ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

さて、ピエールさんから色々聞きましょう。

では、本編どぞ。



第百四十七話 回顧

 

 

 

 

 

「……ここなら誰も来ないかな」

 

 

 町を歩き、夜間は誰も居ない通り抜け禁止の防具屋へとアベルとピエールはやって来る。

 店内は静まり返り、外から僅かに月明かりが降り注いで、目が慣れれば互いの表情が読み取れた。

 

 

「そうですね。ここは夜間は誰も通りませんから」

 

「……ピエール、君はどうして僕を知っていたんだい? それに、何故アリアと……」

 

 

 アベルは早速ピエールに訊きたかったことを切り出した。

 

 

「主殿、私は確かに主殿と旅をしていたのです。ですがある日、記憶がプツッと途切れて、気付けはこの世界に。そして、少しずつではありますが、記憶の断片を取り戻したのです」

 

「この世界って……、まさか、君も繰り返して……いや、別の世界から来たというのかい?」

 

「やはり主殿も!?」

 

 

 ピエールがアベルの傍に寄って彼を見上げ、手をぎゅっと掴む。

 

 

「やはりって……」

 

「私が名乗った時、主殿は“君はあの(・・)ピエールなのかい……?”と仰ったではありませんか」

 

「いや、言ったけど……それで気が付いたっていうのかい? 君って優秀過ぎないか?」

 

「わはははは……! また(・・)褒めて下さるのですね! 主殿は褒め上手故、毎度照れ臭くて困ります」

 

 

 ピエールが涙したのか水滴が飛び、アベルの手に触れた。

 

 

「毎度って……。ひょっとして君も何度もまた(・・)を経験しているのかい?」

 

また(・・)……ですか。そう、ですね。また(・・)になりますかね。何度も、似たような世界を渡り歩いた気がします。名前を変え、性格を変え、時に主殿と歩むこともなく……。主殿も、そういう感覚を感じたりはしませんか?」

 

 

 アベルの質問にピエールは答えつつ、質問し返す。

 

 

「感覚って……」

 

「自分の名前が違ったり、性格も違ったり、戦闘パターンも違ったり……ですが、そのどれもが自分であるという妙な感覚です」

 

「…………ぁあ……。言われてみれば……、そう感じることもあった……ような……」

 

 

 アベルは額を抱え、思い返してみる。

 

 よくは思い出せないが、アベルはまた(・・)と感じる時、感情が複雑に入り乱れていたのか、とても憂鬱な気分になったことがある。

 単純に繰り返しているのが嫌なんだと思っていたが、もしかして、それだけではなかったのかもしれないな……と改めてこの人生の意味が何なのかわからなくなった。

 

 

「私はアリア嬢と出会うまで、古代の遺跡近くでスライムナイトの一匹として群れで暮らして居ました。動物狩りや、時折やって来る人間を襲い、日々戦いに明け暮れていたのです。そんなある日……」

 

 

 ピエールは“すぅーー……、ふぅーー……”と深い深呼吸をしてからゆっくり話し始めた。

 

 

 

*------------------------------------*

 

 

 

 

 ――十年前。

 

 あの日の私はいつものように【スライムナイト】の仲間達と、【古代の遺跡】近くの森で剣の稽古や狩りをしていました。

 

 夕暮れが近くなった頃、【古代の遺跡】の方で白い光を見ました。

 何だろうと思い、当時の仲間に訊ねたらそんな光は見ていないと云うのです。

 

 私は確かに見たのに……と思っていたら、近くで別の仲間達が戦っている音が聞こえ、加勢せねばと私は駆け付けました。

 

 すると、そこに居たのは血だらけのアリア嬢で、意識を朦朧とさせながらも彼女は倒れず懸命に戦っていたのです。

 私は何故かすぐに動くことが出来ず、立ち尽くしていました。

 

 小さな少女に複数の【スライムナイト】が一斉に切り掛かります。例え相手が女子供であろうと、魔物は容赦しません。

 彼女は何度も回復呪文を掛けては身体を傷つけられ、髪を切られ、攻撃呪文を繰り出す暇もなく、満身創痍で必死に戦っていました。

 

 ですが、多勢に無勢。彼女に勝ち目はありません。

 

 

「はぁ、はぁ……、死ぬわけにはいかないの……っ。回復してアベル達を助けに行かないと……!」

 

 

 立っているのもやっとであろう彼女から、凛とした声が聞こえました。

 

 

 ――アベル……。

 ――何処かでその名を聞いたことがある……。

 

 

 その名を聞いて、私はハッと気が付いたのです。

 それまで何の疑問も持たず、他の【スライムナイト】達と共に戦っていた自分の心の奥深くに、いつも私と苦楽を共にし温かな慈悲を与えてくれた主殿の記憶が眠っていることに。

 

 こんなことをしている場合ではない。

 主殿に逢わなければ。

 

 

 ――だがどうすれば?

 

 

 私はここに来る前、確か主殿とラインハットの城を目指していたはず。

 いや、船に乗り、別大陸へと渡ったような……。

 空飛ぶ絨毯に乗った記憶も……。

 

 

 記憶は混同していました。

 知り得ない記憶の断片が幾つも脳裏に勝手に湧くのです。

 

 そして、冷静に考え答えを導き出しました。

 

 主殿のことを知っているのに、ここではまだ出会えていない(・・・・・・・・)ではないか。

 

 

 ――……彼女を死なせてはいけない。

 

 

 彼女を今助けねば、自分はきっと一生後悔するであろう、と。

 それから決断は早かった。

 

 私は仲間であった【スライムナイト】達をこの手で(ほふ)ったのです。

 ありがたいことに直前までいた世界の経験が役に立ったのでしょう、私の方が他の【スライムナイト】達より数段強かった。

 

 かつての仲間達の消えゆく姿に詫びを入れ、私は未だ倒れないアリア嬢へと近付きました。

 

 

「っ、来ないで……。私を……放っておいて……」

 

「……私はピエール。あなたを助けましょう」

 

 

 彼女は頭から流れる血液で目が見えていませんでした。

 けれど、近付く私の気配を感じ取ったのか、武器を構えるのですが、掴んでいるのがやっとで指先だけでなく、身体は震えていました。

 そして彼女はそのまま倒れ、身体の震えが大きくなっていきます。

 

 

 ――マズイ。

 

 

 直感で外傷による痙攣が始まったのだと気付いて、私はすぐに彼女に回復呪文を掛けました。

 彼女の意識は既になく回復は何とか間に合ったものの、全快するには至らず仕方なく彼女を完全に回復してくれる施設を探すことにしたのです。

 

 

 ――名もない【海辺の修道院】。

 

 

 かつての仲間に聞いたことがありました。

 そして主殿と行った記憶も僅かにありました。

 

 世界中から様々な理由で女性達が集まる神聖な場所だと。

 神の加護で魔物は入れない場所だが、彼女は人間だから大丈夫。そこで保護してもらえばいいと思ったのです。

 

 私は不鮮明な記憶を頼りにそこを目指し、彼女を回復させながら相棒のアンドレの背に乗せ何日か掛けて河を渡り、修道院の近くまでやって来たのです。

 

 

 ――その後、森で私が少し目を離した隙に人間の群れが彼女を見つけ連れ去ったので、後をつけ様子を見て取り返そうとしたのですが、善い人間だったのか修道院に運び込んでくれたので、私はそのまま彼女を修道院にお任せすることにしました。

 

 私の手に彼女の髪が一房残っており、そこには彼女の名前が書かれたリボンがありました。

 

 リボンを返さねばと意を決して修道院に何度か顔を出しました。

 

 人間は魔物を恐れるので、私の姿を見た女性は逃げてしまいます。

 仕方なく、彼女の髪とリボンをそのまま修道院の玄関扉前に置いて私は修道院を後にしました。

 

 

 仲間に手を掛けてしまった以上、私はもう群れに戻ることは出来ず、修道院の近くで放浪することにし、彼女が回復するまで様子を見守ることにしたのです。

 

 ところが何日経っても彼女の姿を見掛けることは無く、もしや死んでしまったのでは? と私は毎日修道院の様子を窺いました。

 

 そして八年後のある日、彼女がようやく姿を現したのです。

 

 

 ――まさか、

 

 

 あの血だらけだった少女が、見目麗しい大人の女性になっているとは。

 

 私は思いも寄りませんでした。

 私に気付いた彼女は、私を怖がることなく傍にやって来てにっこりと微笑んでくれたのです。

 

 

 

 

 そんな彼女に私は……、

 

 

 

 

 ――……一目惚れしました……ぽっ。

 

 

 

 

*------------------------------------*

 

 

 

「ストップ! ちょっと待ってよ、ピエールもっ!!? ……勘弁してよ……はぁ……」

 

 

 ピエールの独白の途中、アベルが弱り目で溜息を吐いた。

 

 

「も? ……ははは。彼女はもう、聖女……いや、女神と言っても良いお方。人間の女性にこんなに惚れ込んだのは初めてです。初めて見た時から何故か逆らえない気がしたのですよ。今思えば、私は彼女から主殿の気配を薄々感じ取っていたのでしょう」

 

「……そっか……。そうだったんだ……。アリアはあの時、無事脱出出来ていたんだね……。ピエールありがとう。君が居なかったらアリアは今頃……」

 

 

 アベルはピエールを抱え上げ抱きしめる。

 ちょっと照れ臭いけど、懐かしい感触がした。

 




頼もしいピエールさん。
少なくとも私は彼がいなければゲームを進められなかった。
そういや、緑のスライムの名前はオリジナルです。
ピエールと来たらアンドレかなーって。適当に…。

ピエールさん(年齢不詳)はアリアさんにぞっこんです。


あれ? 逆ハーっぽくなってない?
そんなつもりはないのですが……。

アベルさんライバル多いな、頑張れ。

ピエールは騎士なので姫ポジをアリアと見立て、姫の騎士ということで描いています。

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評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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