じゅーよんわ。
アルカパ散策です。
では、本編どうぞっ!
「あ」
『あ』
宿の庭に出ると、テーブルが一つ、そこに椅子が四つある。庭の奥にはビアンカの云った通り、花が複数咲いていた。
傍には吟遊詩人らしき人が居て、いい調子で横笛を奏でている。
椅子の一つにアリアが腰掛け、テーブルに頬杖をつきながら笛の音に耳を傾けつつ、花を眺めていた。
「見つけた!」
「ん……?(見つけた? 何を?)」
ビアンカが首を傾げる中、アベルはアリアを指差すと破顔して、アリアの向かい側の椅子に腰掛ける。
『あっ、しーっ! 私の姿、他の人に見えないんだからっ』
アリアは口元に人差し指を立てて、めっ、とアベルを諫める。
「え? ……どうして?」
『アベルが変な目で見られるでしょう?』
「僕別にそんなこと気にしないけど?」
『いいからっ! ほらっ、一緒に居る女の子が不思議そうに見てるよっ』
アリアがテーブルの前に立つビアンカを見ていると、ビアンカもやって来て……、
『あっ』
アリアの膝の上に腰を下ろそうとしていた。
「あっ、だめっ」
「え、何?」
アベルが止めるが、アリアの見えないビアンカはそのまま腰掛けてしまう。
すると、アリアと身体が重なった。
『……あ、うん。そう……、だよね……』
アリアは自分と重なるビアンカに「私やっぱり幽霊なのかな……」と不安気に俯き呟く。
「ううん、違うよ。君はちゃんとここに居る! だからそんな不安そうな顔しないで?」
「…………? アベル、何言ってるの?(何かこの椅子温かい気がする……ような……?)」
アベルの言葉に、ビアンカはわけがわからず、腕組みをして頭を捻る。
アベルからアリアははっきりと見えているので、ビアンカとアリアの身体が重なっている様は中々に不気味である。
「っ、僕、そこの花、もっと近くで見たい! 行こっ!」
「えっ、ちょっ!?」
不意にアベルはビアンカの手を取って、彼女を花の方へと連れて行く。
ついでに傍に居た吟遊詩人に声を掛ける。
すると、
“昔々、レヌール城という城には、たくましい王様と美しい王妃が住んでいました。しかし、二人には子どもが出来ず、いつしか王家も絶え、お城には誰もいなくなったのでした……。
ところが、そのレヌール城から夜な夜なすすり泣く声が聞こえてくるという。”
吟遊詩人は身振り手振りを交えて、真に迫る顔で語った。
「と、話はここまで。どうだい坊や。怖かっただろ?」
吟遊詩人が悪戯心からか、少し悪意のある笑みを浮かべて告げたのだが、アベルとビアンカは「別に~?」「へ~、そうなんだ」と、怖くないのか興味津々で吟遊詩人を見上げる。
「っ、ともかくレヌール城には近づいちゃいけないよっ」
子ども達の反応に満足いかなかったのか、吟遊詩人は早々に話を切り上げ、「全く近頃の子と来たら、怖いもの知らずなんだから……」と、ぶつぶつ口を尖らせ横笛に唇を添え、メロディーを奏で始めた。
「ね、アベル、お庭も見たし、そろそろ行かない? 町にはお店とか色々あるのよ」
「うん、そうだね。アリアはどうする?(もちろん行くよね!)」
ビアンカが移動を提案すると、アベルがアリアの傍にやって来てテーブルに据えたアリアの手に触れる。
「…………また……(
アベルの言動、行動が不可解ではあるものの、ビアンカはテーブルの傍でアベルが来るのを待つことにした。
先ほど吟遊詩人から聞いた話とリンクしてか、背筋が少し冷えた気がして、ぶるっと小さな身体を震わせる。
『うん……、どうしよっかな……(誰かと身体が重なるとか衝撃的過ぎて……、ゲームのバグじゃあるまいし……)』
「大丈夫、元気出しなよ。僕が保証するから。ほら、ビアンカだって待ってくれてるし、早く行こう?」
落ち込むアリアの手をアベルはぎゅっと握って、引っ張ろうとしたのだが……、
『へ…………? ……え、……ビアンカ……?(今、ビアンカって言った……、よね!?)』
ダンッ! とアリアはテーブルを叩きつけ、立ち上がる。
同時に「ひぃっ!」という短い悲鳴が聞こえた。
「っ!? な、何、今の音っ!?(オバケっ!? テーブルが急に……!)」
ビアンカがアリアの打ち付けた音に驚いていたが、それ以上に吟遊詩人が腰を抜かしている。
「っ、まだ昼間で、ここはレヌール城じゃないのにっ!!」
吟遊詩人は涙目だ。
「っ、アリア!?(一体どうしたんだ!?)」
『アベル、ちょ、ちょっと訊きたいことがあるの。こっち来てっ!』
アリアはアベルを庭の端へと連れて行く。
「……急に立ち上がって、どうしたの?」
「っ、アベル。あの女の子、誰?」
「え? あの子?」
「うん、あの三つ編みの可愛い女の子」
アリアがテーブル近くに立っているビアンカを指差した。
「ビアンカのこと?」
「っ、ビアンカ!? 本当にっ!?」
アリアはアベルのマントの襟を引っ張って訊ねる。
至近距離で見つめられ、アベルの頬がちょっぴり赤い。
「…………そ、そうだけど……(近い……)」
「っ、アベルは主人公っ!?」
「え……? 主人公? 何……?」
アリアが目を見開き訊ねるが、アベルはわけがわからず、ただ首を傾げるだけ。
それでも、
「っ、道理で……。アベルのお父さんどこかで見たことあるし、名前も聞いたことあった気がしたの……(……アベルも、名前こそ知らないとはいえ……、見たことあったよ……)」
……アリアは気付いてしまった。
ここが、ドラゴンクエストⅤの世界なのは知っていた。
そして、今わかった。
主人公がアベルなのだと。
ゲーム自体、持ってはいるがプレイしていないから、ストーリーはよく知らない。
ただ、壮大な物語だということと、結婚システムがあり、その相手、ヒロインの名前だけはゲームプレイせずとも有名なので知っているのだ。
ヒロインの名前は、ビアンカ。
それに、フローラ。
アベルが主人公なら、いつか二人の内どちらかと結婚する。
ビアンカにするか、フローラにするか論争は未だ決着が付いていないとネットで見たことがあった。
「……そ、そうだったんだ……(今更感もあるけど、ゲームをリアルに体験出来るなんて、すごいっ!)」
アリアは感動に胸を高鳴らせる。
だって、こんなことまずないじゃない?
主人公に転生は出来なかったけれど、傍で見れたりするわけ?
こんなことならドラクエⅤやっておけば良かったな~。
そしたら、アベルに役立つ情報とか教えてあげられたのにっ。
アリアの瞳がうるうると潤っていく。
……感無量である。
「そうだったんだって……、何が?」
「っ、アベル、あなたこれからたくさん冒険していくのね……?」
「……んん?(話が見えない……)」
アリアとは対照的にアベルは訝しげに腕を組む。
「……私、何かお手伝い出来るといいのだけど……。姿見えないしね……(魔法とか使えたらいいのに……)」
攻撃呪文に、補助呪文、そして回復呪文。
Ⅲまでの呪文ならアリアは記憶していた。
……そう、アリアはドラクエ好きなのである。
全シリーズクリアをしているわけではないが、それでもドラクエ愛は大きい。
そういえば、Ⅴの魔法ってどんなのがあるのかな……?
多分、お馴染みの呪文でも使えると思うのだけど……、
この先何が起こるのかはさっぱりわからないけど、アベルのサポートが出来るといいなぁ……アリアはそう思った。
そんなアリアの想いに反して、アベルがふっと笑う。
「はぁ……、アリアに期待はしてないから大丈夫だよ」
「え?」
「アリアは僕の傍に居てくれるだけでいいんだから」
アベルはにこにこと微笑んで、ぽんぽんとアリアの頭を撫でた。
「っ、アベル……(可愛いこと言ってくれちゃっても~!)」
アベルの突然の行動にアリアの小さな胸がきゅっと締め付けられる。
「…………、だから、行こ? アリアが一緒だったら僕何でも楽しいんだ!」
アベルは心からの笑顔をアリアに向けると、手を差し出した。
「…………、……うんっ! 私も!」
アリアはアベルの手をぎゅっと掴んだのだった……――。
アリアさん、アベルさんに「何も期待してない」って言われたのにポジティブ~。
この後どんどんポンコツ度が増すっていう……。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!