ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

動悸息切れ、病気ですかね。

では、本編どぞ。



第百十四話 動悸

 

 にゃぁ~ん……。

 

 

 アベルが歩いて行くと修道院の脇に猫がいて、その猫をアリアが撫でていた。

 

 

「……うふふ……。気持ちいいの……?」

 

 

 アリアが猫の首辺りを掻くと、猫がゴロゴロゴロと喉を鳴らしてうっとりしている。

 

 

「……今日は、来ないのかしら……」

 

 

 アリアは修道院の裏手の方を窺い視線を泳がせながら、誰かを捜しているようだった。

 誰を捜しているんだろうとアベルは不思議に思ったが、とりあえず声を掛けることにする。

 

 

「……アリア……、……さん」

 

 

 僕もヘンリーのように、アリアと話がしたいっ!

 昔のように、君と話がしたいんだ!

 

 

 アベルは逸る想いを抑えつつ、アリアに話し掛けた。

 

 

「…………ん? ……あ。…………アベル、さん……。どうしたんですか……? もう、そんなに動き回って大丈夫なんですか……?」

 

 

 アリアは呼ばれて顔を向けると、猫から手を放し立ち上がってアベルと向かい合う。

 ほんの少しだけ頬が赤い気がするが、意外と普通に応じてくれたのでアベルはほっとした……のだが。

 次にアベルの口から出た言葉は、話すとかそういうレベルのものじゃなかった。

 

 

「そ、その……、こ、こ、これ……」

 

「へ……? ぁ、お花……?」

 

 

 アベルがおずおずと先程摘んだ花をアリアに差し出すと、彼女は目を瞬かせて首を傾げる。

 

 

「……あっ! えとっ! ……そ、その猫に似合いそうだなって……思っ……て……」

 

 

 アリアを前にして、つい見惚れてしまったアベルはわけのわからないことを口にしていた。

 言い終えたすぐその後で、アリアの顔をまともに見られなくなり視線を逸らす。

 

 

 いや、僕何言ってんだっ!?

 猫って!!

 

 アリア、君にあげようと思ったんだけど……!?

 

 

 アベルは自分の言動の意味がわからず、混乱する。

 差し出した花は受け取ってもらえず、花弁が空しく海風に揺れた。

 

 

「え……。この子…………、オスなんですけど……あ、でもオスでも似合いますよね。……ふふっ。猫ちゃん良かったね」

 

 

 差し出された白い八重咲の花を前に、アリアは花が綻ぶような優しい笑みを浮かべる。

 

 なぁ~ご! 足元に居る猫がジト目で「何やってんの?」とアベルを見上げていた。

 

 

「っ、じゃ、じゃあ、君に……!」

 

「えっ、あっ! っ……?」

 

 

 

 

 ここだっ!!

 

 

 

 

 とばかり、咄嗟にアベルはアリアとの距離を詰めると、彼女の耳に花の茎を強引に挿し込んで飾る。

 そしてそれを済ませると、踵を返し走って行った。

 

 

「アベルさん……っ!?」

 

 

 アリアが呼び止めるが、アベルは少し走った後で振り返り、一瞬だけじぃっと彼女を見てから再びくるっと背を向け走り去って行く。

 

 下げたままのアベルの両手親指が“ぐっ!”とサムズアップしていたが、アリアが気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、……何なんだろう……これ……」

 

 

 アリア、可愛過ぎないか……!?

 すごく、似合ってた……!!!!

 

 

 アベルの胸がきゅううううっ、と締め付けられる。

 

 

 アベルはアリアに背を向け胸元を鷲掴みし、逃げる様に修道院の扉近くまで戻って来ていた。

 今のアリアを前にすると、何故か上手く喋れない自分がもどかしい。

 つい、きょろきょろと定まらない視線をあちこちに彷徨わせてしまう。

 

 

 話がしたいと思って行ったのに、彼女と向かい合ったら何故か逃げ出したくなって戻って来てしまった……!

 

 さっきから心臓がドクドクドクと強く波打ち、脈が異様に早い気がする。

 顔も熱い気がするし……。

 

 

 何だこれ。

 何だこれ。

 

 

 こんなこと、アリアが小さい頃には感じたことなかったと思うんだけど……。

 

 

 そんな様子のアベルに、ベンチでまったりしていたヘンリーが気付いて不思議そうな顔で告げた。

 

 

「あれ? 随分早く戻って来たんだな、アリア居なかったのか?(てか、アベル何か顔赤くね? 何か、挙動不審だし……)」

 

「…………っ!」

 

「あっ、おいアベルっ!?」

 

 

 アベルはヘンリーに声を掛けられると、“ビクッ!”と身体を揺らし顔を腕で隠して修道院へとダッシュで入って行ってしまう。

 

 

「……なんだぁ? 変なヤツ……。あ、アリアさん」

 

 

 アベルが修道院内に姿を消すと今度はアリアが修道院脇から戻って来る。

 アリアの耳にはアベルが挿した白い花が飾られていた。

 

 

 あ、さっきの花か……?

 ……アベルの奴、やるじゃん……!

 

 ていうか、あいつ……くくくっ。

 おもしれー……。

 

 

 ヘンリーはアベルが逃げて行った理由を察して、声を殺して笑う。

 

 

「あの……、アベルさんは……?」

 

「中に入ってった。その花……、似合うな。どうしたんだい?」

 

 

 知ってるけど訊いちゃうもんね、とヘンリーは訊ねてみる。

 

 

「あ……、ぇと……。ありがとうございます……。アベルさんにいただいて……」

 

 

 アリアの頬がほんのりと赤らむ。

 

 

「! ……あれ? アリアさん、顔赤くない?」

 

 

 ってか、アリアってアベルの事……?

 いや、でも今のアリア結構照れ屋だもんな……。

 

 オレが褒めたから照れた……?

 どっちだ……?

 

 …………………………………………、わからん。

 

 

 アベルの事は何となくわかるが、アリアのこと……というよりは、女の子のことなどさっぱりわからないヘンリーだった。

 

 

「え……? えっ、……そ、そうですか……? やだ……、私……。こんな風にお花を頂いたのは初めてで……。びっくりしてしまって……」

 

 

 アリアは頬を覆って俯くと身体を捩らせる。スカートがふわりと僅かに揺れた。

 

 

「……カワイイ……」

 

 

 もじもじするアリアが可愛くて、ヘンリーはつい零してしまう。

 

 

 昔も可愛かったけど、大人になってこんなに綺麗になるとは思わなかったなぁ……。

 けど、オレのこと憶えてないんだよなぁ……。

 

 

 ヘンリーは深く考えるように、口元を覆う。

 

 

「えっ……?」

 

「あ、いや……。アリアさんてモテるんじゃないかな~と」

 

「へ……? ど、どうでしょうか……。そんなことは……」

 

 

 どうしてそんな風に思ったのだろう……?

 

 

 ヘンリーに指摘され、アリアは戸惑う。

 すると、ヘンリーは黙り込んで……、

 

 

「………………、アリアさん。マザーに聞いたんだけどさ……」

 

 

 深刻そうな顔で話し始めたのだった。

 




アベルってさ、アリアのこと……。
フフフ。

しばらく珍走するアベル君をお楽しみ下さい……。

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感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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