ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

漸く修道院を後にします。長かったわー。

では、本編どぞ。



第百二十八話 旅立ちの時

 

 アベルとヘンリーは食事を終えて、旅支度を整える。

 ヘンリーは特に何も持ち物がないので、黙って先に部屋を出て行ってしまった。

 

 

「……アリア……」

 

 

 アベルは先程パンを包んだハンカチを見下ろしていた。

 端っこに“アヘル”とアリアの書いた名前が刻まれている。

 

 

 このまま、僕は行くよ。

 アリア、君はここで幸せに暮らしてね。

 

 

 アベルはパンは後で食べようと、それを【ふくろ】にしまった。

 【ふくろ】を服に取り付け、武器を装備すると客室を出る。

 

 昨日のことをアリアに謝る機会は得られなかったが、アベルはそれで良かった気がした。

 

 

 嫌われたなら、しょうがない。

 自分に関われば、また辛い目に合わせてしまうかもしれないし、昔のように無邪気に“旅に出よう!”なんて言えない。

 アリアに依存してはいけない……と、アベルは気付いていたのだった。

 

 

 そもそも、僕の事情に君を巻き込むのは間違っていたんだなぁ……。

 

 

「……最後に一目見たかったけど……居ないみたいだな……」

 

 

 二階から一階を見下ろすが、アリアの姿は見えない。

 きっとどこかで掃除か何かしているんだろうと、少し淋しさを感じつつ、アベルは修道院の外扉を開けた。

 

 

「……あ、ヘンリー」

 

 

 修道院を出ると、ヘンリーが修道院の門口の前に立っている。

 

 

「さっきは黙って出てきちゃって悪かったなアベル。マリアさんてドレイの時は気付かなかったけど、キレイな人だよな~。ここでずっと暮らすなんてもったいないよ。まあ兄さんはまだあの神殿だろうし、他に身よりもないらしいからな……」

 

「あ、マリアさんの所に行ってたんだね」

 

 

 アベルがヘンリーに訊ねると、ヘンリーは照れ臭そうに鼻の下を擦っていた。

 

 

「さあてと……。これからどうするかなあ……。出掛ける時は声を掛けてくれよ!」

 

「ああ……、うん、そろそろ行こうかなって」

 

「いよいよ旅に出るのか?」

 

 

 “アリアに挨拶はしてきたのか? まだなら、行ってこい!”

 

 

 とヘンリーはアベル身体を反転させ、背を押す。

 

 

「っ、ヘンリー! アリアは中に居なかったんだ! それに挨拶ったって……」

 

 

 アベルは肩越しにヘンリーに告げる。

 

 

「そうか……。……しかし、本当に生きてここまで流れ着くなんてオレ達運がいいよな。オレさ……、タルの中でもうダメかもって思った時、鐘の音を聞いたような気がしたんだ。すごく落ち着く音色でさ。あれって、この修道院の鐘の音だったのかもしれないな。アリアにも会えたし、良かったよ……」

 

「……ヘンリー……」

 

 

 ヘンリーの腕の力が抜けてアベルが振り返ると、ヘンリーは、

 

 

「……うっ、ぅぅ……。本当、生きててくれて良かったよなぁ……っ!!」

 

 

 腕で目を覆って口を歪ませ男泣きしていた。

 

 

「……ああ。本当に……」

 

「っ……、ただ、まぁ……記憶がないのがオレ的にはショックだったけどな……」

 

 

 マリアさんという素敵な人を見つけたから、アリアはお前にくれてやる。

 ……感謝しろよなっ!

 

 

 ヘンリーは口には出さなかったが、アリアをアベルに譲ることにしたらしい。

 

 

「はは……、しょうがないよ。……むしろあれは思い出せない方がいいんじゃないかな……」

 

 

 アベルの言葉で、アリアの翼がもがれた様子が二人の脳裏に浮かぶ。

 今でも頭の奥、微かにこびり付くアリアの大絶叫……。

 

 

 ……痛々しい。

 

 

「……お前、アリアに挨拶しなくて後悔しないのか?」

 

「……それは……。…………するかもしれないけどさ……。彼女がここで平和に暮らせるならいいかなって。……僕は母さんを捜さないと……」

 

 

 ヘンリーがアベルの肩に手を置いて訊ねると、アベルは瞳を移ろわせ……、それでも最後には力強く頷いた。

 

 

「そうだよな。お前には母親をさがすっていう目的があったもんな。なあ、どうだろうか? その旅にオレもつき合わせてくれないか?」

 

「え? あ、ああ」

 

 

 アベルはヘンリーに云われるまま頷く。

 すると、

 

 

「よし、そうと決まったら、さっそく旅に出よう! 今出掛けるって言ってくるから、お前はここで待っていろよ!」

 

 

 ヘンリーは修道院に入って行き、すぐにマリアとマザー、昨日アベルを激励しくれたシスターの三人を引き連れ修道院から出てきたのだった。

 女性三人は扉の前に立ち、アベルにそれぞれ一言あるのか「では私がお先に……」とシスターがマザーとマリアに断りを入れてから一歩前に出る。

 

 

「やはり、行ってしまうのですね。なんでも母をさがす旅とか。北にある大きな町でなら、何かが分かるかもしれませんね。どうか、お気をつけて」

 

 

 シスターはアベルの手をぎゅっと握り締め、慈愛の微笑みを向けると後ろに下がる。

 次にマリアがマザーに背をそっと押され前に出てきて、

 

 

「本当にいろいろありがとうございました。私はここに残り、多くのドレイの皆さんのために毎日祈ることにしました。そしてアベルさんがお母さまに会えるようにも……。どうか、お気を付けて下さい」

 

 

 深々と頭を下げてから、祈るように手を組み合わせるとアベルを見つめてから元の位置に戻った。

 最後にマザーが前に歩み出ると、彼女は穏やかに微笑む。

 

 

「アベル、あなたはもう大人です。これからは、自分の道を自分で見つけなくてはならないでしょう。しかし、神さまが見守っていてくださることを忘れずに……。アベルの旅に神のご加護のあらんことを」

 

 

 マザーはアベルに神の加護を賜るよう、右手に持つ杖に祈りを込めた。

 そうして三人の女性に温かな言葉を貰い別れを済ませると……、

 

 

「さあて、行こうぜ!」

 

「……ああ!」

 

 

 ヘンリーの掛け声と共に修道院を後にする。

 

 

 

 アリア……。

 どうか、元気で。

 

 いつかまたここに立ち寄った時にでも、笑顔を見せてくれたら……うれしいな。

 

 

 

 アベルは当分会えなくなる“友(?)”との挨拶も無しの別れに、淋しさを感じながら修道院の金属製の柵沿いを歩いて北の町を目指すことにした。

 

 

「アリアも綺麗だったけど、マリアさん綺麗だったよなぁ……。あんなに優しくて綺麗な女の人っているんだな……」

 

 

 ふとヘンリーが呟く。

 マリアと別れる時目が赤かった気がしたが、もう平気のようだ。

 

 

「……優しい女の人か……、そういえばもう一人いたなぁ……」

 

「なんだよ」

 

「僕にはもう一人幼馴染がいるんだよ」

 

「え? アベルには幼なじみがいる? ちえっ、いいなあ。いつかオレにも紹介してくれよ。きっとだぞ!」

 

 

 アベルが宙を見上げて口にすると、ヘンリーが食い気味にマントを掴んで来る。

 

 

「ははは……そんな眼の色変えなくても……」

 

「お前ばっかりずるいぞっ!!」

 

 

 そんな話をしつつ修道院脇を歩いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……のだった、が。

 

 

 

 

 

 

 

 ――……それは修道院沿いを歩いて、裏手に差し掛かった時だった。

 

 

「いやぁ~、修道院は女の人ばっかでドキドキしたな……って……、えぇ……っ!!?? ま、マジかよ……」

 

 

 突然、前を歩くヘンリーが立ち止まり、アベルは彼にぶつかってしまう。

 

 

「ブッ! ヘンリー! 急に止まらないでおくれよ……!」

 

 

 鼻をぶつけたじゃないか! と、アベルは抗議しようとしたのだが……。

 

 

「…………あ、アベル、アレ……」

 

 

 ヘンリーが信じられないものでも見たような顔で、修道院の裏手を指差していた。

 

 

「え……? …………えっ!!??」

 

 

 アベルは目を見開く。

 そこには、先程見つからなかった会いたかった人物と、魔物……。

 

 アリアと【スライムナイト】が修道院の外で、対峙しているではないか。

 睨み合っているようだ。

 

 

「っ、アリアっ……!!」

 

 

 何故修道院の外にアリアが出ているのかはさておき、アベルは居ても立っても居られず、武器を手に走り出す。

 

 

「あっ、おい、アベル!?(アリアには黙って行くって言ってなかったっけ!?)」

 

 

 ヘンリーもアベルの後を追い掛けたのだった。

 




おかしいな。スライムナイトは修道院辺りには出現しないのですがっ。

▼現時点での装備品
アベルの武器:チェーンクロス
ヘンリーの武器:ブロンズナイフ

防具はどうしましょうね。
さっくりでいいかな。

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感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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