タンスがあったら開けちゃうよね。
ツボがあったら壊すよね。
では、本編どぞ。
「あっ、いや、無事ならいいんです」
「そうそう。お姉さん達! くれぐれも“すぐ食べて”なんて言われて食べないようになっ!」
アベルとヘンリーは女性達に注意する。
「ふふっ、お兄さん達優しいのね。女の子達に注意して回っているの?」
「まあ、そんな所かな」
女性の一人が訊ねるとヘンリーがアベルの代わりに答えていた。
ヘンリーの顔は女性達と話が出来て嬉しいのか、ニヤニヤと、とても嬉しそうに見える。
「そうなのね。それじゃあここに働いてる女の子達にも言っておくわ。でも多分みんな知ってると思うけどね」
「そうなんですか?」
「ええ。先週だったかな……。カジノで働く女の子がそのお菓子を貰ったんだけど、口にしなかったの。そしたらそれをくれた男の人が怒っちゃって。けど、護衛の方が間に入ってくれて何とか収まったのよ」
アベルが目を瞬かせると、女性はドレッサーに置いた水差しからコップに水を入れ、口に含んだ。
その護衛って……、もしかして……?
アベルはふとピエールが浮かんだが、確信は持てないので話の続きを待つ。
「その少し前から町の女性が行方不明になってはいたんだけど……。その時はまさかそのお菓子が原因だなんて知らなかったからみんなびっくりしちゃって。それで、カジノで働く娘達は食べ物の差し入れは男性スタッフを通してからって、ルールになったのよ」
「へえ……。なら安心だな」
女性の話にヘンリーが“良かった良かった”と頷くのだが、
「ふふっ、でも、女の子達も店の中ではルールで縛られてるけど、退勤後は忘れちゃう娘もいるから注意喚起は必要かもしれないわね」
「忘れちゃうって……何故……」
女性が妙なことを言うので、アベルは首を傾げた。
「だって、そのお菓子をくれた人、中々のいい男に見えたのよ。身体も大きくて、引き締まっていて、顔も端正で。いい身形をしていたわ。私だったら喜んでいただいていたかもしれないわね」
「……一体どんな奴なんだ?」
カジノ裏に居た踊り子見習いの女性は気が弱そうな人って言ってたような……?
女性が宙を見上げてうっとりとしている様に、ヘンリーも気になって訊ねる。
「そうねぇ……、私は遠目だったからはっきりとはわからないけれど……。その娘に聞いてみればいいんじゃないかしら? 今日丁度出勤しているはずよ。アリアちゃんていう綺麗な娘」
「「っ……!!??」」
アベルとヘンリーは顔を見合わせる。
アリアっ!?
菓子を貰った女性……薄々感じてはいたが、やっぱりアリアだったのか! と確信に変わり、二人はアリアに会ったら訊ねようと頷き合った。
それからすぐに女性は“そろそろ準備しなきゃ”と化粧の続きを始めてしまうので、話は終わりを告げる。
残りの二人もパタパタと頬をパフで叩いていた。
白い粉とファンデーション特有の香りが辺りに充満するので、アベルとヘンリーは鼻がむず痒くなった気がしてそこから離れることにする。
「……やっぱりアリアだったか……」
まあ、大体話が訊けたからいいか。と、彼女達の背後でヘンリーが呟いた。
「ヘンリーも気付いてた……?」
「ああ、途中からな……、っておい!?」
アベルの声が少し遠い気がして、ヘンリーが振り返るとアベルはタンスを開けていた。
「絹のローブと……、銀の髪飾りか……」
アリアに似合うかな……。
いや、きっと似合う。
アベルはタンスから【絹のローブ】と【銀の髪飾り】を見つけ出し、手にしている。
「お前何やってんだよ……。さっきタンスを勝手に開けるなって言われただろ!?」
「あっ……。開けちゃった……。僕は一体何を……」
ヘンリーにつっこまれ、アベルは茫然とした。
何故かはわからないが、手が勝手にタンスを開けていたんだよ……と言ってもヘンリーには伝わらないか……。
戻した方がいいかな……。
アベルがそう思っていると、
『ウフフ、しょうがない人ねえ。それ、あげるわ。最近使ってないから処分しようと思っていたの。よく見つけたわね~!』
随分奥に入れてあったはずだけど……あなた、物探しの天才ね! と先程話をしたメイク中の女性が振り返り、快くその二品を譲ってくれたのだった。
アベルは女性にお礼を告げて、楽屋を後にする。
◇
「……お前って度胸あるよな。オレ、他人のタンスなんて開けられないよ。怒られなくて良かったな(びっくりしたぜ……)」
「…………はは…………」
再び舞台を通り抜け、カジノ内を歩きながらヘンリーがほっと胸を撫で下ろすと、アベルの背中を“トントンッ”と叩いた。
アベルは苦笑いを浮かべている。
タンスを前にすると、頭が真っ白になって気が付いたら戸を開けてしまっていた……。
子供の頃から何故かタンスや引き出し、ツボやタルを見ると調べずにはいられない。
目の前にそれ等があると無条件に身体が反応してしまう……何故……。
病気なんじゃないかとアベルは自分の両手の平を見下ろした。
幸い怒られたことは一度もない。だが、これが繰り返してしまう原因の一つかもしれない……。
アベルは怒られたら止めようと拳を握りしめるが、対象のものがあると頭が真っ白になるので多分無理なんだろうな……と自嘲する。
「はぁ……(これじゃ僕泥棒みたいだ……)」
「アリアも見つかんなかったし、カジノで遊ぶのはまた今度にするとして、そろそろ町の外に行くか!」
「町の外……?」
肩を落としたアベルにヘンリーがカジノの出入口を親指を立てて指した。
そうして、二人はカジノを後にするのだった。
◇
「カジノはどうでしたか?」
「え……?」
カジノを出ると、カジノ前をうろつく吟遊詩人の男に声を掛けられ、アベルは首を傾げる。
吟遊詩人は勝ったのか負けたのかを訊いているようだ。
「今日の所は下見ってとこだな。あんたは行かないのかい?」
アベルの代わりにヘンリーが答えてくれる。
「私は夜に行こうかと思っています」
「夜に?」
「町の外に出て長く歩くとやがて夜になりましょう。夜ともなると、この町はまた別の顔を人々に見せるのです」
ラララ~♪ ララ~♪
吟遊詩人は突然イイ声で歌い出した。
昼間はこうして歌を歌って軍資金集めをしているのですよ。と吟遊詩人は二人の前に手を差し出し、チップを催促してくる。
勝手に聴かせておいて押し売りもいい所である。
「……じゃあ、これ……」
アベルは2ゴールドだけ吟遊詩人の手に載せ、ヘンリーと共に彼から遠ざかった。
吟遊詩人は澄ました顔で軽く頭を下げ二人を見送る。
数メートル先まで歩いて、アベルとヘンリーがちらっと首だけ向けると、吟遊詩人はまた別の通行人に声を掛け歌っていた。
恐らく何人もの通行人に歌の押し売りをしているのだろう。
「……さっきのどういうこと……? 町の外を歩くと夜に……?」
アベルは町の外へと向かいつつ、ヘンリーに訊ねる。
「んなの当たり前だろ。常識だよ。忘れちまったのか?」
「…………ん?? ヘンリー? 何言って……」
ヘンリーが何言ってんだこいつ? みたいな顔でアベルを見るので、アベルは首を傾げた。
ところが……、
「ほら行こうぜ!」
ヘンリーはアベルの問いには答えず、町の外へと促したのだった……。
アベルさん、手癖悪いっすね……。
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