Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女 作:楠崎 龍照
夕立の後の蒸し暑い湿気の中、奥から冷たい風が吹き抜けてくる。
あまりの蒸し暑さに、少しだけ涼んでいこう。
そう、考えた私は、路地に足を踏み入れた。
しかし、次第に路地の奥には何があるのだろうという、好奇心が芽生え、奥へと奥へと進んでいった。
私は汗を流しながら、フラフラと歩いていると少しだけ涼しい風が吹くのを感じ、足を止めてその方向をみた。
それは、路地の入り口だった。
路地の奥から冷たい風が吹き抜けてきた。
「……ちょっと涼んでいこ……」
あまりの蒸し暑さに、そう考えた私は、寂れた路地へと足を踏み入れる。
昔の日本のの家屋が並ぶ狭い路地、ヒグラシの鳴く声が聞こえるなか、私は小さな階段を上がり落ちていた新聞に目がいった。
新聞の内容を要約すると台風の影響で土砂崩れが起こり、土砂の中から27体の成人男性の人骨が見つかった。鑑定の結果、昔に蛭南村で起こった集団失踪事件の人骨であるという。
しかし、人骨は不自然にねじ曲がっていたり、綺麗な断面で切断されていたり、不可解な点が多い。
その失踪事件の唯一の目撃者は「化け物が連れ去った」と証言している。
らしい。
所謂神隠しなのかな?
私は考えながらも、別の方を進む。
すると、木製の壁に張り紙があった。
行方不明者の紙だ。
青柳由奈(16)
8月1日 夕方5時頃 買い物に出掛けたまま消息不明 どんな些細な情報でもお待ちしております。
とかかれていた。
「……」
怖い。
少し不気味に感じ、何も喋らずに無言で歩いていると、ガシャンと何かが倒れる音がすると共に猫の鳴き声が聴こえ、ボールが転がってきた。
私は猫がいるであろう方に小走りで向かった。
「……」
正直ここで引き返そうかと考えたが、私は好奇心が勝ち誇っており、そのまま奥へと進んだ。
歩いてる最中、この路地の至る所にヒガンバナが生けてあることに気づく。
ヒガンバナ……。
あまり良い連想が出来ない故、少し不気味に思ってしまう、一瞬ここで引き返そうかと迷った。
しかし、スナック黒猫という看板のライトが点滅しているのが見え、この先が気になってしまい、先へと進む。
いりくんだ路地を歩き回っていると、突如透明感のある鈴の音と共に黒猫が、私の前を横切った。
すかさず猫を確認するために小さなT字路を曲がるが猫の姿はなかった。
猫が通っていった道を歩いていると、2つの分かれ道に差し掛かった。
一つが真っ直ぐの道。
もう一つが階段を下る道。
私は真っ直ぐの道を選んだ。
そして真っ直ぐの道を抜けて曲がり角を曲がると、探していた猫がチョコンと座っていた。
まるで、私を待っていたかのように……。
私は猫に近づくと、鈴の音を流しながら奥へと進んでいった。
私も猫を追いかけていると、そこには怪しげなトンネルがあった。
トンネルの名札には「蛭南トンネル」と書かれてある。
大人が二人ほどしか横に並べないほどの横幅のレンガ作りのトンネルだ。
ライトは故障しかけているのか点滅しており、ちょっと不気味である。
私はポケットから、とあるジッポライターを取り出して、火を灯し、トンネル内を進んだ。
「長いトンネルだ」
と私はそう思っていると、突然先程の鈴の音とは打って変わって、大きめで、少し濁りのある鈴の音が聴こえた。
流石の私もこれには驚き、反射的に後ろを振り返るが何もなく、再び歩みを進めるとトンネルは行き止まりになっていた。
「???」
あれ?
猫は?
心のなかで思いながら、仕方がなく引き返していると、少し違和感を覚えた。
トンネルの道がさっきよりも長いと感じた。
そしてトンネルから出るとその違和感は間違いでないと知らされる。
入った時と出た時、その光景は全く違ったものだった。
草が生い茂る中に1つの鳥居が斜めに傾いて立っており、その横には石灯籠が置かれていた。
そしてその鳥居を潜ると、木々が生い茂る中に入る。
「え?」
私は呆気に取られた。
『ねえ、ここどこだろ?』
私はディアルナ達に聞くが、返事が無かった。
何度もディアルナ達に叫ぶ、しかし、一切の返事が無い。
ゾワリと鳥肌が立つ。
そのときだった。
ニャーニャーと猫の鳴く声が聴こえてくる。
私は猫の声がする方へと進むと、石灯籠の灯りが照らされている地面に猫が倒れてゴロゴロ転がっていた。
猫に近づいた瞬間。
頭を強く打たれたかのような衝撃と共に視界が真っ白になり、そしていくつもの光景が映し出された。
そこには猫が倒れ血を流している光景。
何やら社に複数の成人男性が桑や鎌等を持って猛っている光景。
髪の長い女性がたっている光景。
二人の少女が手を繋いでいる光景。
社や複数の成人男性が光に呑み込まれていく光景。
そして。
「!!!?」
気がつくと、先ほどいた場所に私はいた。
しかし、そこには猫の姿はなかった。
「い、今のは?」
不思議に感じながらも、このままでは、ラチがあかないからと、石灯籠が照らされている道を進んだ。
ヒグラシの鳴く声が聞こえるなか、草木生い茂る道を進むと、濁った色の彼岸花が咲き乱れる場所にたどり着いた。
そして、鳥居があり、その斜面を上がるとボロボロの社が建っていた。
その社を見て私はふと感じた。
「この社、さっきの光景で映ってたのと似てる?」
鳥居の場所、斜面、石灯籠の置き方。
私はまさかと思い、社に近づいて見ると、不意に社の扉が音を立てて、ゆっくりと開いた。
風など吹いていない……。
この瞬間に私は悟る。
あ、多分私死んだかな?
と。
一応、ディアルナ達は時空の神様だから、ワンチャン助けてくれることを願うけど……。
あー、死んだっぽい。
そう思うと、何だかどうでも良くなり、それなら逆にこの状況を、楽しもうと考えて、このまま突き進むことにした。
そして、私は誘われているであろう。この社に入った。
中は非常にボロボロで床が抜けて彼岸花が咲いていた。
明らかに人が住んでいる痕跡はなかった。
ボロボロの障子を開けると、少し広い部屋に着いたのだが、そこには丹塗りの台座の上に丸い鏡が置かれているだけで何もなかった。
私はその鏡に何か……得たいの知れない力を感じとり、それに触れた。
すると……。
一瞬視界が暗転した。
そして、後ろからガチャリと扉の開く音が……
「……あー、これ本格的に終わりに近づいたかなー」
後ろを向くと、さっきいた場所とは違う場所にいた。
トンネルの時と同じように。
しかも、暗く、あちこちに燭台が置かれてある。
昔のワビサビを感じられる雰囲気があり、何十年前の建築物だよとツッコミをいれたくなる。
少し怖いが、とりあえず進もうと、一本道の廊下を歩いていると、昔ながらのワビサビ溢れるタンスがあった。
ただら何があるか分からない上に人様の場所のタンスを弄るのもどうかと思い、スルー。
そして戸を開けて中に入ると何やら不思議な部屋に着いた。
色々な物が置かれていた。鐘やら鈴やら……。
そして枡格子と言うのかな?
その格子の扉を開けようする。
しかし、鍵がかかっていたようで、開かなかった。
この部屋を少し調べることにした。
家主に見つかれば、事情を説明しようと思ったから。
すると、格子で出来た床の先の壁に鍵が2つ掛かっているのが目に入った。
私は掛けられている鍵を手に取ろうとしたが、手が滑り、鍵を落としてしまったのだ。
しかも、運悪く格子の床をすり抜けて、暗闇の中に消えていった。数秒した後で金属音が下から聴こえたのを察するに、かなり深い……。
「……大バカすぎる……」
私は静かにそう呟き、もう一つの鍵を手に取った。
そして、鍵で扉を開けたが、まさかの鍵が壊れる事態に……。
これは怒られる……。
言い訳を考えないとと心のなかで思いながら歩いていると、回廊の奥の方に置かれてある蝋燭の炎がユラユラと強弱つけながら点滅していた。
しかも、不思議なことにその蝋燭だけ。
私は不気味に感じ、足を止める。
さらにその奥の方から
シャン……シャン……シャン……。
と神楽鈴??
……だろうか、鈴の音が聴こえてきた。
しかもそれは徐々に私の方へと近づいてくるように思えた。
さらに廊下に立てられている燭台の蝋燭たちの炎が段々と点滅し始める。
近づいてくる鈴の音、それに呼応するように点滅する蝋燭。
「……」
これは明らかにヤバい。
そう頭では考えているが、それでも、その鈴の主を見てみたいという、好奇心がフツフツと湧き上がってきた。
私は恐怖と好奇心に襲われ、奥を見つめた。
そして、始めに点滅していた奥の蝋燭の炎が消えた時、それは現れた。
花柄の着物を着て神楽鈴を持ち、能面を被った人?の姿が……。
そして、それは私の姿を確認すると、物凄いスピードで走ってきた。
「やっべ!?」
ヤバいと感じた私。
全力で来た道を逃げるが、さっき来た道とは全く違う道になっていた。
後ろから神楽鈴を振るう鈴の音が迫ってくる中、私は必死に回廊内を逃げ回った。
ていうか、あれ昨日私の夢の中で出てきたやつじゃん!!!
心の中で大声で叫び、全力逃走を繰り広げる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!!」
そして、私の前に扉が見えた。
私は扉を開けようとするが、鍵が掛かっていたのだ。
「嘘でしょ!?」
私は必死に扉を開けようと力を入れるが、扉はびくともしなかった。
神楽鈴の音色はどんどんと近づいてくる。
これなれば助走をつけて蹴破るしか。
私は後ろに下がろうした時だ。
猫の鳴き声が聴こえた。
「え?」
猫はポッカリとあいた天井から鍵を加えてそれを落としたのだ。
「やった! 猫ちゃんありがとう!!」
私は床に落ちている鍵を直ぐ様手にとって、猫に感謝しながら扉を開けて部屋に入り、一か八かの賭けに出た。
テーブルに置かれてある鏡に触れたのだ。
少なくとも神楽鈴の化け物から逃げないといけないし、どのみち触れる以外の道はなかった。
再び視界が真っ白になる。
続く
鏡に触れた瞬間、辺りが光に包まれた。
そして、私がいた場所は……。