サブタイトルどうなってんの……。
では、本編どぞーー。
採石場では……――。
「オレの足の上に石を落とすとは、ふてえ女だ! その根性を叩き直してやる!」
「ど……どうか、おゆるしください……」
「いーや、だめだ。確かおめえはドレイになったばかりだったなあ。この際だから自分がドレイだってことを身に沁みてわからせてやる!」
「ひいいい…………」
アベルが何事かと足早に採石場へと駆け付けると、【ムチおとこ】二人が奴隷女性を左右で囲み怒鳴りつけ、鞭で彼女を滅多打ちしているではないか。
「く……! あいつらっ!」
少し離れた場所からヘンリーが唇を噛み締め【ムチおとこ】を睨みつけている。
そんなヘンリーにアベルは後ろから声を掛けた。
「ヘンリー、彼女を……」
「あれアベル! いつの間にそこにいたんだっ!? まあいい……。オレはもうガマンできないぞ!」
ヘンリー! とアベルが止める前に、ヘンリーは走り出し左の【ムチおとこ】に立ち向かっていく。
「うわっ!」
ヘンリーの襲撃に驚いた左の【ムチおとこ】は奴隷女性を打つのを止め、矛先をヘンリーに変えるのだった。
アベルも奴隷女性に暴力を振るう右の【ムチおとこ】に向かって走り出す。
「オレはもうガマンできないぞ! アベル! お前も手を貸せっ!」
「言われなくても!」
左の【ムチおとこ】を殴り付けながら告げるヘンリーに、既に駆け付けていたアベルは右にいる【ムチおとこ】に向かって拳を突き出した。
「いけません……。私に構うとあなたまでムチで打たれてしまいますわ」
奴隷女性が弱々しい声で止めるが、ヘンリーとアベルは完全に血が上っているのか聞く耳を持たなかった。
「マリアさんに何をしたっ!!」
聞き覚えのある声に、この奴隷女性が先程話をしたマリアだと気付き、アベルは【ムチおとこ】を殴り付ける。
「なんだ! お前も歯向かう気だなっ!? よーし 思い知らせてやる!」
右の【ムチおとこ】が左の【ムチおとこ】に目配せをすると、二匹は互いに頷き、アベルとヘンリーに襲い掛かったのだった。
◇
……と、
――戦闘は数分で決した。
アベルの小さな竜巻を起こす呪文【バギ】とヘンリーの【メラ】で、【ムチおとこ】二匹はあっさりとやられ、地面に仰向けで倒れる。
「こ、こんなことをしてただで済むと思っているのか……!?」
右の【ムチおとこ】が負け惜しみに、わなわなと怒りに震えながら頬を膨らましていた。
左の【ムチおとこ】も何か言いたげで口を開く。
「っん、もう、お前に鞭を打ってやらんからな! あの打ち方はオレだけの独自の打ち方なのだ! どうだ! 物足りなくなるぞ! 思い知れっ!」
「わぁっ! それはしぃっ!!」
「んむぅぅっ!!!!」
アベルは慌てて左の【ムチおとこ】の腹に乗っかり、口を塞いだのだった。
「……僕にその気はない。だから余計なことは言わないように……! 黙って。いいね?」
「っ、ぅ、ぅん…………ぽっ(素敵……)」
こっそりとアベルは冷ややかな視線を【ムチおとこ】に向け、凄んで脅しをかけたのだが、【ムチおとこ】の頬はほんのりと赤く染まる。
「なん……だと?」
傍に居たヘンリーがチラリとアベルを恐る恐る見たが、
「…………ふぅ」
アベルは額に掻いた汗を拭って、一息吐くのだった。
「アベル、お前強いな~……」
……さっきのは見なかったことにしよう、うん。
ヘンリーはアベルと【ムチおとこ】の間には何も無いと信じることにする。
「はは……、まあね。君こそ!」
「へへっ、まあな」
「そんなことより、マリ……」
アベルが倒れているマリアに声を掛けようとした時だった。
「なんだ、なんだ、このさわぎはっ!?」
大きな声と共に兵士が三人、騒ぎを聞きつけアベル達の元へとやって来る。
三人の内一人は上官なのか、上等な鎧を身に着けていた。
その上官が訊ねると、慌ててアベルと何の関係もない右の【ムチおとこ】が起き上がり、口を開いた。
(アベルは左の【ムチおとこ】が余計なことを喋らずホッとした。)
「はっ! この二人が突然歯向かってきて……」
「この女は?」
「あっ、はい。このドレイ女も反抗的だったので……」
「………。……まあよい。おい、この女の手当てをしてやれ!」
上官は状況を把握したのか、連れて来た兵士の一人に告げる。
するとその兵士は、
「は? ……あっ、はい。分かりました」
不思議そうな顔をして倒れているマリアを介抱しに向かった。
「それからこの二人は、牢屋にぶちこんでおけっ」
「はっ!」
上官が続けて今度はもう一人の兵士に、アベルとヘンリーを牢に入れるよう命令する。
「さあ、来るんだっ!」
上官に命を受けた兵士がアベルとヘンリーに来るよう強要するので、
「……どうする?」
ヘンリーはアベルに小声で訊ねる。
「…………、……仕方ない」
「…………だな」
二人は互いに目配せして頷き、兵士の後について行った。
◇
アベルとヘンリーは兵士に大人しく連れられ、奴隷墓地を経てその先の牢へ。二人は最奥の懲罰房へと入れられてしまった。
「いや~、参ったな。しかし、ムチで打たれるよりマシかな。わっはっはっ」
「わっはっはって……、ヘンリー、君って奴は……、ははっ」
そういう明るい所に僕は救われるんだよ、とアベルもヘンリーに釣られて笑う。
まぁ、僕は鞭で打たれてもどうってことないんだけど……ね。
……とは、黙っておいた。
「どうしようもないな。せっかくだから、のんびりすることにしようぜ」
ヘンリーは「堂々とさぼれるってもんさ。昨日臭くてあんま眠れなくてさ」と、地面に背を預けると
「あはは……やっぱり? だから場所代わろうかって訊いたのに」
アベルが寝入ってしまったヘンリーにそのまま話し掛けると……、
「ぐごー…………、……っ……いーんだよ。じゃんけん負けたのオレなんだから。お前は優し過ぎんだよ、面倒なことすぐ引き受けようとするんだから」
「面倒なこと?」
「さっき、オレが手を貸せと言ったとはいえ……、それだけじゃない。……昔、オレと友達になんの、嫌だったんだろ?」
ヘンリーは目を閉じたままアベルに昔の話をした。
「……………………、……そんなことないけど?」
アベルの返答が、少しだけ遅い。
「あっ、何だよ、今の間! 傷つくだろっ!」
ヘンリーはドキッとしたのか上体を起こし、ムスッとしてアベルを見るのだった。
「あはははっ! 冗談だよ」
アベルは笑い出し、柔和な顔でヘンリーを見ている。
「本当かよ……。お前、寛解してからずっと穏やかな顔してっから何考えてんのかわかんねえよ……」
「……冗談だよ。そりゃ、アリアと二人の方が楽しかったけど……」
「っ! やっぱそうなんじゃんっ!! 酷いぞっ!! あの子はオレの嫁だったのに……!」
ヘンリーのこの一言まではアベルは柔和な顔をしていたのだが……、一変する。
「……違うって、ヘンリー。アリアは断ってたよ」
アベルの顔が能面のように無表情になったのだった。
視線が凍り付いているように見えるのは気の所為なのか。
「…………、…………そ、そうだったな」
アベルお前、時々怖い顔するよな!
十年前、アリアをロープで縛って置いて行った時も怖かったんだぜ!
アベルの本心がわかった気がして、ヘンリーはアベルが怒った時は無表情になるということを覚えたのだった。
ムチおとこ相当回数書いてるんですがw
書き分けは特にしていませんが、アベルに気があるムチおとこはこの一匹です。
何この無駄情報www
楽しかった。
ありがとうムチおとこ!
今回でムチおとこは見納めですwww
でもまた出て来るかも……w
そういや今更なんですが、【】はモンスターとか道具とか固有名詞に付けているんですけど、愛しさから付けておりますwww
特に重要ってわけでなくて、愛おしいだけ! 愛です。愛。
主にモンスター名とアイテム名に付けてあったかと思います。
キャラ名は最初の一回だけ付けてたかな?
時々付け忘れていることもあるのですが、そこはほら、私クオリティーってやつです。
忘れちゃうんですよねぇ……アハハ!
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評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。
読んでいただきありがとうございましたっ!