Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女   作:楠崎 龍照

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11話 ─ありがとう─ ─さようなら。でも、また必ず会えるよ─

 

 

 

 

 

私の渾身の一撃は、相手の天狐の面を粉砕した。

天狐の面が割れたことで、母はバタリと膝をついた。

ゆっくり辺りを見渡しながら「ここは……?」と言った。

どうやら正気を取り戻したようだ。

 

「やった?」

「そう……みたいだな……」

「よ、よかった……」

 

私達はホッとして、全身に張り付いた緊張が解けてヘナヘナと座り込んだ。

そんな中、ヒガナが助けを乞うように母に駆け寄る。

 

「お母さん、お母さん!! ヒバナが大変なの!!」

 

 

「ヒバナ!? ヒバナ!!」

 

母とヒガナはヒバナの亡骸に寄り添って声をかける。

しかし、彼女はぐったりと倒れて返事がなかった。

それを見た私は、「嘘でしょ……?」と心臓の鼓動が激しくなる。

由奈も涙目になりながら彼女を見つめており、Kさんも顔を俯いて無言の状態だった。

 

「ヒバナ!! ねえ、起きてよ……!! ヒバナ!! お母さんに会うんでしょ!? その為だけに、ずっと頑張ってきたんでしょう!? ずっとずっと……一人で……頑張ってきたんでしょう……? ここで……死んじゃったら……。今までに何のために頑張ってきたのか……わからないじゃない……。ねえ、ヒバナ……!!」

 

ヒガナは泣きながら声をかける。

だが、返事は無くぐったりとしたヒバナがいるだけだった。

それを見ていた母は、こう言った。

 

「私は幼い頃、あるお方に命を救われました。それ以来、私の中には人の血と人ならざる血が流れている。そして、娘たちの中にも。あのお方にできたのなら、私にもできるかもしれません……!!」

 

そう言うと、母はヒバナの亡骸に近づき、私達に「下がっていてください……!!」と言った。

 

私達は無言のまま下がり、母の様子を見ていると……。

母からバサリと彼岸花の花弁を吹き飛ばす勢いで、先程の光の輝く四本の尻尾が現れた。

そして、その四本のうちの二本が消えて、その消えた尻尾は1つの白い魂を生み出した。

その生み出された魂はヒバナちゃんの亡骸へと送り込まれた。

すると、ヒバナの手がピクリと動き始めた。

それを見た母は、直ぐに彼女に話しかける。

 

「ヒバナ……」

「おかあ……さん……?」

 

ヒバナちゃんは、母の膝枕の上で目を覚ました。

 

「お母さん!!」

 

ヒバナちゃんは母に泣きながら抱きついた。

私達も「よかった……」と呟いて安堵する。

その拍子に私と由奈は涙を流した。

 

「お母さん……私……」

「ヒバナ、ありがとう。私のためにいっぱい頑張ってくれたのね」

 

抱きつき泣きじゃくるヒバナに、母もギュッと彼女を抱きしめた。

 

「お母さん……私……私は……。もう、お母さんの知ってる私じゃないの……。たくさんの人を殺した……。殺しても、殺しても……もう何も感じなくなっちゃったの……。わたし、どうしちゃったの……? 本当に……化け物になっちゃったの?」

 

泣きながら、母にそう訴えた。

母も泣きながら、「ヒバナ……」と呟き、彼女に謝罪する。

 

「ごめんね。あなたがそんなに大きな力を宿していたなんて、私は気付かなかった。確かに、私たちの半分は人ではないわ。でも、人間とか妖とか、そんなことはどうだっていいの。ヒバナはヒバナよ。ずっと私のことを思ってくれたんでしょ? 自分の良心を押し殺してまで……」

 

母はヒバナの頭を撫でながら話を続ける。

 

「あなたはいつも、自分の事よりも、私とヒガナのことばかり考えてくれた。昔からそうだったわね。あのときから何も変わってないわ。そんな優しい子が、化け物なはずないでしょ? とってもとっても優しい、私の自慢の娘よ」

 

母は笑顔でヒバナちゃんに言った。

ヒバナちゃんは大泣きしながら、母にギュッと抱きついた。

それは小さい赤子のようだった。

……私は静かに涙を流し、由奈はヒックヒックと「良かった、良かった……」と泣いていた。

そして、しばらく経ち、母に抱かれたヒバナは安心と疲れからか寝てしまった。

 

「寝ちゃった……」

 

ヒガナちゃんは微笑む。

母も安心した顔で「無理もないわ。あんなに無茶をして……」と言った。

そして、母は私達の方を向いた。

 

「娘たちを助けて頂いて、本当にありがとうございました。このご恩は、終生忘れません」

 

と言った。

私は慌てて涙を拭いて、「いえいえ、とんでもないです」と返した。

由奈も「気にしないで!」と笑顔で言った。

 

「私のために多くの命が失われた……。そして、私たちは、人の世で生きるには、もう取り返しのつかない領域まで踏み込んでしまいました。これは全て、娘たちを守ることが出来なかった私の責任です。償っても、償いきれることではありません」

 

それは違う。

私はその言葉を口に出そうとしたが、口を閉じた。

その代わりに、私は「これからどうするの?」と言う。

すると、母は少し笑みを浮かべて、

 

「この世界を建て直し、ここに留まることにします。そしてここが、迷える魂や、私たちのような半端者の救いの場になれば……。そのために、出来るだけのことをしていこうと思います」

 

そう言った。

すると、今まで黙っていたKさんが口を開く。

 

「俺も手伝おう」

 

と。

 

「俺も……俺のせいで仲間を殺してしまった。あいつらが安らかに眠れるように、この場の建て直しを手伝わせてくれ」

 

それを聞いた母は私の方を見て「ですが……」と言い淀む。

 

「私はおじいちゃんの意思を尊重するよ。それにこれでお別れって訳でもないしね!」

「アリス……ありがとう……!」

 

私の言葉に、おじいちゃんは声を震わせながら感謝の言葉を述べた。

 

『『『そちらも終わったみたいですね』』』

 

空間からニュルリとギルティアが姿を現した。

 

「うんっ! ギルティア達も終わった感じ?」

 

私が訊ねると、ギルティアはこくりと頷く。

 

『『『ええ。安らかに眠れるよう、祈りを捧げましたよ。これであの方々も呪いの呪縛から解き放たれたかと思われます』』』

 

彼女達の言葉に母も「本当に申し訳ありません」と謝罪する。

 

『『『いえいえ、お気になさらぬように』』』

 

その刹那──。

彼女の身体が光り始めた。

私達は不思議な表情で見つめていると……。

ポンッ!

と珍妙な音を立ててギルティアの身体から2柱の神が現れた。

 

『あ〜……時間切れかぁ……』

『そりゃあ、あれだけ暴れたらね〜?』

『怨念との戦闘中にならなくて良かったですね』

 

ディアルナ、ルキア、ギルティア達は笑いながら、話をしていた。

だが、ふと何かを思い出したのか、ギルティアが焦り始めた。

 

『……ここで私達が分離したら元の世界に帰れなくなるのでは!?』

『『あっ……』』

 

その言葉にディアルナとルキアも、カチンと固まる。

慌てすぎて硬直をする神々を見た母はヒガナの方を見て口を開いた。

 

「ヒガナ、この方々と神様方を送り届けてくれますか?」

「うん」

 

母の言葉に私は「帰りたくないな……」と心の中で思ってしまった。

何でかは分からない。

でも、少しだけ、そう思ってしまった。

 

『あ、すみません。1つだけよろしいですか?』

 

ギルティアが母に話しかけた。

 

『アリスと由奈さんは先に行っててください。私達は後で追いつきます』

「わ、わかった」

 

首を傾げながらも、私と由奈はヒガナに門の場所へと案内された。

 

 

 

 

「ここです」

 

私と由奈、神々はヒガナに連れられて、門の場所へと向かった。

 

「あの門をくぐれば元の世界に帰ることができます。あなたを見届けたら、この世界への入口を封鎖します。もう二度と、誰かがこの世界へ迷い込むことはないでしょう。本当にありがとうございました」

 

そう言ったヒガナの笑顔は二度と忘れる事のない最高に可愛い笑顔だった。

 

「……。これで、お別れですね……」

「そうですね……」

「……元気でね」

 

なんだか悲しい……。

 

「あなた達が来てくれて本当によかったです。私たち家族は、こんなに近くにいたのに、ずっと離れ離れでした。でも、こうしてまた会えた。あなた達が家族を一つにしてくれました。昔みた夢の通りでしたね。それに……」

 

ヒガナちゃんはそう言うと少し笑いながら、

 

「夢で見たあなたより、ずっと頼もしかったですよ。夢の中の貴方は、鍵は無くすし、溺れるし、暗闇で迷いそうになるし、おまけに、すぐ息は切れるし……。部屋の中で変な行為はするし……ふふっ」

「O…oh…あ、あははは……」

 

その夢の内容はもしかして……。

と思い、恥ずかしくなる。

 

「ねえねえ、変な行為ってなになに?」

「ワーーーーーいらんことを訊かなくていいの!!」

 

凄いニヤニヤした表情でヒガナに問い詰める由奈を、私は顔を赤くして全力で制止した。

私とヒガナちゃんが話をしていると……。

 

「待って!」

 

おじいちゃんと、目覚めたヒバナが走ってこちらにやってくる。

が、躓いて転んでしまった。

 

 

「「大丈夫!?」」

「ヒバナ! まだ寝てないと!」

「力を使いすぎてるんだ。安静にした方がいいぞ」

 

私達はヒバナちゃんに駆け寄る。

ヒガナちゃんに肩をかりて、ヒバナは立ち上がった。

 

「あなたに、言わないといけないことがあるから……」

「ん?」

「……あの時は、本当にごめんなさい……。そして、お母さんとヒガナを助けてくれてありがとう」

 

そして、ヒバナちゃんは「これを受け取ってください」と私に1つの能面を差し出した。

 

「あなたの命が脅かされた時、一度だけ身代わりとなるお守りです。被っても無害なので、安心してください」

「いいの? ありがとう!!」

 

私は喜んで受け取り、ヒバナにお礼を言った。

 

「その面の形は、私の神通力が具現化したものなんです。人によって個性があるように、宿している力も人それぞれ、だから見た目も違ってくる。形は特に決まってなくて、その人の印象に残ったものが形になるみたいです」

「なるほど」

「えっと、私の場合は……昔住んでいた社の廊下に、この面がかけてあったのを見て、それがすっごく怖かったんです。その時、私にとって神通力は母を不幸にする忌まわしいものでしかなかったから、そのイメージが重なったみたいです」

「うふふふ……」

 

それを聞いたヒガナちゃんが笑いだし、それをみたヒバナは「どうしたの?」と言った。

 

「えっとね、ヒバナがその面の前を通る時、いつも私に、一緒に来てって、泣きついて来たんですよ」

「あらぁ可愛い……」

「ホント、可愛いなぁ……」

 

それを聞いた私達は、ほんわかしながらそう言った。

 

「な、泣いてないじゃない!」

 

顔を赤くして恥ずかしそうに訴えるヒバナ。

あぁ、可愛い……。

 

「いつもお母さんと私を守るって威勢はってるのに、厠に行く度に、手を繋いであげないと通れなくて……」

「う、うるさい! 昔のことでしょ!」

 

更に顔を赤くして言うヒバナに私はもう可愛すぎて死ぬところだ。

私達は笑いあった。

 

 

「あ……」

 

ヒバナは何かに気づいたのか、明後日の方をみる。

すると、あの黒猫が走って門の中へと消えていった。

 

「猫?何でこの世界に?」

「フフ、後で教えてあげる」

 

あの猫にはお世話になりましたからね……。

 

「そろそろいかないと、門が閉じてしまいます」

「お別れですね……」

「また会いに来るね」

 

私と由奈は涙を流すのを堪えて笑顔で言った。

 

「アリス……」

 

おじいちゃんが私の名前を呼んだ。

 

「君に出会えて良かった。ありがとう。まさか孫の顔を見れたばかりか、共に冒険が出来るなんて……」

 

そう言って「フフっ」と笑い、話を続けた。

 

「この面も悪い事ばかりじゃないな」

「おじいちゃん、このライター……」

 

私はおじいちゃんにライターを渡そうとしたが……。

 

「そのライターはアリスが持っていてくれ。今の俺では使う事ができないからな」

「わかった」

「そのライター、俺の一番のお気に入りだったんだ。骸流しの時みたいに無くすなよ? 次は拾ってやれないんだからな」

「……っ!!」

 

おじいちゃんが言い放った、その言葉に私の涙腺は完全に決壊した。

ありえないほどに涙を流しながら、おじいちゃんに抱きつき「おじいちゃんおじいちゃん」と連呼する。

 

「アリス……」

 

おじいちゃんも私を抱き返し、頭を優しく撫でた。

 

「由奈。孫を……アリスの事を頼んだ」

「おまかせあれ!」

 

私は涙を流しながらも、笑顔になって「元気でね」とおじいちゃんに言った。

 

『お待たせー』

ギルティア達も私達の所にやってきた。

 

『少しだけ、神様らしい事をしてて遅くなったよ』

『私達は戻る準備は万端ですよ〜?』

 

「向こうの世界に戻ったら、あの子にもお礼を言っておいてください」

「もちろん!」

 

私と由奈、神々は門に近づき、3人に手を振る。

 

「さようなら……」

「ありがとう……」

「アリス、風邪ひくなよ?」

 

光に包まれる中、私達は満面な笑顔で言う。

 

 

─さようなら、でもまた必ず会えるよ─

 

 

 

 

蝉の鳴く声が聴こえる。

私と由奈は蛭南トンネルから出た。

時刻は正午頃だろう。

夏の日差しが立ち込める世界へと来た。

青い空、白い雲。

私達は元の世界に戻ってきたのだ。

 

「……眩しいね」

「うん」

 

私と由奈は眩い日差しを見つめながら笑いあった。

あの世界で起きた事は、一生忘れないだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ヒバナちゃん、ヒガナちゃん、おじいちゃん。

また会える日まで……。

 

 

Happy end

 

 

 




あの世とこの世の狭間にある幽世と呼ばれる世界。
彼岸花が咲き乱れる場所で盲目の少女が、大好きなお母さんと一緒に歩いていた。

その様子はとても幸せそうで、こちらまで幸せに感じでしまうほど、素敵な笑顔をしていた。

「お母さん!」
「ヒバナ!」

その様子を見つめている般若の面を着けた少女と能面を被った男もまた、幸せそうな様子で話をしていた。



Happy end





最後まで見ていただき、本当にありがとうございます。
感謝感激です。
本当にありがとうございました。

今回のイラストも、たなか えーじ先生に描いて頂きました。
誠にありがとうございます。
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