ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

どんぶらこっこっこ。

では、本編どぞ~。



青年期・前半【海辺の修道院】
第百十話 波の音


 

「ぅっ……マズイな……。嵐にぶち当たりそうだ。このタル、滝から落ちても壊れなかったから、すぐに壊れることはないと思うが……、揺れまでは防げないからな……」

 

 

 近づいて来る激しい雨音に、ヘンリーは嵐に当たりそうだと揺れに吐き気を感じて手を口元に当てる。

 タルの上空に雨が降り始め、それはすぐに嵐になり波揺れが激しくなった。

 

 

 ギッ、ギッ、ギッ、

 

 

 と、タルが軋む音が聞こえる。

 壊れるような音ではないが、この揺れではいつ壊れても不思議ではない。

 

 そんな状況で、アベルからは“ぐぅぐぅ……”と緊張感のない(いびき)が聞こえて来る。

 

 

 って、何でアベルの奴ぐーすか眠ってるんだよっ!!

 タルが壊れるかもしれないのに、心配じゃないのかっ!?

 

 アベルって肝が据わってるというか、時々妙に達観してたり……、そういうとこあるよなっ!

 

 

 ヘンリーはオレも寝ておけば良かった、と上下に荒々しく揺れるタルに片手を突っ張って、揺れに耐えていた。

 

 

 

 

 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ……!

 

 

 

 

(痛っ!)

 

(あぐっ!)

 

(……ぐぅ……)

 

 

 波揺れの激しさに、三人は何度もタルの内側に身体のあちこちを打ち付けた。

 

 

「っ! ぅぅ……、すごい揺れです……」

 

「ぅ、ぁあ……。いっ!? ……大丈夫かい?」

 

 

 ヘンリーはマリアの頭上付近、タルの内側に腕を添わせる。

 マリアの頭が時折ヘンリーの腕にぶつかっていた。

 そんな中でもアベルは起きることなく「ぐうぐう」とよく眠っているようだ。

 

 

「ぅ、はい……。ありがとうございます……。っ、……アベルさん、ぐっすり眠ってらっしゃるんですね……」

 

「……っ、だな。いい気なもんだよっ……うっ!」

 

 

 一際大きな波を乗り越えたのかタルが傾き、ヘンリーは肘を強打する。

 

 

「だっ、大丈夫ですか!?」

 

「へっ、平気さっ。マリアさん。もし嫌じゃなかったら、オレに掴まっててくれていいぞ」

 

「えっ、…………ぅぅ。気持ち悪い……」

 

「えっ、オレ気持ち悪い!?」

 

「ぁっ、違うんですっ、ゆ、揺れが……ぅぅ………………。………………」

 

 

 揺れによるあまりの気持ち悪さに目が回り、マリアの意識が遠退いていく。

 

 

「…………マリアさん?」

 

 

 ヘンリーがマリアに声を掛けるが彼女から返事はなかった。

 

 

「……っ、ぅぅ。オレも気持ち悪いっ!! 気持ち悪いぞっ!!」

 

 

 込み上げてくる吐き気をぐっと堪え、ヘンリーは大声を上げて気合を入れる。

 

 

 けどっ、このままじゃマリアさんがあちこち怪我をしてしまうっ!!

 踏ん張れ、オレっ!!

 

 

 ヘンリーは嵐が去り、波が穏やかになるまでマリアを激しい揺れから護り続けるのだった。

 

 

 

 

 ちなみに、アベルは……。

 

 

 

 

 ………………頭を何度も打ち付けている間にそのまま本当に意識を失ってしまった…………とさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザザーン、ザザーン……。

 

 

 浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえる。

 浜辺の直ぐ傍には教会らしき建物が建っていた。

 

 そこは、名もなき【海辺の修道院】。

 修道女や世界各地から修行にやってきた女性達が、神の教えを学びながら厳格な戒律のもと、皆自給自足で質素な生活を送る施設である。

 

 

「……時間だわ……」

 

 

 修道院で暮らすとある女性が、教会の屋上で鐘の綱を引く。

 

 

 すると、

 

 

 カー……ン、カー……ン、カー……ン、

 

 

 …………と。

 

 

 落ち着いた心地好い鐘の音が辺りに鳴り響いたのだった。

 

 

「ふぅ……、間に合いました……。いいお天気…………あら、あれは……?」

 

 

 鐘を鳴らし終えると、女性はほっと胸を撫で下ろし何となく海の方へと視線を移す。

 丁度、そこには大きなタルが一つ、修道院から目と鼻の先の浜へと流れ着く様子が見えたのだった。

 

 

 

 

「マザーにお知らせしないと……!」

 

 

 

 

 海から吹く風に、白金の細く長い髪がなびいて揺れる。

 女性は慌てて階段を下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 タルが【海辺の修道院】に辿り着いて、五日……――。

 アベルは目を覚ますことなく眠り続けていた。

 

 

 

 

 

 アベル。

 

 

 ……アベル。

 

 

 

 

「ぅ……、ん?(あ、これ、夢だ……)」

 

 

 夢の中で少女の声が聞こえた気がして、寝ていたアベルはゆっくり上体を起こし、目を擦る。

 いつもは真っ黒な暗闇の中だったはずなのに、今回はどうしてだろう、真っ白な何もない空間だ。

 

 

「あ……、アリア……?」

 

 

 上体を起こしたものの、片膝を曲げ座った状態のアベルの傍に、小さな少女が正座を崩した恰好でちょこんと座って目を細めている。

 やっぱりいつもの夢のように翼は無く、ただの小さな女の子だった。

 

 

「ふふっ、めっちゃ久しぶりだね、元気だったかなっ?」

 

 

 アリアはこめかみ近くで“やほ~!”と軽く手を振る。

 

 

「……久しぶりって……、昨日会ったよ……?」

 

「昨日……? 何のこと? ……何かよくわかんないけど、いつの間にかアベル大きくなったねえっ! 格好良くなっちゃって……、びっくりしたよ!」

 

 

 アベルが訝し気に告げると、アリアは柔和な顔で首を傾げていた。

 

 

「……っ、アリアは……小さいままだ……ね……」

 

「ふふっ、小さな私、可愛いでしょ?」

 

「…………、……うん。可愛い」

 

 

 アリアが両頬を人差し指で指しながら破顔するので、アベルは首を縦に下ろした。

 

 

「……っ! や、やだ。アベル正直過ぎる~! ありがと……っ! ……っ、そんなこと言ってもらえるなんて思わなかったよ~……っ、っっ!!」

 

 

 アベルの言葉に少女の頬っぺたが桃色に色付くと、恥ずかしいのか顔を覆ってしまう。

 ……照れているようだ。

 そんなアリアにアベルがぽつり。

 

 

「……でも、大人になった君も見たかったな……」

 

 

 きっと、可愛い……いや、綺麗……?

 っ、いやいや、僕は何を……。

 

 

 アベルは頭を左右に振って、アリアの頭を優しく撫でる。

 

 

「…………、見たかったの?」

 

 

 アリアはアベルを上目遣いで見上げた。

 

 

「うん……。けど…………」

 

「…………ふふっ。そっか、それはざんね~ん! 私も今のアベルと会いたかったなあ……」

 

 

 アベルの頷く姿にアリアは唇で弧を描き、優しく目を細める。

 

 

「……アリア、もうお別れなのかな」

 

「そうだねぇ……。私、眠ってるから……、あなたの夢に出て来るのは今回が最初で最後かも」

 

 

 もう少し鍛えておけば良かったなぁ、とアリアは悔しそうに頬を膨らました。

 

 

「眠ってる……?」

 

「うん、眠ってるの」

 

 

 アベルが訊ねると、アリアは はにかんだまま頷く。

 

 

「っ、ど、どういうことだい……!!?? 君はあの時死……」

 

 

 アベルは目を見開き、アリアの肩を急に掴んだ。

 

 

「あっ! アベル、急に動かしちゃダメっ! 形保つの難しいの。魔法が解けちゃう」

 

「えっ……!?」

 

 

 アリアがアベルの動きに驚き注意するが、時既に遅しでアリアの姿が透けて消えていく。

 彼女は眉をハの字にして、参ったなという顔をしていたが口元は弧を描いていた。

 

 

「ぁ……アリアッ!?」

 

 

 アリアの肩の感触が消え、手が宙を掴むとアベルは拳を握り締める。

 

 

 

 

 

 …………アリア、君、もしかして…………。

 

 何処かで生きているのか……?

 

 

 

 

 

 アベルの耳の奥で微かに、ザザーン、ザザーン……、と穏やかな波の音が聞こえたのだった。

 




ヘンリー漢やなぁ。
アベルも大好きだが、ヘンリーも大好きなので、格好良く書きたかったのです。
それだけ。

ていうか、アベルもヘンリーも女性に優しいよね。
いや、違う。扱い方がわからないんだろうな……。

マリアに自分からは一切触れてないからね! からねっ!
思春期(?)だと異性にどう接していいかわからないよねっ!
チェr……だしなっと、おっとっ?


さて、次話より恋物語がやっとスタートしま……す……ん?

そろそろ、らぶらぶさせてくだしあ。
そもそもソレ目的だったはずなのに、少年期ではそれ程ラブ度上げられず面目ない。
少しずつ歩み寄って行く二人を書けたらいいなぁと妄想中。

そして大人の階段……までは無理かなー……。
R15ギリギリまで攻めてはみたいですが、基準がわからないのでサラッとサクッとでいいのかも。

フヘヘ。

言葉のチョイスがちょっとおかしいですが、頑張りますw

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評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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