ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

なんかよくわかんないサブタイトルですね。

では、本編どぞ。



第百六話 ムチおとこ

 

「……おはようございます」

 

 

 大部屋の人は大体話を聞き終えたので、奥にある部屋へと行ってみる。奥の部屋は女性が寝泊まりしている部屋で、奥へと歩いて行くと、女性が二人話をしていた。

 一人は中年女性、もう一人はアベルやヘンリーと歳が近そうな若い女性だ。

 

 アベルは一先ず挨拶をしたのだった。

 

 

「ちょっと聞いておくれよ。そこのマリアちゃんは、光の教団の信者だったのにドレイにされちゃったのよ。何でも不注意で教祖様の大事なお皿を割ってしまったとかで……。マリアちゃんのお兄さんは教団の兵士をしてるっていうのに、全く酷い話よねえ……」

 

 

 アベルが話し掛けると、中年女性が目の前に座る若い女性……【マリア】について訊いてもいないのに一方的に教えてくれた。

 マリアは中年女性の話を黙って聞いている。

 

 

「……そう、なんですか……」

 

「でね、別部屋に居る〇〇さんたら、見張りの兵士におべっかを使っちゃって、こっそりパンを多めに貰っていたのよ~、ほんでもって、採石場の●●さんはムチおとこに酷い仕打ちをされて重症になっちゃったの。全く嫌になっちゃうわよねえー。今療養中で、しばらくは働けないみたいよ。△△さんだけど、……………――……云々」

 

 

 真剣に耳を傾けるアベルの様子に中年女性は気を好くしたのか、奴隷達のあれこれを一方的に捲し立てた。

 

 

「あ、えーっと…………ははは。よく知ってますね……」

 

 

 一度にそんなこと聞かされても憶えられないよ、とアベルは口元を隠して苦笑い浮かべる。

 

 中年女性……“おばさん”という種族は色んな情報をどこから仕入れてくるのだろうか。

 そして、こちらの意図を知ってか知らずか持ってる情報を余すことなく教えてくれるのだが、余計な情報も多いわけで時間の迫る今、話し掛けて良かったのかアベルは何とか笑って聞き流すのだった。

 

 

「ほほほ。奴隷達の話が訊きたいならいつでもあたしの所にいらっしゃいよ」

 

 

 アベルの優し気な微笑みに(そう見える)、おばさんは満足したように目を細める。

 

 そうして、おばさんの話が終わったようなので、おばさんの話をアベルと共に黙って聞いていたマリアに話し掛けることにした。

 

 

 

「あの……、今言ってたこと、本当なのかい?」

 

 

 マリアは見た事がない()なので、最近入ったのだろう。

 

 そういえば、昨日の兵士が嘆いていた妹って この娘なのかなと思いつつ、アベルはマリアに訊ねた。

 

 恐らく金髪であろう髪は何かを掛けられたのか、所々くっついてぼさぼさ、黒い汚れなんかも付着していた。

 服はぼろきれの奴隷服を着せられている。

 顔も殴られたのか、土汚れや傷が付いてはいるが可愛らしい顔立ちをしていた。

 

 

 可愛い子だけど……、一目惚れ……。

 ……する程では、ないかな……。

 

 そもそも一目惚れなんてあるのか……?

 

 

 アベルはヘンリーが云っていた『今度入って来た女の子に一目惚れとかしちゃえばいいだろ?』という言葉を思い出すが、ピンと来なかった。

 

 

「私……、最近は教祖さまのお考えについていけないところがあったんです……。だから教祖さまの怒りを買って、ドレイにされてむしろ良かったのですわ。こんなに多くの人々が教団のために働かされていることがわかりましたし……。光の教団が恐ろしいチカラによって動かされていると、ウワサに聞いたこともあります。でも、いったい誰がそんな恐ろしいチカラと立ち向かえるのかしら?」

 

「…………、うん」

 

 

 マリアが瞳を伏せ、紡がれる言葉をアベルは重く受け止める。

 

 

 恐ろしいチカラか……。

 

 僕にもっと力があれば……、父さんやアリアも助けられたのに……。

 奴隷にされて良かっただなんて……、マリアさんは優しい人なんだな……。

 

 

 恐ろしい力に立ち向かう……。

 

 

 そんな力に立ち向かえる人は“勇者”くらいしかいないんじゃないかな、とアベルは思った。

 

 

 勇者か……。

 

 

 “世が乱れるとき現れ、魔を滅ぼす”って聞いたことがあるけれど……。

 今現れていないということは、まだ危機的状況じゃないということなのか……?

 

 それとも、どこかで既に“魔”と戦っているのか……。

 

 

 ――アベルにはわからなかった。

 

 

「ぁ、ご、ごめんなさい。私ったら……、暗いお話をしてしまいましたわね。今日も一日頑張りましょうね」

 

 

 マリアはアベルの表情が曇っていることに気が付き、優しく微笑む。

 

 それからアベルはマリアと別れ、さっき怒って話を聞いてくれそうになかったマスク男に再度話し掛けることにした。

 

 

 今日の朝は随分と自由時間があるな……。

 

 

 アベルは少し気になったが、情報を集めるのに困らないからいいかと先程のテーブルまで戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 この部屋に唯一あるテーブルへと戻り、アベルは先程のマスク男に声を掛ける。

 

 

「あの、ちょっとお話を訊いても……」

 

「よお、おめえか! おめえの親父はこの教団の奴等に殺されたんだってな。その時の悔しさを忘れちゃいけねえぜ。その思いがある限り、おめえはきっと生きてゆくだろうからな」

 

「あ……、……はい」

 

 

 マスク男には励まされただけで話を終えてしまった。

 

 

 父さん……、アリア。

 いつかあいつを捜し出して、仇は取るからね。

 

 

 アベルは復讐を誓うのだった。

 

 

 

 

 ――その時だった。

 

 

 

 

 

 バンッ!!

 

 

 乱暴に部屋の扉が開かれ、【ムチおとこ】が現れる。

 

 

「おらおら! 仕事の時間だぞ! さっさと行かないとこのムチが飛ぶぞ!」

 

 

 【ムチおとこ】はご自慢の鞭を握ってゆらゆらと動かし、辺りを見回しながら部屋へと入って来る。

 すると、部屋にいた奴隷達が一斉にきびきび動き出し、部屋から出て行った。

 

 

「アベル、お前も行こうぜ」

 

 

 ヘンリーが一言声を掛けていってくれたが、アベルは退室する人波に弾き出され、その場に残されてしまう。

 

 

(……あ、取り残された。)

 

 

 そう思った時にはもう遅く、【ムチおとこ】がニタニタしながらアベルに近づいて来る。

 

 

「はーん? またお前か……。何かにつけて反抗的な奴だな! さっさと出てゆかんかっ!」

 

「ふ、不可抗力……」

 

 

 ピシッ、ピシッ。

 

 

 アベルは両手を掲げたが、【ムチおとこ】は問答無用で容赦なくアベルに鞭を浴びせたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あ~……、いたたた……ホイミ」

 

 

 アベルは部屋を出て階段を上がると、歩きながら回復呪文を掛けて回復する。

 

 

 やっぱ、朝の一発は効くなぁ~。

 目が冴えた……。

 

 マリアさん、可愛い子だったな……。

 

 

 今日も一日頑張らないとなと、ふとマリアに微笑み掛けられたことを思い出して、背伸びをしたのだった。

 

 

 そういえば、マリアさんと()に会ったことがあったのだろうか……?

 

 

 不思議とまた(・・)と感じないのだが、アリアの時のような新鮮さも特に感じない。

 

 

 ……あれ?

 そういえば、最近また(・・)を感じていないような……?

 

 まぁ、今更か……。

 

 都合よく振り回してくる、別世界の記憶など気にする必要なんかない。

 僕は、強くなると決めたのだから。

 

 

 と、

 

 

 アベルがいつもの持ち場へと向かっていると、採石場の方から騒ぐ声が聞こえて来た。

 

 

 あれは……

 




一目惚れは男性の方が多いらしいですね。
マリアはこの話のアベルのタイプではないのでしょう。

主×マリアの方居たらごめんあそばせ。

ムチおとこ……なんだろう、何か気に入ってますね……。
何故なのか……www

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