大神殿よさーらば、また逢う日まで!
では、本編どぞー。
しばらくして……。
「しかし、いつまでここに入れておく気かなあ。ん? 誰か来たみたいだぞ!」
再び横になっていたヘンリーが呟くと、物音がアベル達の入っている牢へと向かって来る。
カチャン、カチャン、カチャン……。
鉄なのかは判らないが、鎧の歩き擦れる音がどんどんと近づいて来てアベルとヘンリーの入った牢の前で止まった。
そして、
ガラガラガラ、と牢の扉が開いた音がした。
「一体何だろう? おい、行ってみようぜっ!」
「ああ」
ヘンリーは起き上がってアベルを伴い、扉へと向かう。
「さ、先ほどは助けていただいて、本当にありがとうございました」
扉を出た所でマリアが緊張したような顔で、声を掛けて来たのだった。
「あっ、キミは……」
さっきの……!
ヘンリーはマリアに気付いたのか、無事で良かったと安堵する。
「さあ、どうぞこちらへ」
マリアが付いて来てくださいと云うので、二人は後ろについて行く。
すると、アベルが気になっていた水の流れる部屋の扉が開いていた。
「何だ……? タルがいっぱいだな……」
「ここは……」
ヘンリーとアベルが案内された部屋に入ると、部屋の中を見回す。
ヘンリーはこの部屋を初めて見たのか「何でタルがこんなにたくさん……?」と首を傾げていた。
部屋の奥に水路……?
やっぱり水路だな……。
ということは、外に繋がって……?
アベルは水路の先を見る。
明かりが遠くに見えて、外に繋がっているのではと推察出来た。
その水路にすぐにでも使えそうな大きなタルが一つ、水際手前に鍵の付いた鎖で留められ浮かんでいる。
鎖を外せばタルは水路を流れて行き、外に出られるのかもしれない。
アベルは水に浮かぶ大きなタルを前に目を瞬かせた。
人が何人か入れそうだな……。
ん? 人を入れて……?
「あっ……」
アベルはふと、何かに気付く。
昨日、奴隷墓地で新しい墓が何故ないのか気になり、もしかしてと思っていた理由がここにあったのだと。
そのタルの前には先程の上官兵士が立っていた。
「っ、あんたはさっきの……!」
「…………っ」
ヘンリーとアベルは上官兵士を睨み付けるが、マリアが上官兵士の隣に並び立ち、ちらっと上目で親し気に上官兵士を見るので、警戒を解く。
上官兵士はマリアの肩に手を置き、口を開いた。
「妹のマリアを助けてくれたそうで、本当に感謝している。私は兄のヨシュアだ。前々から思っていたのだが、お前たちはどうも他のドレイとはちがう。生きた目をしている!」
「い、生きた目……? そうか……?」
ヘンリーが頬をカリカリと掻いてアベルを見ると、アベルも無言で目を合わせてくる。
「そのお前たちを見込んで頼みがあるのだ。聞いてくれるな?」
ヨシュアが有無を言わせぬ迫力で迫るので、アベルは首を縦に下ろした。
「……断れない話みたいですね」
「そういうことだ」
「なら、聞くしかないか」
アベルが了承しヨシュアが頷くと、ヘンリーも同意する。
ヨシュアの隣のマリアの表情が明るくなった気がした。
「実は、このことはまだウワサなのだが……。この神殿が完成すれば、秘密を守るためドレイたちを皆殺しにするかも知れないのだ」
「な……っ! 何だって!?」
ヨシュアの言葉にヘンリーは驚くが、アベルは黙って目を伏せていた。
「そうなれば当然、妹のマリアまでが……! お願いだ! 妹のマリアを連れて逃げてくれ! お前が昔さらわれて来たときの荷物やお金も、後ろのタルに入れておいた。この水牢はドレイの死体を流す場所で……浮かべてあるタルは、死体を入れるために使うものだ。気味が悪いかもしれんが、そのタルに入っていれば、多分生きたまま出られるだろう」
「……やっぱりこのタル……そう、だったんですね……。亡くなったドレイ達をタルに……(何てことを……!)」
アベルは拳を握り締め、これまで流された人達を想い憤りを覚える。
「おい、アベルお前知っていたのか!?」
「あ、いや……確信したのは今さっきなんだ。亡くなってる人は多いのに、奴隷墓地に新しいお墓が増えないからずっと、不思議に思ってて」
「ってことは……、っ、この間亡くなったあの子は……!?」
酷いことしやがる……!!
アベルの言葉にヘンリーは悲しみに顔を歪ませる。
ヘンリーが以前可愛がっていた奴隷の男の子がいたのだが、その子はここから捨てられていたのだ。
「さあ、誰か来ないうちに、早くタルの中へ!」
ヨシュアがタルへ急げと、先ずマリアをタルに押し込む。
続いて、ヘンリーが乗り込み、アベルが最後にタルへ。
その時ふとアベルの頭に“チクッ”と痛みが刺し、額を抱え立ち止まる。
「っ!?」
この痛み……、これは……!
随分久しぶりの感覚に、アベルの目はカッと見開いた。
「どうした? 早く乗ってくれ」
「っ、ヨシュアさん。あなたも、どうにかして逃げて下さい」
ヨシュアに背を押されながら、アベルは告げた。
「え、私なら大丈……」
「絶対死なないで、隙を見て逃げて。何が何でも、マリアさんの為に……!! 絶対っ! ……絶対っ!!」
アベルはヨシュアを真っ直ぐに見据えると、タルに乗り込んだ。
先に乗り込んでいた、マリアとちょっぴり顔を赤くしたヘンリーに少しずれてもらって腰を下ろす。
丁度ヨシュアの積み込んだ荷物に手が触れて、袋からハンカチがはみ出してしまった。
アベルはそのハンカチを取り出し、見下ろす。
そこには決して上手いとは言えない癖のある文字が刻まれていた。
十年前、小さな少女がアベルの為に記名したもの……。
「……アヘル」
アリア。
僕、今からでも、少しくらい未来を変えられるかな。
何故かはわからないけど、今、ヨシュアさんにも逃げて欲しいって……、
……そう思ったんだ。
「……何とか、足掻いてみる。危なそうになったら逃げるよ」
アベルの想いが伝わったのか、ヨシュアは少しだけ口角を上げる。
「危なくなる前でっ!!」
「ははは……わかったよ……。約束はできないが……」
「約束ですよ!」
アベルは首を伸ばし食い下がると、念押しをした。
「っ! …………わかったよ、約束だ。ほら、頭を下げて、閉めるぞ」
ヨシュアの返事にアベルは納得したのか、頷き頭を下げる。
ヘンリーもマリアも既に身を屈めていた。
そうして、タルの蓋は閉じられたのだった。
蓋が簡単に開かないよう固定し、ヨシュアはタルに絡められた鎖の鍵を外すと、願いを込めてタルを流れに押し出した。
タルはゆっくりと水路を流れて、外界へ。
「……約束か。守らねばならないな」
さて、ならば私もこうしている場合じゃないな。
ヨシュアは遠ざかるタルを見送り踵を返し、どうにかここから逃げる方法を模索し始める。
『くそーっ! オレも出しやがれっ!!』
隣の牢屋ではマスク男の手枷をガチャガチャ鳴らす音が聞こえていた……。
は~、やーっと大神殿出ましたね~。
本当のろのろなんだから……www
次回、無事に海辺の修道院に辿り着けるのでしょうか。
あ、アリア?
……へへっ、その内会えますよ。
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