞬、二十七の怨念は少したじろぐ。
種の中で最底辺の彼女らであっても、その眼光に睨まれては、怨念も畏怖を抱く事は道理だろう。
状況を把握した彼女らは私達の方を見た。
『『『なるほど。私達は、あの怨念の存在を相手してよろしいですね?』』』
「だ、大丈夫ですか?」
『『『ええ。問題ありませんよ。アリスと……青柳由奈さん、そして……貴方はアリスのお爺様ですよね? あなた方は、4尾の天狐の相手に集中して大丈夫です』』』
そう言うと、ギルティアは目にも止まらぬ勢いで飛び上がり、この場の時空を歪ませるほどの雄叫びをあげる。
いや、実際に空間が歪んだ。
『『『あなた方がどのような存在だろうと、知った事ではありません。ただ、幽世の外縁で、私達のアリスを殺そうとした、そのお礼をさせていただきます……!!!』』』
宣言し、二十七の怨念に突撃する。
『化け物め!! まずはお前から殺してやる!!』
『『『……殺れたらね』』』
怨念は迫るギルティアに向かって、怨嗟の籠った農具を投擲して迎え撃つ。
しかし、迫る農具を弾きながら二十七の怨念に接近する。
長きに渡る怨念と、世の理を司る神々との戦いが幕を開けた。
続く