モンスターじいさんに会いに来たヨ。
では、本編どぞー。
「こんにちは。こちらにピエールというスライムナイトが来ませんでしたか?」
「待っておったよ。お前さん……まあ、先ずはわしの話を聞いていけ」
アベルがテーブルに近付き、老人に話し掛けると老人はテーブルの上によじ登り興奮気味でアベルの肩に手を置いた。
テーブルの上に立つと、アベルより若干老人の方が背が高くなる。
「え? あ、はあ……」
「わしが有名なモンスターじいさんじゃ」
老人こと、モンスターじいさんはニヨニヨしながら自己紹介をすると、アベルを窺う。
アベルは急に距離を詰められ圧を感じ首を傾げた。
「あ、ええと……?」
「なに? わしを知らん? まあよい。ふむ……。おぬしはなかなかよい目をしておるな。しかも不思議な目じゃ。もしかするとおぬしならモンスターですら改心させ、仲間にできるかも知れんの」
モンスターじいさんはアベルの瞳をじっと見つめてそう云うと、今度はぴょんとテーブルから飛び降りて椅子に腰かける。
「なに? それにはどうしたらいいかじゃと? よろしい。教えてしんぜよう。まず馬車を手に入れることじゃ! そして……憎む心ではなく、愛をもってモンスターたちと戦うのじゃ。そのおぬしの心が通じたとき、モンスターはむこうから仲間にしてくれと言ってくるじゃろう」
アベルは特に何も声を発していなかったのだが、モンスターじいさんは目力を強めたまま脚を組み腕も組んで、独りで興奮気味にうんうん頷き、
いいか、愛じゃ。愛が全てなのじゃ!
とかアベルを見上げながら云っている。
そして、話を続けた。
「もっとも彼らは自分より強い者しか尊敬しないから、仲間になりたいと言うのはこっちが勝った後じゃがな。どうじゃ、分かったかな?」
「……あ、はい」
“分かったかな?”の所で、モンスターじいさんがアベルにニカッと笑い掛けるので、アベルはモンスターじいさんの勢いに呑まれ了承してしまう。
アベルの後ろでヘンリーが“変なじいさんだなー”と思いながら適当に辺りを見回し話を聞いていた。
興味がないようだ。
「よろしい! おぬしならきっと多くのモンスターを仲間にできるはずじゃ! 馬車があればより多くのモンスターを連れて歩けるが、それでも限度はある。そのときはわしの所へ来ればいい。仲間モンスターの面倒を見てあげるぞい」
モンスターじいさんは一通り話し終え、すっきりしたのか目力を緩めて“ほぅ……”と何かを夢想し始める。
先ずはスライムじゃろ……、ブラウニーに……、ドラゴンキッズ……。
早く送られて来ないかな~……楽しみじゃなあ……。
どうやらモンスターじいさんの中では既にどんなモンスターを仲間にするのか決まっているようだ。
「あの……、ピエールが来ませんでしたか……?」
アベルはそろそろ本題に入ってもいいかなと、挙手してモンスターじいさんに訊ねる。
「何? ピエールだと? あのスライムナイトのことか……。さっきまで居たんじゃがな……、そういえばイナッツに何か伝えておったな」
「イナッツ?」
「その奥にいるバニーちゃんのことじゃ。用があるなら訊いてみるといい」
「バ、バニーちゃん……」
モンスターじいさんが奥の鉄格子の前に立つバニーガールを指差した。
アベルはじゃあ訊いてみますとイナッツの方へと向かう。
バニーガール……。
肩出しのバニースーツに網タイツ、うさ耳のヘアバンドにお尻にはウサ尻尾付き。
女性のなだらかな曲線美を強調するその格好は、今のアベルとヘンリーには刺激が強過ぎた。
何故こんな所にバニーガールが?
そうは思ったものの、アベルはほんのりと頬を赤く染め彼女に話し掛ける。
「……っあの」
「私は助手のイナッツよ。いいこと教えてあげる。モンスターに言うことをきかせたかったら育てて賢さを上げることね。賢さが20以上になったらちゃんと命令通りに戦ってくれるはずよ。それまで弱い内は馬車の中に入れておいてあげればいいんじゃないかしら」
アベルが声を掛けると、イナッツがモンスターの賢さについて語り出す。
(いや、そんなこと訊いてないし、賢さが20以上って何だ……?)
アベルは突然出てきた数字に面食らう。
【かしこさのたね】があるのは知っているが、そんなもの数値化されていただろうか……?
賢さは確かに上がるが、数値などは目に見えたことなどないのだけど……。
それに、皆が皆じゃないけど、僕が話し掛けると先に訊いてもいないことを話すのは何故なんだ……?
アベルは少し疑問に思ったが、仲間モンスターが言うことをきかない時は賢さを上げればいいんだなということだけ心に留めておくことにした。
「え? あ、はい。わかりました。その……、さっきピエールがこちらに伺ったと思うんですけど……」
「ええ、ピエールさんから伝言を
「カジノに……?」
「以前は、昼間はここでおじいさんとお茶してたんだけど、最近物騒だから心配なのかもしれないわね」
そうですか……。
アベルは伝言を聞いてヘンリーと共にモンスターじいさんの元を後にした。
◇
モンスターじいさん達と別れ、階段を上がるとアベルとヘンリーは首を傾げる。
「……何でカジノに?」
「さあ……。アリアはカジノで働いてるのかな……?」
「あー、そういうことか。……夜かー……。まだ日も高いし、日が暮れるまでもうちょい町を歩いてみるか?」
「そうだね」
降り注ぐ陽の光の下、二人はそのまま町の西壁沿いを歩くが、すぐ裏に見慣れない看板を見つけ、店なのだろうと足を踏み入れる。
そこは銀行だった。
「愛と信頼のゴールド銀行へようこそ。皆様の大切なお金を魔物などからお守りします。お預かりもお引き出しも1000ゴールド単位で承ります。もちろん手数料などは一切いただきません! アベルさまはどんなご用でしょう?」
「……ここは銀行かぁ……。あ、今日は特に用はないです」
何故、名乗っていないのにアベルの名を知っているのかはわからないが、銀行では
銀行ネットワーク魔法とでもいうのだろうか、世界の各地に支店が存在している。
個人情報、個人資産はどんなことがあろうとも預けていれば守られる、そう。
例え世界が崩壊しても。
どうやってそんな強固な護りを固めているのかは企業秘密……らしい。
それを訊きに銀行へと潜入し、生きて帰った者は誰も居ない……という噂だ。
「現在アベルさまからのお預かり金はございません。またのご利用お待ちしております」
銀行員に丁寧にお辞儀され見送られると、アベルとヘンリーは銀行を後にした。
「なるほどな、ここは銀行だったってーわけだ。よし、覚えたぞ! 次はあっちの通路に行ってみないか?」
ヘンリーが銀行の看板を見て記憶し再び西の壁沿いを歩いて行くと、ゲートが見えてくる。
そのゲートの奥には通路が続いているが、ゲート横の壁には張り紙が貼られていた。
“掘り出し物なら当店へ! いつもニコニコ、オラクル屋”
張り紙にはそう書かれている。
「オラクル屋……だってさ、何の店なんだろうな。この先通路が入り組んでるみたいだけど……行ってみるか?」
「あ、うん。そうだね」
アベルはヘンリーに同意し、ゲートを潜って奥の通路を進んだ。
すると二人の行く先に戦士の男が一人、通路をうろうろしている。
「あっ、あのおっちゃんなら何か知ってるかもな。すいませ~ん!」
ヘンリーは通路をうろつく戦士に話し掛けた。
「珍しい物を売っている店があると聞いて来たのだが、昼間はやっていないらしいな」
「へえ……、ってことは夜しか開いてないってことか……」
「ああ、私もそろそろ町の外にでも出ようかと思っていたところだ」
「そうだな。町の外に出ないとだな」
戦士がオラクル屋について説明してくれたのだが、ヘンリーと謎の会話を繰り広げるので、アベルは頭を捻りながら聞いていた。
(町の外に出ないといけない……?)
どういうことなんだろう……? とアベルの頭の中に疑問符ばかりが湧き出る。
その内に、戦士の男は“じゃっ”と手を挙げて去って行った。
「珍しい物を売ってて夜しか開いてない店……? これはひょっとすると、ムフフなものが手に入るのか? 夜になったら行ってみようぜ!」
「え? あ、ああ……」
ヘンリーが何やら目を細めてニヤニヤと口角を上げる。
ムフフなものって何だ……?
“町の外に出ないといけない”という言葉の他に、こっちも気になってしまったアベルだった。
イナッツさん謎なんですけど…。
何で助手がバニー…。
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