謎多き女。
では、本編どぞー。
「えっ……」
彼女が……何かしたのか……?
アベルはヨムシスの言い分に目を見開く。
「……シスター。アリアさんもとても心が美しい方ではありませんか」
マリアがアリアをフォローすると、ヨムシスは“わかっています。わかっているのですが、あれはどうしても……”と頭を左右に振っていた。
その様子にマリアが、“きっと気のせいですわ”と立ち上がってヨムシスの背を撫でる。
ヨムシスはふるふると身体を震わせていた。
「……か、彼女が何か……?」
アリア、君、ここで何をしたの……?
アベルは恐る恐るマリアに訊ねた。
「あ……、アベルさん、アリアさんと昔のお知り合いだったとか……。本当ですか?」
「あ、うん。そうなんだ……。と、友達で……」
「そうだったんですね……」
アベルが肯定すると、マリアは残念そうに瞳を伏せる。
「……で、アリアは何を……?」
このまま、またはぐらかされるのは ごめんだと、アベルは再び話題を戻した。
「……シスターは、アリアさんが魔物といる所を見た……と仰っていて……。それも何度も……。でも、アリアさんはそれを否定されていて……」
「わ、私もアリアさんが嫌いとかそういうことではないのです。ただ、彼女は神の祝福を受けておりませんから、いつ魔が入ってもおかしくないと……!」
ぶるぶるぶる、とヨムシスは魔物を思い出したのか身体を再び震わせる。
「シスター……、怯えなど不要です。私達には神がついておりますから大丈夫ですわ!」
「マリアさん……!!」
マリアが真っ直ぐにヨムシスを見つめて告げると、ヨムシスはマリアの手をぎゅっと握ったのだった。
「……魔物と……アリアが……???」
ああ……、ますますわけがわからなくなってきた……!!!!
アベルは混乱する呪文、【メダパニ】に掛かった気分になって頭を抱える。
「……アリアさんは神の祝福を受けられなかったそうです。ただ……私もアリアさんとお話をしたことがありますが、とてもお優しい方で……。魔物と通じているなどと、到底思えないのです」
「…………うん、僕もそう思う。彼女はそんな人じゃない」
マリアの話にアベルは頷く。
すると、
「そんなことはっ!! あなたは彼女の
ヨムシスがマリアの手を強く握りしめ、急に声を荒げる。
「シスターっ? どうかされましたか!?」
マリアは驚いてヨムシスに声を掛けた。
「ぅぅっ……! …………、…………い、いえ、な、何でもないのです……。私は黙読に戻りますわ……」
“神よ、どうか哀れな子羊に救いの手を……。”
ヨムシスは書物を眺めながらも、そう何度も呟く。
何度も呟く内に、ヨムシスの震えが収まっていったが、アベルが声を掛けようとすると、また同じように唱え出してしまった。
「また……。はぁ……」
僕が核心に触れようとすると、皆はぐらかす!
アベルはやっぱりマザーに訊くしかないかと、溜息を吐いた。
「え?」
「あ、いや……。マリアさんは知らないんだよね?」
「え、何をでしょうか……?」
マリアは何のことかわからない様子で、首を傾げていた。
「…………、うん、いいんだ。邪魔してごめんね。これ、ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
「あっ、はい……」
アベルは思った通りのマリアの態度に貰ったお金にお礼を告げて、その部屋を後にしたのだった。
◇
やはりマザーに話を訊くしかない、とアベルは二階の扉を開け、そのまま二階の通路を伝って祭壇に向かおうと思ったのだが、部屋を出た所でアリアに声を掛けられた。
「あっ、アベルさん」
「っ! あっ、アリアさんっ!?」
びくぅっ!!
と、何故か条件反射で、アベルは扉に張り付いてしまう。
その拍子に鼻を扉に打ち付けてしまった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ぅ。だ、大丈夫……。な、何か……」
「あ、えっと、マリアさんとシスターにお茶をお持ちしたんです」
アリアの手元を見ると、トレイの上に湯気の出るカップが二つ載っていた。
それと、お茶菓子、……丸い形の焼き菓子だった。
「そ、そっか……(あ、あれ……? さっきあげた花がない……)」
アリアの顔を見てみるとさっき耳に掛けた花がない。
ひょっとして捨てられてしまったのだろうか……。
ま、まあ、その辺に咲いてたものだし……しょうがないよな……。
アベルはちょっぴり落ち込んでしまう。
「あの……」
「えっ?」
「中に入っても……?」
「あっ! そ、そうだねっ、ごめんねっ!」
「…………いえ……」
アベルは先程自分が出て来た扉の前から退いて、アリアに扉を開けてやった。
「アベルさん、ありがとうございます。……シスター、マリアさん。お茶をお持ちしました」
アリアは部屋へと入って行く。
『まあまあっ、アリアさんたらっ、何ていいタイミングでしょう! マリアさんいただきましょう!』
『わぁ……、このクッキー大好きですわ……!』
アリアが二人にお茶を持って行くと、中から嬉しそうな声が聞こえて来た。
さっきまでの怯えた態度と180度違うヨムシスの様子にアベルは面食らう。
(あれ……。シスター……アリアのこと、怖がってなかったっけ……)
アベルがそんなことを思っている間に、アリアが「失礼しました」と会釈し戻って来たのだった。
扉を開いたまま閉じないよう、押えているアベルにアリアが気付く。
「あっ、扉、開けていて下さったんですか?」
「っと……、えと……まあ……」
「ありがとうございます」
アベルが照れたように頭の後ろを掻くと、アリアは目を細めて優しく笑った。
「っ……かわっ……」
可愛いなぁ……っ!!
くうっ!
アベルは口元を覆ってアリアの視線から逃れるように顔を背ける。
ところが、
「……あの、アベルさん……」
「っ、は、はいっ!」
アリアがおずおずと上目がちに声を掛けてくるので、アベルは彼女に目線を合わせた。
「…………お話があるのですが……。少し、お時間宜しいですか?」
「え、……あ、はい」
「では、屋上で……」
アベルはアリアに誘われるまま、屋上へと向かうのだった。
アベルさんの珍走はまだしばらく続きそうです。
次回まさかの告、白……、は無い。ですね……。
----------------------------------------------------------------------
評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。
読んでいただきありがとうございましたっ!