~蜥蜴と猫と~
「だーからさぁ、直接家に押しかけるのはやめろっつーの。変な噂が立つのは御免だぜ?」
「ふーん・・・。そうですかねぇ・・・。」
「聞いてんのかよ・・・。」
呆れながら話しかける僕に対し、全くの無関心の御影。その眼はどこか遠くを見ており、こちらの話も右から左といった様子だ。
「でも、心配ですねぇ。」
「何が?ってか、聞いてる?」
「いや、ほら、その蓮人さんの友人。」
「はぁ?」
先程までの無関心から一変、少し哀れみをこめた眼でこちらを見つめる御影。いや、この眼は僕に対してのものじゃないだろう。会話に出た、まだ名前も知らない僕の友人、堀 渚に対して―――――。
「どういうことだ?」
「その蓮人さんの友人って、恐ろしく耳がいいんでしょう?それなのに蓮人さんの友人って・・・可哀そうな展開しか予想できませんねぇ。」
ケラケラと、笑いながら言う御影だが、その眼は全く笑っていない。
「僕が原因か?」
「蓮人さんは直接的には害はありませんよー。むしろ悪いのは―――――そのお友達、堀 渚さんになりますかね。」
「!?」
「なーんであいつが悪い?なんて思っちゃったりしてますか?」
「それもあるけど・・・気になったのはそれよりむしろ・・・・なんで御影があいつのこと知ってんだ?」
「え?は?」
こちらの質問に珍しく狼狽える御影。先程まで冷たい輝きを放っていた目も、動揺の陰に飲み込まれている。
「だって、蓮人さん。さっき言いませんでしたか?」
「は?何を?」
「いや、言ってないな・・・。なんだろうこの感覚、凄く気持ち悪い。」
「?」
頭に疑問符を浮かべる僕の前で、不意に考え込む御影。その様子に不審感を覚え、思わず声をかけるが――――――
「お、おいみか――――――」
「はぁい、コンバンワっと。」
背後からの思いっきり空気の読めない声に遮られる。驚きのあまり固まる僕の後ろで、その声の主は全く調子を変えず言葉を続けた。
「やぁ、どうも新人君。昨夜はお疲れだったねぇ。ってかさ、何で腕があんのよ。」
そこでやっと振り向くことができた僕はその声の主を初めて観察する。何てことはない、人懐っこい笑みを浮かべた、今どきのおしゃれな青年だ。ただ一つ違和感があるとすれば――――その、色という色が抜け落ちた美しい銀髪だろう。その大部分はニット帽で隠されてはいたが、微かに露出する輝きが、この場では眩しく感じる。
「・・・誰っすか?」
あまり人が存在しない空間ということもあり、警戒心をむき出しにする僕であったが、その隣で全くの敵意を感じさせない言葉が発せられた。
「あ、瞬火《またたび》さんじゃーないですかー。今日は早寝ですね。」
「やー、隼君がお疲れのようでねぇ。で、ちょっとこの新人君に俺のこと説明してやってよ。なんか嫌われちゃったみたいでさぁ」
「あ、すいません。ちょっと正体が分からなかったので。」
「かーたくるしい喋り方すんねぇ。どうせ一、二歳の差でしょ?タメでいいよ。」
「すいません。気に食わないんならあれですけど、すぐそこに敬語すら使わせてくれない先輩がいるもので。」
「あー・・・。なんか悪かったねぇ」
すぐに僕の示す人物が分かったらしく、冷や汗を浮かべる、苦笑いを浮かべる瞬火・・・背の高さからして、先輩だろうか。御影に敬語使ってるかどうかは全く基準にならないからわからないが。
「あの、瞬火・・・先輩ですよね?」
「ん。御影を先輩って呼んでる辺りそうなんのかな。御影の同い年だ。でさぁ、新人君。」
「蓮人です。」
「蓮人君。ずばり聞いちゃうと君の能力ってのはその回復力といったところなのかい?」
「そうみたいです。ただ、ほかにもまだ釈然としない点はありますけど・・・。」
「そうか・・・。『昨夜の暴走』も、その一部に入るのかい?」
「暴走?」
これまでへらへらと笑っていた瞬火先輩であったが、その眼に一瞬強い感情を感じた気がして、思わず聞き返す。
「いやさ、ほら。昨夜オレが駆け付けたのはすでに御影が斬られたあとだったんだけどさ、その時の記憶はあるかい?」
あるにはある。が、そのあとの記憶は・・・。
「その瞬間だけなら・・・」
「覚えてるんだ。」
「はい。」
「じゃぁ何で」
「はい?」
じゃぁなんで。先輩は続けて言い、言葉を放つ。
「君は笑ってたんだい?」