だいきゅーわ。
ぷるぷる。
スライムと遭遇してここがドラクエの世界だと認識したアリア。
さて、ではどのナンバリングなのか。
正解は……。
では、本編どうぞっ!
「アリア~、大丈夫?」
「っ、大丈夫っ。初めてモンスターを見たから驚いただけ」
「そう? それなら良かった。この洞窟弱いモンスターばっかだけど、よく出るから気を付けて行こう。僕から離れないように」
「……え?」
「ん?」
「……アベル、ここに来たことがあるの……? 一人じゃ心細いって……云ってなかった?」
「あ……」
アベルは気まずそうにアリアから視線をずらす。
「…………、…………えと、…………うーん……。うん、うんうん」
「……ん?」
アリアが見守る中、アベルは顎に手を持ってきてなにやら考え事をしてから納得したように頷くと……。
「……い、一度来て入口付近でレベル上げをしてたんだっ。でも一人じゃやっぱり心細くなって家に戻ったんだよ! それでっ、君を見つけてっ」
慌てたように早口で告げて後頭部を掻く仕草をした。
(あ、これ誤魔化してるな)
アリアがじっとアベルを見つめる。
「…………、…………、…………っ、そんなに見つめられると僕照れちゃうよ……嬉しいけど……」
「え……?」
アリアに見つめられてアベルは頬を赤くした。
そして、ぽつりぽつりと語り始める。
「……っ、……本当のこと言うね。この先に階段があってね、下に行くとおじさんが倒れてたんだ。けどおじさんの上に大きな岩が乗っかってて僕一人じゃ除けられそうにないから戻って来たんだよ。それで地下室に何か道具はないかなって探しに降りたら君が目を覚ましていたんだ」
「……そう、だったんだ……。心細いっていうのは嘘だったのね」
「嘘じゃないよ。いつもは父さんと一緒だから、一人は心細いなーって思ってた……んだ……」
アベルは上目遣いでアリアを見つめる。
その瞳は少し潤んでいた。
「……そっか。それじゃあ、おじさんを助けに行こう(あーあ、涙なんか溜めちゃって……。もう……可愛いなぁ……そりゃあ六歳の子が一人でこんな所には来たくないよね)」
アリアは洞窟を見渡す。
洞窟内には人っ子一人通っていないではないか。
そして遠くにはドラキーが浮遊しているのが見える。その近くにはおおきづちの姿もあった。
「アベル」
「ん?」
「……ここ、何ていう洞窟なの?」
「え? ……洞窟の名前はわからないけど……、サンタローズにある洞窟だから、サンタローズの洞窟……とか?」
「さん、たろーず……(あ、聞いたことあるかも……っ)」
アベルの言葉にアリアは息を呑む。
そして、転生前の記憶がふと、蘇った。
◇
◇
◇
――某日、某所。
それは、アリアが転生する前、彼氏(否元カレ)とお家デートをしている時だった。
別れるまで秒読み、既に関係は冷め始めていた頃のことである。
『……あーっ、もうわけわかんねぇ! こっからどう進めばいいんだ?』
ガッチャンッッ! と、二十代の男性(顔は思い出せない)がゲームのコントローラーをぶん投げる。
TV画面にはとあるゲームの一面が映し出されていた。
『……まだクリアしてないの? 早く返してくれないかなぁ~。それ私のソフトなのよ?(RPG向いてないんじゃない? ていうか、私のコントローラー投げないでよ)』
転生前のアリアはそれまで見ていたスマホから視線を外し、男性の投げたコントローラーを拾うと、「ほら」と男性に渡す。
『……――はどうせ、やらねぇんだろ? 積みゲーになってたじゃん。だから俺がクリアしてやろうって言ってんの! ありがたいと思えよな。って、何でスマホ弄ってんの? 俺の華麗なプレイを見てろよなぁ』
『積みゲーって……。やりたいんだけど、だって、忙しいし……』
棘のある男性の物言いに、アリアはドラクエⅤのパッケージを手に取り表裏を眺める。
最近、男性はこんな調子で何かとアリアを貶してくるのだ。
『“忙しい”っていうのは都合の良い言い訳だよなー。そうやって本当にやりたい事我慢してっと、後々後悔することになるんだぜ?』
男性はにやにやと口角を歪ませアリアを見て、自分は“やりたい事はやりたい時にやる。俺、カッケー!”と何故かよくわからないマウントを取って来た。
『素敵なパッケージイラストよねー……(はー、もう別れようかな……)』
男性の話は軽く聞き流し、アリアはそう呟いてパッケージにうっとりしてからテーブルの上に置く。
『スマホやる暇あるならやればいいのに。って、そういやスマホ版もあるんだぜ? ドラクエ好きなんだろ?』
『まぁ……、大好きかな。……で、ここはどこの町なの?』
TV画面には、荒廃したサンタローズが映し出されていた。
『ここはサンタローズってとこ。ここ元々始まりの村なんだけど、大人になって久しぶりにヘンリーと来たんだけどさー。この先の洞窟の謎がよくわかんなくて……』
『……ふーん……(いつかプレイする時ネタバレになるから、見るのやめとこーっと……)』
アリアは彼氏が云う事を話半分に、再びスマホを操作し始めたのだった。
◇
◇
◇
――……そんな一幕があったわけで、“サンタローズ”が存在するのはドラクエⅤなのだと、アリアは気が付いた。
「っ、なる……ほど……」
アリアはたどたどしく声を絞り出す。
……ここ、ドラクエⅤの世界だと思うの。
けど、問題は私がドラクエⅤをプレイしてないっていう……。
ドラクエはⅢまでしかやってないのよね……。
Ⅳの途中で止まったまま死んじゃったし……。
しかもドラクエⅤのパッケージイラストは一度しか見てないし、殆ど覚えてない……。
ストーリーもよく知らないし、天空の花嫁ってサブタイトルだったような……。
元彼がプレイしてたのを何回か見たことあったけど……、……うーん……どんなストーリーだったっけ……。
(主人公って……)
アリアはちらりとアベルを窺い見る。
「一緒に行ってくれるの!?」
アベルは満面の笑みでアリアの両手を取って握った。
「……うん、今の所私が見えるのはアベルだけみたいだし、アベル強いからしばらく同行させてもらってもいいかな……?」
この世界がドラクエⅤの世界だとしたら、主人公は……?
元彼の主人公の名前、『ああああ』だったもんなぁ……。
ヒロインの名前は知ってるんだけど……。
(もしかしてアベルが主人公……? はは……そんなわけないか……。そんな都合良く主人公に出会うわけないよね……)
アリアは嬉しそうに微笑むアベルを注意深く見つめる。
「っ……! な、なに、アリア……。僕の顔に何か付いてる?」
アベルは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに自分の両頬を覆う。
「え? あ、ううん……、そういえばアベルって旅してたの? サンチョさん……? が言ってたよね?」
「うん、父さんと一緒に、いなくなったお母さんを捜して旅してるんだ。僕は覚えていないけど、この村に来たのは二年振りだって言ってた」
「そうなんだ……。お母さんを……。こんなに小さいのに偉いね……(ゲームの中とはいえ、こんな小さな子に旅をさせるなんて……。しかもモンスターがうじゃうじゃいる世界に……)」
アリアは眉根をハの字にしてアベルの頭を撫でた。
子供を産んだことはないが、死ぬ前は二十八歳。六歳の子の母親になっていてもおかしくは無い年齢だ。
だからだろうか、母親になったような心持ちでつい、アベルに接してしまうのだった。
書いてて思う、少年期のアベル可愛い過ぎ問題。
妄想が捗るわ……。
小さいのに優しくてしっかり者。
こんな神童みたいな子いる……?
パパスがきっと大事に大事に育てたんでしょうね……ホロリ。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!