BLではないので、悪しからず。
では、本編どうぞっ!
昼間宿舎は鍵が掛かっていて入れないので、アベルはこのフロアの奥へと足を向けた。
このフロアの奥には奴隷墓地と、最奥には反抗的な奴隷達を反省させるための牢屋がある。
そこには最近滅多に人が来ないので一人になれる穴場スポットなのだ。
「……花がなくて申し訳ないけど……」
アベルは奴隷墓地に通り掛かる。
木で組まれた粗末な墓は随分と朽ち果てており、年期が感じられた。
山の中を掘って出来た場所なので、そんなに広いスペースはなく、墓地は既に墓でいっぱいだった。
ここにあるお墓はいつか、埋め立てられてしまうのかもしれない。
……どうか、安らかに。
昔アリアがレヌール城でしていたように手の平を合わせ、死者の冥福を祈った。
墓は古いものばかりで新しいものは見当たらず、この間亡くなった奴隷はどうしたんだろうとアベルは不思議に思う。
「…………まさか」
嫌な予感はしたが、頭を左右に振って考えないようにした。
奴隷墓地を抜けると、牢屋のフロアへと辿り着く。
そのフロアに入った途端、
「ちきしょ~! ここから出しやがれ! インチキ教団めが~っ!!」
さぼりの先客……ではなく、牢にマスク男が捕らえられ、吠えていた。
ガシャンガシャン!
と、壁に繋がれた金属の手枷を鳴らしながらマスク男は怒鳴っている。
「……出してあげられたらいいんだけど……」
「って、またおめえか! チッ、しゃあねえなあ……」
鉄格子越しにアベルと目が合うとマスク男は黙り込んだのだった。
この男とはこうしてさぼっている際に何度か会っており、アベルが奴隷だということを知っているからか、始めは「出してくれ!」と云われたりもしたが、近頃じゃ「またかよ! 何でおめえ以外誰も来ねえんだよ!」とうんざり顔をされている。
そんなこと云われてもなぁ……と思いつつ、今日の彼はアベルに会えてちょっぴり嬉しそうな気がする。
独りだから誰かに会えたのが嬉しいのかもしれない。
男の入った牢の隣にも鉄格子の扉があるが、何の部屋なのかは不明。
そこには奥に水路なのか水が流れていて、部屋には資材やら何やらが色々置かれている。
特に多いのは大きなタルで、水の中にいくつも浮かべてロープと杭で流れて行かないように留めてあった。
タル……?
何に使うんだろうか……。
いつも疑問に思っているのだが何に使うかはわからず、アベルはそのまま奥へと歩いて行く。
「…………ふぅ。歩き回って疲れたな……」
最奥の牢の側までやってくると、腰を下ろし蹲る。
牢の壁とフロア壁の間に僅かな隙間があり、人独りくらいならゆったりと座れるスペースがあった。
ここなら滅多に誰もやって来ないので堂々とサボれる……というわけだ。
アベルは独りになりたい時はここを利用している。
「……少し休憩しよう……」
アベルは静かに目を閉じた。
目を閉じた途端、うとうとと睡魔が襲って来る。
少しだけ……、とアベルは意識を手放した。
………………。
………………。
………………。
「っ、しまった! 寝過ぎたっ!?」
アベルは“はっ!”と目を覚ます。
かなり体力が回復している気がした。
この頃頻繁にアリアが夢に出てきて泣くので、あまり眠れていなかったアベルはこうして昼間、仕事をさぼって僅かな睡眠を取るようにしていたのだが、たまに寝過ぎてしまうのだった。
アベルは立ち上がって元来た道を歩いて行く。
「へっ、おめえは大したもんだよ。労働の時間なんだろ? ぐーすか眠りやがって……。羨ましいこった」
「あはは……、そんなに寝てたんだ……」
牢に入れられたマスク男に嫌味を云われるも、アベルは慌てて地上階へと戻った。
◇
――地上階に出ると、空は夕焼けに染まっていた。
「あ(しまったもう夕方か!)」
アベルは今日はさぼってばっかりだったなと少し反省する。
すると、
「よーし! 今日はここまでだ! 明日も朝は早いぞ! それぞれ部屋に戻ってさっさと休むんだ!」
地上階フロアを統括している兵士がフロア中央へと歩み出ると、解散と奴隷達に部屋に戻るよう促す。
奴隷達は大人しく指示に従い、アベルが上って来た階段を下りて行った。
「アベル、今日も一日お疲れさん。お前も戻ろうぜ」
中にはヘンリーもいて、ぼーっと立っているアベルの肩を叩く。
アベルは頷き、部屋へと戻るのだった。
◇
昼間は入れなかった宿舎(という程ではないただの大部屋)に戻ると、皆お疲れの様子でそれぞれの粗末な
「なあ、アベル、じゃんけんしようぜ」
「ん? いいけど……」
突然ヘンリーに云われ、何事かと云われるままに“じゃんけん”をした。
結果……、
「っ、負けた~! あーもーいいよっ、オレはこっちで!」
ったく、何でオレがこっちに寝なきゃいけないんだ……。とぶつぶつ文句を云いながら、ヘンリーは一番端の
「ん? あ、ああ……、そっかなるほど。代わろうか?」
「いいよ! どうせ、皆臭いんだ。今更どうってことないさ」
アベルがヘンリーの背後にある、奴隷達のトイレに使っているツボを見て告げるのだが、ヘンリーは“負けたのは自分だから”と固辞した。
「プッ。まあ、そうだよね。皆臭いもんな。僕も臭い」
「そういうこと!」
アベルは自分の腕をくんくんと嗅いでみる。
随分と長い間風呂に入ってないからかなり臭う。
とはいえ、ここの皆が皆そうだから鼻はすでに莫迦になっていて気にするほどでもない。
「僕ら臭い仲だな」
「変なこと言うなよ」
「…………、あ。そうだ、昼間のことだけど……」
「疲れてるんだ、もう寝ろよ。明日の朝聞いてやるから」
ヘンリーは背を向けたまま、片手だけ後ろに払うように振って、アベルをあしらった。
「……ああ、そうだね。おやすみ」
「おう、おやすみ」
その直後、ヘンリーからは寝息が聞こえて来る。
相当疲れていたのだろう。
ヘンリーは時折休憩を取りつつも、毎日従順に働いているのだ。
ここに来てからというもの、アベルのように自棄になったりもせず、過去の自分の罪を償おうとしているかのようにすっかり丸くなってしまった。
城に居た頃のような我儘も、悪戯も、ここではしていない。
字が上手く書けないアベルに文字の書き方を教えたり、困ってる人を出来る範囲で助けたり、見張りの【ムチおとこ】や兵士におべっかを使ってみたり。
ヘンリーの父、ラインハット王が見たら驚くことだろう。
ヘンリーも、子供から大人へと成長していたのだった。
「…………アリア……」
アベルは
山を刳り貫いただけの土天井をぼーっと見ていると、何も考えたくないのにどうしても彼女のことが思い浮かんで……。
夢に彼女が出て来ると、胸が痛くなって苦しくて見ていられなくなる。
その度
正直なところ、そろそろ出て来ないで欲しい……。
もう、忘れたいのに……と思ってしまう。
「もう十年だよ…………」
アリアの夢はここに来てからちょくちょく見ていたが、ここ数年はたまに見るくらいで回数が減っていたのに、また最近増えだしたのだ。
なぜなのか理由はよくわからなかったが、何か気が付かなければいけないことがあるのかもと、思ったらわかるような気がした。
僕は、アリアのことを…………。
「…………明日も早いから……寝ないと……」
アベルは目を閉じた。
すると直ぐに睡魔はやって来る。
何だかんだとアベルも疲れが溜まっているのか、すぐに闇の世界へと誘われるのだった。
アベルさん、さぼってて殆ど働いていないっていうwww
次回は夢の中~。
脱線、脱線。
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