ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

酒は飲んでも呑まれるな。

では、本編どぞー。



第百二十六話 お酒の持ち込みは禁止です

 

「一体どんな仕事を……?」

 

 

 アベルは訊ねる。

 

 

「えっと……、接客です。お店に来られたお客様をご案内したり、お客様のお手伝いをしたり……ですね。お客様に喜んでいただけるので、やり甲斐はありますね」

 

「へ~……。店で働いてるんだ。どんな店?」

 

 

 ヘンリーも興味があるのか瞳を輝かせていた。

 ところが、

 

 

「えっと……、…………ふふっ。楽しいお店、ですよ?」

 

 

 アリアははぐらかすように満面の笑みを浮かべる。

 

 

「っ、な、なんだぁ? 教えてくれないのかい?」

 

「ふふっ……、ここではちょっと……」

 

 

 ヘンリーが“ちぇっ”と残念そうにする中、アリアはちらっと、マザーを見て「ふふふっ」と笑みを崩さなかった。

 

 

「もう……、アリアさんたら……。言えない仕事はしてはいけませんのよ?」

 

「わかっています。言えない仕事というわけでは……」

 

「…………もう……。そういう所が自由過ぎるのですよ……」

 

 

 マザーに諫められアリアはにこにこと「はい、申し訳ありません」と謝りながらも笑っている。

 

 

「またお土産を買って来ますから大目に見て下さい」

 

 

 アリアがマザーの手を取りきゅっと握ると、マザーは「仕方ありませんわね……」と渋々承諾していた。

 マザーとアリアの関係は母子関係に近いような気がする。

 

 

「……アリア……さんはすごいね。ちゃんと自分の足で歩いているんだね」

 

 

 僕が居なくても……、アリアは大丈夫だ。

 

 

 アベルはアリアがきちんと人生を歩んでいることが嬉しくて、彼女を褒める。

 この先共に居られなくても心配しなくていいのだ、と安心出来たと同時、

 

 

(……少し、淋しいかな。)

 

 

 アベルは物寂しさを感じたのだった。

 

 

「アベルさん……。そんな……、私まだまだで……」

 

 

 アリアは謙遜していたが昔のような怯えた様子など微塵も感じられず、彼女も大人になったんだ、とアベルは感じた。

 アリアはそもそも精神は大人だったわけだが、アベルはそんなこと知らないのである。

 

 

「さあそれでは、アリアさんのことは全てお話致しましたし、そろそろお開きにしましょうか。お二人は明日、旅立たれるのでしょう?」

 

 

 マザーが立ち上がると、アリアも頷き立ち上がる。

 ヘンリーも頷き椅子から離れた。

 

 

 が、アベルだけは違った。

 

 

「あ……、マザー!」

 

 

 アベルは挙手して、マザーを引き留める。

 

 

「はい……?」

 

「もう一つ。もう一つだけ質問が……!」

 

「はい、何でしょう?」

 

 

 マザーは首を傾げて優し気にアベルを見下ろした。

 

 

「……アリア、さんの他に……、近くに……、誰か大人の男性は……倒れてはいませんでしたか?」

 

 

 アリアが生きているなら、父さんも生きている可能性が……!?

 

 

 簡単に期待はしないと決めてはいたが、アベルは爪の先程の小さい希望くらいは抱いてもいいんじゃないかとマザーに訊ねてみる。

 

 しかし、

 

 

「大人の男性……、ですか? …………いえ、伺ったことはございませんわ……。それが何か……」

 

 

 マザーの答えは思った通りだった。

 

 

「…………そ、そう……ですか……。…………」

 

 

 ……はは。

 やっぱり……。

 

 

 わかっていたとはいえ、少し辛いなとアベルは胸元を押える。

 やはり父は救えなかったんだと、胸の痛みに顔を顰めた。

 

 

「……アベル、さん……?」

 

 

 アベルの様子にアリアは眉尻を下げる。

 

 

「……アリアさん、こいつの親父さんはさ……」

 

 

 ヘンリーは修道院の人達にパパスが魔物の所為で死んだことは伝えているが、そこにアリアも一緒だったことは伝えてはいなかった。

 自分達の事情をマザーに話した時点では、まさかアリアが生きているとは思わなかったからだ。

 

 そもそもヘンリーは、アリアの存在自体が夢だったんじゃないかと思い込みたいくらい、アリアの翼が引き千切られた鮮烈な光景を忘れられないわけで、ある種トラウマのようなものに囚われているのである。

 幼い頃求婚しておいて、自分の所為で死に追いやってしまった負い目もあり、口に出したくもなかったのである。

 

 結果、生きていたわけだが、記憶喪失の彼女にそれを伝えるのは酷かなと、黙っていた。

 

 それを今、説明しようと思ったのだが……、

 

 

「ヘンリー。……いいんだ。アリア……さんに云う程のことじゃない」

 

 

 アベルはヘンリーを制止するように腕を彼の前に持って来る。

 

 

「…………そうか?」

 

「ああ」

 

 

 ヘンリーは父さんの死しか話していないのかな……?

 アリアの事は……、

 

 “友達も巻き込んで……”

 

 なんて……、まあ、言えないか……。

 

 

 

 

 父さん……。

 

 

 

 

 記憶のないアリアに訊いても、混乱させるだけだとアベルは頷くと黙り込んだ。

 アベルが頷くと、ヘンリーもそれ以上何も言わない。

 何故かはわからないが、ヘンリーはどこか ほっとしたような顔をしていた。

 

 アベルとヘンリーが黙り込むと、急に部屋の空気が重くなってしまう。

 

 

 すると、

 

 

「…………。そろそろ私は休ませていただきますわね」

 

 

 動こうとしないアベルにマザーが口を開いた。

 

 

「あっ、オレも!」

 

 

 ヘンリーも便乗し、二人は部屋から出て行ったのだった。

 

 

「あっ、マザー!? ヘンリーさんも!?」

 

 

 アリアは一人残され、アベルと二人きりになってしまう。

 

 

「………………」

 

 

 アベルは黙り込んだまま、難しい顔をしていた。

 

 

「…………っ、あの……、アベルさん……」

 

「…………ん? あ……、アリア……さんも寝ないのかい? 僕はもう少しここに一人で居るよ……」

 

「えと……、私、今このお部屋で寝ていて……」

 

「えっ」

 

 

 アリアが背後にあるベッドを指差すと、アベルもそこに視線を向ける。

 

 

「…………でも、良かったら……、もう少しお付き合いしましょうか?」

 

「へ?」

 

「……アベルさん、何か思い詰めたようなお顔なさってるから……。あっ、話すのが嫌なら……。…………ふふっ、ちょっと待ってて下さいね」

 

 

 アリアはそう云うと、ベッドに向かいベッド下の木箱から袋を取り出した。

 

 

「…………ん?」

 

 

 何だろうと、アベルが首を傾げていると、アリアが戻って来る。

 

 

「はい、ナイショですよ?」

 

 

 アリアは手に何か握っているのかそれを差し出し、アベルに手を出すよう要求する。

 

 

「え……、これは……?」

 

 

 アベルが手を差し出すと、手の平に小さな丸い紙包みが置かれた。

 

 

「ここ、修道院なのでお酒を持ち込んではいけないんです。多分これもダメだと思いますが、落ち込んだ時くらい神様はお許し下さると思うんです。だから食べてみてください」

 

「え、食べ……?」

 

 

 カサッと丸い包み紙を開くと、粉に覆われたゼリーのような丸い菓子が入っていた。

 色は紫で、薄暗いからはっきりとはわからないが、アリアの瞳の色に似ている気がした。

 

 アベルは言われるままにそれを口にする。

 

 

 ぱくっ。

 

 

「…………甘ぃ……、っ、これ……???」

 

 

 アベルの口の中に葡萄の甘味と酸味が広がり、そして未知の風味が広がった。

 

 

「はい、お酒入りのお菓子です。落ち込んだ時にお酒をすこーしだけ、飲むと元気になるそうですよ?」

 

 

 アリアは親指と人差し指の腹を合わせ、目の近くに持って来て測るようにすると、「すこーしだけですよ。飲み過ぎは身体を壊しますからね」と念を押す。

 

 

「っ……そっ、そっかぁ……、おいしいね……これ……、もっと食べたいくらいだぁ~……」

 

 

 あれぇ……?

 何だっけ……。

 

 

 何か、ふわふわするぅ~……!

 

 

 アベルは菓子を一つ食べただけで身体が熱くなり、酔ったのか眩暈(めまい)を覚える。

 アベルの身体がぐらぐらと前後に揺れた。

 

 

「あっ、アベルさんっ!!?? うそ……っ、一粒でこんなに酔っ……!?」

 

 

 アリアは慌ててアベルの肩を支えるが、アベルは脱力してそのままアリアの方へと倒れ込んでいくのだった。

 




アリアは記憶を失くしても自由なのです。
結構逞しいですよね。

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読んでいただきありがとうございましたっ!

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