Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女 作:楠崎 龍照
夕立の後の蒸し暑い湿気の中、奥から冷たい風が吹き抜けてくる。
「ここだ……この奥に……」
私は以前にいた場所と同じ路地にいる。
もう一度、あの影の回廊へと向かう為、あの世界の真実を知る為、未来を変える為、私はさびれた路地に再び足を踏み入れた。
1話 路地 ─歴史の改変─
「……」
私は路地の道を歩いた。
『ホラゲーの導入部分みたいな路地ですね〜?』
「実際にホラゲーみたいな世界にいったからね」
路地を歩く中で、ルキアは呑気に話をしていた。
私は笑いながらルキアの言葉に返事を返す。
以前は1人で黙々と歩いたが、今回はワイワイと話しながら歩いている為、緊張が解れた。
「確か、ここを右に曲がって……」
私は右の階段を上り、そこにあった新聞紙を……。
「あれ? 新聞紙がない?」
『そりゃあ、アリスが神隠しに逢う1週間ほど前に戻っていますからね〜?』
「あ、そうか」
『それじゃあ、早く蛭南トンネルへと向かいましょ〜?』
「そうですね」
私は鉄の扉を開けて路地裏へと歩いた。
そして……。
─ガシャン!!─
何が落ちる音がしたと思えば、青いボールがバウンドしながら転がってきた。
前と同じである。
しかし、ちょっと油断していた事で驚いてしまった。
「っちょ!?」
『お〜、びっくりしたぁ〜???』
『ええ、流石に驚きました……』
『心臓がボンッって飛び上がったよ!』
無論、初見の3柱の神も驚いたようで、それぞれ感想を述べていた。
ディアルナとギルティアは本当に驚いているように感じたが、ルキアは驚いているのかイマイチ分からん。
『もうこれ、ホラゲーの導入部分だね〜??』
『和製ホラーですね』
『廻牢ノ淵源に似てるよね』
「待って? いつの間にホラゲーをやってたの? しかも聞いた事のないゲームだけど?」
私は少し呆れながら神様達に訊ねた。
神様達は声を合わせて応えた。
『『『私達が制作したホラーゲームを夜にこっそりしてた!(〜?)』』』
そう、とんでもないことを言った。
流石の私もこれには驚いた。
「マジで?」
『はい!』
「プログラミングしたの?」
『神の力を使って、頭の中で想像したものを具現化しました〜?』
「流石神様……」
『出来損ないでも、これくらいは可能だからねー』
いや、出来損ないって言うけど、人間の尺度からしたら十分凄いよアンタら……。
そんなことを話していると、突如、透明感のある鈴の音と共に黒猫が、私の前を横切った。
『黒猫ですね〜?』
『あの鈴、何か力を感じます』
『それに……何か空気が変わったような気がする』
「あの黒猫についていくね」
私は早歩きで黒猫を追いかけた。
あの時と同じように……。
そして、2つの分かれ道に差し掛かった。
一つが真っ直ぐの道。
もう一つが階段を降る道。
前回は真っ直ぐ歩いた。
今度は階段を降る道へと歩みを始める。
降った先に、ちょっとした長いトンネルがあり、道を歩くに連れて、川の流れる音、ヒグラシの鳴き声が聴こえてきた。
「……」
トンネルから出ると、そこには大きめの鳥居があり、その奥には少し小さめの社のような物があった。
「社……?」
『結構、味がありますね〜?』
私はゆっくりと社へと行くと、突如その社の扉が開いた。
その光景に私たちは、時間が止まったように固まる。
「え……?」
『ポルターガイスト〜?』
『少し、鳥肌が立ちましたね』
『わぁ……これは……怖い』
私は変な既視感を覚えつつ、その社に入った。
社の中には台座と巨大な狐の面が飾られていて、その台座の上には人間が被るに調度良い狐の面があった。
「……この狐の面……私だけかな?」
私は面を持って、神々に見せた。
それを見た神々も何か感じたのか、目つきが鋭くなった。
特にギルティアの反応が大きかった。
『これは……凄いですね』
「だよね?」
ギルティアの反応に、私は同意を求めた。
私の持つ面からは、あの回廊の世界と同じ気が溢れていた。
『その面を被る事で、あらゆる怪我を治癒し、どれだけ走っても息切れを起こす事がなくなると思われます。それに……』
ギルティアは少しだけ考えるような素振りをしてから、口を開いた。
『なんて言えばいいでしょう……。魂のエネルギーの塊を放出させて、霊や妖怪等を浄化させる力も持っています』
「魂の塊……あ!」
『心当たりが?』
私はデパートの行きしなに、ポケットに入れた勾玉の首飾りを取り出した。
「この勾玉のこと?」
私はそれを見せるとギルティアは『それです!』と言った。
『その勾玉を放出して、相手の魂を浄化する事が可能だと思われます』
「おーーーーー!」
ギルティアの言葉に私は歓喜した。
あの忌々しい徘徊者を蹴散らす事ができる!
私はこの天狐の面を持って、それをリュックの中に入れた。
「これ、慰霊碑?」
私は社の隣にある巨大な石でできた慰霊碑を見た。
慰霊碑には、
明治十二年 七月二十日
慰霊碑
蛭南村
桑食川大氾濫
と、刻まれていた。
そして、その慰霊碑には彼岸花とお茶、こけしが添えられていた。
『このコケシも何か不思議な力が感じられますね』
「コケシなら、あの回廊で結構拾ったよ」
そう言って、私は回廊内で手に入れたコケシを複数取り出した。
神様達はそれらをマジマジと見つめ、こう言った。
『それちょっと貸してください〜?』
『何か面白いことに使えそうです』
『幽世に行くなら、色々と準備しないとね』
そう言うルキアとギルティア、ディアルナに、私はコケシを渡した。
受け取った神様達は神の力を使い、そのコケシを別の物へと形を変えた。
金メダルやら、変な端末やらが、私の舞い降りた。
「なにこれ?」
それらをマジマジと見つめながら、神様達に質問すると、得意気にそれらのアイテムの概要を説明し始める。
金メダルは、これを持っているだけで永遠に走れるらしい。
更にスピードも少しだけ上がるというオマケ付き。
変な端末のは、自身の命、つまりHPを数値に可視化することができ、更に端末に内蔵されてあるカメラを使うことで、用途不明のアイテムの詳細を見る事ができるという、中々に最強のアイテムだ。
「流石神様!」
私の言葉に、3柱は得意気な表情をした。
『これで、幾分か攻略しやすくなったかと思われますね〜?』
「うん、ありがとう!」
『お気になさらずに〜?』
私はそれらのアイテムをリュックにしまって、あの蛭南トンネルへと続く道へと戻った。
「やっぱりいる……」
『アリスを待っている……そんな雰囲気を感じられますね〜?』
『そう見えますね』
『黒猫、可愛いなぁ』
私が黒猫に歩み寄ると、黒猫は鈴を鳴らしてトンネルの方へとピョンピョンと軽快に走っていった。
「……」
私は無言で歩き、蛭南トンネルの前で立ち止まる。
「それじゃあ、一旦お別れだね」
『気をつけてくださいね〜?』
『私も、何とかして幽世へと続く道を探ってみます』
『生きて、帰ってきてね』
しんみりしたムードの中で、ルキアがとんでもない事を口にした。
『あーそれと、化け物がいる中で自分を慰めるのは、程々にした方がいいですよ〜?』
「な、何故それを……?」
突然の爆弾発言に、私は顔を真っ赤にしてルキアに問う。
すると、ルキアはニヤっとした表情をして返事をした。
『本当にしてたんですか〜? 適当に言ったんですが〜?』
「いや、あのね。良く考えてみて、いつ殺されるかも分からない極限の状況なの。精神的に発狂してもおかしくないの。だからね、精神を抑えるためにね」
『あー、分かりました〜? ですが、化け物が跋扈する所では、程々にしないとそれこそ見つかって……』
「分かった、分かったからやめて、もう言わな……え、待って、まさかと思うけど、私が家の時も……」
『家の時は極力見ないように努力してますよ〜?』
「見てるんかい!!」
『別に私たちは性別的には♀になりますから、問題はありませんよ〜』
「私が問題あるの!」
私とルキアのやり取りを見ながら、ケタケタと笑っていた。
いや、笑う前に止めてよ!
「ま、まぁ、とりあえず行ってくるね!」
私はそう言って、トンネルへと入ろうとする時、再び神様達が呼び止める。
『あ、念の為に、これを持っていてください』
そう言って、私に玉を渡した。
受け取った私はキョトンとして、その玉を見つめる。
見た感じ、金剛玉、白玉、白金玉と思われる。
『それは、私達の力で生み出した宝玉です。』
『1度だけ死を身代わりにしてくれますよ〜?』
『だから、3回も死ぬ事ができるって訳だね!』
「ありがとう! それは普通に助かる!」
私は神々にお礼をして、「それじゃあ、いってきます!」と言ってトンネルへと入った。
神々はトンネルの暗闇に、私が呑まれるまでずっと見送ってくれた。
「……」
トンネルの中を、私は進む。
真っ暗で、不気味なまでに静かだった。
それさ正に、嵐の前の静けさというに相応しいものだ。
そして、あの音が私の耳を突き刺した。
─シャアアアアン─
「……入ったようね」
行き止まりになったトンネルを見て、私は確信する。
それは、私だけじゃなかった。
蛭南トンネルで見送った神々達もアリスの気配が無くなった事に気がついた。
『今、幽世に入ったようですね〜?』
『反転世界に向かって、幽世の構造等を調べてみます!』
『お願い! 私は時空の狭間で、何か痕跡がないか見てくる!』
それぞれが異次元への穴を開けて、幽世の場所を特定しに向かった。
「うん、またこの世界に入ったね」
トンネルから出た私は既視感のある場所に出た。
それは半壊した鳥居がある少し木々が茂る場所。
再びその場に着いた。
「聞こえる?」
私は神々に問うが、返事は帰ってこない。
前と同じである。
「よし、ヒグラシの回廊まで行こう!」
頬をパンパンと叩き、喝を入れた私は地を蹴って走った。
黒猫から見た回想も健在だった。
結局、あの光景は何だったのか……。
この時間軸で、全てを知らなければならない。
私は彼岸花に包まれた社に入り、鏡に触れた。
同じだ。
初めて見た時は、絶望して発狂しそうだったが……。
今は違う。
流石にもうビビらん!
それに、路地に入る前にデパートで回廊攻略に使えそうな物を沢山買った。
初見の時みたいにはいかない。
私は意気揚々と鍵を取って、廊下を歩いた。
今度は鍵を落とすことなく、2つを手に取った。
そして、格子扉を開けて再び廊下を歩く。
ここで神楽鈴の徘徊者が現れるはずだ。
廊下の奥に見える燭台の火が明滅している。
─カンッ、シャリン…カンッ、シャリン…カンッ、シャリン…─
だが、奥から聴こえてくるのは、神楽鈴とは全く異なる音だった。
鉄の杖をついたような音と鉄と鉄がぶつかり合うような音だ。
「……え?」
あまりにも予想だにしていなかった事に、私は呆然と奥の燭台の火を見つめていた。
そして、その火が消えた時、それは現れた。
長い錫杖を持ち、神主を彷彿とする姿を新たな徘徊者だった。
「か、かぐら……!?」←訳:神楽鈴じゃない!?
神楽鈴の徘徊者ではない別の徘徊者、しかも初めて見るソレに、私は一瞬だけフリーズする。
『………………!!』
錫杖を持った徘徊者は、私を視認。
私の視界が赤黒いノイズが走り、頭を叩かれたような衝撃が走る。
だが、徘徊者は毅然とした態度で私の方に向かっていく……と思えば、突然を錫杖を振りかざした。
─シャリィィィィィィィン!!!─
錫杖の音が、回廊に轟く。
思わず耳を塞ぎたくなるような歪で汚れた音だ。
すると、徘徊者の周辺から能面に擬態した蟲が召喚されて私に向けて羽ばたいた。
「ちょっ!?」
私は驚きながら逃げる。
不快な羽音をたてて、蟲達が追いかけてきた。
「何アイツ、あんなん見たことないよ!?」
私は大声をあげて、鏡のある部屋まで向かった。
とりあえず、あいつのことは"錫杖の徘徊者"と呼ぼう。
─シャリィィィィィィィン!!!─
再び鳴り響く錫杖の音。
羽音をたててやってくる蟲達。
私は全力で逃げて、鏡のある部屋まで向かった。
「鏡いいいいいいいい!!!」
私はダイブするように鏡に飛び込んだ。
続く
錫杖の徘徊者 (しゃくじょうのはいかいしゃ)
感知範囲:神楽鈴の徘徊者と同じ。
スピード:神楽鈴の徘徊者と同じ。
発見時の速度:神楽鈴の徘徊者(未発見時)と同じ。
危険度:★★★
危険度(修羅):★★★★★★
概要
神主のような姿をして、右手には錫杖を持っている。
一定の間隔で、─カンッ、シャリン…カンッ、シャリン…─と杖をつく音と、錫杖の鐘の音を鳴らして、徘徊している。
プレイヤーを発見しても、神楽鈴のように激しく鈴を鳴らしながら追跡したりせず、毅然とした態度でゆっくりと追跡する。
ただ追跡中、2秒毎に面蟲や竜蟲などの敵を多数召喚して、プレイヤーを追い詰める。
大体、面蟲3匹、竜蟲1匹。
たまに彷徨える魂3匹が召喚される。
修羅だと、面蟲5匹、竜蟲3匹、彷徨える魂3匹が同時に召喚される。
ダメージ倍率の高い修羅の場合、最強の徘徊者と化す。