愛とオラクル屋と馬車……そのままです。
では、本編どぞ。
「…………助かって良かったです。彼女には何か不思議な力を感じますから」
「不思議な力……?」
「はい、主殿は感じませんでしたか? 初めて会った時、彼女の中に懐かしいような……」
ピエールに見つめられ、アベルは彼を地面に下ろすと首を傾げる。
「いや……懐かしさは特に感じなかったけど……彼女は初めて出会った娘だから……」
――懐かしい?
そりゃ、十年振りに会ったから懐かしいとは思ったよ?
彼女は唯一の
でも、初めて会った時、懐かしいだなんて……そんなこと感じなかったけどな……。
……どういうことだ?
アベルは腕組みして考えてみるが、何も思い当たらなかった。
「そうですか」
アベルの言葉をピエールは特に気にするでもなく、さらっと流す。
「なあ、ピエール。十年前、古代の遺跡の近くに僕の父さ……大人の男性は居なかった? 口髭を蓄えた長い黒髪で……あ、今の僕みたいな髪型なんだけど」
アベルはパパスの特徴を身振り手振りで説明した。
「大人の男性……? いえ……そういった方は見なかったと思います。主殿のお父上ですか……?」
「…………そっか……。やっぱり父さんは助からなかったんだね……」
ピエールの返答にアベルは瞳を伏せた。
「やっぱりとは……?」
「あ。いや……」
ピエールは父さんが亡くなった後に出会う仲間だから、父さんのことは知らないんだよな……。
アベルは何でもないよと頭を振った。
「アリアは僕を助けに戻ろうとしていたんだね……」
あんな姿で……どうやって戻ろうと思ってたんだろ……。
無謀にも程があるよ……。
アベルは傷付いたアリアを思い出し、胸を痛める。
「はい、恐らく。ただ……八年後に気が付いたアリア嬢は記憶を失くされていたので、主殿のこともお忘れなのでは……?」
「うん……。そこが少し残念かな……。いや、大分……」
ずううううううん、とアベルの頭に重しが圧し掛かる。
互いに成長し大人になり、今のアリアには触れることすら憚られて……。
再び友達になったとはいえ、アリアの記憶さえはっきりしていたらもっと気楽に会話も出来たかもしれないのに! とアベルは悔やまれてならなかった。
「……主殿」
「ん?」
「主殿はアリア嬢を愛しておられるのか?」
ピエールはアベルを真っ直ぐに見つめる。
兜の奥で、瞳がキラリと光った気がした。
「あ、愛っっ!!? 愛って……何でっ……!?」
アベルの頬が瞬時に熱くなった。
そ、そんなの早くない???
っていうか、僕、別にアリアの事なんかなんとも思ってなくもないんだからねっ!
動揺したのかアベルの瞳が揺れる。
「…………いや、この際どちらでも構わないのです」
「ん?」
「……主殿。あなたには未来の奥…………んっっ!!?」
刹那、ピエールが兜の口元を両手で覆った。
「ん? どしたんだい? 奥……?」
「……っ……くさ……。…………はっ! ……はぁっ、はぁっ……! な、何でもありません」
ピエールは喉を詰まらせたのか息を呑み、呼吸を荒くする。
「大丈夫かい?(くさ? え? 僕臭い?)」
「っ……ええ、大丈夫です……。…………もう少し、検証してみます……」
心配そうに様子を窺うアベルに、ピエールは俯き呟いた。
「ん? 何が?」
「…………もしかしたら、私には何か特別な任務があるのやもしれません……」
「……ん? 話が見えないけど……?」
俯き呟き続けるピエールにアベルは彼を見下ろし頭を捻る。
すると、ピエールは再びアベルを見上げた。
「主殿。アリア嬢を愛しておられるなら、離さぬことです。離せば主殿は同じ未来を繰り返すこととなりましょう」
「っ…………それ……。……僕、昔やったんだよ……、もう彼女を巻き込みたくないんだ」
愛ってまた云ってるし……。
だから僕は別にアリアを愛してるわけじゃ……。
ただ、ちょっといつも目で追っちゃうってだけで……。
アベルは口を尖らせる。
「主殿?」
「…………アリアには穏やかに暮らして欲しい。記憶が戻れば勿論嬉しいけど……記憶が戻らなくても別にいいんじゃないかとも思ってる。その方が幸せになれるんじゃないかな?」
「それはいけません!」
ピエールが突然大きな声で反対する。
「え……?」
「アリア嬢は求婚者の追っ手から逃れる為、修道院を出て外海を渡り遠くへ行こうとしているのです! 記憶の無いまま無闇に旅をさせてはもう二度と会うことが出来なくなりますよ! ……私もついて行くつもりですが、多分置いて行かれるでしょう……」
「なんだって!!?」
アベルが目を見開くと、アリア嬢はそういう方だからとピエールは俯いてしまう。
「……せめて、記憶を取り戻させてあげてくれませんか?」
「記憶を取り戻させるったって……、どうやって……」
「その方法はわかりませんが、主殿ならきっと出来るはず」
ピエールは脇を固め、胸の前に両手拳を持って来ると“グッ”と握り締めた。
「っ……、参ったな……。けど一つだけ心当たりがあるよ……」
「おおっ! さすが主殿!」
アベルは修道院で読んだ本の中の【ラーの鏡】についてピエールに話す。
アリアの記憶も映してくれないかなと、真実を映す鏡を何度か考えている内に【ラーの鏡】という名前だけは思い出していたのだった。
「なるほど。真実を映す鏡ですか……。では、そうと決まったら、まずは馬車を買いに行きましょうか!」
「あ、モンスターじいさんが言ってた……」
「ええ、この時間ならオラクル屋が開いてますよ。そこで馬車を買うのです。そして、この私を正式に仲間に加えて下さい」
アベルはピエールと共にオラクル屋へと向かうのだった。
◇
そんなわけで、ピエールと共にオラクル屋にやって来た。
兜を被った厳つい風貌のオラクル屋の主人が店に入って来たアベルを見るなり、カウンターテーブルを叩いて立ち上がる。
「お前さん旅の人かい? だったら馬車のひとつも買ってみないか? 多くの仲間を乗せられるぞ!」
カウンターに近付くアベルに身を乗り出し、今日のおすすめはこれだ! と言わんばかりの勢いでテーブルをペシペシ叩く叩く。
テーブルの上には馬車・3000ゴールドと書かれた紙が置かれていた。
「ええ、その馬車を買いに来た……(3000ゴールドか……ちょっと足りない……か?)」
アベルは店主の手元を見下ろし、先に値段を知ってしまい出直すか迷う。
ところが、
「3000ゴールドと言いたいところだが、まけにまけて300ゴールドでどうだい?」
アベルの心配を余所に店主は手元の紙を破り捨て、指を三本アベルの前に突き出す。
「買った!」
アベルが店主の指を握ると、店主はアベルの手を握り直す。
おじさん気前がいいな! と、即決したのだった。
「よし、商談成立だ! 馬車は町の外に出しとくから、いい旅をするんだぜ! ……それはそうと、この町にいるモンスターじいさんには会ったかい? じいさんなら馬車のうまい使い方を教えてくれるはずだぜっ!」
「あ、はい。それなら昼間に!」
「そうか、良かった! じゃあいい旅を!」
アベルが代金を支払い、店を出ようとすると、店主はサムズアップと笑顔で見送ってくれる。
変わった人だけど、良い人だな……とアベルは店を後にした。
オラクル屋はあっさり終わったな……。ほっ。
馬車ゲット~!
300ゴールドとか破格なんですけど!
3000ゴールドも安いと思うぅ。
これで長旅が出来るようになりました。
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