修道院の攻略(?)が思いの外長く……。
では、本編どぞー。
アリアの呪いは完全に解けていない。その所為で記憶は戻らないかもしれない。
そんなことをマザーに云われたにも拘わらず、アリアは穏やかに微笑んでいた。
「「っ……」」
何で笑うんだよ……!?
アリアの笑顔にアベルとヘンリーは眉間に皺を寄せる。
そんな中、マザーが「はぁー……」と何故か長い溜息を吐いた。
「アリアさん、あなたという子は……。……自由が一番……ですか?」
「……ふふっ、はい」
マザーが青色吐息でアリアに問うと、アリアは無邪気な笑顔を見せる。
アベルとヘンリーはわけがわからず、互いに顔を見合わせてからマザーとアリアの話の続きを待った。
「……騎士様がついているとはいえ……、あまり感心しませんよ」
「あ、はい、わかっています。けれど、私くらいしか外界に行くことが出来ませんし……足りないものとか……困りませんか?」
「我々は元々外界とは決別した世界に生きているのですよ? 衣・食・住、全て我々だけで賄うのが修道院の掟……。確かにあなたの土産物は有難く感じてはいますが……」
どうやら、アリアが修道院の外に出て何かしている話のようで、マザーはそれを辞めて欲しがっているようだ。
「わかっています。……けれど、私もいつまでもここに居るわけには行きませんし……」
「いつまでも居て構わないのですよ?」
「……そういうわけには……。あのこともありますし……」
アリアはチラッと、ヘンリーを見る。
ヘンリーは昼間事情を訊き出していたのか、「ああ、あれね」と合点がいったように頷いていた。
アベルも何となく、察して頷く。
「例の件ならお断わりの書簡をお出ししました。もしあれが認められないのならば、あなたを富豪の娘として船に乗せることも可能なのですよ?」
「……私は……、その……。どちらもお断わりしたいので……」
ごめんなさい、とアリアは頭を下げたのだった。
「……アリア……さんは、誰かに求婚された……とか……」
アベルは思い切って訊ねてみる。
「ええ……、さるお方より縁談を持ち掛けられたのですわ。けれど、その方は色を好むお方のようで……。いい話を聞きませんし、何人もの女性を娶っているそうですわ。そんな所にお嫁に行ったところで、アリアさんが幸せになれるとは思えませんの」
「……ええ、そうでしょうね」
マザーの話にアベルはヘンリーから聞いた通りだな、と相槌を打った。
「ですからきちんとお断わり致しました。修道院を代表して正式な文書を送りましたから受理されるはずです。修道院からの正式な文書はとても強いものですから余程のことがない限り問題ないでしょう。アリアさんは神の祝福を受けずとも、我らの仲間ですから……。……他の娘さん方もそうして差し上げられたら良いのですがさすがにそこまでは……」
「そうだったんですね……。それなら良かった……」
マザーが“アリアさんは大丈夫ですよ”と力強く笑みを向けてくれるので、アベルは安堵してほっと胸を撫でおろす。
「………………、……ふふっ、マザーのお陰で免れそうです。ありがとうございます」
アリアは目を細めてマザーにお礼を告げた。
少しだけ間があった気がしたが、気の所為なのだろうか。
そんなアリアの言葉にヘンリーは黙ったまま彼女をじっと見てから、今度はアベルに目を向ける。
「……何?」
「……別に?」
急に視線を向けられ首を傾げるアベルに、ヘンリーは頭を左右に振った。
「? 何だよ、ヘンリー……?」
何か問題でもあるのか……?
アベルがヘンリーに訊ねるが、彼は黙って何か思案し始めてしまった。
「これで、アリアさんの事情はお話しましたわ。何か質問はございますか?」
マザーは質問があればどうぞ、と水を向けてくれる。
アベルは待ってましたとばかり、疑問に思っていることをぶつけることにした。
「え、あ……。えと、……アリア、さんの名前ってどうやって判ったんですか……? あと、さっきマザーが言っていた“騎士様”って一体……? アリアさんは、外界に出て何を……?」
「まあまあ……、そんな矢継ぎ早に訊かれるとは思いませんでした。ええと……一つ目は、アリアさんのお名前……ですね。そうだわ。騎士様の事と一緒にご説明致しますわね」
アベルの質問にマザーは戸惑いながらも、優し気に微笑む。
「お願いします」
「……騎士様が仰るには、アリアさんを一番最初に見つけたのはその騎士様だったそうです。けれど、騎士様が少しアリアさんから離れている間に富豪のお方が彼女を見つけられて。騎士様はアリアさんの髪に付いていたリボンをこちらに届けて下さったのです。リボンにはアリアさん御髪が束でついておりまして……。戦闘中に髪を切られたそうなのです。そのリボンにお名前が書かれておりましたの。それでわかったというわけですわ」
「リボンに名前……? ………………あっ!」
アベルは声を上げた。
すると、アリアが机の引き出しから小さな箱を取り出し、開く。
中には懐かしい黄色いリボンが入っていて……、アリアはそれを手に取るとアベルに差し出す。
「これが、そのリボンです」
「…………、…………“アリア”」
アリアがビアンカからもらったリボンに僕が、書いた……。
ヘンリーとアリアと自分の三人で字の練習をした時に、アベルが書いてあげた小さな文字がリボンには記されていた。
「……そのお陰で、お名前だけは忘れずに済みましたね、アリアさん」
「はい、お陰で名前を呼ばれてしっくり来ましたし、文字は私の書いた字ではないので……、何だかこのリボンがとても大事なものな気がして。憶えてはいないんですけど……。もしかしたら誰かに頂いたものなのかな、と……。だから、これをくれた人にいつかお礼を言えたらなって……」
アリアはアベルの手元にあるリボンを嬉しそうに眺める。
「…………うん、……よかった……」
君の役に立てて、よかった……!
リボン自体は僕があげたわけじゃないけど……とアベルは胸がいっぱいになり、昔の自分を褒めてやりたくなった。
「で、その騎士様っていうのは?」
アベルが胸を満たしている間にヘンリーが話を戻す。
「え? あ、ふふっ、騎士様は騎士様です。とても頼りになる方で、北の町に行く際にはいつも駆け付けて下さるんです」
「っ! そ、そいつは……お、男……?」
バンッ! とアベルは急に立ち上がり机を叩く。
「っ!? へ……? あ、はい……、た、多分……???」
アリアは音に驚いて目を丸くした。
ヘンリーが「アベル、落ち着け」と腕を引いて座らせる。
「ふふふっ……。では、最後の質問のアリアさんが外界で何をしているかについてですが……、アリアさん?」
マザーはアベルの行動に目を細め、先程のアベルの質問に答えようとしたのだが、本人の口から聞いた方が早いだろうとアリアに引き継いだ。
「あ、はい。私、週に一度程、北の町でお仕事をしているんです」
「「えっ!?」」
アリアの意外な一言にアベルとヘンリーは驚きの声を上げた。
(そういや食堂で会った女の子が、アリアは時々仕事をしに北の町に行ってるって言っていたっけ……毎週だったのか……)
アベルはつまみ食い好き少女との会話を思い出す。
ヘンリーはアリアが仕事に行っていたことは知らなかったらしく、素で驚いていた。
「いつまでもここに居るわけにもいきませんし……、いざここから出ることになった時、先立つものがないというのは不安で……。それで、働かせていただいているんです」
「本当は辞めてもらいたいのですけれどね……」
いつまでもこちらに居て宜しいのに……と、マザーはアリアの頭を優しく撫でる。
「マザー大丈夫ですよ。結構、楽しいですから! お客様もお優しい方ばかりですし」
「……そんなこと言って……。その所為で求婚されたというのに……。……ふぅ」
アリアの言葉にマザーは諦観したように溜息を吐いた。
アベルの書いた名前が役に立ったね!
と、そろそろ旅に出ようぜ、マジで。
……あと二話終われば再び旅に出ます!
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