Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女   作:楠崎 龍照

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お爺ちゃんは命が尽きるまで、何度でも私を助けてくれた。
お爺ちゃんに応えるためにも、私は絶対に元の世界に戻らないといけない。
状況は悪くなる一方だけど、そう決意すると勇気がわいてきた。
船は自分の行くべき場所を知っていたかのようにひとりでに船着き場に流れ着き、いつの間にか猫は、鈴を残してどこかへ姿を消していた。

そして、そこはいままでの回廊とは明らかに違う禍々しい雰囲気が漂っていた。


6話 霊魂の淵叢

 

 

 

 

 

 

「ついたみたいね」

 

私は黒猫が残した鈴をポケットにしまって船からおりて、船着き場を離れる。

目の前に回廊の入り口と思われる戸があり、戸を開けた。

中を少し見てから直ぐに扉を閉めた。

 

「わー、ちょっと待ってよ……ンハハハハwww……」

 

あまりのヤバさに、私は笑ってしまった。

禍々しいどころの騒ぎではなかった。

深淵やヒグラシの回廊が可愛く思えてくるほどヤバい場所だ。

 

「なにこれ……何かとんでもない化け物が食い破った……みたいな場所なんだけど……」

 

深淵のように壁や床一面が丹塗りの豪華な屋敷であったことを思わせるけど、経年劣化によりぼろぼろになり、血痕のようにすら見える不気味な回廊。

ヤバい……。

怖すぎるでしょこれ……。

 

「うわぁ……ハハハwww……もーー、絶対ヤバいっってぇぇぇぇぇぇぇ……へへへへへへwww……!」

 

もうあまりの光景に引くしかないわ……。

えげつない……。

深淵かヒグラシの回廊に戻りたい……。

 

「いや……グチグチ言っても仕方ない。進もう!」

 

私は覚悟を決めて、中に入った。

廊下を歩いている最中に、チラッと壁を見る。

 

「これ本当は血じゃないの?」

そう思いながら、恐る恐る壁に触れてみる。

スベスベとした感触と水の冷たい感覚が、私の指に伝わった。

とりあえず、血じゃないようだ。

 

「まぁ、だから何だって話だよね……」

 

ハハハ、と乾いた笑いを出した。

その時────

 

 

─カーーーーーーーーン……!!─

 

 

「……!?」

 

何処からか、鐘のような音が木霊した。

 

「え、何?」

 

私は、一層警戒心を強め、歩きを進めた。

少しだけ散策して、この回廊の特徴が分かった。

この回廊は深淵やヒグラシの回廊とは違い階上階下の立体構造になっているようだ。

昔はそして所々崩落して行き止まりになっていたりかなり面倒な回廊だと言うのが感想だ。

また、ヒグラシの回廊の様に燭台が一定間隔に配置されていて、深淵よりは明るい印象を受けた。

だが、この血痕を彷彿とする回廊のおかげで、深淵の方がマシだと感じる。

 

 

─カーーーーーーーーン……!!!─

 

 

そして、時々鳴り響く鐘の音は何なのだろうか?

未だにそれが分からず、不安になる。

15秒単位で一回鳴るのだ。

徘徊者だと思うのだけど、正体がわからない故に不安が拭えない。

 

「怖いな……」

 

かなりの複雑立体構造になっているためか、今のところ徘徊者に遭遇していない。

しかし、能面に擬態した虫やタンスの中に潜んでいる大蜘蛛の軍勢、触手のようなエロ虫、緑色の顔面にやられて体はボロボロだ。

一応、赤い液体を飲むことで、生命力が沸き上がり、怪我もたちどころに治るので苦労はないけど、それはそれで生き地獄を味わっている感が否めない……。

 

「……」

 

 

─カーーーーーーーーン……!!!!!─

 

 

私は小部屋に入ってタンスを散策する。

何にもない。

本当に何も無い。

せめて鏡が欲しい……。

 

「ヤバい、こんな時に徘徊者に出くわしたら終わる……」

 

 

─カーーーーーン!!!─

 

「……!!?」

 

鐘の音が近くで鳴った。

いま私は小部屋で隠れているからわからないけど、かなり近くで鐘が鳴った……。

私はライトをつけてじっと扉のほうを見ていると、その扉から黒い水溜まりのような物がこちらに近づいてくる。

 

「わ、わ……!!!?」

 

そして、その黒い水溜まりは徐々に人の形を成していき、能面を被った細い翁老になった。

右手には緑色に発光する提灯を持ち、左手にはあの鐘を持っていた。

さっきから鳴っている鐘の音の正体はこの徘徊者だった。

 

『……………………………』

─カーーーーーン!!!─

 

 

「……」

 

私は懐中電灯の電源を落とし、息を殺してジッとふる。

この徘徊者は私の姿に気づくことなく、鐘を鳴らして、ゆっくりと小部屋から出ていった。

 

「(危ない……マジで危ない……!!)」

 

私の心臓ははち切れんばかりに鼓動していた。

あんな近くにいて何で気づかないのだろうか……。

いや、助かったからいっか。

 

『………………………………』

─カーーーーーン!!─

 

 

「(……あー、やばかった……)」

 

あの徘徊者が去ったのを確認した私は、懐中電灯を付けて散策を再開した。

……あの徘徊者なによマジで怖い。

私は、鐘を鳴らす徘徊者に怯えながら、回廊を歩き回った。

 

「鍵……カメラ……爆竹数個、シケてるなぁ……」

 

20分ぐらい、ありとあらゆる部屋を探し回った結果、マジで使えそうなアイテムが少ない。

本当に少ない。

どうなってんのこれ……。

いや、鍵とカメラを手に入れただけマシなのかな?

因みに、深淵で手に入れた爆竹とかカメラとかは、おじいちゃんに追いかけられた時にぶっ壊れて使用できない。

 

「はぁ……普通のリュックじゃなくて、防水リュックならこんな事には……」

 

私は叶うはずのない事を愚痴りつつ、勾玉を探しに部屋を出た。

 

 

─カーーーーーン!!!─

 

 

「ビッ!?」←(訳、びっくりした)

 

突然の鐘と、黒い水溜まりがこちらに迫り、あの鐘を持った徘徊者が姿を現した。

そして、今回は私の姿を見るや否や、愉快に鐘を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。

 

 

『……………………!!』

─カンカンカンカンカンカンカン!!!─

 

 

出来損ないの阿波踊りのような感じだ。

襲っているつもりなのだろうが、そのスピードはかなり遅い。

普通に走っても撒けるスピードだった。

だが、私は気づいた。

この徘徊者、他の徘徊者を呼んでる。

確証はないが、明らかにそのような雰囲気を出していた。

そして、その考えは見事に的中する。

 

「ヤバい……!」

 

私は急いでこの場から離れようとした。

しかし、時既に遅かったようで、神楽鈴や走り回る音が聴こえてくる。

 

「とにかく逃げないと!!」

 

とりあえず、あの鐘の徘徊者を「警鐘の徘徊者」と呼ぶことにした。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」

 

この回廊の複雑さは、私の想像を遥かに上回る程に尋常ではなかった。

私は偶然逃げ込んだ小部屋に、行李があった為に身を潜める事に成功したが、一歩間違えれば袋小路になって殺られていたかもしれない。

 

「何よこの回廊……」

 

廊下に棚やタンスが捨て置かれいたり瓦礫で道が防がれたりしているのが、この回廊の複雑さに拍車をかけていた。

私は警鐘の徘徊者含む徘徊者たちがどこかに行ったのを確認して、勾玉探しに専念した。

 

「ヤバい、深淵の比じゃない……」

 

今までの回廊で一番ヤバい。

勾玉が全然見つからない……。

現在の場所は一階で、私は二階にあがった。

 

「……」

 

2階を散策する。

大広間や下を覗ける展望の場所があった。

展望の場所は上から見て正方形の回廊を成しており、一階、地下一階の様子が見えた。

地下一階は橋のようなL字の道になっていた。

ただ、地下一階にあるのはそれだけで、その道以外は何も無い奈落の底となっている。

 

「どうなってんの?」

 

2階から下を覗きながら呟く。

私はあの地下一階の場所が気になって、そこへ向かおうと考えた。

 

「えーと、地下に続く階段は、どこにあるのか?」

 

私は直ぐに1階に降りて、下り階段を探した。

しかし、邪魔が入る。

走り廻る音が聴こえてきた。

 

「あー、もうf**k……」

 

私は舌打ちをして、近くにあった小部屋に隠れた。

タイミングが悪いなぁ……。

そう思いながら、走り廻る徘徊者がいなくなるまでジッと待った。

 

「あぁ……やっと去った……」

 

私はため息をついて、地下へと続く階段を探した。

5分程散策すると、突如あれが回廊内に響き渡る。

 

 

─カーーーーーーーーン……!!─

 

 

「……警鐘の徘徊者が遠くにいるね……」

 

来られたら面倒だなぁ、と内心思いつつ、下り階段の場所を探す。

 

「……ここか?」

 

1つの戸を開けると、目の前に階段があった。

私は、階段を使って下へと降りた。

だが、その時だ。

 

 

─カーーーーーーーーン……!!!!!─

 

 

なんか鐘の音が心做しか大きくなっている気がする。

もしかして、こっちに来てる?

若干の不安を抱きつつ、私は地下の道を歩く。

下が気になって柵に手を持って除くが、高所恐怖症なら一発アウトと思えるほど、下は深淵の如き暗さをしており、底が見えなかった。

 

「これ落ちたら即死だな」

 

私は覗くのを辞めて歩きを再開する。

L字の道を歩くと、鍵がかかった戸に差し掛かった。

鍵で解錠して戸を開けると、目の前の台座に勾玉が置かれていた。

ただ、台座の横に怪しげな扉がある。

 

「……わぁー、あからさま過ぎる……」

 

多分これ近づいたら、神楽鈴が出てくるのではないかと察した私は、カメラを構えてゆっくりと近寄る。

 

バゴンッ!!

 

と、予想通りに扉が吹き飛んだ。

ただ、そこに出てきたのは、なんと泣き声の主だった。

 

「ッ!?」

『どこ? どこにいるの?』

 

神楽鈴の徘徊者を予想していただけあって、変な感じで驚いてしまった。

私はゆっくりと壁際へと寄って、泣き声の主がどこかへ行くのを待った。

だが、それを阻止する奴が現れる。

 

 

─カーーーーーン!!!─

 

 

警鐘の徘徊者が姿を現した。

私は心の中で絶望と怒りが一気に沸いてきた。

この鐘鳴らしクソジジイ……。

 

『……………』

─カーーーーーン!!!─

 

でも、ここでキレたら逆に死ぬ。

私は非力な人間。

逆らわずに大人しく奴がどこかへ逃げるのを待つのが得策。

忍耐は最後に勝つ。

昔の武将が言っていた言葉だ。

私は生きを殺して、泣き声の主と警鐘の徘徊者がどこかへ行ってくれるのを待った。

 

 

─シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……─

 

「……」

 

ヒグラシの回廊から問わずに聴こえてくる鈴の音。

もう、ここまで来たら恐怖よりイライラの方が勝ってしまう。

はよ、どっか行け。

私は心の中で思いながら、ジッとしていた。

 

『…………………………』

─カーーーーーン!!!─

 

『…………………………』

─シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……─

 

『どこぉ……どこにいるの? どこにいるのぉ……』

 

何このカーニバル……。

呆気に取られていたが、よくよく考えてみれば、泣き声の主が解放された事で、徘徊者が一人増えたということになる。

その事に気づいて絶望しつつも、目の前にある勾玉を取った。

その直後────。

 

「─!? ─?!? ──!?!?!?」

 

この回廊全体が揺れだした。

木々が軋む音や、何かが倒れる音が聴こえて、私は恐怖で台座に捕まった。

揺れは5秒程で収まったのだが、何の予兆もなく発生した揺れに、かなりの恐怖を覚えた。

 

「─────! ──!?」

 

私はサイレントパニックを起こして台座に捕まったまま硬直していた。

少しの時間が経過して、平常心を取り戻してきた私はゆっくりと台座から手を離して、額から垂れてくる汗を拭って溜息をついた。

 

「心臓に悪いって……何? 何が起きたの?」

 

私は謎の揺れに悩まされながら、別の場所へも向かった。

その間もたびたび発生した。

木の犇めく音が、恐怖を煽る。

この回廊の壊れるのでは?

と、疑念すら感じるほどだ。

 

「この揺れは何なの……?」

 

揺れの正体が未だに掴めないので徘徊者の仕業か、それとも劣化による影響なのか……。

それが不明な事も相まって、不安は尋常ではない。

 

「……怖いわマジで……」

 

私は徘徊者と謎の揺れというダブルパンチに怯えながら、このとんでもない回廊を歩き回った。

2階の部屋を隈無く探し、鍵や古いカメラ、水晶を手に入れた。

さらに紙切れを手にいれたが状況的に後で読もうと思い鞄に入れた。

そして、鍵の掛かった部屋を見つけた私は持っていた鍵を使って扉を開けた。

部屋の中には勾玉があり、それを拾う。

やはり、揺れが発生する。

勾玉を取ることで揺れが起こる?

 

「ちょっ!」

 

だが今回の揺れは、先程から発生している揺れとは比較にならない程に揺れた。

その証拠に、私の周辺のタンスや戸棚は倒れて、2階の床が抜けたのだ。

幸い、私に被害は無かったが、今回の揺れには本気で恐怖を覚えた。

 

これは、勾玉1つ取る事に揺れが大きくなっていくのだろうという確信ができた。

残りの勾玉は1つ。

この1つを取ると、この回廊が倒壊するのでは?

と不安が過ぎるが、ここから脱出しなければ生還はできない。

腹を括ってやるしかない。

 

「コンパス探しつつ、勾玉を……」

 

しかし、その行く手を阻む物が現れる。

 

『◎$♪×△¥●&?#$……』

 

ドコドコと近づく騒がしい音。

私は急いで小部屋に入って、走り廻る徘徊者か身を隠した。

しかし、私の目の前にあの黒い水溜まりがやって来てそれが警鐘の徘徊者を形作った。

 

「この鐘ジジィ……!!」

 

私は直ぐにその場を離れ、走り廻る徘徊者が向かった逆の方に逃走を図るが、警鐘の徘徊者に見つかり鐘を鳴らされる。

 

『………………♪♪』

─カンカンカンカンカンカンカンカン!─

 

『◎$♪×△¥●&?#$……!!!』

 

けたたましくなる鐘の音に、さっき通りすぎていった走り廻る徘徊者もその音を聞き付けて引き返してきた。

 

「You're an a**hole!!!!!!!」

 

最早怖さと言うよりも苛立ちの方が勝ってしまう。

この回廊の複雑極まりない立体構造と警鐘の徘徊者のコンボは、私の怒りを招くのに充分すぎた。

あまりの苛立ちに私は心の底から暴言を吐き捨てた。

 

「よ、ようやく撒けた……」

 

ようやく、徘徊者の追撃を撒いた私は、あるものを見つけた。

地下一階の光景だ。

そこには水門が見えて、地下に水が貯まっている。

そして、私の横にはレバーがある。

 

「……」

 

よく見ると、その水門の奥は行き止まりとなっていて、水門を降ろすと閉じ込められるような作りとなっていた。

 

「これってひょっとして……!」

 

いいことを思い付いた私は、リュックから爆竹や光石を取り出した。

まず爆竹に火をつけ爆発する直前までそれを持って水門の奥に投げた。

その爆竹は爆発音を上げながら水の中に入って行く。

更に私は大量の光石を爆竹同様に投げ込んだ。

それだけでは飽き足らず、私は近くにあった燭台も槍投げの構えでぶん投げた。

かなりの音が周辺に木霊したことだろう。

 

『……………………』

─シャン…シャン…シャン…シャン…シャン…シャン…シャン…─

 

『◎$♪×△¥●&?#$……!!!』

 

『……………………』

─カーーーーーーーン!!!ー

 

そして、それらの音を聴き付けた神楽鈴の徘徊者1名、走り廻る徘徊者1名、警鐘の徘徊者1名、合計3名が、水門を通って音がした付近に群がってきた。

 

「いま!!」

 

その瞬間、私はレバーを下げて水門を閉めた。

これにより、3名の徘徊者の動きを封じ込めた。

 

「っしゃおらあああああああ!!!」

 

あまりにも上手くいったことに、私は歓声を上げた。

これさっきよりも探索が楽になる事を確信した私は、ルンルンでその場から離れた。

 

3名の徘徊者を閉じ込めたのは、こちらに優位を齎した。

 

あれから30分は探索をしているが、それまでに徘徊者に出会す事がなかった。

この探索で、鍵が3つ、水晶、爆竹、カメラ2つを手に入れた。

 

「快適すぎる〜♪」

 

私はスキップしながら、回廊内を歩き回った。

一つの戸を開けると、不思議……というか、明らかに何かある空間に入った。

 

正方形の小さな部屋だ。

前方と右に戸があり、真ん中にレバーが天井から伸びている。

そして、床一面が格子になっている、一見しても異様と思える空間だ。

 

「な、なにこれ?」

 

私は一瞬、入るのに戸惑った。

あからさますぎる。

だがその部屋に入っても、特に何かが起こる訳では無い。

……このレバーを降ろす事で何かが起こるのだろうか?

 

「……下げて、みる……?」

 

私はレバーを下げた。

ガチャリと音を鳴らし、レバーが下に下がる。

その瞬間、格子の床がパキっと音が鳴る。

 

「これ、ヤバい?」

 

嫌な予感を感じた私は急いでその場から離れようとした。

しかし、時は絶妙に遅かった。

格子の床はバギッ!と音を立てて砕け散り、私は下に落下する。

 

「考えたら当たり前の事だったああああああァァァァァァ!!!」

 

だが、私は落ちる途中に、突き出た場所に着地した。

 

「ったぁ……」

 

私は足を擦りながら立ち上がる。

どうやら暗闇の中に落ちる前に、途中の場所に着地したようだ。

目の前には扉があって、横のオープンラックには赤い液体があった。

私はそれを飲んで傷を治し、戸を開けようとする。

 

「鍵かかってる……」

 

私は先程手に入れた鍵を使って戸をあける。

更に戸があり、また鍵がかかっていた。

 

「え、何があるの?」

 

連続の鍵がかかった部屋を前に、私は怪訝な表情になる。

とりあえず最後の鍵を開けて、中に入る。

そこには、般若の巨大な面が飾られた小部屋で、台座には鏡が置かれていた。

 

「……」

 

私は無言でその鑑に触れる。

視界が暗転し、晴れると別の場所にいた。

いや、先程いた回廊ではなく、ヒグラシの回廊のような作りの場所だ。

 

「……何ここ……?」

 

血痕のような回廊から、ヒグラシの回廊?と思われる場所に転移した私は警戒心MAXで、真っ直ぐに伸びる廊下を歩く。

歩くに連れて、滝のような音が聴こえてきた。

そして、一つの戸を開けると……。

 

「うわ、何ここ!?」

 

私の目に映る光景に、開いた口が塞がらなかった。

石づくりでできた巨大な階段に、左右からは巨大な滝が流れ、水しぶきが私に勢いよくかかる。

まさに圧巻の一言。

 

「ここがゴール?」

 

滝の轟音に私の声が掻き消される中、私は階段を登った。

 

階段を登り終えると、奥には巨大な石扉が見えた。

その扉にはヒグラシと思われる紋章が刻まれており、その扉の前には祭壇のような物があった。

 

「……ここに勾玉を納めればいいのかな?」

 

私は祭壇のような場所に向かい、持っていた勾玉……一つ足りないけど、それを嵌めようとしたが明らかに窪みが合わない。

 

「え?」

 

その窪みは勾玉の数倍以上、大きくて5つあった。

私は首を傾げながら、窪みを見つめていると……。

 

「……………………あれ?」

 

この窪みの形状に何かを思い出し、私はリュックからそれを取り出した。

ヒグラシの回廊と、あの船の場所にあった大きな勾玉だ。

その2つを取り出して、それらを窪みに嵌めた。

 

「ピッタリ……」

 

綺麗にハマった私は呆然とする。

あと3つ足りなかった。

待って、どうしたらいいの?

私はキョロキョロと見渡して、大きな勾玉を窪みから取ってリュックに閉まった。

 

「これからどうすれば?」

 

私は一旦、その場から離れて鏡の場所に戻ろうと考えた。

階段を降りた場所の端っこに台座があって、ご丁寧に鏡が置かれていた。

 

「これで脱出しろって事ね……」

 

フッと変な笑いが出て、その鏡を使用した。

私が転移した場所は、血痕塗れの回廊だ。

あー、戻ってきたぁ……。

溜息をつきつつ、私は再び最後の勾玉を取りに向かった。

 

「あ、意外と簡単に見つけた」

 

勾玉が置かれた台座を見つける。

だが、その不自然な台座と勾玉に私は立ち止まる。

その台座の斜め左に、ポツンと戸が見えた。

もー、こんなん出てくるに決まってるやん!!

 

「カメラ、カメラ、カメラ……」

 

私はリュックからカメラを取り出して構える。

ゆっくりと、ゆっくりと近づいて行くと……。

案の定、扉をバン!と破砕しながら、神楽鈴を激しくならして私に迫ってきた。

来ると分かっていたので、驚くこともなかった私は、直ぐにカメラのシャッターを押して神楽鈴の徘徊者にフラッシュをお見舞いした。

神楽鈴の徘徊者は眩しそうに手で目を覆い隠して怯んだ。

 

「今のうちに!!」

 

私はその隙に台座にある勾玉を取って逃げようした。

その瞬間だ。

後ろで怯んでいた神楽鈴の徘徊者の足元から紫色の腕が伸び、神楽鈴を絡めとった。

神楽鈴の徘徊者も、私を追うのをやめて必死に抵抗したが、それも虚しく紫色の腕によって奈落へと沈めた。

 

「え?」

 

残されたのは、あいつが持っていた神楽鈴だけだ。

 

予想していない出来事に私は呆気に取られていると……。

突如、回廊を破壊せんばかりの揺れ、そしておぞましい殺気が全身を襲った。

 

 

─FOOOOOOOOOOOOOOooooooooo!!!!!!!!─

 

「!!!?」

 

ヤバい……。

ヤバい奴がきた……。

全身が鳥肌立ち冷や汗が吹き出る。

もしかして、さっきからの揺れの正体ってこいつの怒りによる揺れだったとか?

いや、考察していても仕方がない。

何処からかあの悲鳴が聴こえて、徐々に近づいてくる。

 

 

─ァァァァァアアアアアアア!!!!アアアアアアア!!!!!アアアアアアア!!!!アアアアアアアア!!!─

「1番出会いたくないやつに……!! 」

 

私は舌打ちをして、とにかく走った。

だが、コンパスがないから祭壇の場所もわからない。

結構ヤバい……。

 

後ろから赤い禍々しい光を放ちながら、悲鳴を上げて迫ってくる。

私は耳を塞ぎ、ガムシャラに逃げながら出口を必死に探した。

 

しかし、複雑に入り組んだ最恐の回廊でコンパス無しで祭壇を見つけるのは、ほぼ不可能に近かった。

私は水晶を持っていることを思い出して、水晶を取り出した。

 

「お爺ちゃん……私に力を貸してください!!!」

 

声を荒げてながらその水晶を地面に叩きつけた。

回廊全体の時間が止まり、面なしの化け物も動きが停止する。

今のうちに、私は逃げようとした時、ポケットから鈴を落としてしまった。

この鈴はあの猫が持っていた鈴で、この回廊に入るときに船にあったものを拾ったやつだ。

私はその鈴を拾い、一回鳴らしてみた。

すると、白い光の玉が現れて、私を導くようにフワフワと移動し始めた。

あのお爺ちゃんの時と同じだった。

もしかしたら、祭壇がある場所に行けるのではと考えた私は急いでその光の玉についていった。

この入り組んだ回廊を光の玉は迷うことなく移動し、私を導いた。

 

「あれ?」

 

私は水晶の時間がいつもより長いことに気がついた。

この回廊だけ長いのだろうか?

 

 

─アリス、生きろ。生きて帰るんだ─

「……?」

 

そんなことを考えていると、やがて時間が動き始めた。

あの化け物が一層悲鳴を上げて、追いかけてくる。

しかし、遅かった。

私は既に光の玉に導かれ、祭壇へとたどり着いた。

 

そして持っている勾玉を三つ。

祭壇へと納めた。

すると、おぞましい殺気も消えて、前方の扉が開いた。

私は開いた扉の中に入り、長い廊下をゆっくりと歩いた。

すると奥の扉がバン!!と開き、神楽鈴が走ってくる。

予想してなかっただけに私は飛び上がり、逃げようとしたが、なんとその神楽鈴の徘徊者から緑色の柱のようなものが現れて、神楽鈴の徘徊者はその場で倒れた。

 

「へ?!」

 

私は何が何が起こったのか理解ができず、倒れて動かなくなった神楽鈴の徘徊者を見つめていた。

 

「は、ハロー?」

 

神楽鈴に話しかけるが、動くことはなかった。

あの扉の向こうで何か起こっている?

そう思った私は走って、神楽鈴の徘徊者がきた向こうの部屋へといった。

そして、その部屋には想像を絶する光景が広がっていた。

 

「う、わ……」

 

私は唖然とした。

その部屋はかなり大きな部屋なのだが、その部屋には私が今までの出会った徘徊者が倒れていた。

神楽鈴の徘徊者や走り廻る徘徊者、泣き声の主、忍び寄る徘徊者、警鐘の徘徊者……。

それも何人もの徘徊者が魂が抜けたように倒れており、もう言葉が出なかった。

 

その部屋の先にも扉があり、その扉を抜けた先には……。

 

「なにあれ?」

 

奥には先端が尖った岩が左右対照に並んでいる場所があり、その岩には緑色のエネルギーが通っているのか、光を放っていた。

そして、その中心には小さな建物が見えた。

私は倒れている徘徊者たちを避けながら、階段を降りて、その場所へと向かった。

橋を渡ってその建物に近づいてみると、そこにはかなり美しい顔立ちの女性が眠っていた。

 

「私のお母さんよ」

「へ!?」

 

後ろから声が聞こえて、振り返るとそこにはあの少女がいた。

 

「もうずっと長い間眠ったまま。その魂は体を離れ、底知れぬ憎悪に苛まれながら、今もこの世界を彷徨い続けている。何とか体は維持していたけど……」

 

少女がそういうと、ため息をついてこういった。

 

「あの男が器を壊してしまった。もう時間がない、今すぐ生き返らせなければ……」

「どういうこと?」

 

私の質問に、少女はその事を気にすることなく、口を開く。

 

「魂と体を一体化させるためには、途方もない力が必要なの。あの器で普通の魂を集めても、お母さんの体を維持するのでやっと。だからこれを被せた」

 

少女はあの能面を生み出して、それを私に見せた。

 

「この面を被れば、魂の力が何倍にも増幅される。元となる魂が強ければ強いほど。その力の大きさ故に大抵は自我を失い、人ならざる者へと変異する」

「はぁ……自我を失う……」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

テクテクテク……。←勾玉を取りに歩く音。

 

バンッ!←扉を破る音。

 

ボワァン!←発見時のSE。

 

シャンシャンシャンシャン!←神楽鈴の音。

ダンダンドコドコダンダンドコドコ←徘徊者に追われてる時のbgm。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「(あからさまに自我を持って襲いかかってたような気がするけど……)」

「でも、そういう者たちは普通の魂を集めるのに役に立った。あの男は素晴らしい魂を持っていた。あんなに自我を保っていられるなんて、正直驚いたわ。そしてその魂は、あなたに受け継がれている」

 

少女は淡々と冷徹な言葉を並べていた。

しかし、私にはこの少女から何やら変な感情が出ていたように思えた。

 

「本当は、増幅した魂を収集したかったけど……。分かるでしょ、もう時間がないの。あなたには、いま死んでもらうわ……」

「っっ!!」

 

少女は構えた。

しかし、少女はある昔の出来事を思い出していた。

 

 

それは……。

燃える社の前で母が複数の男に桑等で殴り倒されているのにも関わらず、「来ちゃダメ!!逃げなさい!!!」と自分の身を案じて叫ぶ母の声だった。

 

 

そして、少女は構えた腕を元に戻し、「まぁいいわ……。素の魂なんて、足しにもならない」

そう言った。

私はホッと息を吐いた。

 

「そこで見てるといい……」

 

そう言うと少女は眠る母に近づき、力を放った。

あの尖った岩が緑色の輝きを増してエネルギーを母に解き放った。

これで母が蘇る。

 

そう思った。

 

はずだった。

 

しかし……。

それは違った……。

 

ドスの聴いた雄叫びと共にその建物は破壊され……。

少女の狼狽した声が響く。

 

「なんで……!? こんなはずじゃない!!」

 

私には砂煙でよく見えないが何やら巨大な黒い影が空へと浮上していった。

 

「待って!! お母さん!!!」

 

私には何が何だが分からなかったが、ヤバい自体になっているのはわかった。

 

そして、辺りが崩壊した中で、私はどうしたらいいかわからず立ち尽くしていると。

 

「遅かった……」

 

エコーの効いた別の少女の声が後ろから聞こえ、振り返るとそこには黒い猫がいた。

しかし、その猫の首には光る勾玉が何個も取り付けられたネックレスのようなものをつけていた。

 

「えっと、あなたは?」

 

そう言うと、猫は「やっと私の声が届きましたね」と喋った。

 

「事態は一刻を争うので、手短に話します。私のことは、ひとまず置いておいてください」

「は、はい」

「彼女は、復活に不足していた力をこの世界を構成する力で補填したようです。お陰で私の声が届くようになりましたが……。この世界はまもなく崩壊するでしょう」

「じゃあ、どうすれば……!!?」

 

そう言うと、猫はため息をつき、こう言った。

 

「復活のために集められた魂はどれも苦痛や憎悪によって歪んでいた。それがあの人を変えてしまいました。今のあの人は、もはや人ではありません。底無しの憎しみに呑み込まれた怪物。憎悪そのものです。あの怪物は、やがてあなたの世界に現れることになります。人の魂を食らい、さらにその力を増し、とてつもない災厄になる……」

「……え、それヤバくない?」

 

私の言葉に猫は頷きつつ、話を続ける。

 

「まだ力が弱いうちに、こちらの世界で対処しなければなりません」

「方法は?」

「この世界の礎となった27人の人柱、その魂が燻っている場所があります。いまなら私でもその封印を解けるでしょう」

「つまり、あなたがその封印を解いている間に、私があの怪物をそこまで誘導する。てことです?」

「そういうことです。27の人柱は膨大な力を蓄えている。とても制御出来ませんが、あとは彼らが足止めしてくれます。あの怪物もこの世界と共に消え去るでしょう。私が道を案内します。上手くいけば、あなたを元の世界へ返しましょう。それでいいですね?」

「わ、わかった!!」

 

この際、何でも引き受けてやりますよ。

これまで徘徊者に追いかけ回されたのです。 これくらいなんともないです。

 

「この首飾りを持っていってください。あなたの身を守ってくれます。封印を解くためにも必要ですので、くれぐれも無くさないように」

「OK!」

 

私は笑顔でそう言うと、猫は「私は先回りしています。また後で会いましょう」。そう言うと猫は姿を消した。

猫のいた場所には五つの勾玉で作られた首飾りがあった。

私はその首飾りをかけて橋を渡って戻り、さっきは徘徊者に気を取られて気づかなかったが、端に扉があり、そこを通るとあの鏡が置かれていた。

私はその鏡に触れて、あの怪物のいる場所へと転移した。

 

 

 

 

 

続く

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