冬木に綴る超越の謳   作:tonton

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-Strange sorcerer-

 

 砕けたコンクリートの破片が宙を舞い、それが地面へ落ちるより早く、飛びかう弾幕に晒されて砂に帰るように粉々にされていく。

 屋上は銃撃戦で繰り広げられたかのように、無慈悲に、そして無残に荒れ果ていた。

 

「っの! 大人しくしな、さいっての!」

 

 遠阪の魔術とは宝石魔術を得意とする。宝石という触媒に蓄積した魔力を、本来行使する魔術に接続することで術式の短略化、或いはブーストをするのだ。

 だが、この相手へ対するのは個人的な感情。そう苛立ちであり、ある意味で嫌悪であり、侮蔑だ。魔術師である“遠坂 凜”という女と、“衛宮 蓮”という男は、魔術師としてそのスタンスが決定的に相容れない。

 

 故に走らせる魔術も全て全力だ。行動原理は先の言うとおり個人、自分の感情、つまりは単なる八つ当たりである。のだが、

 

「っぉ! 無茶言うな馬鹿っ、こんなの、避けるに、決まってるだろ!!」

 

 蓮の頬を掠めそうになった魔弾、自分が放った“ガンド”の弾幕を彼は悉く避けていく。

 加減はしていない。いや、正確には本来得意とする宝石魔術を使っていない時点で本気というには程遠いのかもしれない。だが、これが手加減をしているのかと問われればそうではないと言い切れる。

 

「ちょこまかとっ」

 

 腕に刻まれた“魔術刻印”に炉に燃料をくべるようにし、更に弾幕を密にしていく。

 本気というなら混じりけなどない。彼に宣言したとおり、凜は“殺さない”範囲での敵対行動をとっているのだから。確かに、ガンドは本来相手の不調を風発させる程度のものではあるが、凛のそれは物理干渉するまでに魔力密度を誇った“フィンの一撃”。

 対する蓮も魔術で身体を強化しているのだろうが、未熟な彼では全身をくまなく強化するのは不可能だと知っている。よって、彼が受け損なえば腕の一本や二本がひしゃげるかもしれないし、当たり所が悪ければ頭蓋が砕ける事だってあるだろう。

 

「ぐっ、校舎破壊して楽しいかよっ、こんな場所で――」

 

「なら簡単よ、貴方が大人しく的になりなさい」

 

 攻撃としては過剰にもとられるだろう。“殺さない”と手段を選びつつも、その選択肢の中で行う全力投球。

 だが仮に頭蓋が砕けようと、“即死”しなければ問題はない。

 いくらか猶予があれば、しばらく動けない程度には治癒もしてやるつもりだ。無論、その治癒を行使した場合に消費する宝石の額を考えれば頭が痛くなってくるが――何度もいうようにこれは個人的な八つ当たりだ、損得の感情ではない。だから、そうでもしなければ収まりがつかないと、後先を考えるのもそこそこに、まわした魔力をつぎ込み、弾速を上げ、密度を上げて彼女は獲物を追い込む。

 

 アレスト―

『arrest――』

 

「させないわっ」

 

 魔術を行使しようとした彼の出鼻をくじくように、当てるのではなく、ワザと避けられるギリギリの間隔で弾幕を張る。魔術とは平常心、常に余裕をもってというのは自身の父であり師である時臣の言葉だが、魔術においては真理だ。集中力が霧散すれば、練り上げた魔力は途端に四散する。熟達した者なら例外もあるのだろうが、未熟な彼がその域に到達しているはずもない。

 

「く、っそ!」

 

 故に、不発した魔術に舌打ちをしつつも、彼ができるのは現状の強化した肉体で回避する以外にない。そして、よけられるギリギリを図ったということは、全弾をかわした彼の体勢は無理な行使で大きく崩れていた。

 

「次の手が疎か、考えなしで目先のことに手一杯、貴方の悪い癖ね」

 

 アウトレンジから急加速。同じく強化の魔術で補強した脚力で両者の間を埋める。これが10mも離れているのなら話は違ってくるが、ここは屋上、限られた空間で、遮蔽物もない。加えて、相手に隙ができるよう追い込み、確信していたのなら間隙は限りなくゼロだ。

 

「っ!?」

 

 驚愕と間近に迫る刃に対する恐怖。無駄と悟りつつも活路をと足掻こうとする意思の折れない目。それらが綯い交ぜになった彼の表情を至近距離で認識しつつ、だがこれでもかと魔力を練りこんだ拳は容赦がなく、加減もなく彼の鳩尾めがけて放たれる。

 

 ――ようとして、誰も来ないはずの屋上の扉が、乱暴に開け放たれた。

 

 

 

 

 

「こんなところで何の馬鹿騒ぎを――」

 

 扉を開けた女性教師は目の前の光景を見て唖然と口をあけたまま停止していた。

 いや、蓮が彼女の行動を停止させたとかそんな高等な魔術を行使したわけでもなく、単に彼女の思考能力が目の前の混沌とした状況に理解を拒絶していただけだ。

 

 年期を感じさせつつも手入れを欠かなかった校風か、綺麗な状態を保っていたタイルはものの見事にえぐれ、もはやコンクリート面が露出していない場所を探すほうが困難だ。

 近年自殺者も騒がれる世間の風潮からして、この学校も例に漏れずグルリと囲っていたフェンスたちは例外なく一枚一枚が満遍なく歪み、物によっては柱ごと吹き飛び基礎だけという場所もある。

 

 そして、フェンスに押し付けられるようにして背をもたれている自分と、襲い掛かるようにしてその正面にいる凛。見方によっては不順異性交遊の現場に見えたり―もするのだろうが、個人的にこの構図は激しく遺憾である。いや、周りの状態を見ればそれどころではないのは一目瞭然で、このご時勢に武装放棄を掲げ、戦争のせの字とも無縁なこの国でと、思考が止まるはよくわかる。実際俺が彼女の立場だったら二も無く扉を閉じて回れ右をしたい。これは自分には理解が及ばない手に負えないと無かったことにしたいが、哀れ、閉じようにも彼女が強引に開いた扉は変形が激しく、とても閉じるようには見えなかった。

 

「あ、せんせ――いや、あの、これはですね」

 

「あーあ……どうすんだよ」

 

「ちょっと、貴方も何か考えなさいよっ」

 

 この状況を丸く治める方法をと右手に、執念か練り上げた魔力そのままの拳を入り口にいる教師に見えないようにして脅してくる。が、知るか馬鹿とため息を吐いて思考を放棄する。

 そもそも現状をよく考えてほしい。魔術師として未熟な自分がこうまで破壊された現状を覆い隠せるような隠蔽ができるはずが無いだろう。というより、この惨状を作り出したのは目の前で今も脅迫してくる“赤い悪魔”その人なのだから、どうぞ勝手に奮闘してほしい。一方的に“暴力”に出た自業自得で、自分はあくまで被害者だ。

 

「貴方ねっ」

 

 お前こそTPOを考えろと、小声で吼えるなどという器用な真似を披露してくれた幼馴染。だが悲しいかな、時とは無常であり、そんなことよりあれはいいのかと彼女の後ろを指差せば、思考停止に固まっていた彼女がわなわなと震えだし、どうやら再起動を果たしたようだ。

 

「き、貴様らここで何を」

 

「あ、いやあのですね先生、これには」

 

 こうなれば二人の間で論争、というより一方的に繰り広げられていた抗争は後だ。普段は成績優秀の文武両道、品行方正で全校生徒の模範と教師間で評判のいい彼女といえど、この場では旗色が悪過ぎる。

 さてお手並み拝見、と背にしたフェンスに背を預けたまま傍観に徹していた蓮だが、もちろん魔術の露呈を見逃すほど彼も馬鹿ではない。事があまりにも収拾困難であるのなら手を出すが、この手のある種繊細な事は彼女のほうが遥かに達者だ。先ほどまで襲われておいて妙な話ではあるが、これも一種の信頼である。

 

「は? 何を言ってるのよアンタ――って、ちょっと何を勝手にっ」

 

 だが、その信頼している彼女が教師の前まで進み出ようとしたところで、唐突にその歩みを止め、虚空に向かって独り言を放ったかと思えば、教師と凛の間、その空間で人間台の歪みが起こり、彼女らの間に一つの姿が浮かび上がる。

 

「だーから、お前の目は節穴かって言ったんだよ」

 

 よれた金髪を撫で上げるようにして乱雑に後ろへ流し、髪留めのつもりか鉢巻上に捻った布で繋がった鬼の面を側頭部にかけるようにして結い留められている。衣装は今では歌舞伎か時代劇でしか見ない派手な着物を着流しであるかのようにゆるく羽織り、辛うじて襟が肩にかかっているというあまりにもだらしが無い、言い方を変えれば歌舞いた出立ち。

 

「お前さんが優秀なのは認めるけどよ。これはちょっと看過できないマヌケだわ」

 

 見ただけで見間違えようが無い。まるで時代を間違えたかのような服装。言葉こそ現代のそれと聞き取れるが、直視しただけで魂を圧迫する存在は一つしかない。

 

 つまり、この男が遠坂 凛の“サーヴァント”だ。

 

「よぉ、随分皮かぶるのがお得意そうじゃねぇか。様になってやがるが、生憎、同類は近くにいれば丸わかりなんていう糞みたいにご親切丁寧な仕様だ」

 

 凛のサーヴァントは現れたのが唐突なら行動そのものも破天荒。気安く目の前で困惑していただろう教師を前に、虚空からまるでセイバー剣を取り出したのと同じように古めかしい銃を一丁取り出し、

 

「っつうわけで―――いい加減正体見せろや」

 

 躊躇うことなくその引き金を引いた。

 

「ちょ!?」

 

「嘘だろっ」

 

 英霊というのは基本的に過去の存在だ。例外もいるとはセイバーの談だが、それを考慮したとしてもあまりに常識はずれの行動だ。一般人に対する威嚇恫喝を遥かに超えた行為は主である遠坂も無論、離れていた蓮の制止が届くはずも無く、近距離で放たれた弾丸は女教師の脳天目掛けて穿たれる。

 

「……無論、その手の仕様など重々承知だよ。故にそこらの英霊程度、悟らせぬくらいには強度のある衣を纏っていたつもりだったが」

 

 はずが、その凶弾はあろう事か女の目の前、額の数センチ前でまるで見えない壁に激突したかのように潰れていた。

 

「ハ、いくらコイツが魔術師以前に人間として抜けてるオマヌケだとしても、一般人が偶然あの場面で割り込むのはできすぎだろ。てかウチのコイツを馬鹿にしすぎだ」

 

「なるほど、忠告として受け取っておこうか」

 

 銃を持たないもう一方の親指で後ろ手に主である凜を指すサーヴァント。認めているのだか貶しているのだかわからない彼と女の会話は、今度は状況に置いていかれているこちら二人を余所に進んでいく。

 

「しかし、事の分別を判断する前に手が出る野蛮の輩か。此度の三騎士は随分低脳な者が呼ばれたようだ」

 

「言ってろ。それとも何か? 手前の主人を無防備で晒しておいて? 一から十まで全部御指示の通りに、命令なけりゃ何もしないのが忠君、とでも言う気かよ? いつの時代だっつう話だ。そういうのは野蛮じゃなくて、頓馬って言うんだよ」

 

 銃器を前に堂々と返答する女教師の姿は、先程まで屋上の光景に驚愕していた様子は影もない。その姿から荒事に不慣れな一般人とは程遠い、寧ろコチラ側なのだと窺えるが、少なくとも“自分の記憶”で彼女は一年前、自分がこの学園に入学した時期に新任としてやってきた教師だ。

 

「ちょ、何を勝手に、この人は紛れもなく」

 

「今回の戦いが“始まる前”から学校にいた? で、それはいつからだよ正確な所」

 

 寡黙であるため接する機会は少なかったが、まるで当時を知っているかのような歴史への理解。聞き手へ対する噛み砕いた解説と生徒の評判もいい教師だ。当然、幼馴染であり、クラスは違うが同学年の凛もそこは同じはずと彼女を窺う。

 

「やられた……いやでも、そんな、いつから」

 

「とう、さか?」

 

 だがそこにはまるで目も当てられない失敗をしたというように、彼女は蒼い顔をして目を覆う様に手を当てていた。

 

「と、まあそういう訳だ。“記憶改竄”なんざ別に珍しくもないが、コイツ等も含め、学校丸々“嵌める”とは随分派手な話じゃねぇか」

 

 つまり、一瞬でも思い出せたこの記憶は部分的なのか、それとも初めからなのか。蓮と凛が持つ彼女の記憶とは、その能力によって“作られた”モノだということ。

 

「フン。別に、半端に止めるのが性に合わんだけだ。陣を敷くのならまず土台から、だ。地の利が無いのならそれなりにやりようもあるが、あって損をする物でも無し、手に出来るのならある方が遙かに効率的だ。そして無いのなら、作りだせばいい。兵法の基本だろう」

 

 瞬間、彼女の言の葉とともにその凄味が膨れ上がる。

 とても慣れ親しんだそれは、もはや隠しようのないサーヴァント独特の気配と共に、魔術師が魔力を練り上げる際に魔力が可視化して巻き起こる風にも似ていた。風というには、幾分か規模が並はずれていたが。

 

「キャスター、“魔術師”のサーヴァントっ」

 

 七騎存在するサーヴァントのクラスの一つ。

 “最弱のサーヴァント”とも称されるそれは、実際目の前にして、これが弱いなどと誰が口にできるのか。

 蓮はこの戦いに巻き込まれてからアサシン、セイバー、そして凛のサーヴァントと、目の前のキャスターを含め、既に四騎のサーヴァントを目にしたことになる。が、こと神秘、英霊が内包する魂の存在という領域で、これは別格だと一目見て理解した。

 

「うぉっと、おっかねぇおっかねぇ。こりゃ藪を突っつきすぎたか?」

 

「ちょ、アーチャー貴方ねっ」

 

 力量ではない。

 そも俊敏ならセイバーの方が勝っているだろう。筋力で言うならアサシンの方が、平均値で言えば凛のサーヴァント、アーチャーの方がバランスが良く質もいい。

 正規のマスターとして“令呪”を与えられた蓮は、その姿をサーヴァントとして捉えればその大凡のステータス、何が不得手で何が得意かといった事が一目で把握できるようになっている。話ではその手のステータス可視化を誤魔化す能力を持ったサーヴァントがいる可能性もあると聞いていた。だが、キャスターが行った、行ってきたのはその存在を目の前にしてサーヴァントと認識させない、つまりは誤認。誤魔化す所の話ではない。

 

「いや、あの場で知らぬ存ぜぬで間抜け面晒して近づいてた方がやばかったろ、実際。そこら辺、寧ろ感謝の言葉くらいあってもいいんじゃねぇの?」

 

 凛はアーチャーに向かって何とか反論しようとしているが、実際あのままサーヴァントとして認識しないまま、その懐に入るのが現代の魔術師にとってどれだけ危険かなど論ずるまでもない。“最弱”と名打たれようと、それは英霊同士の話。科学が進み、神秘の薄れた現代の魔術師が彼女の足元に及ばないのは目の前にした今、肌で直に感じている。

 

 そして、蓮と凛が現状の打開に二の足を踏んでいると、話は済んだかと一歩前に出てきたのは、問題の張本人であるキャスターだった。

 

「私としてはあのまま沙汰無しで終わらせてもよかったのだがね。貴様が出張るならそうもいくまいよ」

 

「あら、この状況で随分余裕ね。私みたいな小娘相手にするまでもないって言うつもりかしら。こっちは二人掛かりで潰してあげても良いのよ」

 

「強がりはよせ。そこの小僧が愚かにも己のサーヴァントを近くに従えてない事は今朝から把握済みだ。無論、令呪にて召喚する手もあるが」

 

 させると思うかと問う彼女に、捩じ伏せるだけの答えをこちらは持ち合わせていなかった。それ程までにキャスターの威圧は精神的にも、物理的にも畏怖を抱かせるものがある。

 英霊というなら凛の前に彼女を守るように立つアーチャーがいる以上対抗は出来る。出来るが――おそらくその選択を彼女が選ばないのは蓮がその背後にいるからだ。

 

 遠坂 凛とはそういう人間だ。

 他人に厳しく、自分に人一倍厳しいが、故に努力する人間は認めるし尊重する。そして間違えた事を殊更嫌うが故に、目の前で救えるものを見捨てるという行為を容認しない。無論彼女とて魔術師だ、救えないモノがこの世にあることぐらい理解している。だから救える手段がある限り、可能性がある限り彼女はあきらめない。逆を言えばそれを切り捨てる時、ことは既に手のつくしようがないという事だ。

 つまり、キャスターが威嚇をしつつも中々攻勢に出ないのはそういう背景がある。距離を置きながら、彼女は蓮という存在を強調する事で所謂人質としている。正体を欺き、近くにいたという強みが此処にきて悪い形で型にはまっている。

 

「いい加減にしろよっ」

 

 自身が彼女の足かせとなっている。

 気に食わないと言いながら、こんな所で魔術師らしくあれない。昔からそうだ。彼女は曲がった事が嫌いで、生粋の“魔術師”としてあろうと振る舞っているのに、根っこの部分で人間らしさを捨てきれない。

 そういった“遠坂 凛”という存在が、“衛宮 蓮”にとっては酷く眩しくて、同時に相容れないのだと今日まで言い聞かせてきた。

 だから、

 

「ふざけるなよ。俺は――っ」

 

 今もお前に守られるほど弱いつもりも、そうであった事実も認めない。見くびるなと右手に宿った“令呪”を凛の制止を無視して行使しようとして――蓮の頬を魔力の籠った矢が頬を薄く裂いた。

 

「逸るなよ小僧。この場に“三騎”のサーヴァントが揃うのもさぞ見物だろうが、そうなれば激突は不可避だ。やられてやるつもりは更々ないが、ソレはそちらも同じだろう。さりとて万に一つ、という言葉もある。よってそうなる前に私から一つ、提案がある。ことに及ぶのは別に話を聞いてからでもよかろう」

 

 頬を伝う血の暖かさが、逆に頭に上っていた血を下げてくれた。先ほど、キャスターは令呪の行使をさせると思うか、と挑発したばかりなのだ。今のように考え無しで使おうものなら、恐らくキャスターは容赦なくこちらを狩りに来きただろう。

 

「ふむ。どうやら、聞く気にはなってくれたようだな」

 

 キャスター、魔術師というものは本来直接の戦闘を不得手とする。よって彼等にとっての土俵とはこうした論戦、つまりは計略謀略で考え、備え、相手を嵌めて貶める事にある。本来ならばその“交渉”の席に着く事は悪手でしかない。

 キャスターを相手にするのなら、通常その手管に乗る事が無いよう、乗せられる暇も与えず迅速に切り捨てる事が必須だ。

 

「さて――」

 

「っ」

 

 悪戯に時間を与えれば不利になるのはいうまでもない。そうと解っているだけに、現状の歯痒さに奥歯が軋みを上げた。

 何を言う気なのか、騙されるかと身構えるこちらに対し、

 

「こちらの提案は単純明解だ。此度の聖杯戦争において私は勝利を“辞退”する。故、今後の接触一切を切り捨てたい」

 

 キャスターが提案した物は、聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントとしてはあまりに異質な、常道からそれたものだった。

 

 無論言葉だけでないと魔術による契約を示した洋紙を投げてよこしたソレは、念の為に受け取ったアーチャーから見ても、安全を確認してから目を通した凛と蓮も共通してこちらに有利な内容ばかり。唖然としたこちらを余所に彼女は更にこちらの斜めをいく言葉で蹂躙する。

 

「正確には、私の願いは既に一度叶っている。未完ではあるが、此度の報奨である“聖杯”について、私は理解しているつもりだ。その為、アレに私の望みが叶えられるとは欠片も思えん」

 

 まるでその中身を見てきたかのように語る彼女の言葉に圧倒され、事実を咀嚼しようと必死になっているこちらに対し、その時、蓮の前で俯いていた凛が一歩、キャスターに向かって歩を進めた。

 

 

 






 キャスターさんの恰好はレディースーツをピシッと着こなした麗人です! けっしてボサボサの髪にジャージ姿でポテチ食いたいとか言ったりしない(
 アーチャーも含め、二体も出したから取りあえず今回はここまで、待て、次回!

 あ、活動報告や感想などでも言っていますが、7月は所要の為、更新が極端に減ると思いますのでご容赦ください。

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