ハプニング。
それは時に幸せを呼ぶこともある。
では、本編どーぞ!
「……あっ、いっけない。そろそろ時間でした」
「え?」
不意にアリアは屋上の鐘の綱を手にする。
「鐘を鳴らすの、今日は私なんです。……あっ……」
「……どうかした?」
「あ、綱が固く結んであって……。これじゃ間に合わない……どうしよう……」
アリアの手元に鐘を鳴らす綱が斜めに固く固定されているのが見える。
彼女は何とか解こうと試みるが、非力なのか上手く解けない様子だった。
「貸して」
「えっ、あっ」
アベルは「代わりに解くよ」と買って出て、アリアと場所を交代すると結び目を弛めようとする。
「……っ、結構固いね。君にこれを解くのは無理だよ。僕に任せて」
誰がこんなに固く固定したんだ!?
アベルは幾重にも巻かれ、固定された鐘の綱を難しい顔で解いていった。
アリアも結び目を覗き込んでいる。
「ありがとうございます。あっ、でもそれ、途中から緩くなっちゃうので綱はしっかり持って、勢いで鐘を鳴らさないように気を付け……」
「え……? あっ」
アリアが注意したものの一歩遅かったのか、
シュル、シュル、シュルルル……。
鐘を鳴らすための綱は勢いよく解け始め、アベルは慌てて綱を掴もうとするのだが、綱は鐘に引っ張られていく。
アベルと鐘の間には丁度アリアが居る。
アベルの身体は斜めに倒れ……。
アベルはアリアを巻き込んで前のめりに倒れ込んでしまうのだった。
「きゃっ!(アベルさんっ!?)」
「っ、アリアっ!!(危ないっ!!)」
咄嗟にアリアが頭を打たないよう、アベルは彼女の後頭部に手を差し入れる。
ドサッ……!
という音と共に、
カカーン……!!
カカカーン!!!
と甲高い鐘の音が辺りに響いた。
カカカカカーン……。
人の手を離れた鐘は好き勝手に風に揺れ、音を奏でる。
そんな中、
「っ!」
痛い……っ! 肘を打ったな……。
アベルは屋上の床に打ち付けた肘に眉を顰めていた。
「っぅ……いった……」
アリアも倒れた際に身体を打ち付けたのか、眉を顰める。
頭は打たずに済んだが、アベルが倒れ込んで来た所為で仰向けに倒れてしまったのだった。
「…………ん…………?(……柔らかい……? それにいい匂い……)」
アベルはアリアを庇った腕だけ痛めたが他はどこも打ち付けておらず、むしろなんだか柔らかい感触が顔を包んでいて、違和感を覚えた。
「………ぁれ………? …………えっ」
アリアも違和感があったのか、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「ん……?」
何だ、これ……?
ふにふに、と。
アベルは自分の顔を包む柔らかい何かに触れてみる。
それは弾力があって、全てを包み込んでくれるような不思議な感触。
柔らかい、ふかふかの……布団……みたいな……。
いや……、違う……。
サンチョが昔作ってくれた……、搗きたてのお餅みたいな……。
もみもみ。
アベルはもっと触ってみようと、指に力を込めてみた。
刹那、
「ぁっ……! ゃっ……」
アリアの声がアベルの頭上から聞こえて来る。
「ん? えっ!!??」
ガバッ!!
とアベルは身体を慌てて起こしたのだった。
同時、“いたっ!”とも聞こえる。
アベルがアリアの後頭部から手を外した所為で、アリアは頭を打ったらしい。
膝立ちするアベルの下にはアリアが仰向けで倒れていた。
「……こ、これはっ!! ……その……っ」
えっ、ちょっと待って。
今、僕何した……???
何した……!?
アベルは自分の手元を表裏と反転させながら見下ろす。
片方の手には屋上の床で傷付いた擦り傷が……(血も少し出てる)、痛いはずなのに何も感じない。
それよりも、もう片方の手、先程の柔らかい未知の感触。
アベルは綺麗な手の指をわきわきと動かしてみた。
う、
「…………っ、アベルさん……の……、えっち……」
アリアが上体を起こし、胸元を隠しながらアベルを見上げる。
少し涙目だった。
「っ、うわぁあああああああああああっっ!!!!!!」
プッ、
ツーッ、ブシャァアアアアアアアア……!!!!
と、突如アベルの鼻から大量の鼻血が放射状に噴き出す(梨汁ではない)。
『ちょっ……! アベルさんっ!!??』
驚き目を見開くアリアの声が遠くに聞こえたかと思うと、アベルはそのまま意識を失ってしまった……。
◇
「……一体どうしたと言うんですか? あんな……二人共血だらけで……」
「っ……えっと……。その……」
アベルの傍でシスター(アリアと共に服を着替えさせてくれたシスター。以下、ポッシス)がアリアに訊ねていた。
(あれ……、僕は……)
アベルは意識を取り戻したのか、静かに目蓋を開く。
何となく、見覚えのある天井……、先程目覚めた同じベッドの上だった。
「……ああ、良かった。お目覚めになられましたね。数時間前やっと目を覚まされたばかりだというのに、驚きましたわ。一体どうされたというのですか?」
「ぁ……」
ポッシスに問われて、アベルは傍にいたアリアを見る。
彼女の服はアベルの血で汚れてしまったのか、修道服に変わっていた。
アリアはアベルと目が合うと、頬を赤く染めて目を逸らしてしまう。
「……っ……その……。頭に血が上って……鼻血が出てしまい……」
「まあ! まだ体調が優れていらっしゃらなかったのですね! では、お夕食はこちらにお持ち致しますから、横になっていて下さいませ。アリアさん、一緒にいらして」
「あっ、はいっ」
アリアはチラッとアベルに目配せして、ポッシスと共に部屋を出て行ってしまった。
「…………アリア……」
アベルはアリアが消えた扉を眺めていた。
「……っ、……大きい……」
アベルは仰向けのまま、両手を布団から出して上に掲げる。
片手には包帯が巻かれていた。
不可抗力とはいえ、揉んでしまった……。
あんな感触……今まで感じたことない……。
僕のどこを触ってもあんな柔らかい部分はないっていうのに……!
女の子って何であんなに柔らかいんだ……!!??
「…………女の子って……、すごい」
アベルは顔を覆って、身体を横に向ける。
この顔がアリアのふわふわ、いや、もちもちのお餅の上に……。
そして僕の手が、それをも、もももも……。
だぁあああああっ!!!!
違うっ、決してわざとじゃっ!!
気を失う前、アリアが赤ら顔で「えっち……」なんて云うからっ!!
アベルは興奮してしまい、顔をゴシゴシゴシと擦った。
揉むくらいええやろ……。
揉ませて! お願いっ!!(どうした)
揉むくらいええやろ……(また云ってるw)
梨汁ブシャアアアア!!(懐い)的にアベルの鼻血大放水……いや大放血?
この話のアベル意外と初心よね。
何だかんだシャイボーイだわ。……今の所は。
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読んでいただきありがとうございましたっ!