地図はよ見ておけぇぃ、って話。
では、本編どうぞ。
三人が宿に戻り、そーっと部屋の扉を開けるとピエールは相変わらずぐっすり眠っていた。
「眠ってるみたいだ」
「ふふっ、良かった」
アベルが奥のベッドの傍、床で眠るピエールの様子を覗くと、アリアも傍にやって来て優しくはにかむ。
アベルはその横顔を眩しそうに見下ろすが、アリアが顔を上げると慌てて視線を外し、隣のベッドへと歩いて行った。
(……嫌ってないって言ってたけど……。本当ですか……?)
アリアは訳がわからず、俯いて奥のベッドに腰を下ろす。
「じゃー、オレ達も寝ようぜ」
ヘンリーが隣のベッドに腰掛けたと思ったらそのまま身体を仰向けに倒した。
「ヘンリー、地図を確認するんじゃなかったの?」
「あ、そうだった! へへっ、忘れてた!」
アベルが【ふくろ】から【ふしぎな地図】を取り出し、ベッドの空いたスペースに広げる。
すると、ヘンリーは身体を起こしてアベルと共に地図を見下ろした。
「「っっ!!」」
地図を確認した途端、二人は絶句する。
「……この橋を渡って……、北西にサンタローズか……ってことは、北東って……」
「……ラインハットかよ……。マジか……」
アベルとヘンリーは互いに見合ってから、アリアを見る。
「……ラインハット……」
アリアは小さく呟くと身を護るように自己を抱きしめ、アベルとヘンリーを見つめた。
眉をハの字にし、バレてしまったかなと薄っすら口角を上げる。
「「っ……」」
アベルとヘンリーはアリアに訊くまでもなく、全てを察した。
ずっと気になっていた、アリアの求婚者……。
正式な書簡を出したところで受理してもらえないかもしれないという相手。
つまり、アリアの求婚者は……。
「…………まさか親父が……? いやデール……か? ってあいつ、まだ成人してないんじゃ……」
はーっ! と深いため息を吐き、ヘンリーは片手で額を抱え俯く。
「……成人してなくても、王族なら結婚はあり得るんじゃ……?」
「そりゃ、そうだけどっ。親父はわからないけど、あいつが複数の女を……? 何かおかしくないか? あいつ、気が弱いオレの子分なんだぜ?」
アベルの一言に、ヘンリーは異母弟のデールが女性を侍らすような男とは思えず彼を庇ったのだった。
「……けど、十年も経てば性格だって変わるじゃないか。君だって随分変わっただろ?」
「いやいやいや……。オレは知ってるけど、あいつ気が弱いけど優しい奴なんだって。そりゃ、王妃はイヤな奴だったけどさ……。あんな気の弱い奴が複数の女性を相手になんて……、ん? 複数……? …………、…………、……羨まし過ぎてあったま来たぞ!」
ヘンリーは何を妄想したのか、少し間を空け鼻息を荒げると、枕を殴りつける。
「へ、ヘンリー、落ち着いて」
どうどう、とアベルがヘンリーの肩を叩いた。
「っ、アリアを親父やあいつになんぞやれるか! こうなったら直談判してやるか!? なあ、アリア!」
「えっ……ぁっ……、その……」
ヘンリーの問い掛けにアリアは“ぽっ”と頬を赤く染める。
「……ん?(何で赤く……?)」
「……よ、呼び捨ては恥ずかしいので……」
アリアは頬を両手で覆って俯いた。
「え、ぁ、そ、そっか。そーだった。アリアさん、直談判しに行くかい?(可愛いけど何か扱い辛いんだよなぁ……)」
もじもじと急に恥ずかしがるアリアにヘンリーはそれまでの勢いを失くし頭を掻いて訊ねる。
ところがアリアは頭を左右に振った。
「…………いえ、私、船に乗ろうと思っているんです」
「船?」
アリアの言葉にヘンリーが首を傾げる。
「はい。確か、北の橋を渡って西の方に港があると聞いて。そこから海を渡ろうかと。そこまで逃げれば追われないかな……って……」
「ビスタの港か……」
アベルが昔そこから船を降りてサンタローズに帰って来たなと、思い出した。
アリアの話は続く。
「直談判も考えたんですけど……、私一人で行ったら捕まりに行くようなものですし、修道院に何かあっても嫌で、私もまだ結婚したくない。なら、原因である私が居なくなれば問題ないかな、と……。修道院には私と修道院は何の関係もないと、手紙を書いて置いて来ました!」
アリアは“ふふっ、いい考えですよね”と淋しそうに微笑む。
修道院にはもう戻らないつもりで出て来たということなのだろう、だから長旅に耐えられるような服を着ていたのだ。
「…………アリア……さん……」
アベルはアリアの心の強さに凄いなと感心する。
記憶も戻らず不安だらけのはずなのに、長い間共に暮らした家族同然の人達に黙って出て来るのはさぞかし辛い別れだったろうに……と。
「なので、明日良かったら途中までご一緒に……と」
アリアは“ご迷惑をお掛けしないように頑張りますから!”と頭を下げる。
「……そっか。アリアさんを攫おうとしたのが魔物だったのは気になる所だけど……」
「…………魔物を扱える方がいらっしゃるみたいです」
ヘンリーが顎に手を当てうーんと唸ると、アリアは今日襲われたのが初めてではない様子で応えていた。
「……アベルじゃあるまいし、そんな奴国にいたかな……。まあ、十年だもんな……親父も、デールも変わっちまったのかもな……。アベル、明日アリアさんを港まで送ってってやろうぜ」
ヘンリーは立ち上がってアベルの肩を叩く。
「えっ…………」
突然振られたアベルはぽかんと口を開けた。
「えっ、て何だよ。送ってってやんないとアリアさん心配だろ?」
「あ、いやそうなんだけど……。それは……」
“主殿。アリア嬢を愛しておられるなら、離さぬことです。離せば主殿は同じ未来を繰り返すこととなりましょう”
アベルは床で眠るピエールを見下ろす。
先程ピエールに云われた言葉が頭に過った。
(愛してる……かは、ともかく、アリアを手放すのは……、…………出来そうにない……かな……)
だけど、ピエールが彼女を離せばもう二度と会えないなんて脅すから……。
さすがに二度と会えないのは嫌だ。
修道院にだって時々寄れたら顔を出そうと思ってたくらいなんだから。
アベルは手指を絡め合わせ下腹の前に持って来ると、恐る恐るアリアを窺い見る。
「ぁ……ひょっとして、ご迷惑……でしたか?」
「っ、ぜっ、全然っ!! アリアさんに快適に旅してもらえるよう、馬車も買ったから安心してっ!」
アリアっ、上目遣いが……っ……可愛い……!!
不安気に自分を見上げるアリアに、アベルは頭を何度か左右に振ると快諾したのだった。
「えっ」「馬車!?」
アベルの発言にアリアとヘンリーが目を丸くする。
「馬車は町の外に出しておいてくれるらしいから、明日からは馬車移動になる。アリアさん、疲れたら中で休んでもらっていいからね」
「いつの間に!? アベル、お前すごいな。馬車なんて高かっただろ? そんなに金持ってたっけ?」
「すごい……!」
ヘンリーとアリアがアベルを瞠目するので、アベルは後ろ頭を掻いたのだった。
「え? あ、う、うん……まあ……」
僕って……すごい……? 何か照れるなぁ……。
実は、300ゴールドだったんだけどね……。というのは秘密である。
アリアの瞳がきらきらと輝いて自分を見て来るので、その視線から逃れつつ、アベルは事実を黙っておくことにした。
冗長が過ぎますが、すみません。
アリアの求婚者が誰かと判明したということで、次回ようやくオラクルベリーを出発しま……せん。
まだ……。
次々回ですかね。
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