そういえばアニメでは飛鳥の一人称が『僕』から『俺』になってた気がする。
「ただいま~」
「お、集が帰ってきたな」
「あと少し遅かったら先に始めるところやったで」
「悪い悪い」
幸ちゃんのことで少し手間取ってしまった。幽霊の体だからか、便利なことに憑りついたり壁をすり抜けたりできるらしい。なので俺は手のひらサイズの黒猫のぬいぐるみのストラップを買ってきてそれに憑りつくように頼んだ。しかし、俺とぶつかった時に抜け出せなくなったように、若干だが抵抗があるので憑りつくのには時間がかかるらしく、帰ってくるのに時間がかかったってわけだ。今は俺のスマホに付けてある。
チラッと基樹を見たがグッと親指を立ててきたのでうまくやったんだろう。席も飛鳥と藍那ちゃんは隣り合ってるから大丈夫だ。だが、藍那ちゃんの隣の席が空いているあたり、飛鳥が俺に気を使ったということか…。どうやらまだ勘違いしているのか。というかまだ藍那ちゃんの気持ちに気づいてないのか……。だからラブコメ主人公は……。せめて鈍感スキルを何とかしてほしいものだ。
「ほなみんな集まったところで始めようか」
「イエーイ!」
基樹達、ノリのいい男3人を中心に盛り上がり始める。
おっと、誕生日のあの曲を歌うようだ。
「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア理奈ちゃーん、ハッピーバースデートゥーユー」
おお……飛鳥がちゃんと歌えてる! いや、若干音外してるような気もするけど、歌えてる! アニメではひどかったから……。たしか「けぇきぃ~をやぁ~いてぇ~、ハッピーぃバースデーぃ、きょっおーも明日も……」てな感じだったからな……。なんだこの感動は……! クララが立ったとき並の感動だ。
「おめでとーう!」
「おめでとさん!」
「おめでとう!」
パンッパンッとみんなでクラッカーを鳴らす。
「みんなありがとな。こんなに人が多い誕生日は初めてだ」
理奈ちゃんはエヘヘと照れくさそうに笑う。
伊吹が隣にいるが特に居心地悪そうにはしていない。これはまだ希望はあるんじゃないですかね伊吹さん。
('・c_・` ;)
……おい、なんでそんな顔してんだよ。告白するんじゃなかったのか。俺はアイコンタクトするが、伊吹は首を小さく横に振る。あいつ、怖気づきやがったのか! ……いや、まあまだ焦るような時間じゃない。帰り際に出も言えばいいさ…。では飛鳥達はどうかというと、普通である。普通に話して普通に楽しんでる。しかも飛鳥は俺にアイコンタクトしてくる始末。藍那さん、もっと自己主張しないとダメっすよ、そこのイケメンはバカだから、ちょっとやそっとじゃ気づかないから。
まあ、そんなこんなでケーキはおいしくいただいた。ああ、うまかった。アリスが盛り付けたのは形が少し歪だったが、まあ味に変わりはなく、どれもうまかった。そうそう、もちろんケーキ以外にも食べ物はある。アニメではケーキ何個作るんだよッ! ってなくらい作っていたが、もちろん現実でそんなことをするはずもなく、ケーキと同時進行でつくっていたのだ。
しかし、順調に進んでいたのだが、困ったことがある。
「はい、理奈ちゃん、私からのプレゼント」
「わぁ、ありがとう千尋!」
これからわかる通り、プレゼントを渡しているのだ。飛鳥もさりげなく渡している。そういうとこがイケメンなんだよ! この野郎ゥ! 俺たちあまり親しくない人は金はあまりかけてないだろうがプレゼントを渡している。ちなみに基樹はプレゼントの代わりに、飛鳥と伊吹とトリオでコントをやってのけた。「即興だったから冷や冷やしたぜ……」とか言いながらみんなウケていたから、どうもハードルが上がった感じがする。
そして、当然のことながら俺の番も来る。あー、どうしよ、なんもないわ。俺は曲芸はできないし、基樹達のコントの後だからハードルが上がりすぎてて困る。みんな、そのワクワク顔やめてくれないか。なにか……俺のできること……ゼクス…いや、ダメだ。藍那ちゃんの前でそんなことはできない。なら何か……ッ!
その時俺の目に入ったのは、スマホのストラップの黒猫。ちょうどいい……こいつを使ってなにかやるか。
「よし、じゃあ俺はマジックでもしようか」
「お、集、マジックなんかできたん?」
「できないけどできるから大丈夫だ」
「?」
ふ、まあ見てろって。
「俺がこれから見せますのは、この黒猫のぬいぐるみを触れずに動かすマジックです」
そう言って、スマホからぬいぐるみを外しテーブルに置く。
「ふーん、でもマジシャンが持ってたものなんか信じられないんだけど、種があるんじゃないの?」
「大丈夫、このぬいぐるみには何の仕掛けもしていません。なんなら触って見てくれても構わない。黒猫さん、俺以外のやつに触られても変な声出したりしないでくれよ?」
俺はわざとみんなの前でぬいぐるみに言ってからアリスに渡す。まあ、正確には幸ちゃんに言ったんだが、これだけわざとらしく言ったんだ、幸ちゃんも気を使ってくれるだろ。
「……本当になにもしてないみたいね。みんなも見てみる?」
アリスからまかなへ、そしてまた隣へ、というようにしてみんながぬいぐるみを見たところで俺に帰ってくる。元の世界から俺のことを知っている伊吹だけは(´・ω・)ン? ってな顔をしているが大丈夫だと思う。……そういえば前、伊吹達に、集はなにか企んだ時は悪そうな顔するよな、と言われたことがあるから今の俺は悪そうな顔をしているんだろうか? これが成功したら「計画通り…」とでも言ってみるかな。
「では、この黒猫をテーブルの中心に置きます。……そして俺が命令すると動き出すのでしっかり見ていてください」
……おお、みんな黒猫(幸ちゃん)を見ている。アリスのようにマジックの種を見破ろうとしている人も何人かいるな。だが、まさか幽霊が動かすとは思うまい。
「では黒猫、まっすぐ歩け」
俺がそう命令すると、黒猫が小さくブルッと震えたかと思うとゆっくりと歩きだした。
おお! と声が漏れる。
「そしてそこで右に曲がれ」
黒猫はまたゆっくりとした動きで右に歩き出した。
ふふふ、これ面白いな。みんなの不思議そうな顔がいい。
そしてそれから数回命令したとき、事件は起きた。
「ん、どうした?」
命令したとき、黒猫が首を横に振った。幸ちゃんが嫌がっている?
みんなは演出だと思っているようだ。
「う~ん、どうした?」
黒猫は何かに耐えるように震えだして動かなくなってしまった。何がダメだというのだ。
「……もう……ダメ……ッ!」
黒猫から幸ちゃんの声が漏れた時、突然黒猫から幸ちゃんが飛び出してきた。
「もう憑りついてられませ~ん!」
「わ、バカッ!」
ヤバい、幸ちゃん出てきちゃった。
……これ、どうしよ?
幸ちゃんはヒロインだよな? (錯乱)
月下香ェ…
千尋ェ…