修道院にはさまざまなシスターが居ますよね。
では、本編どぞっ。
「アリア嬢……大丈夫かしらね」
不意にイモシスが眉尻を下げる。
「え?」
「彼女、神の祝福を受けていませんの。ですから……、外界での出来事ですし、今回、縁談を巧くお断わり出来なかったのかもしれませんわね……、……ふぅ……」
「……神の祝福と、縁談って……何か関係があるんですか?」
イモシスが溜息交じりに話すので、アベルは訊ねてみた。
すると、イモシスは“ふぅ……”と小さく息を吐き出し、口を開く。
「…………。私達修道女は修道院の女です。神の祝福を受けた修道女は神のお許しが無ければ、ここから出ることは許されません。そして、そもそも修道女としてここから出なければそういった目にも遭わずに済んだのです。例えそういった目に遭ったとしても、祝福を受けた修道女ならば、神のおチカラで容易にお断りすることも出来たでしょう。ですが……彼女は自由な方ですからね……。……これも神のお導きなのかもしれませんわ……淋しいですけれど致し方ありません……」
イモシスの話には戒めの言葉も入っていて、アリアに対して何か思うところもあるらしいが、最後には淋しそうに瞳を伏せるので、彼女を可愛がっていたのだろうとアベルは感じたのだった。
神の祝福を受けた女性は、神の加護により護られる……。
ということか……。
でも、なんだろう……。
何か、奥歯に物が挟まったような言い方をしている気がする……。
アリアは神の祝福を受けていないとはどういうことだ……?
そういえば、彼女の服装は修道服ではなかったなとアベルは思い出す。
何故だろう?
十年……、いや、目を覚ましてからは二年間……?
ずっとここに居たのなら、洗礼式をやっていてもおかしくないのに……と、アベルは思ったのだが。
「え……? 自由って……」
「…………ふふっ、彼女は何ものにも囚われたりしない方なのでしょうね。私達とは何か……見えている世界が違う様に感じますわ。見た目だけは聖女のようですが、神も彼女を縛り付けたりは出来ないようですからね」
「っ、それっ、一体どういう意味ですか……!?」
イモシスの言葉にアベルは疑問をぶつける。
「あの
アリアが羨ましい……と、うっとり手を合わせるとはっとして、イモシスは慌てて芋の皮むき作業に戻ってしまった。
「えっ、あ、あの……?」
「……アリア嬢は見た目はあれだけの美しさをお持ちですが、中身はとても可愛らしい、いい娘さんですわ。心根もお優しいし、いつも一生懸命で……。ちょっと……うっかりなところもありますけれど。愛嬌があって、私達は彼女が大好きなのですよ」
イモシスは“このお芋も一緒に育てたんですの。夕方のお食事をお楽しみに”とはにかんで黙々と作業を進める。
すると、突然手を止めて……、
“ああ~っ! どうしましょう! 作業が間に合いません~!
おお、神よ。
おしゃべりな私をお許し下さい……。”
イモシスが、まだ剥かれていない山になった芋を前に頭を抱えたのだった。
「……そうですか。彼女が皆さんと仲良くしてくれているなら良かった……」
アベルはこれ以上作業を邪魔するわけにはいかないなと、食堂を後にした。
◇
食堂を出ると、アベルはふぅと溜息を一つ吐く。
「さて、と……」
アリアの話は大体聞けたかな……。
けど、やっぱりマザーに訊かないとはっきりしたことがわからないな……。
アリア本人に訊くのは……、今は出来る自信がない……。
アベルは額を抱え目蓋を閉じると、頬を染めたアリアを思い起こす。
……あんな顔されたら、こっちまで照れるじゃないか……! と、思い出すだけで何故か頬が熱くなった。
皆、アリアと仲良くしているみたいだが、詳しく訊こうとすると途中ではぐらかされてはっきりしない。
やはり、より詳しい話をマザーに訊きたいと思ったアベルだったが遠目に二階の祭壇を眺めても、まだマザーは取り込み中のようなので、先に別の人に話を訊こうと、マリアを思い出したのだった。
「あ……! マリアさんに会いに行ってみよう。マリアさんもアリアに会ってるはずだし、何か知っているかもしれない」
アベルはマザーに訊くのは最後にして、マリアに会いに行くことにした。
マリアがどこの部屋に居るのかはわからないので、アベルはとりあえず向かいの奥の部屋に行ってみることにした。
修道院の出入口の前を通り、食堂と向かい合う様にある奥の扉を開く。
「……ここは……、寝室……?」
扉を開くとそこにはベッドが複数台置いてあり、部屋には誰も居ない。
奥には階段が二階に伸びていた。
「あの階段を上って上に行ってみるか……」
アベルは階段を上る。
すると、そこにはシスター(以下ヨムシス)とマリアが書物を黙読していた。
ヨムシスとマリアはアベルが来たことにも気付かない様子で、黙々と文字を追っている。
そんなマリアにアベルは声を掛けた。
「マリアさん」
「ああ! やっと気がつかれましたのねっ! 本当によかったですわ。兄の願いを聞き入れ、私を連れて逃げて下さってありがとうございました。まだあそこにいる兄や、多くのドレイの皆さんのことを思うと、心から喜べないのですが……、今私がここにあるのも、きっと神さまのお導きなのでしょうね……、アベルさん。これは兄から預かったものですが、どうぞお役に立ててください」
アベルに声を掛けられると、マリアは破顔して頬を薄っすらと染め、どこから出したのか、ジャラジャラと何かが入った袋をアベルの手に持たせる。
「こ、これ……!」
随分、ずっしりとしている。
何だろう? とアベルが覗くと、中にはたくさんのお金が入っていた。
「1000ゴールドです。数えたので間違いありませんわ。兄が切り詰めてコツコツと私の為に貯めた大事なお金ですから、どうぞ、お役立てくださいませ」
「あ……、うん……」
そう云われてしまうと、つ、使い辛いんですけど……。
いいのかな……。
アベルは返そうと黙って差し戻す……が。
「……いいえ、アベルさん。このお金はもうあなたの物です。私を救って下さった兄と私からのお礼ですから是非、お受け取り下さい。私にはもう必要ありませんから……」
「…………、…………じゃあ……遠慮なく……」
何となく、気が引けるけど……。
マリアが目を細めて告げるので、辞退するわけにも行かずアベルは受け取っておいた。
「アベルさんたちの勇気が、きっとこの世界を照らす光になってくださると信じますわ」
マリアがにこにこと晴れやかな笑みを浮かべているので、アベルも少々気まずさを覚えながらも口角を上げる。
すると、
「あなたは、このマリアさんと同じタルで流されてきた方ですね。マリアさんと話せば話すほど、その心の美しさに感心してしまいますわ。彼女こそ、神にお仕えするため生まれてきた人なのではないでしょうか……?」
マリアの隣で書物を読んでいたヨムシスが話し掛けてきたのだった。
「……そうかもしれませんね」
マリアが微笑んだままアベルを見るので、アベルは、確かに彼女はとても優しい女性だったなと相槌を打つ。
ところが、次にヨムシスの口から出た言葉は……、
「……アリアさんもマリアさんのような方だったら良かったのに……」
一字違いでこうも違うとは……と、ヨムシスは眉をハの字にした。
マリアは強い人だと思います。
1000ゴールドを受け取った! とゲーム中にあるのですが、数えていないので実際はわかんないですよね……。
棒金とかならわかるけど、重さとかでわかるのでしょうか。
もうしばらく修道院で過ごすことになりそうです。
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