ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

どんぶらこっこ。

では、本編どぞ~。



第百九話 漂流

 

 ――アベル達が押し込められマリアの兄、ヨシュアに押し出されてタルは水路を流れていく。

 

 そのタルの中はというと。

 

 ヘンリーは一番端でタルの中央を向いて足を広げて三角座り、マリアも中央でヘンリーに背を向け膝を抱えて座る。

 アベルはというと、マリアの方を向いて同じく両膝を立てて座っていた。

 

 

「結構揺れるな……」

 

「……マリアさん、大丈夫?」

 

「ぁっ、ご、ごめんなさい。その……狭くって……」

 

 

 蓋を閉じられてしまったのでタルの中は暗く、アベルとヘンリーに挟まれたマリアは胸をドキドキと高鳴らせていた。

 マリアの手がタルの揺れで、身体のバランスを保てなくなり傾くので、アベルの胸に触れてしまっている。

 

 アベルは狭い中、マリアに触れないように手を頭の後ろに組んでいた。

 

 

「……ぶ、無事出られるでしょうか……」

 

「……信じるしか……」

 

 

 マリアがアベルに問い掛けるも、後ろからヘンリーが返答する。

 アベルは何か考え事をしているのか、押し黙ったままだった。

 

 

「……あの、アベル、さん……」

 

 

 マリアが今度は名指しで話し掛けてみる。

 

 

「………………、え? ……あ、どうしたの?」

 

 

 アベルは少し間を開けた後で応えた。

 真っ暗なので、互いの顔がよくわからない。

 

 どんな表情をしているのだろうか。

 

 

「……何か、考え事を……?」

 

 

 マリアは恐る恐る訊ねる。

 

 

 アベルさん、とても優しくて素敵な人だったわ……お顔も……。

 こんなに近くにいるのに、お顔が見えないなんて……。

 

 

 マリアは自分を助けてくれたアベルに、ほのかな恋慕を抱いていたのだった。

 

 

「あー……、うん、少しね」

 

「そうですか……」

 

 

 アベルのそっけない声にマリアはしゅんと落ち込む。

 

 

「ヘンリー、マリアさん。そろそろ滝だよ、歯を食いしばってね。舌噛まないように」

 

 

 アベルの声と共に“ザーーーーーッ!”という水の落ちる音が聞こえてくる。

 

 

「「え?」」

 

「落ちるよ」

 

 

 ヘンリーとマリアの間の抜けたような返しに、アベルはタルの上部に腕を突っ張り衝撃に備えた。

 

 

 すると、タルは滝に差し掛かり一気に、海へと落下していく。

 

 

 

 

 

 うわぁあああああああ~っ!!

 

 きゃああああああああ~っ!!

 

 

 

 

 

 身体が宙に浮く感じがして、ヘンリーとマリアの大きな叫び声が滝へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザブン、ザプン……、

 チャプ、チャプ……。

 

 

 ――タルは無事海へと着水。

 潮の流れに乗り、どこぞへどんぶらこ中である。

 

 

「……さん、……マリアさん、…………大丈夫かい?」

 

 

 アベルはマリアに声を掛ける。

 マリアの身体はアベルに密着し、しっかりと抱きついていたのだった。

 

 アベルは未だマリアに触れないよう、腕を上げ頭の後ろに手を組んでいる。

 ヘンリーもさっきまで気を失っていたが、既に目覚めていた。

 

 

「……ぅぅ、…………驚きました……! ……ぁっっ!!??」

 

 

 マリアはアベルに抱きついていたことに気付き、慌ててアベルから離れた。

 その拍子に、今度は背後にいるヘンリーにぶつかってしまう。

 

 

「……っと、……マリアさん……?」

 

 

 ヘンリーは変なところに触れないよう、手をお手上げ状態でマリアを受け止めたのだった。

 

 

「あっ、ヘンリーさん、ごめんなさいっ」

 

「あっ、いや、狭いからしょうがないよ、気にしないでくれ」

 

 

 ヘンリーがそう云うと、マリアは「すみません」とヘンリーから少しだけ身体を離した。

 

 

 何? オレと全然違うじゃん……!

 女の子ってすげー柔らかいっ!!

 

 匂いも、何か甘酸っぱい気がしたような……?

 

 

 ヘンリーはマリアの感触に鼓動が早くなるのを感じる。

 

 

「……アベルさんもごめんなさい……」

 

「ううん、気にしないで。僕は平気だから。舌噛まなかったかな?」

 

「ぁ……、はい……」

 

 

 アベルの声は抑揚が無くて、マリアはアベルが自分を心配してくれているのにも拘わらず、ちっとも嬉しくなかった。

 

 

「…………。アベル、お前何でさっき滝だってわかったんだ?」

 

 

 マリアさんて、アベルの事……?

 ……アベルってモテるよなぁ……。

 

 ちぇっ。

 

 

 ヘンリーはマリアの事は気にはなったが、それには触れず、滝を落ちる前のアベルの物言いに言及する。

 

 

「……あー……、うん。久しぶりにまた(・・)ね」

 

「なんだ? また(・・)って……」

 

「…………やっぱ、何か意味があるんだろうなぁ……、………………」

 

 

 アベルはそれだけ言うと、黙り込んだ。

 

 

「…………何だよ、意味わかんねえな……」

 

「ははっ、まだしばらく海の上だよ。少し寝てたら? 僕も寝るからさ」

 

 

 ヘンリーのつまらなそうな声にアベルは笑う。

 

 

「この揺れの中寝られるわけ……!」

 

「……嵐に遭遇しなきゃいいけど……、多分遭うな」

 

「は?」

 

 

 アベルの奴、何言ってんだ?

 何か、こんなこと昔もなかったっけ……?

 

 

 ヘンリーは訝しむが、アベルの顔は暗くてよく見えないので眉間に皺を寄せただけで終わった。

 

 

「あのっ、……無事陸地に着くといいですね」

 

 

 アベルとヘンリーの間にマリアが割って入る。

 

 

「………………、…………着くから大丈夫だよ」

 

「え?」

 

「……僕、少し眠るよ。マリアさんも休んで」

 

「ぁ、はい……」

 

 

 マリアが返事して、しばらくすると、アベルの方から“ぐぅ”と寝息が聞こえて来た。

 

 

「……アベルさん……」

 

 

 マリアはこっそりアベルの方へと手を伸ばす。

 

 

 すると、

 

 

「……マリアさん」

 

「ぁっ、は、はいっ!?」

 

 

 そうだ、ヘンリーさんも居たんだった……。

 やだ、私ったら……。

 

 

 マリアは慌てて手を引っ込め、背後のヘンリーに返事した。

 

 

「な、何でしょうか?」

 

「……何か、雨の音……しないか?」

 

「え……、ぁ……。本当……」

 

 

 ヘンリーに云われてマリアが耳を澄ますと、波の音に紛れて雨の降る音が聞こえて来る。

 その音はこちらに近付いていて、雷の音も混ざり、風が出てきたのか揺れが激しくなってきたのだった。

 




R18なら色々妄想が捗る展開ではありますが、マリアに悪戯をするわけにいかないのでここは紳士的に。

ワイ紳士じゃないけどにゃw

アリアが居たら「タルの中窒息しないのっ!?」とツッコんでくれそうなのに……。
頑丈な良いタルなんでしょうね……。

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