ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

ごはんよ~! はぁ~い!

では、本編どぞ。



第百二十二話 食事の時間

 

 それからしばらくして食事の時間となり、一階に一部の人達が集まって来ていた。

 

 食堂に入れる人数は限られている為食事は入れ替え制らしく、アベルは後で持って来てもらうことになっている。

 ヘンリーが「オレ腹が減ったから先食べて来る。お前の分は後でいいって言っとくな!」と食堂に下りて行った。

 

 一階ではアリアの隣にヘンリー、その隣にマリアが座り楽し気に談笑しながら食事を摂っていた。

 

 

「…………、……良かった楽しそうだ」

 

 

 アベルは二階の手摺に肘をついて、優し気な瞳でアリアを見守る。

 

 マリアと一緒にいたヨムシスのことが気になっていたが、ヨムシスは今回一緒じゃないみたいだ。

 けれども、アリアは他のシスター達と楽し気に会話しているから問題はなさそうに見える。

 

 

『アリアさん、このパンおいしいですね!』

 

『ホントホント、これだけ美味けりゃパン屋でも出来るんじゃ?』

 

 

 マリアとヘンリーがパンを頬張りながら絶賛する。

 

 

『ありがとうございます。シスター達に教わって作ってみたんです。けど、何か違うんですよね……』

 

 

 褒められたのにも関わらずにアリアはパンを手に取り、難しい顔をした。

 

 

『何がですか?』

 

 

 マリアは「あ、おかわりいただいても?」とテーブルの上の籠に入った丸いパンを取りつつ、アリアに訊ねる。

 

 

『う~ん……、わからないです。日々精進ですね』

 

 

 アリアは難しい顔のまま、ぱくっと、パンに齧りつく。

 

 

『アリア嬢はパンに対する愛が強いですわね。今日もおいしいパンをありがとう』

 

『こちらこそ、おいしいお料理をありがとうございます』

 

 

 イモシスがお礼を告げると、アリアもお礼を返して微笑む。

 食事は皆で作るようだ。

 

 

「……食べ方が……リスみたいだ……。カワイイな……昔もそうだったっけ……」

 

 

 アリアが食事を摂る姿にアベルは知らない内に口にしていた。

 

 

「っ……!」

 

 

 はっとして口元に手を当てると、頬が熱い気がして俯いてしまう。

 

 

 

 

 ……僕は……。

 

 

 

 

「…………、…………少し寝よう……」

 

 

 アベルは頭を左右に振ってから、再びベッドに横になることにしたのだった。

 

 一階からの暖かな団欒の声が、身体を横たえたアベルの意識を遠退かせていく。

 こんな穏やかな心地をもう一度味わえるとは思わなかったなと、アベルは父パパスやサンチョとの懐かしい団欒を思い出しながら眠りに就いた。

 

 

 

 そして、数十分後……――。

 

 

 

 コン、コン。コンコン。

 

 

 誰かが扉を叩く音がする。

 

 

「……んん……?」

 

 

 扉がノックされ、アベルは目蓋を開いた。

 

 窓の外を見て見れば日は疾うに落ち、藍色の世界に彩られ星々が煌めいているのが見える。

 部屋の中はすっかり暗くなったものの、一階では先程と違うメンバーの話し声が聞こえ、明かりが階下から漏れるので部屋内部の見通しは然程悪くなかった。

 

 

『アベルさん、お食事をお持ちしました。開けても……宜しいですか?』

 

「っ、あっ、ど、どうぞ!」

 

 

 アリアの声が聞こえてアベルは上体を起こす。

 すると扉が開き、アリアがトレーに食事を載せて持って来てくれたのだった。

 

 トレーの上にはカンテラも載っていて、アリアをぼんやりと照らしている。

 

 

「お休みでしたか? 起こしてしまってごめんなさい」

 

「アリア……、さん……! いやっ、いいんだ。そろそろ起きようと思っていた所だからっ!」

 

「そうですか。あ、今灯りを点けますね」

 

 

 慌てるアベルとは対照的に、アリアはトレーを空いた隣のベッドに一旦置くと、天井から吊るされた火の消えている部屋の灯りにカンテラの火を移した。

 灯りに火が灯ると、途端部屋は明るくなり互いの顔がはっきり見える。

 

 

「…………あ、えと……」

 

 

 アベルは気まずくなり、後ろ頭を掻きながら俯いた。

 

 

「……お料理はここに住む皆さんで持ち回りして作っているんです。皆さん各地からいらっしゃっているので、色んな味が楽しめて美味しいですよ」

 

 

 アリアはそう云って、アベルの膝の上に食事トレーを載せた。

 トレーにはマッシュポテトと、豆と肉のトマト煮込み、丸パンが載っていた。どれも温めてくれたのか、湯気が立っている。

 

 

 ぐ~……きゅるるるる……。

 

 

 料理から漂う芳しい香りが鼻を擽ると、アベルの腹が思い出したかのように鳴った。

 

 

「ぁっ…………っ……」

 

 

 アベルは俯いたまま、腹を擦って耳を赤くする。

 

 

「あっ、ふふっ、丁度良かったみたいですね。どうぞお召し上がり下さい」

 

「…………ありがとう……」

 

 

 アベルはそっと顔を上げ、お礼を告げた。

 

 

「アベルさん、お肉多めに入れておきましたよ」

 

「えっ」

 

「ヘンリーさんもお肉をたくさん召し上がっていたので、アベルさんもそうかなって」

 

 

 アリアがそんな事を云うと、階下から……。

 

 

 

 

 

『あっ! お鍋に入ってたお肉がもうないっ! さっきまであったのにぃ!!』

 

『あら、あなたは昼間からつまみ食いしていっぱい食べていたでしょう? 私達はもうお食事を終えたのですからお部屋に戻りますよ』

 

 

 女の子とイモシスの声が聞こえたのだった。

 

 

 

 

「……ははっ、取っておいてくれたんだ。なんだかあの子に悪い事しちゃったかな?」

 

 

 アベルは一階の方へと視線をちらと投げてからアリアに話す。

 

 

「ふふっ。あの子お肉大好きなんです。育ち盛りですから、いっぱい食べて欲しいんですけど……。今日はアベルさんに早く良くなっていただきたいので特別です。では、私はこれで」

 

 

 アリアは軽く会釈して、部屋から出ようと踵を返した。

 

 

「あっ、まっ、待って……!」

 

「えっ、あ、はい?」

 

 

 アベルが咄嗟に呼び止めると、アリアは立ち止まって振り返る。

 

 

「……一人で食べるのは……、ちょっと……」

 

 

 がやがや、と。

 

 階下から楽し気な声が未だ聞こえて来る中、アベルは独りで淋しく食べたくなかったのだった。

 

 

「ぁ、…………では、少しだけ……。私はこちらで見ていますね」

 

 

 アリアはアベルの隣のベッドに腰掛け、アベルに笑顔を向ける。

 

 

「…………、…………うん」

 

 

 アリアが見守る中、アベルはスプーンを手に取りトマト煮込みを口に運ぶ。酸味の効いたスープに煮込まれた肉は柔らかく、ほろほろと口の中で解けていった。

 やや酸味が強い気もするが、疲れた身体に沁み込む美味しさは体力だけでなく気力を回復してくれる気がする。

 

 “おいしい……”とアベルはマッシュポテトも掬って食べる。

 

 多分、昼間イモシスが剥いていたあの芋なのだろう。

 程よい塩加減に、気分もほっこりした。

 

 

「……あ……。このパン……」

 

 

 丸パンを齧って、アベルは手を止める。

 

 

「あ、そのパン、今日のは私が担当なんです。お口に合いませんでしたか?」

 

「あ、いや……、違う。なんていうか……」

 

 

 アリアの作ったパンは懐かしい味がした。

 




シスターが食べる食事について、宗教的に肉はどうなのかと思ったのですが、調べた所、一部の宗教以外では比較的自由らしいとのことで、肉入れました。

感謝してお肉いただきます!

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読んでいただきありがとうございましたっ!

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