三人称がこんなにも難しいだなんて……。
文字で戦闘描写って難しいね。
弾丸の様な速度で一気に月下香に迫った真希は、ジャブのようにパンチをしてはすぐに後ろに回り込みパンチをする。
それは躱されもすれば、七支刀で防がれもする。
しかし、月下香の顔は優れない。
それもそのはず。
速さでは真希の方が上回っている上に、パンチの一撃一撃が致命傷になるのだ。
本気で殴ってはいないのか、パンチの命中率は低い。
それで何故月下香の顔色が優れないのかというと、もし当たったら勝敗がほぼ決まるからである。
『もし』や『たら』『れば』の話になったらきりがない。
しかし勝敗だけでなく、自分の命、ましてや仲間の命がかかっているのに賭けに出るのはどうなのだろうか。
マンガやアニメ、現実世界などで、「このままじゃ勝てない、ならば自壊覚悟でリミットを解除して――」といったことが多々ある。
だがそれは命の掛け合いのない試合であったり、最後の最期に一発逆転を狙うものである。
月下香の勝利条件は、最初は倒すこと、もしくは逃げ切ることであったが、今は真希を救うことにシフトしている。
ここで仮に一発逆転を狙うとして、説得するというのは楽観的過ぎる。
それに一撃必殺の一撃をお見舞いするとして、当たれば月下香の目的は断たれるし、そもそも当たるという保証もない。
対して真希は当たれば儲け、当たらなくても消耗を狙える。
無理に大技をして隙を作る必要はなく、相手の言葉に惑わされないようにただ作業的にジャブを打ち込んでいた。
「くっ……ずいぶんと冷静なんだね。
怒りに任せてやってくると思ったんだけど……」
「怒ってないわけじゃないよ。
ただ、これ以上あんたとしゃべってもいいことないし、このまま定石通り倒した方が楽だろ」
真希は少し苛ついた口調で、しかし静かにそう言った。
しゃべりながらも動きに変化はなく、淡々とジャブが撃ち込まれ、月下香が対処するということが続いている。
いや、動きに変化はないというのは少し語弊がある。
お互いのやっていることやスピードには変化がない。
だが、確実に対処するまでの早さに差が出ている。
一撃、二撃、三撃と、真希に対して半テンポほど遅れる挙動でかろうじて月下香は攻撃を弾き返している。
「リブート! リブートだ!」
集が焦った様子でリソースを供給するが、月下香に変化はない。
「くそっ! どうして……」
「集、なんか勘違いしてるみたいやけど、リブートしたかて劇的に動きが良くなったりはしないんやで」
スコルの言う通り、リブートをしたところで動きが急に良くなったりはしない。
リブートとはあくまでエネルギーである。
人間がご飯を食べてもいきなり筋力が上がらないように、ゼクスもエネルギー供給で筋力は上がらない。
たまにそういったことができるゼクスもいるが極稀である。
普通のゼクスは月下香のように電撃にしたり、精神力やバッテリー、体力回復にエネルギーを裂く。
「じゃあどうしろってんだよ。
このままじゃ月下香が――」
「うるさいね。
そんなにこの状況が不服ならやってやる…よッ!」
焦った集に苛立ったのか、状況を変えるためか、月下香は下がって距離をとった。
バチィッ! と七支刀が鳴ると
まともに当たれば必殺。
当たらなくとも一瞬避けるその瞬間に二撃目。
無傷ではいられない攻撃だった。
「……いい加減終わらせるか……ッ!」
「な……ッ!」
無傷ではいられない、それはすぐに再生できるものにとってどんな効果があるのだろうか。
真希は避けるのではなく体を少し逸らし、わざと左腕を犠牲にしながら、スピードを落とさぬまま月下香に接近してきた。
左腕が空を舞い、血が噴き出す。
それを気にせぬような速さで拳を振る。
こちらも必殺。
いくらゼクスであったとしてもパワー=肉体の強度となるわけではない。
ゼクスであっても骨が折れれば致命傷になるし、首が飛べば死ぬのだ。
自然と融合したホウライといえ、元は人間である。
戦車の装甲を素手でぶち抜くその拳に耐えらえるものなどいるのだろうか。
ズドン!! と言う鈍い音と共に真希の拳が月下香の腹に深々と突き込まれた。
「がッ………!
ア、アンタ……何故……?」
「左腕が痛むのは何時ぶりだろうね……。
どうせ再生できるんだ、あんたに一撃お見舞いするのには腕を犠牲にしてもつり合うだろうさ」
真希が拳を抜くと、月下香は支えを失ったように崩れ落ちた。
ゼクスといえ、くらえば致命傷。
それでも鍛え上げられた月下香の意識を完全に奪うことはできなかったらしい。
「それに、あたしは別にあんたを殺す必要はないだろ?
今あたしたちがやってる戦いの勝利条件は、真正面からの殴り合いじゃない。
本来の目的はそこの転移者に肩入れしてるやつのことを知ること、そして殺すことだ」
斬り落とされた左腕を拾い上げながら言う。
「この結果に満足しないかもしれないけど、あたしは戦いに勝って勝負で負けたってことで納得してくんないかな」
腕を再生させ、ゆっくりと集に近づいてゆく。
その気になればすぐにでも殺せるのにトッ、トッ、トッと近づくそれが、集には死へのカウントダウンに思えた。
「イグニs」
「させないよ」
「いっつッ!」
イグニッションしようとカードデバイスを突きだそうとした瞬間、いつの間にか目の前に接近した真希に蹴り落とされる。
「最後に聞くけどさ、ホントに言う気はないの?
このままじゃ殺すしかないんだけど」
「ま、待ってくれよ。
言いたいのは山々なんだけど、物理的に言えないんだよ!
言おうとするとさっきみたいに眩暈がして――」
「そんな苦しい言い訳しても無駄だよ。
はあ……どうしても言ってくれないなら、やっぱり殺すしか……」
「な、なあ。
君が俺達の仲間になるっていう手はないのか?
俺のとこもたぶん待遇は良くなると思うし」
集は思考をフル回転させながら打開策を考える。
「それって今は待遇良くないってことじゃないか。
仲間になるっているのはいいと思うけど駄目だね。
あの神様からもらった奇跡は他のやつでは起こせないと思うからね……
長くなるとあの人回復しちゃいそうだし、もう終わりにするよ」
「待って――クリm」
「ごめんなさい、さようなら」
言葉を待たずに放たれた拳が集を襲った。
集はただ目を瞑り、祈ることしかできなかった。
「はいはーい! そこまで!!」
しかし、待てども集が意識を落とすことはなく、女の声だけが聞こえた。
「なっ……!
は、離せッ!」
「って言われても簡単に離すわけにはいかないんだよね~」
集が目を開けると、そこには真っ黒いパーカーを着た人物が真希を羽交い絞めにしているところだった。
声や胸部の膨らみが一般的なそれより大きいことから考えるに、中にいるのは女なのだろうが、フードを深くかぶっているせいで顔がよく見えない。
「お、お前女だったのか……?」
いきなりのことに驚きつつも、集は見覚えのある黒パーカーに問いかけた。
「はあ……はあ……じゅるり……。
いや、君が思っている人とは別だよ。
はあ……はあ……だけど、その人の側近みたいな感じ。
よろしくね~」
黒パーカーは真希を羽交い絞めにしたまま、集に目を合わせ(見えないが)息を荒くしながら言った。
「き、気持ち悪い!
耳元で息吐かないでよ!
ううん~! 離してっ!」
ジタバタと真希が暴れるが一向に拘束から逃れることはできない。
チート能力で強化された肉体では、羽交い絞めされたとしても簡単に抜け出せるはずなのだが、黒パーカーの女はビクともしない。
「だから無理だってば……。
あーあ、ホントはもっと君としゃべりたいんだけど、やることが多くてね……。
これで失礼するよ、じゃあね」
チュッ、と黒パーカーはいつの間にか集の頬にキスをして、真希を抱えながら砲弾のような速さで去っていった。
キャラだしすぎると大変なんだけど、出さざるを得ない。
このまま奇数日に更新すると31日にも更新するので、ハロウィンネタでもやりたいと思います。