アリアと何があったのか詮索したいヘンリーさん、の回。
では、本編どぞ。
それから少しして、
アベルは顔から手を放すと、アリアの柔らかな部分に触れた手をわきわきと動かしてみてから、目を閉じる。
「すごい……!!」
「はっ……何がだよ?」
感動するアベルの背後からヘンリーの声が聞こえる。
「え? わぁっ!? へ、ヘンリーいつの間に!!??」
「……いや、ずっと居たけど……?」
ヘンリーが居たことに驚き、アベルは飛び起きる。
ヘンリーはアベルの視界には入らない場所に座っていたようで、手には本が握られていた。
「言ってよ!」
「……ははっ、お前面白いから見てたんだ」
ヘンリーは組んでいた脚を解き、立ち上がると本棚に本をしまう。
「な、どこがっ!?」
「アリアと何かあったのかい?」
本を戻してヘンリーは再び椅子に腰掛けると、脚を組んで優雅な所作で肘を腿につけ、拳を頬に当ててアベルに訊ねた。
「べ、別に……?」
訊ねられた気まずさに、ベッドに腰掛けたアベルの手がシーツをぎゅっと掴む。
「嘘吐け。お前が倒れたって言って、アリアが血だらけで血相変えてオレを呼びに来たんだぞ?」
「あ」
「魔物にでもやられたんかと思ったけど、修道院内は安全だからおかしいなと思ってたんだ。したら、鼻血って言ってたからさあ……」
ヘンリーが両手を広げて、お手上げと肩を竦めてアベルを窺った。
すると、アベルは黙り込んで……。
「…………っ、…………うん。そう、みたいだ」
アベルが鼻を擦ると、乾いた血が僅かに指に付着する。
「…………何があった?」
ヘンリーは首を傾げた。
「……それは……、ちょっと言いたくない……かな」
「何だよ、教えてくれたっていいじゃん。オレ達の仲だろ? 親分が訊いてるってのに……」
「…………、今度話すよ。ここじゃ……、ちょっと……」
ヘンリーの追及にアベルは後ろ頭を掻いて、口篭ってしまう。
「ふーん…………。ま、いいや。もう夕方だぜ? 今日も泊めてもらって、ここを出るなら明日からだな」
「……うん、そうだね」
ヘンリーが窓の外に目を向けると、アベルも視線を移す。
窓から見える空は赤く色付き始めていた。
そうして、もう直ぐ日暮れだとわかったところで、ヘンリーは視線をアベルに戻す。
「アベル」
「うん……?」
「アリアはどうするんだ? 連れて行くのか?」
「あ……」
「お前、小さい頃一緒に旅してたんだろ? サンタローズに家があるんじゃないのか?」
ヘンリーは、アリアの家がサンタローズにあるものだと思っているらしい。
「…………、…………、…………アリアは置いて行くよ」
アベルはしばし黙り込んだ後で、答えた。
「え……」
「…………、…………彼女と居ると、僕は……して……うから……」
「ん? 何か言ったか?」
瞳を伏せ告げるアベルの声は小さくて、ヘンリーは最後がよく聞き取れなかった。
「……僕の人生は……結構過酷だからね……、彼女を巻き込む訳にはいかないよ」
「そっか……」
「けど……、たまには ここに顔を出せたらいいなって思ってる」
それくらいなら……、許されるかな……。
彼女と居たら、依存し過ぎてしまいそうで……。
そしたら
ただでさえ、ここに
「…………ふーん。いいんじゃないか? オレも……リアさんと……会いたいしぃ~……なんてなっ!」
不意にヘンリーが頬を掻いて呟く。
「ん? アリア?」
「っ、ちげーよ! アリアはお前のだろ!」
ヘンリーはつい、大声を出してしまった。
「えっ? なっ……!? ちょ、ちょっとヘンリー何言ってるんだよっ! 僕はそんなっ!! 彼女は、と、友達でっ!!」
ヘンリーに指摘され、アベルの頬が熱くなる。
すると、
「…………………………、…………お前、自覚してないのか?(いや、そんなことないだろ……)」
訝し気なジト目をヘンリーはアベルに向けたのだった。
「な、何が……???」
「…………はぁ、そうなんか……。ま、いいけど。アリア結婚……というか、あれは人身御供だな。どっかに嫁ぐらしいぞ」
ヘンリーが椅子から立ち上がりアベルの隣にやって来ると、小声で話し出す。
「っ!! それっ! 断るって……!」
アベルが大きな声を出そうとすると、ヘンリーは口元に人差し指を一本立てて、“しぃ”と音量を下げるように促した。
この話は、しちゃいけない話なのだろうか……?
アベルは判断がつかなかったがヘンリーの云う通り、合わせることにする。
「ああ、らしい。実際修道院から正式な断りの書簡も送ったって。ただ、マザーの口振りから察するに、それだけじゃ難しい相手みたいだ。お前、いいのか?」
「…………アリアは嫌がってるらしいね」
「百歩譲って、アリアが幸せになるならいいと思う。ただ、相手がどこの誰だかはわからんが、随分強硬な手段を取る相手らしくてさ。アリアみたいな綺麗な女の子を複数攫ってるらしいぞ。……これって、そういう扱いをされるってことだよな?」
ヘンリーは深刻な顔で、アベルの意見を伺う。
「っ、アリアが……そんな扱いを……!?」
「……修道院側としてはアリアを全力で護るつもりらしいが、彼女は修道院に迷惑が掛かるのを嫌がってる。アベル、どうする?」
「……まずはマザーに事情を訊いてみないと……! けど、マザーはいつも誰かと話し中でまだ話を訊けていないんだ!」
アベルは全てはマザーが握ってるとわかっているのに、未だ話を訊けていないことを悔やむのだった。
「マザーは忙しい人だからな。今晩遅くに時間をくれって言っておいた。食事が終わって寝る前に特別室へ来いってさ。アリアも交えて話すって」
約束を取り付けておいたぜ! とヘンリーはドヤ顔をする。
ヘンリーは中々に出来る男なのだ。
さすがは王子といったところか。
「っ、ありがとう、ヘンリー!」
「へへへっ、いいって! 相棒! ……で、アリアと何があったんだ?」
お礼を告げるアベルの両肩を“ぽんっ”と叩くと、ヘンリーはそのままがっちりホールドして口角を上げた。
「ぅ……。結局それを訊くのか……、というかむしろそれが目的だった……!?」
「おう! よくわかってんじゃんっ! で、どしたよ?」
アベルがヘンリーにニヤニヤと見つめられ苦い顔をすると、ヘンリーは「ほらほら、吐いちまえよ。吐けば楽になるぜ?」と肩を揉み揉みしてくる。
アベルとアリアの間に何があったのか気になってしょうがないらしい。
「っ、だからっ…………、…………………………、ここじゃ無理だって」
アベルはヘンリーの手を払い除けベッドから下りると、吹き抜けの一階を覗いた。
この部屋の直ぐ下、一階は炊事場と食堂部分に当たるのだが、今の時間そこでは、シスター達が食事の準備をしていた。中には忙しなく働くアリアの姿もある。
一階では昼間会った小さな女の子や、あの、お話好きなおばさんの会話がされていて、二階の会話は恐らく聞こえないとは思うが……。
アリアの頬や耳が赤くなっていることに、アベルが気付くことはなかった。
ヘンリーさんが良い奴過ぎる件について。
アポ取るとか仕事の出来る男みたいだわw
まぁ、アベルもさすがに「ぱい揉んじゃってさ~アハハ!」なんて明け透けに言わんよね……。
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