アリアの所為なのでしょうがないです。
では、本編どぞ。
アベルもじっとアリアの背を見送っていた。
「言ったけどモノに出来るかはお前次第だろ? っつーかお前やっぱアリアのこと好きなんじゃん?」
「っ、うっ……、ち、違う……。ぼ、僕は……そんなんじゃ……」
ヘンリーの指摘にアベルは頑なに認めようとしない。
「……何で認めないわけ? 認めちゃえば楽になれんのにさ(バレバレなんだけど……?)」
「っ、そんな簡単な問題じゃないんだよ。僕はまた……」
アベルは頭を抱えて俯いてしまった。
認めてしまえば、楽になる?
……違う、苦しくなるだけだ。
離れたくないって思ってしまうじゃないか。
一緒に旅をしたいって思ってしまうじゃないか。
僕の我儘で彼女を振り回したくはないんだ。
だから、認めるわけにはいかない。
絶対に……!!
アベルがそう思い悩んでいることなど、ヘンリーにわかるはずもなく……。
「オカズにすんのはオッケ―なのにな?」
ヘンリーは悪戯っぽい笑みを浮かべ白い歯を見せる。
「なっ!? そっ、それとこれとは別だろっ!? アリアがあんな恰好してるから悪いんだよ……。ってゆうかヘンリー。アリアをオカズにするのは止めてくれ」
「……ん? ……ンーーーー……? 無理だな」
アベルがヘンリーに近付き威圧するが、ヘンリーは斜め上を見上げ思い見ると否定する。
「何でっ!?」
「……だってよ、こういうのはイマジネーションだろ? ヒントを貰っちゃったら妄想が捗っちゃうじゃん? オレ、健康優良児だし?」
ヘンリーは昔アリアがやっていた、両頬に人差し指を突き刺し笑う仕草を真似て笑った。
「ぐっ……!!」
「はははっ、そう怒んなって。別に彼女に実際手を出すわけじゃねーんだしさ?」
「そうだけどっ! 何か嫌だっ!」
「…………そうは言われても思考まではなぁ……。あんな姿見せられたら……」
アベルが苦々しい顔でヘンリーを睨み付けると、ヘンリーは参ったなと頭を掻く。
そんなヘンリーの様子にアベルは、
「……わかった。宿に着いたらラリホーで眠らせてあげるよ」
真顔で唇だけ歪ませ嗤った。
「お前ラリホーなんて覚えてたっけ?」
「あー、うん。ひのきの棒とかこん棒とかあるから問題ないかな」
アベルは【ふくろ】の中をごそごそと確認する。
うん、あるな。
捨ててなくて良かった。
「へ……? ちょっ、物理的にかよっ!!」
「夜は安心してゆっくり休めるね」
察したヘンリーの様子にアベルはにっこりと不気味な笑みを乗せ、目を細めたのだった。
「っ、勘弁してくれよ……」
「ヘンリーはマリアさんでも妄想してればいいんだよ……」
「なっ、まっ、マリアさんっ!? な、何でその名前がっ!!?」
アベルの言葉に突然ヘンリーが動揺し出す。
「……お似合いだと思うけど?」
「っ、な、何だよ……」
アベルは冷ややかにヘンリーを見つめた。
「僕はマリアさんのアレコレを妄想したりはしないから安心して」
アベルが静かに告げると、
「すんなっ! 絶対すんなよっ!!」
ヘンリーは怒ったのか大声でアベルに掴みかかる。
「じゃあヘンリーもしないでくれるよね? アリアにも失礼だ」
「っ、おうっ!! 約束は出来ないが善処する!」
「…………ッチ」
ヘンリーに掴み掛られても、冷ややかなままのアベルは舌打ちをしたのだった。
「舌打ちすんなよ、しょうがないだろ……。彼女はオレの初恋だったんだからさ……」
「なっ!? 初恋っ? そうだったのかい!?」
突然のヘンリーの告白に、アベルは目を見開く。
「っ……、しょ、しょうがないだろ……。あの子、オレに優しくしてくれた初めての女の子だったんだからさ……。けど、彼女オレの事憶えてないし、初恋は実らないって聞くし……今は諦めてるよ」
「ヘンリー……」
ヘンリーの瞳が哀しげに伏せられ、彼の気持ちを知りアベルはそれ以上何も言わなかった。
「……お前もアリアが初恋なら実らないかもなっ! まあ、お前モテるからすぐ別の女性が見つかるさっ!!」
「…………っ、ヘンリー…………、…………余計なことは言わなくていいから…………」
ヘンリーの余計な一言にアベルは苛立ち、こめかみに血管が浮き上がる。
「っ、じょ、冗談だって! お、お前とアリア、お似合いだって……!」
「……っ、だから、僕はアリアのことは別に……」
アベルの不穏な様子を察知してヘンリーがよいしょするが、アベルは途端俯いてしまった。
「お前何なんだよもう……、わけわかんねぇよ……(面倒くさい奴だな……)」
はぁ。とヘンリーは溜息を吐いて、いつの間にかアリアがフロアに居ないことに気付いた。
するとピエールが、アリアが先程向かった方向から戻って来る。
「アリアどっか行ったみたいだな。……あ、ピエールが戻って来たみたいだぞ」
「ピエールが?」
二人はピエールが来るのを待っていた。
「主殿、ヘンリー殿。お待たせ致した。アリア嬢は着替えて来るので外で待つ様にと」
「あ、そうなんだ。わかった、じゃあ……外に……」
ピエールがやって来て二人はカジノの外へと出ることにしたのだった。
◇
カジノを出ると中の熱気とは裏腹に、町は静かに涼しい風が三人の間を吹き抜ける。
「……ピエール、後で二人で話せるかい?」
「ええ、今宵の宿を取ってからになりますが」
「あ! 宿ならオレ達昼間に取っておいたんだ。良かったら一緒にどうだい?」
カジノ脇の噴水の前で三人は水飛沫を眺めていた。
看板のネオンや照明の光を浴び、噴水は夜でもキラキラと輝いている。
「なんと! それは名案! かたじけない!」
「名案って……大袈裟だなぁ……」
ピエールの反応にヘンリーが照れ臭そうに頭を掻いた。
「アリア嬢をつけ狙う輩が宿に来ないとも限りません。味方は多い方がよろしいでしょう。主殿がいれば百人力です」
「……そんなに狙われているのかい?」
アベルが訊ねると、
「修道院に居る間はまだいいのです。あそこは神聖な場所で、不浄な輩は入れないので。この町に来ると、先程のような者共がどこからともなく……」
ザァァーーーー、バシャバシャと噴水が噴き出し、引っ込み、噴き出し、引っ込みを繰り返し、ネオンの灯りがアベル達の顔にも反射する。
そんな中、ピエールは腰にぶら下げた剣の柄をぎゅっと握り締めた。
「……その相手って……誰なんだい?」
「…………それは、アリア嬢の口からでないと私の一存ではお答え致しかねます」
アリアもはぐらかして教えてくれないのでピエールならひょっとしてと思い訊いてみたのだが、アベルの質問にピエールは口を割らなかった。
なので、アベルはちょっとイラっとしてしまう。
「…………、…………ピエール、君、僕を“主殿”って言ってくれてるけど、どっちが本当の主なの? 僕? それともアリア?」
「う……。そ、それは……」
アベルに指摘され、ピエールは俯いてしまった。
自分の気持ちを頑なに認めないアベルさん。
結構頑固な所がありますね。
そして、若い青年たちよ。
大きくなあれ!
……何のことですかねw
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