Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女 作:楠崎 龍照
復活した少女の母は少女が望んでいた、かつての母ではなかった……。
強大な力を得て、肥大化した憎悪は今、全ての命を食らい尽くさんとしている。
いずれこの世界は消滅してしまう。
私が生き残るためにもあの怪物を止めなければならない。
転移した先は薄暗い屋敷の中だった。
しかし、扉から風が吹く音が聞こえており、今までの場所とは違っていた。
扉を開けると長い渡り廊下になっていて、窓からは外の景色が見えた。
私の目には赤い夕日に包まれた岩々が見えた。
渡り廊下を進み、戸を開けるとそこは外へと続く場所に出た。
「なにこれ……?」
夕日が照らす外に出たのだが、すでに屋敷は半壊し、瓦礫が積み重なっていた。
さらに岩が浮いていたりと、この世界の終焉を物語るにふさわしい光景だった。
私は長い橋を渡り段差を飛び降りると、あの少女がいた。
私が少女に近づいても、気づくことはなく。
「私は昔、人間として生きようとした。でも……大切なものは全て人間が奪っていった。あのときの光景は……今も、光を失った目に焼き付いている……。私は、人間であることを捨て、心を捨てた。そして、数えきれない人間を殺した。すべては、もう一度お母さんに会うため……。その為だけに……」
それを聴いた私は、なぜかいたたまれない気持ちになった。
「これで終わらせない……。もうあのときの私とは違う……!!!」
「……」
「今度こそ……絶対にお母さんを助ける!!!」
そして、地中から超巨大な金魚の姿をした怪物が現れた。
あの少女の母の成れの果ての姿……。
その怪物は小さな一目の魚を引き連れて少女に襲い掛かった。
それを少女は神通力か何かの能力で一瞬にして魚を消し去った。
そして、少女は彼岸花と思われる花びらを舞ながら、母に接近し能力を使うが、それは母には全く効いておらず、少女を凪ぎ払った。
そして、その金魚は私の方へと向かってくる。
「ここをまっすぐ言ってください!!」
すると、私の肩にいつの間にかさっきの黒猫が乗っており、道案内をしてくれた。
「OK!!!」
私は長い廊下を走るが、後ろからあの化け物が迫ってくる。
さらに空間を割って、無数の紫の手が現れて私を掴もうとしてきた。
「あの手……」
前回の回廊の最後に、神楽鈴の徘徊者を奈落へと引きずり落とした手に似ている。
私はそれを交わしながら目的の場所へと走った。
扉を開ける時にその紫の手に触れたが、その手は私の足をすり抜けた。
しかし、私はその紫の手に触れたとき、生命力を吸われているのを感じた。
「うっ……」
「あの手で人々の命を食らい、力を増幅するのです!!」
「な……るほどねっ!!」
しかし、勾玉の首飾りのお陰で多少は守られているそうだ。
私は半壊した回廊を紫の手を交わしながら進んだ。
天井が崩落して、ところに差し掛かると、今度は無数の小金魚が魚雷のように私に突撃してくる。
しかも、かなりの追尾性能を持っており、何発か当たってしまった。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫!!」
私は笑顔で猫に返事をして走る。
そして、襖を開けるとそこにはあの母だった金魚が赤い目を開けてこちらを見ていた。
その目を見たとき、私はあの面なしの化け物を見た時に感じた頭や耳がキーンとする現象に襲われる。
「この感覚……!!」
あの目を見続けていたら呪い殺されてしまう。
そう思った私は目を見ずに全力で走った。
この事から、あの面なしの化け物は母の憎悪の魂なのだろうと思った。
「そういう事か……」
あの少女が言っていた、底知れぬ憎悪に苛まれながら、今もこの世界を彷徨い続けている。
ってあの化け物の事だったのね。
と今さらながら思った。
かなりの生命力を削られたように思えるが、勾玉の首飾りの加護もあって何とか逃げ切ることができた。
崩壊した回廊を抜けると大広間についた。
そして私の足元から紫の手が何本も出現し、私の生命を吸収しようする。
全ての手を回避することはできず、少し吸われてしまったが、生きるにはまだまだ充分あった。
もし、勾玉の加護がなければ今頃やられているだろうけどね……。
「この先にその封印されている場所があります!!」
「OKです!!!」
私は今までにないほどのスピードで駆け抜けた。
大広間を抜けて、外に出るとそこは彼岸花が咲き誇る場所に出た。
いくつもの鳥居があり、初めに見たあの光景を思い出す。
しかし、あの金魚の攻撃も熾烈を極め、無数の魚雷や手を使って何としてでも私の生命を奪おうとしてくる。
魚雷は岩を盾にして、手はステップで何とか回避しつつその鳥居を潜り抜け、その封印されている場所へとたどり着いた。
壊れた橋からその場所を見ると、突如勾玉が光だし、その人柱が封印されている場所にヒグラシの紋章が浮かび上がって、その封印は解かれた。
中から27本の手が現れて、あの巨大な金魚を鷲掴みにする。
金魚も抵抗をして暴れだし、無数の小金魚や紫の手で反撃をするが膨大な力を蓄えている27本の人柱には全く歯が立たなかった。
抵抗していた力も最後には無くなり、金魚はうめき声をあげながら、ゆっくりと奈落へと引き摺り込まれてゆく。
「お母さん!! お母さん!!!!」
あの少女は母を叫びながら、走って母を助けに行こうとする。
「ダメ!! 行っちゃダメ!!!」
それ見た黒猫は私の肩から飛び降りて、少女を呼び止めるが、その声は少女には届かず、少女は母と共に奈落へと落ちて、消えていった。
先ほどの出来事が嘘であったかのように、辺りは静寂に包まれていた。
黒猫は悲しそうな目で奈落の底を見下ろしながら……。
「こうするしか方法がなかったの……ごめんなさい……」
と、泣きそうな声で言った。
さらに
「……ヒバナ」
と、あの少女と思われる名を呟いた……。
私は得たいの知れぬ罪悪感に包まれたまま、下を俯いた。
「……」
「彼女はこの世界で、あまりにも多くの人の命を奪ってきました」
猫は静かに私の方を振り向いてそういった。
「ですが、母に会うために彼女はそうするしかなかったんです。彼女は人としての心を捨て、母のために化け物として生きた。その苦悩は想像を絶します。彼女は、とても優しい人でしたから……」
「……」
私は何を言うことが出来ずに、猫の話を聴いた。
「ですが……。もうこれ以上、彼女が苦しむことはありません。この世界もまもなく消え去り、誰かが迷い込むこともなくなります。あなたのおかけです」
「いえ……私は……」
続きを言おうとした時だった。
この世界が揺れ始めた。
崩壊する、ということなのだろう……。
「あなたには、話しておきたいことがたくさんありましたが……。残念ながら、もう時間がありませんね……。約束通り、あなたを元の世界へと送りましょう」
「一緒に脱出しないの……?」
「私は、この世界に残ります。この世界は、彼女の心そのもの。彼女が創ったこの世界の終わりを、見届けてあげたいんです……。あなたが来てくれてよかった……」
そう言う猫はとても悲し気だった……。
「そう……ですか……」
「ありがとう……ございました」
猫は小さな声でそう呟くと、私の視界が真っ白になる。
そして、視界が晴れるとそこはトンネルだった。
奥には光が見えて罪悪感に包まれながら、トンネルへと出た。
トンネルを出ると照りつける光に目が眩んでしまった。
夏の日差しは私を現実の世界へと私を引き戻した。
でも、それと同時に、私の心に一つの影を落とした。
化け物と恐れられた少女は化け物となった母と共に奈落へと消えて、その悲願を叶えることはできなかった。
それは彼女が背負った業、というものなのかもしれない。
だけど、私にはそれが自業自得だと切り捨てることはできなかった。
─もう一度母に会いたい─
その願いは化け物と呼ばれるには、あまりに人間らしく純粋なものだった……。
終わり。
─トゥルーエンド─
7.5話 答えや真実は一つではない。
このような結末で良いのだろうか?
本当に、こんな結末で良いのだろうか?
あの世界で、私と出会った人は皆、死んでしまった。
みんなの犠牲の元に私は生きている。
みんなの分まで、私は生きなければならない。
でも、私はそう思う事ができなかった。
もしかしたら、助けることが出来たのではないかと……。
そう思ってしまう。
あの世界には、まだ私の知らないことがある。
そう思ってならない。
助けたい。
私は、心の中でそう思ってしまった。
『アリス!!』
私はトンネルから出ると、頭の中に語りかける存在が現れた。
『大丈夫でしたか!?』
『本当に心配したんですよ??』
ディアルナ達だ。
3柱の神々は涙目で、私に迫ってきた。
「し、心配かけてごめん……」
私も3柱の顔に抱きついて、謝罪した。
ギルティアは『本当に無事でよかったです。もう会えなくなるんじゃないかって……』と、悲しみと嬉しさが合わさったような声で言った。
『ねぇ、何があったの?』
ディアルナの言葉に、私は今まで起こった事を全て話をした。
何時間経っただろうか……。
気づけば夕方になり、ヒグラシが鳴いていた。
全てを話し終えた時、ルキアとギルティアは『なるほどね』と声を出した。
そして、ルキアは話をし始める。
『憶測ですが……アリスちゃんが居た場所は、幽世だと思われます〜?』
「幽世?」
私の言葉にルキアはコクリと頷く。
『はい〜? 幽世とは、永遠に変わる事の無い世界。つまり死後の世界ですね〜? アリスちゃんが蛭南トンネルを潜った時に、その幽世に迷い込んだという訳です〜?』
ルキアは更に話を続ける。
トンネルは、この世とあの世を繋ぐ道とも考えられる場所です〜?
ただ、普通はそんな事はありえない話〜?
ですが、あの時のアリスちゃんは蛭南村の神隠しを無意識に反応した事で、幽世との波長があってしまった〜?
その結果、幽世に迷い込んでしまったと考えられます〜?
と。
「そういう訳か……」
私が納得すると、ルキアは話を続ける。
『道理であらゆる次元を探しても見つからなかった訳です〜? 私は空間を司りますが、唯一あの世だけ、接続することが不可能ですので〜?』
そう言うと、ルキアはフッと自分を嘲笑うように言葉を続けた。
『まぁ、私は……私を生み出したトレーナーにも、親である創造神にも、見捨てられた出来損ないの神、故にあの世に接続する事は不可能なだけで、他の空間を司る神なら可能でしょうけどね〜?』
と言って、話を閉めた。
『あの世なら、ギルティアが得意とする分野だと思うけど……』
ディアルナは、チラッとギルティアの方を目線を寄せると、ギルティアは首を横に振った。
『申し訳ありません。私も裏世界……反転世界に行く事は可能なのですが、あの世に行く術はまだ……』
と申し訳なさげに答えた。
『まぁでも、無事に脱出出来て良かったじゃないですか〜?』
暗い空気の中、ルキアはいつもの間延びした、独特の口調で和らげた。
それに便乗するディアルナとギルティア。
『それじゃあ、帰りましょうか』
『うん、久しぶりにアリスのご飯食べたいなー』
『そうですね〜?』
3柱の神々は、そんな話をしながらアリスの自宅に帰ろうとする。
そんな中……。
「……」
私は、おじいちゃんのライターや、青柳由奈さんの持っていたメモを取り出して見つめる。
そして、最後の黒猫の悲しげな声……。
ヒバナと言われた少女の言葉。
─お母さんに逢いたい。─
この言葉は……幼少期に両親を失った私には、心に刺さる言葉だ。
3柱の神々に出会わなければ、きっと孤独に耐えきれずに自殺をしていただろう……。
あの子は……。
「ねぇ……!」
私は神々を呼び止めた。
その雰囲気に、何かを察したのだろう。
私が話を始めるまで何も言わずに、ジッと待っていた?
「ディアルナお願い。私を……あの世界に入る前の1週間前に戻して欲しい!」
『……本当にもう1回、あの世界に行くの? 』
「うん」
『……うーん、私は反対だけど……助けたい人がいるんだよね?』
ディアルナは優しげな声で、そう訊いた。
「……うん。あんな結末は嫌だ……」
私は絞り出すような声で答えた。
─そのライター、俺のお気に入りだった─
─もう無くすなよ。次は拾ってやれないからな─
─お母さん!! お母さん!!─
─ごめんなさい、ヒバナ……─
─ありがとう……ございました……─
「私だけ生き残っても、何も……!」
私は頭の中に木霊する声に、涙を流した。
皆いなくなって、私だけ生き残ってもこれからどうやって生きていけばいいのよ……。
これからの人生、私の後ろにあの人達の影がついてくるだろう。
それはとても、重い影だ。
それを背負った状態で、私は最後まで生きれるわけが無い。
あの人達の言葉が……頭から離れない……。
あの人達の光景が……目から離れない……。
それを見たディアルナは『分かった。それじゃあ、時間を戻すね』と言って、空間を割って本体が現れた。
『本当に行くんだよね?』
ディアルナの最後の忠告に、私は頷いた。
それを見た彼女が微笑んだ刹那───。
時空が歪むほどの咆哮を轟かせた。
─時の咆哮─
ダイヤモンドのような煌びやかな光に覆われた瞬間、私たちは自宅にいた。
携帯を見ると、あの日の1週間前の日付になっていた。
「ありがとう」
私はディアルナにお礼をして、金庫から万札を掴んでデパートへと向かった。
あの世界で経験を元に、回廊で上手く立ち回る為に……。
歴史の改変が始まる。
あれも1つの答え、真実ではある。
だが、答えや真実は1つでは無い。
真実は、無限にある。
1つぐらいあったって良いじゃない。
数多ある
─全員で、明日を、未来を見たい─
そして、続く。
新たな歴史を、新たな未来を、新たな明日を創る為に……。
私は……もう一度……。