ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

都合の良い記憶喪失の回。

では、本編どぜう。



第百十三話 記憶喪失

 

 アベルが扉を開け放ち外へ出ると左側に木のベンチが見えて、そこにヘンリーが腰掛けていた。

 ベンチには先程使ったルビー色の水は捨てたのか、空になったグラスが置かれている。

 

 アリアの姿は見えなかった。

 

 

「ヘンリー!」

 

「ん? お、アベルか。中々早かったな。あの女性、話が長いだろう?」

 

「長いなんてものじゃなかった……同じ話を何度も……」

 

 

 アベルは参ったよと、頭を抱え溜息を吐いた。

 

 

「わっはっはっはっ。お前、誰の話でもいつも最後までちゃんと聞いてやるもんな!」

 

「ヘンリー。アリアは……?」

 

「ん? あー、彼女ならあっちに行った」

 

 

 ヘンリーはアベルの背後を指差し、修道院の裏に行ったと教えてくれる。

 

 

「…………彼女は……、……っ、……あの(・・)、アリアなのかい……?」

 

 

 アベルは恐る恐る訊ねる。

 

 すると、

 

 

「……………………、…………多分な」

 

 

 ヘンリーは少し間を置いて頷いた。

 

 

「多分……?」

 

「ああ、多分だ」

 

「どういうことだ? さっき、ヘンリーもアリアのこと、アリアさん(・・)なんて呼んでるし、アリアもヘンリーさん(・・)て……」

 

 

 アベルは感じていた違和感をヘンリーにぶつけてみる。

 そう、まるで最近出会ったばかりみたいな余所余所しい呼び方に、違和感があったのだ。

 

 

 

 

「……記憶喪失だってさ」

 

 

 

 

 ヘンリーは空を見上げて“はぁ……”と息を吐く。

 

 

「えっ!!?? またっ!?」

 

「またって……、オレの所為だよ……」

 

「え?」

 

「……これは、マザーから聞いた話なんだけどさ」

 

「……うん」

 

 

 とりあえず隣に座れば? とヘンリーに促されアベルはヘンリーの隣に腰掛け、両腿にそれぞれ肘を置くと手を組んだ。

 

 

「……十年前、彼女はここの近くの森で、傷だらけで倒れている所をある富豪に救われたそうだ。この辺りで行方不明の女の子はいないってことで、富豪はここで療養した後、彼女を養女にと申し出たらしい」

 

「森で……? 何故……」

 

 

 アベルは目の前に咲く花々を見つめながら零す。

 神妙な面持ちで話をする二人の近くで、長閑に小鳥がピチチ、ピチチとさえずり、蝶が目の前の花々の上をひらひらと舞っていた。

 

 

「だが、彼女は何日経っても目を覚まさず、富豪がその状態で連れ帰るわけにはいかないってんで、ここに置いて行ったんだと。目を覚ましたのは八年後で……それまでの記憶がすっぽり抜けてたってさ」

 

「八年も眠って……」

 

 

 記憶をまた(・・)失った……?

 

 

 アベルが眉根を寄せる中、ヘンリーは続ける。

 

 

「丁度、ここに来ていた富豪の娘さんを迎えに来た時に、一緒に行こうと誘ったらしいが、自分が何者かも憶えていないし、ここで世話になったからと、しばらく奉公してから考えるという話になったようで、現在に至るらしい……」

 

 

 ヘンリーは話し終えると、顔を俯け黙り込んでしまった。

 

 

「…………傷だらけで、倒れていたってことはやっぱりアリア……」

 

 

 そういえば、アリアの髪に可愛らしい花飾りが付いていたっけ……。

 

 

 アベルは立ち上がり、ヘンリーの話に耳を傾けつつ、すぐ傍に咲く可憐な八重咲の白い花を一房摘み取る。

 

 

「……その傷がもう……酷かったんだって。頭の先から爪先まで血だらけで、生きてるのが不思議なくらいだったって。特に背中の傷が酷かったらしい……。呪文や薬草で何とか身体は回復したけど、その怪我の所為で記憶を失ったんだろうってマザーが」

 

「……そう、だったんだ……。けど、傷はもう癒えているみたいで良かった……すごく、綺麗になってたし……」

 

 

 この花……、アリアに似合うかな……?

 

 

 アベルは手にした花をじっと見下ろした。

 

 

「本当にな……。あの子、天使みたいに綺麗だよな。あ、元天使だったっけ。……ははっ、けどオレ達のこと全然憶えてないんだぜ?」

 

 

 ヘンリーは淋しそうに瞳を伏せる。

 

 

「だから、アリアさん(・・)って言っていたんだね……」

 

「ああ。アベルもさん(・・)付けで呼んだ方がいいぞ。まだそんな親しくないんだからさ。彼女からしたら初対面みたいなもんだ、抱きついて呼び捨てされたら驚くだろ? なんか、性格まで変わっちまってるしさ……」

 

「……あっ! ……そ、そうだね……。アリアが生きてたことが嬉しくてつい……」

 

 

 アベルは今更ながら、急に恥ずかしくなって頭の後ろを掻いた。

 

 

「……先生の教え憶えてるだろ?」

 

「え? ま、まあ……」

 

 

 急に何だろう? とアベルはヘンリーの言葉に耳を傾ける。

 

 

「“紳士たるもの、常に礼節をわきまえろ”ってな…………ってー……、ドレイのオレ達に言われてもな~って思ってたけど、案外役に立ったな。オレ、アリアと結構話出来るようになったんだぜ?」

 

 

 先生はもう死んでしまったけど、先生の教えはオレ達の中に生きてるぜ!

 

 

 と、ヘンリーは人の道を説いてくれた今は亡き元貴族(ナンパ師)の言葉を口にするのだった。

 だが、この言葉には続きがあり……。

 

 

 “紳士たるもの、常に礼節をわきまえろ。始めは受け手でいい。防御に徹せよ。自分から多くを語る必要はない、ただただ女性に共感し、頷け。さすれば婦女子達は皆可愛い子猫ちゃんも同然だ! にゃあにゃあと慕ってくれる! 女性には優しく接し、男性には真摯に、己には厳しく。そしていける! と思ったその時にこそ、ズバッと攻めに転じる! これが漢だっ!!”

 

 

 今は亡き元貴族(ナンパ師)の戦場がどこなのかはわからないが、そんなことを教えてくれたな~とヘンリーは思い出していた。

 

 

 本当、色んな奴隷達がいたな……、である。

 

 

「っ…………」

 

 

 そんなヘンリーの言葉にアベルはムスッとする。

 

 

「ん? 何だよ?」

 

「…………別に」

 

 

 首を傾げるヘンリーを横目に、アベルは不機嫌そうに修道院の裏手へと歩き出したのだった。

 

 

「……アリアん所に行くのか?」

 

「…………本当に、アリアなんだよね? 人違いじゃないよね?」

 

 

 アベルは人違いなはずはないと思いつつ、ヘンリーに問う。

 

 

「……あの子みたいな髪と瞳の子、オレはこれまで見たことがない。……お前だってそう思うだろ?」

 

「…………、……そうだね」

 

 

 アベルはヘンリーを残して、アリアの居るであろう裏手へと向かった。

 




富豪はあの方ですよ、あの方。
アリアはフローラとも顔見知りだったりします(サラボナまで出て来ませんが、後で女子会やらせようっと)。

奴隷の中には色んな人がいて面白いなと思います。
多分、元貴族のナンパ師(オリキャラ)はあと一回は出て来るかと思いますw
既に死んでますがwww

海辺の修道院攻略が中々長いです。
そして、その後も一つ一つの町攻略やイベント(?)が長いです。
本当、ノロノロ。

結婚辺りまで書き進めたら一日二話投稿も考えてみようと思っていますが、見直しがメン……ゲフンゲフン。

お付き合いいただけたら幸甚に存じます。

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評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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