Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女 作:楠崎 龍照
そして、冷酷な化け物と呼ばれた彼女って……。
「出口を知るとしたら彼女だけだ」
良い予感は一切しないが、私はその言葉を頼りに、この深淵とも呼べる暗黒の回廊へと足を踏み入れた。
本当に帰れるのだろうか……?
長い橋を渡り、鳥居を潜る。
屋敷に着いたが、遠くで見たときよりも迫力が桁違い。
ヒグラシの回廊が懐かしいとすらも感じられた。
私は屋敷の扉を開いて早速現れた長い階段を降りる。
階段を降りた先には大きな部屋になっており、鳥居が3つ縦に並び、その奥に扉があった。
鳥居の大きさも扉に行くに連れて、大中小となっているのが特徴だ。
その扉に近づくと、扉が勝手にキィィっと音を発てて開く。
あの煩いクソババア(憎悪振りまく影)の後っていうのもあるけど、流石にこの程度の現象ではもうビックリしなくなった。
あの怪物が怖すぎる……。
怖いというより、精神が持たない。
できれば、二度と出てこないでほしい。
「……行きますか……。この世界から出る為に」
そう口に出して、深淵の回廊に足を踏み入れた。
中はヒグラシの回廊とは違い、壁全体が丹塗りされていて朱色をしていた。
しかし、所々劣化によって塗装が剥がれ、木特有の黄土色が剥げて見えていた。
私にはそれすらも味があるように思えてきたのは、この世界に慣れてきたってことなのかな?
住めば都というが、絶対に都だと思いたくないし、住みたくもない。
「……暗すぎでしょ……」
中は暗いのにも関わらず、ヒグラシの回廊にあった蝋燭たちが一つとしてなかった。
だから、懐中電灯の明かりだけが唯一の心の支えといえる。
正に深淵と呼ぶべき回廊だと私は感じた。
さて、さっそく左右に分かれ道に遭遇した。
私は迷わず右の道に歩く。
絶妙に長い道を歩いていると、突然後ろからドンガラガッシャーン!と天井から棚やら缶やらが崩落してきた。
「うわああああああ!?」
流石にこれは驚いてしまう。
舞い上がる埃に咳き込みながら、戻ろうと崩落した所を見るが、完全に塞がっていて通れなくなってしまった。
「そんな事ある……?」
私は呆気に取られて、ボソッと呟いた。
でも、もしこれが私の上から落ちたと考えたら……肝を冷やさずにはいられない。
それだけはホントに良かった。
私は少しホッとして歩きを再開する。
歩いていると、壁が無くなり開放的な廊下に出た。
暗くてよく見えないが、中庭のような所に巨大な池があり、灯篭が幾つも辺りを照らしているという、この状況で無ければ最高に風情の良い景観であっただろう。
「……」
私は、歩きながら無言で中庭の光景を見つめていた。
そして、真っ直ぐ進んだ先にある行き止まりの部屋を入ると、私は目を丸くした。
なんとその小部屋にある台座の上には、翡翠色に輝く勾玉と、手鏡があった。
「おほーー、幸先良い!!」
私は勾玉と手鏡を前に舞い上がり、勾玉と手鏡をリュックに入れて、この場から立ち去ろうとしたが、よくよく考えてみれば崩落の影響で、私は今閉じ込められている状況だ。
「え……手鏡を使えと……?」
私は独り言を漏らしつつ、手鏡を取り出す。
マジですか……。
私は物凄い苦悶の表情を浮かべて、手鏡に触れた。
視界が眩い光に包まれて、別の部屋に転移した。
早速徘徊者のお出ましである。
ドタドタと走り回る音が聴こえ、更に扉を蹴破る音も鳴り響く。
「(いるよねー、やっぱり……)」
私は溜め息をつきつつ、走り廻る徘徊者がどこかへ行くまで、この小部屋を散策した。
とりあえず、タンスの中から鍵を1つ。
オープンラックから爆竹、光石を手に入れた。
今いる小部屋の散策が終わった頃には、あのドタドタの音は聴こえなくなっていた。
「いなくなったかな?」
走り廻る徘徊者が何処かへ行ったのを確認して、私はその部屋から出て別の部屋へと移動した。
散策して、この回廊の特徴がわかってきた。
この回廊は小部屋や大部屋の纏まったエリアになって、別の纏まったエリアに移動する時に、長い廊下を渡るという構造になっている。
それ故に、廊下で徘徊者と挟み撃ちに会えば助かる確率は0だと私は思った。
ヒグラシの回廊より難易度上がってるやんけ!!
「暗すぎる……。どうなってるのよこれ……」
懐中電灯で前を照らしながら、意味の無い愚痴を零す。
愚痴の1つや2つを零さないとやってられない。
私は長い廊下をテクテクと歩いた。
その直後……。
─バババババババババ─
虫が羽ばたく音が聞こえたと思われた刹那。
強烈な羽音と共に、巨大な虫が私にバシバシと攻撃してきた。
「うぃやぁぁあああああ!?」
予想外の出来事に、私は懐中電灯をぶん投げて、踵を返した。
とりあえず、巨大な羽虫が私を攻撃してきたというのは認識できた。
私は爆竹の数倍の悲鳴を上げて逃げる。
ぶっちゃけ憎悪振りまくクソババアと、あんまり変わらない悲鳴だ。
「いやああああああああ!!! ちょっと待ってえええええええ!!!」
私は両手を頭で覆い、少しだけ体を伏せながら全力で走った。
虫は特段苦手という訳では無いが、いきなり来たら流石にビビる。
私は徘徊者がいる事なんて完全無視で、深淵の回廊内をドタドタと叫び声を上げて走り回った。
「部屋!! 部屋あああああああ!!!」
私は1つの部屋に逃げ込んだ。
気がつけば、あの虫も諦めたようで、忌まわしい羽音も聴こえなくなっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」
何あれ?
なんか、能面みたいな虫……。
あーもう、びっくりした……。
本当にびっくりした……。
私は、バクバクと激しく脈動する心臓を落ち着かせる為に、この小部屋で一息つこうと考えた。
しかし、すぐにその考えを撤回する。
あの時、冷静になって考えれば、虫の襲来時に驚きのあまり懐中電灯をぶん投げ、大声を上げながら回廊を走り回った。
もしかすれば、私の音に反応して徘徊者がこの周辺にやってくるかもしれない。
「(この場から逃げる……しかないか……)」
私は立ち上がろうとした時だ。
背筋がゾワッとする感覚に襲われる。
嫌な空気だ。
鳥肌が凄い。
「(この気配は……)」
私は直ぐに徘徊者が近くにいると悟った。
しかし、あの神楽鈴の徘徊者の鈴の音も、しなければ、走り廻る徘徊者の煩い音も聴こえない。
私は懐中電灯を取り出そうとしたが、羽虫にビビってぶん投げた事を思い出し、過去の私をぶん殴ろと考えた。
「(お爺ちゃんのライターで1回……)」
ポケットからお爺ちゃんのライターを取り出して、それを付けた。
カチンと音を鳴らし、火が灯される。
その火は不規則に明滅をし始めた。
私はライター火を消して、徘徊者が近くにいる事を確信した。
ただ、本当に何の音もしない。
無音そのもの。
神楽鈴の徘徊者や走り廻る徘徊者なら、音で多少の位置を把握できるが、この徘徊者?らしきモノは何処にいるのかが皆目見当もつかない……。
この部屋から出るべきか……。
私は完全に身動きが取れない状態となった。
そして、扉の隙間から、その徘徊者が姿を現した。
『……………………………………………』
「(え何コイツ……怖……?)」
暗くてよく見えないが、赤い複眼のような存在が移動していた。
え、本当に何コイツ……。
得体が知れなさすぎて、怖いというより不気味の方が勝っていた。
『……………………………………………』
その不気味な徘徊者は、足音1つ立てずに私のいる小部屋を素通りした。
私を襲う嫌な空気も次第に収まっていく。
わー、ちょっと待ってよ。
地味に厄介な徘徊者がいらっしゃる……。
本当にヒグラシの回廊より、難易度上がってるやんけこれ!!
こんな事になるなら、ディアルナ達に救出してくれる事を願って、あの人の所で居候すれば良かった……。
私は深く深く後悔する。
だが、ここでそんなことを嘆いていても仕方がない。
自分を鼓舞して立ち上がった。
は
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
゜
「(とりあえず、懐中電灯探さないと……)」
深い、それこそ深淵とも言える溜め息を着いた私は、光石が詰まった麻袋を提灯代わりに、歩きを始める。
「……全然、勾玉見つからない……」
あれから、深淵の回廊内を歩き回ったのだが、私はある事に気がついた。
今まで、この深淵の回廊で神楽鈴の徘徊者を見ていないのだ。
先程から聴こえるのは、ドタドタする足音のみ。
ついでに言うと、あの不気味な徘徊者もあれ以来出会っていない。
多分、この回廊には神楽鈴の徘徊者がいないと私は感じた。
「(神楽鈴がいないだけで……うーん。あんまり変わらないのかなぁ……)」
私は歩き回っている時に手に入れた懐中電灯を持って歩いていると、私は翡翠色に光る部屋にたどり着いた。
そこは長く大きな部屋で奥の台座には勾玉と手鏡があった。
台座の後ろには扉が見える。
「(鍵掛かってない上に、勾玉あるじゃん!! やったー!)」
私はガッツポーズをして、その勾玉を取ろうと近づいた。
その時だった。
バゴーン!!!
と台座の後ろの扉が音を発てて粉々に吹っ飛ぶと同時に……。
シャンシャンシャンシャンシャン!!!
と既聴感のある音が聴こえてくる。
徘徊者が放出された、と言わんばかりに神楽鈴の徘徊者が現れて、私の方に走ってきた。
完全に勾玉に気をとられていた私は、絶大に驚いて全力でその場から離れた。
「わああああああああああああ!?」
大声を上げて、神楽鈴の徘徊者から全力で逃走する。
あんなん反則だああああああああああ!!!
待ち伏せなんて聞いてない!!
「初見殺し過ぎんだろおおおおおおおおおお!!!」
私は追いかけてくる神楽鈴の徘徊者にキレながら小部屋まで逃げ込む。
そして、奇跡的にあった行李の中に避難した。
「はー、はー、はー、はー、はー、はー……」
まさか……罠だったなんて……。
いきなりの出来事に私の心臓は今にも張り裂けそうなほどバクンバクンいっていた。
怖すぎるわ……。
「……スー……フゥー……」
まだ、神楽鈴の音がなっている。
私はバグバグと大きく脈動する心臓を必死になだめながら、鈴の音が去るのを待った。
次第にその音を消え失せ、辺りが静寂に包まれたのを確認した私は、行李の中で深呼吸をして行李からでた。
だが、再び懐中電灯の光が点滅し始めた。
神楽鈴の音や走り回る音が聴こえてこない。
「F**k(〇ね……)」
私は再び行李の中に身を潜めた。
次第に、こいつの姿を拝んでやろうと言う好奇心が芽生え始めた私は、持っていた爆竹に火を付けてそれを放つ。
点火された爆竹は、なかなか煩い破裂音を上げて弾ける。
「(これで来るかな……。待って、なんか他にもやってきそうな予感が……)」
若干、嫌な予感が少し経つ。
そんな中、あの無音の徘徊者がやってきた。その姿を見て、私は絶句する。
全身が白く、赤い複眼に覆われていて、細長い足を持つ。
それは正に大蜘蛛を連想する体格の徘徊者だ。
「(うわぁー。うわぁー……)」
行李の中で呆気に取られていると、どこからが鈴の音が聴こえてくる。
「(H*ly s*it.)」
不気味な徘徊者と入れ替わる形で、神楽鈴の徘徊者がやってきたのだ。
まーでも、そんなこったろうと思ったよ……。
私はこいつらがどこかへ行くのを行李の中で待った。
私は無音の徘徊者を、忍び寄る徘徊者と呼ぶことにした。
「まぁじでとんでもないヤツだよもぉぉぉぉぉ……」
ライトの点滅が止んだので私は行李から出て、さっきの罠部屋へと向かった。
あの時は神楽鈴の徘徊者に邪魔されたが、今回は……。
ヒョコっと顔を出して罠部屋を見る。
台座には勾玉と手鏡があって、後ろの扉は破壊されており、中には誰もいなかった。
私は水晶を構えつつゆっくりと警戒しながら勾玉と手鏡を取った。
「……」
取っても何も変化はなく、ただただ静寂がこの回廊を包むだけ。
一応、念の為に神楽鈴の徘徊者が現れた場所を見ると、中にはオープンラックがあって、そこにコケシがあった。
「……コケシ??」
私は怪訝な表情でコケシに触れる。
一瞬だけ、何やら異様な気を感じ取った私は、とりあえずリュックの中に入れた。
そして、警戒をしつつその罠部屋から立ち去った。
結局何かが起こることはなかった。
「……ふぅ……」
私は一息吐いて、別の場所に移動しようと思った。
しかし、それをライトの点滅が足を止める。
鈴の音も走り回る音も聴こえない。
ということは……
「うぉいー、まただよ……」
無音故にどこから来るかわからない。
私は辺りを見渡して警戒を一層極めた。
逃げようにも鉢合わせにすると、それで終わり。
私は水晶を落とす構えをとっていると。
廊下の奥から忍び寄る徘徊者が姿を見せた。
私とは、かなりの距離があったはずなのに、私の姿を確認した忍び寄る徘徊者は、甲高い不気味な笑い声を上げて、体をピョンピョンしながら迫ってくる。
『フフ、フフフフ、フヒヒヒヒ、イヒヒヒヒ……!!! イヒャハハハハ!!! アヒャハハハハ!!!』
無音だった徘徊時とは裏腹に声を上げて笑う様は不気味で、あの悲鳴をあげる化け物とは違う意味で怖かった。
「待って怖い!!」
ギャップによる恐怖を抱きながら、私は別の場所へと逃走する。
だが……。
「最悪な場所で、最悪な事が起こりよったF**k!!」
前から神楽鈴の音が聴こえてくる。
多分、走っている音に気づいたのだろう。
後ろからは忍び寄る徘徊者。
前からは神楽鈴の徘徊者。
そしてここは廊下。
私が初めに危惧した出来事が起きてしまった。
だが、私には水晶がある。
男から効果について説明された。
回廊内の時間を止める事が出来ると。
「……フッ、そう簡単に死ぬつもりはないよ……!!」
私は顔から冷や汗を垂らしながらも、ドヤ顔を晒す。
そして、構えていた水晶を地面に思いっきり叩きつけた。
「The World!!!」
もんの凄い流暢な英語で叫ぶ。
水晶は音を発てて砕け散り、深淵の回廊の時間が停止した。
世界がモノクロになり、どこからが時計の針が動く音が木霊する。
「今のうちに!!!」
私は全力で忍び寄る徘徊者の避けて全力で別のフロアへと移動した。
「水晶マジで便利!!」
逃げた先には泣き声の主がいて、台座に勾玉があった。
時が止まり、辺りが白黒になった世界でも勾玉だけ翡翠色の輝き放っていた。
私はその勾玉を拝借して、その場から去ろうとした。
だが、タイミングで水晶の時間停止が終わり、回廊の時間が動き始めた。
「(……最悪のタイミング……すぎるでしょこれ……!!!)」
私の直ぐ隣で、泣き声の主がシクシクないている最悪の状況。
私は勾玉をゆっくりとポケットに入れ、そっと後退ろうとする。
だが、歩く時にほんの少しだけ、畳のカサっという音がした。
『何処に……いるの?』
「(めっちゃ怖い、めっちゃ怖い!!!)」
『何処。何処にいるの?』
その音に反応し、泣き声の主は立ち上がって警戒モードに入る。
私は息すらも止めて、ゆっくりと部屋から出ていく。
もう少し、もう少しで部屋から出れる。
そんな時、ドタドタと走る事が聴こえてきた。
「(いやこれ最悪どころの騒ぎじゃないよ!!?)」
私は、ここに来るなここに来るなここに来るな、と、私は歴代教皇並に神頼みをした。
だが、この世界にディアルナ達が来ないように、神はいなかった。
ボロボロの襖をバギンと破壊して、走り廻る徘徊者が現れた。
「ワアアアアアアアアアアア!!!??」
『そこにいる……!! そこにいるの……!?』
『くぁwせdrftgyふじこlp……!!』
走り廻る徘徊者の登場……というか、襖が破壊された時の音に驚いた声で、泣き声の主が私の方へと襲いかかってきた。
無論、走り廻る徘徊者も追いかけてくる。
「待って!! ちょっと待ってえええええええええ!!!」
悲痛の叫びを上げながら深淵を走り回る。
私と泣き声の主、走り廻る徘徊者との命懸けの鬼ごっこが始まった。
泣き声の主の走る速度は予想以上に早く、走り廻る徘徊者と同等の速さだ。
更に私を絶望する状況が起こる。
『アヒャハハハハ!!!! ウヒャハハハハ!!!!』
「Whaaaat!!!??(はぁああああ!?)」
2体の徘徊者に追いかけられていた筈だが、後ろから先程聴いた覚えのある笑い声が聴こえ、後ろ振り向くと、忍び寄る徘徊者も最悪の鬼ごっこに加わっていた。
私はライトを消していたので、気づけなかった。
これは最悪だ。
「NOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!(イヤアアアアアアアアアアアアア!!!!!!)」
深淵の回廊内に私の悲鳴が木霊する。
その悲鳴は憎悪を振り撒くクソババアといい勝負だろう。
必死に逃げる私、追いかける3体の徘徊者。
「F**k y*u!! F**k y*u!! F**k y*u!!」
私は最後の抵抗と言わんばかりに、持っている爆竹全てを徘徊者に投げつけたり、光石を投げたり子供の悪あがきのようにしていた。暴言を吐きながら……。
無論、徘徊者に通用するはずなく、能面を被った徘徊者は追いかけてくる。
「そうだ、手鏡!! 手鏡いいいいい!!!」
爆竹などを投げている最中に、手鏡の存在に気づき、それを取り出して使用する。
「……」
とりあえず、徘徊者からは逃れることができた。
できたけど、できたけど!!
─シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン……─
近くに神楽鈴の徘徊者がいた。
「Oh my god……」
私は肩をガックリと、落としてヘナヘナと座り込んだ。
まぁ、いいや、とりあえず休憩しよう。
そうしないと、恐怖で発狂してしまいそうだ。
「ふぅぅ……」
2時間ほど休憩をした私は、何とか精神を落ち着かせる事に成功させて立ち上がる。
まず初めに、この小部屋を確認する。
ヒグラシの回廊でも見た事のあるオープンラックが並ぶ小部屋だ。
ヒグラシの回廊との差異は、燭台と行李が無い程度だ。
私はタンスを確認し、鍵と爆竹を手に入れた。
……コンパス欲しい。
「……ふぅ……」
私は全身に流れる汗を、タンスに入っていた着物で拭い、部屋を出ることにした。
やってる事が最悪極まりない行為かもしれないが、この状況でそんな事はいってられない。
全身の汗を拭き終えた私は、着物をタンスに戻して祭壇の場所を探すことにした。
いや、コンパスを探した方がいいか。
「とりあえず、コンパス……だね……」
私は祭壇へと向かう為に必要なコンパスを探しに向かった。
小部屋を出て直ぐに鍵が掛かった部屋を見つけたが……どうにも怪しい。
扉の奥にも扉があるのだ。
流石にこれは怪しさがMAXである。
故に私は、これを無視して別の部屋へと向かおうとする。
だが、予想外な事に……。
「え、祭壇見つけた」
少し長い廊下を歩き曲がり角を曲がると、祭壇があった。
ヒグラシの回廊とは違い大部屋ではなく、屋敷から出た闇に覆われた空洞内にあり、辺りは巨大な湖のようで、灯籠がいくつも浮いていて、非常に幻想的だった。
喜びよりも、呆気の方が勝ってしまい、変な反応をしてしまう。
「まぁ、いいや。勾玉を3つ納めよ」
私は3つの勾玉を、祭壇に納める。
すると……。
「え、何? 何!?」
深淵全体を揺らす、地響きが起きた。
そして、私の目の前に広がる湖が二つに割れて、湖の中から長い橋が現れた。
その橋の奥には小島があり、台座の上に鏡が置かれていた。
「どうなってんの……?」
私は呆気に取られつつも、橋を渡って鏡のある小島まで向かい、そこにある鏡に触れた。
視界が暗転する。
そして、別の場所に転移した。
飛ばされた先は大きな部屋で蝋燭で辺りが明るい場所だった。
壁の感じからして先ほどいた深淵の回廊の何処かだと推察できる。
だが、特筆するべきはそこではない。
「え、何でこの音が聞こえるの?」
目の前にある障子の先から神楽鈴の鳴る音が聴こえているのだ。
私は警戒しながら、少し障子を開けて確認する。
「(いるよ……鈴が)」
思った通り神楽鈴の徘徊者が、ジッとなにかを待っていた。
「あれ? でも……この鈴……」
私は、あの神楽鈴の徘徊者は少し雰囲気が違っている事に気がついた。
回廊内を歩き回っている神楽鈴の徘徊者は、赤い着物を着ているのに対し、この神楽鈴の徘徊者は緑色の着物を着ていた。
「え、安全……という認識でいいの?」
私は意を決して、障子をバンっと開けた。
目の前の神楽鈴の徘徊者は私を襲うことはなく、『あなたを待っていました。こちらへ来てください』と言わんばかりに、奥へと歩き出した。
どうやら、この神楽鈴の徘徊者は友好的なようで、襲う気は一切無さそうだった。
「……」
『……』
私は神楽鈴の徘徊者の後ろについて、長い長い廊下を歩いた。
神楽鈴の徘徊者が進む事で、壁にある吊灯篭に火が灯されていく。
「……大物感が凄い……」
『……』
暫くの間、歩いていると、神楽鈴の徘徊者はピタリと立ち止まり、神楽鈴を大きく振りかざした。
すると前方に閉まっていた扉がガチャリと開く。
そして、神楽鈴を鳴らすのをやめてチラッと私の方をみた。
『中にお入りください』と言っているのかな?
私はこの神楽鈴の徘徊者に「ありがとうございます」と、お辞儀をして扉の奥へと向かった。
私が入ったのを確認した神楽鈴の徘徊者は、再び神楽鈴を鳴らして扉を閉めた。
殺意マシマシの徘徊者を見てきただけあって、ちょっとホッコリとした。
「な、何ここ……?」
そして、私の目に映った光景に呆気に取られた。
奥に緑色に光り輝く巨大な結晶のようなものが浮遊していた。
その周囲には結界??と思われるサークルがあり、これを守っているように感じた。
私は走ってその場所へと近づく。
結晶の周辺はぽっかりと穴が空いており、そこに水が止めどなく流れていた。
イメージするならば、ダム穴を超巨大にしたといえばわかるだろうか?
「え、何この和製版エニエス・ロビーみたいな場所……」
私は宙に浮く飛行石のような巨大な結晶を見て、別の世界の建造物の名を呟いていると……。
『やっぱりあなた、とても良い魂を持っているのね』
背後から女の子の声が聴こえた。
「へ?」
振り返るとそこには10歳ぐらいの少女がいた。
黒い着物を着ており、目は包帯で巻かれて、火傷後のようなものが右頬にあった。
正直、物凄い可愛い。
「えーと、アナタは?」
私の質問に、美少女は淡々と話を始めた。
『みんな私を化け物と呼ぶけど……あなたもそう呼びたいなら好きにするといい。実際、今の私は化け物みたいなものだし』
「……」
その口ぶりから、私はあの男が言っていた彼女ではないかと考えた。
『でも、私に言わせれば、人間の方がよっぽど質が悪いわね……』
静か且つ綺麗で可愛い声だったが、呆れた口調で少し冷酷な雰囲気を漂わせていた。
『出口を探しているなら諦めなさい。私のような力ある者にしか開けないし、貴女をここから出すつもりはない』
彼女の言葉に私は絶望する。
「そ、そんな……」
と、少し悲しげな口調で呟く。
そんな私を見た彼女は、少しだけニヤリと微笑んだ。
『でも、良い話があるの』
彼女は、左手から能面を生み出した。
わー、めっちゃ既視感のある能面だこと……。
そして、こう言った。
『永遠の命……いつの世も人間が渇望した力。貴女はその力に相応しい魂を持っている。貴女は、どんな病にも害されない。どんな猛獣でもねじ伏せることができるようになる』
この言葉を聞いて、私が見てきた徘徊者を思い出した。
まさか……。
そう考えると私の背筋がゾワッと凍りつくような感覚に襲われる。
あの男が言っていた、奴の口車には絶対に乗るな。
私は考えることなく少女に言った。
「あ、いえ、結構です」
と。
ぶっちゃけ、永遠の命ならディアルナに頼めば肉体年齢の時間を戻せば実質不死身だし。
どんな病もルキアなら、病という概念を空間に包んで外に放り出せば治るし。
ギルティアなら、対にする能力で、病の反対である健康という概念を入れ替えることも出来るし。
猛獣をねじ伏せれるのは言わずもがな。
まぁ、私はそんなことするつもりも無いし、そもそも神様に失礼だしでやっていないが……。
そう言うと、少女は少し残念そうな声で『そう……』と言った。
『じゃあ、言い方を変えましょう』
「!?」
その声は冷淡という声では表現つかない、冷たい……本当に冷たい声で話をした。
私は全身から悪寒に包まれるのが感じ取れた。
ヤバイ。
本能的にそう感じた。
だが、逃げることができない。
身体が動かない。
『貴女の魂にようがあるの。細工をさせてもらうから、大人しくしていなさい』
その瞬間、少女は持っていた能面を消し、力を解放した。
薄汚い鈴の音と共に辺りが赤く包み込まれ、先ほどのいた場所とは違う暗い海の上にいた。
辺りの海から無数の能面が現れ、そして、その1つの能面が私の目の前に現れた。
私は抵抗しようにも金縛りにかけられて動くことができなかった。
口ひとつとして開くことができない。
「………………!!!」
しかし、その時だった。
1つの勾玉が私のポケットから飛び出して光を放つ。
すると、金縛りは解けて、先ほどの場所にいた。
どうやら、少女に幻を見せられていたようだ。
光が晴れると私の前にあの男が立っていた。
「貴方は!?」
「ギリギリだったな。お前のお陰で上手く忍び込めた」
『あぁ、あなた……仲間殺しの……』
「ようやく会えたな、ずっとこの時を待っていた」
そう言うと、男はあの水晶を見ながら少女に口を開く。
「そこの物体、昔もそこにあったな。そしてお前はずっとここに引きこもっている……。思うに、お前にとってはさぞかし大事な物なんだろう。違うか?」
少女は無表情で手を振りかざした。
すると鈴がなり、男が苦しみだして膝をついた。
『その面、自分から被ったんでしょ。自業自得ね。……そこで大人しくしていなさい』
少女は無感情のまま私の方にゆっくりと近づいてくる。
しかし、それを男が息を切らし、うめき声を上げながら私を庇おうとした。
『あなた、それ以上無理すると、人ではいられないわよ。どうしてそこまで……』
「分からないか? 俺たちをよく見てみろ……! お前には、魂が見えているんだろう……!?」
「え?」
男の言葉に私が困惑している中で、少女は私と男を見て、『なるほどね』と呟いた。
私には何のことだが、さっぱりわからなかった。
だけど、男が余りにも苦しそうなのを見て私は男に駆け寄ろうとした。
しかし、
「おい、俺から離れろ……!!!」
男は私にそういった。
「で、でも……」
『ずいぶん長い間、ギリギリで保ってきたが……もう限界みたいだ……!! 俺の意識が保っているうちに早く逃げろ……!!!』
再び頭を押さえて苦しみ出す。
その苦しみ方は尋常では無かった。
「大丈夫!!?」
しかし、男は返事はなく、息を切らしながらこういった。
「最後の悪あがきだ……。お前に貰った力……利用させてもらうぞ……化け物め……!!!」
と……。苦しみながら絞り出すように言った。
『何をするつもり!? やめなさい!!!』
初めて少女が感情を露にした。
「やめる……つもりは無い……!!」
男は断末魔を上げて、赤いオーラに包まれたかと思えば……。
男が着ていた服が音を立てて破け、化け物に変貌を遂げた。
巨大な顔をして辺りから触手のようなものがウネウネと蠢いていた。
巨大な口の上に、それ相応の能面がある。
そして、それは少女に襲いかかった。
少女は舌打ちをしながら、別の場所に逃げたのか、彼岸花を舞い散らしながら、姿を消す。
男だった化け物は、巨大な結晶のほうを振り向いて、雄叫びを上げながら飛び、何度も何度も結晶にタックルをかます。
その度に衝撃波が辺りに伝わり、水柱を発生させた。
「これ絶対にヤバイ!!」
私はこの場から去ろうとした……。
その時だ。
化け物となったあの男は巨大な結晶を砕き割った。
結果、結晶は緑色の爆発を起こし、衝撃で足場は崩れて私は奈落へと落ちた。
続く
何か、下へ下へと落ちて行ってる気がする……。
とりあえず私は、今は死なないことを祈りながら落下した。