オラクルベリーにやって来ましたヨ!
では、本編どぞっ。
第百三十話 北の町オラクルベリー
アベル達四人は修道院から北上し、ピエールとアリアの案内のもと壁に囲まれた北の町、オラクルベリーへと到着した。
町に一歩足を踏み入れると、至る所に店々がひしめき、多くの人々が行き交っている様子がうかがえる。
中でも目を引くのが、入口から伸びるメインストリート先にある、町のどの建築物よりも大きく派手な建物だ。
屋根や柱など、建物のそこかしこに金があしらわれており、その建物の周りを水路が囲み、入口近くでは噴水が噴き出していた。
玄関前には赤絨毯が敷かれ、金の装飾を施された大理石の白い飾り柱が配置されている。
玄関扉も金の装飾で彩られ、その手前には戦士の像二体が客を出迎えていた。
「……あの建物は……?」
「何か派手な建物だなあ」
「あそこですか? あれはカジノですよ」
アベルとヘンリーが遠目で呟くと、アリアが教えてくれる。
その建物にはでかでかと“CASINO”と大きな看板にカラフルな文字で書いてあったが、文字というわけではなく記号のようで、アベルには読めなかった。
アリアが記憶を取り戻していたら驚いたに違いない。
そんな今まで寄ったどこの町や村よりも大きな都に入ると、アベルは“ほぅ……”と感嘆の溜息を吐いたのだった。
「はぁ~、賑やかな町だなあ。なんだかオレ見てるだけでクラクラしてきちゃったよ」
ヘンリーが辺りをキョロキョロしながら、目を瞬かせると、アベルも同様に町の賑やかさにしばし目を奪われてしまった。
そんなアベル達に、側を歩くマッチョな黄色いマスク姿の男が近づいて来る。
「ここは誰もが夢を抱きやって来る、オラクルベリーの都だ」
「オラクルベリー……」
マスク男に「どこの田舎から来たのかは知らんが、まあ、頑張れよ」と町を眺めていたアベルは肩を叩かれる。おのぼりさんに見られたようだ。
「あっ、私お仕事に行くので、ここで失礼します。ヘンリーさん達はどちらへ?」
「え?」
アリアがヘンリーに声を掛けると、ヘンリーは“え? オレ?”と自分に話し掛けられたのが意外だったのか自身を指差していた。
そういえば、ピエールと共に行動し始めてから、アリアはアベルに一度も話し掛けていない。
「…………っ(やっぱり嫌われてる……)」
こんなことなら早く謝っておけば良かった……。
一緒にここまで来たものの、謝るタイミングを逃してしまい今に至るわけで……、アベルはヘンリーに笑顔で話し掛けるアリアを切なそうに見つめた。
そんな時、ピエールがアベルのマントを引っ張る。
「……主殿、主殿!」
「……ん? 何だい、ピエール?」
「私はアリア嬢を職場まで送って来る故、暫し別行動をさせて頂く」
申し訳ない、とピエールは頭を下げた。
「あ、ああ……」
職場って一体どこなんだろう……。
いや、それよりピエールだよ……!
アベルはアリアのことが気にはなったが、そんなことよりピエールと再会した時に聞いた彼の言動が気になっていた。
“主殿ではないかっ!! 私だ! ピエールだよ!!”
“わははははっ! このような場所で主殿と再び相見えようとは!!”
“……主殿、私こそ主殿に問いたい。主殿は、
僕は、
確認したいことが幾つかあるが、皆の手前訊き難くてアベルは機会を窺っていたのだった。
「主殿、私に訊ねたいことが色々とございましょう。町を一通り散策し終えたらモンスターじいさん殿の所で落ち合いましょう。もし会えなければ言付をしておきます」
「モンスターじいさん?」
アベルは首を傾げる。
「憶えておりませんか?」
「あ……えっと……?」
アベルはうーんと、頭を捻って記憶を探る。
何となく……、わかる……ような。
「はははっ、なるほど! 大丈夫! 町を歩いていればその内行き当たりましょう! では!」
そう云って、ピエールがアリアの傍へと向かうと、アリアもヘンリーと話し終えたのか彼を笑顔で迎えていた。
「……いいなぁ……」
その笑顔を僕に向けてくれたらいいんだけど……。
ぼそっと、無意識にアベルの口から零れる。
そうしてピエールとアリアはアベルとヘンリーに会釈して去って行った。
「……ピエールって、魔物なのに町に入ってオッケーなんだな」
「…………、彼は……善なる魔物だからね。見た目も人間に近いし……」
ヘンリーがアベルの元に戻って来る。
とりあえず歩こうかと、二人は町の東へと歩き始めたのだった。
「……彼女とどんな話をしてたんだい?」
「ん? えー……。ちょっとな」
武器屋の前を通り過ぎ歩きながらアベルが訊ねると、ヘンリーは顎に手を当ててニヤニヤと口を歪ませるだけで話してくれない。
「…………何だよ、教えてくれたっていいだろ?」
アベルはブスッとヘンリーを軽く睨み付けた。
「そんなことより、オレ服を買いたいんだが」
防具屋を探そうぜ! とヘンリーの足が速くなり、突き当りの角をさっさと曲がってしまう。
「ちょっ、ヘンリー!!」
何で教えてくれないんだ!?
教えてくれたっていいじゃないか!
アベルはヘンリーがアリアと何を話していたのか気になって仕方なかったが、ヘンリーが町で迷子になったら大変だと追い掛けたのだった。
「あ、ここって、先生が言ってた酒場ってやつだろ? 行ってみようぜ!」
「え?」
ヘンリーに追い付くと、目の前に“BAR”と書かれた看板が掲げられた店が目に入り、ヘンリーはアベルが追い付くなり店の中へと入って行った(ちなみ“先生”とは
◇
「いらっしゃい」
「へ~……。酒場ってこんな感じなんだな。オレ、城から出たことなかったから知らなかったなぁ。ここで酒が飲めるんだな」
酒場に入ると、店内は昼間ということもあって客は誰も居らず、マスターが独り夜の仕込みを行っていた。
ヘンリーは店内を見渡しカウンタ―奥の棚の酒や、置かれた酒タルの山を見て「あれが酒かぁ……、飲んでみたいもんだな」と興味津々に眺めている。
すると、
「なんか飲むかい?」
酒場のマスターが、突っ立ったまま動かず店内を眺めるアベルとヘンリーに声を掛けて来た。
「あ、いや……僕は……」
お酒は……、今は駄目だ。
昨日のことを思い出してしまう……!
アベルは昨日の失態を思い出し頭を左右に振るのだが、ヘンリーは違ったようで……。
「オレ達酒飲んだことないんだよ」
「え? 酒を知らないだって? へえ、その歳でねえ……。よくはわからないけど、随分と淋しい所から来たんだねえ」
「そうなんだよ……本当、さみしいっつーか……、なんつーか……」
ヘンリーは酒飲んでみたいな~と席に着いて、棚の酒を見ている。
「ははは、そうか。一杯ご馳走するよ。初めてなら軽めの水割りでいいかな?」
ヘンリーの物欲しそうなキラキラした瞳にマスターが笑って、水割りを作るとカウンタ―テーブルに出来上がったグラスを二つ置いた。
「マジっ!? マスター太っ腹だなっ! アベルっ、ご馳走になろうぜ!」
「次に来た時は高い酒を注文してくれよな」
「任せてくれ! アベル、飲もうぜ!」
ヘンリーはアベルに隣に座るように促し、グラスを手に取ると軽く掲げる。
「……酒はちょっと……」
「ああん? 親分が飲めって言ってるんだぞ? ほら、座れよ」
「…………、……しょうがないな……」
アベルはやんわり断ったのだが、ヘンリーが勧めるので仕方なく席に着いた。
そうして、二人は『祝! 脱・奴隷生活!』とグラスを互いに傾け鳴らし合わせると、初めての酒を咽喉に流し込む。
「っ、かぁ~~~!! これが酒っ!! 胃がかーってして身体がポカポカしてきた!」
「…………あ、うん(昨日食べた菓子よりは軽いかな……)」
ヘンリーが酒を一気に飲み干すと、ほんのり顔が赤くなる。
アベルは一口飲んで、昨日アリアにもらった酒入り菓子よりはアルコールはきつくないなとほっとするのだった。
これなら、多少飲んでも昨日みたいに酔っぱらうことはなさそうだな……。
そんなアベルとヘンリーの様子を、酒場のマスターはグラスを磨きながら微笑ましく見ていた。
アリアの事もピエールの事も気になるアベル君。
とりま町中を散策しましょうってことで。
昼間っから飲むのはいかがなものか……絶対美味いよね!
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