桜にほろり。
では、本編どぞ。
「ここはサンタローズの村だよ。西に行くと、アルカパの町があるんだい!」
村を歩き、崩れたかつて武器屋だった場所を通り過ぎると、村の子供なのかアベルとアリアの元に小さな男の子が走って来て、ここがサンタローズだと教えてくれる。
そしてアベルとアリアを見上げて男の子がぽつり。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、仲良しさんなんだね」
「「え?」」
「だってお手々繋いでるもん。いいなぁ、僕もお友達と手を繋いで歩きたいなぁ」
男の子が“昨日喧嘩しちゃったんだよね……謝らなきゃ……”としゅんと落ち込んだ。
仲の良い友達と喧嘩をしたようだ。
「「あっ!!」」
男の子に指摘されアベルとアリアはパッと手を放すと、二人共互いに違う方向へと視線を彷徨わせる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、お顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」
二人の横顔に男の子が首を傾げた。
「っ、だ、大丈夫だよ」「っ、はい。大丈夫ですよ……」
アベルとアリアは男の子に同時注目する。
すると不意に目が合って、二人はまたパッと視線を逸らした。
((今更だけど何だか……))
(照れる……)(照れてしまいます……)
二人は目を合わせられなくなってしまうのだった。
◇
ヘンリーとピエールが二人に追いつく頃、アベルとアリアはアベルの自宅前で佇んでいた。
アベルの自宅も例に漏れず屋根や壁が焼けて崩れ、毒の沼の水まで撒かれている。
「アリア、危ないよ」
「大丈夫です。ここ、懐かしい感じがする気がして……」
アベルがここは自宅なんだ……とは言わず朽ちた建物を眺めていると、アリアはアベルの制止も聞かずに崩れた自宅へと足を踏み入れて行った。
「…………、……そう、気を付けて」
何か思い出せるといいけど、と、アベルはそれ以上止めることはせず彼女を見守ることにする。
毒の水溜まりがあるので、後で回復呪文を掛けてやらないとなと彼女の背を見つめていた。
その後ろで、遅れて到着したヘンリーの声が聞こえて来る。
「なんだこの寂れた村は……」
ヘンリーが辺りを見渡しながら呟いていた。
村は高台にある教会を残し殆どの建物が焼け落ちていて、先日オラクルベリーで出会った行商人が言っていた通り寂れている。
「あ、ヘンリー……。……ここがサンタローズだよ」
「えっ、アベルの村だって? ……何か聞いていたのと随分感じが違うなあ」
アリアの様子を見ながらアベルが教えてくれるが、ヘンリーは以前アベルに聞いた美しい村とは程遠いなと感じたのだった。
で、アリアは何してんだ?
この崩れた家がアリアの家、だったとか……?
ヘンリーもアリアの様子を窺う。
アリアは壊れた家の柱や壁に触れたり上を見上げたりしながら、何かを感じ取っているのか首を何度か傾げていた。
「……違う、でも……。うーん……」
「……アリア、地下室に行ってみる?」
「え? あっ、はい! っ、ぅっ!」
アベルが地下室の階段を指差しアリアに声を掛けると、彼女は明るく笑ってアベルの方まで駆けて来るが、毒の水溜まりを踏んで苦く顔を顰める。
「プッ。アリア、毒の中に入っちゃ駄目だよ。避けないと。……ホイミ」
「っ、あっ、ありがとうございます……。ふふっ、私、割とそそっかしくって。……あ、ひょっとして昔もそうでしたか?」
アベルはアリアがやって来ると、回復呪文を掛けてやる。
すると、アリアはお礼を云うなり恐縮しながらアベルに訊ねていた。
「ははっ、……うん、確かにそういう所もあったかもね」
そういう所も可愛いなって……思ってたっけ……。
って、僕は
アベルは俯き片手で目蓋を覆う。
ドッドッドッ……。
と、アベルは自らの鼓動が早くなるのを感じていた。
「……アベルさん、どうかされましたか?」
「…………ううん、何でもないよ。地下室に行こう。足元悪いから……」
「……はいっ!」
アベルがアリアに手を差し出すとアリアはその手を取り、二人はそのまま地下室へと下りて行ってしまう。
「…………なーんか、オレ達居た堪れないよな」
「…………主殿……やはり……」
残されたヘンリーとピエールも渋々ながら二人の後に続いたのだった。
◇
地下室に着くと――。
「……サクラのひとえだ、か……」
懐かしいな……。
ずっと咲いているのかこれ……不思議だ。
ベラ元気にしてるかな……?
地下室に下りて来ると、部屋の真ん中に小さな薄桃色の花々が可憐に咲く【サクラのひとえだ】が落ちており、アベルはそれを拾って眺めていた。
共に冒険したこの枝をくれたベラを懐かしく思う。
確かアリアも妖精の世界から戻って来た時、花が咲いたこの枝を見ながら嬉しそうに笑っていたっけ……、と、アベルの手元の桜を見つめる今のアリアを窺い見た。
――今のアリアは枝をただじっと見ているだけ……?
「へえ~、きれいな花だなあ……」
「ですね……」
ヘンリーも傍にやって来てアベルの手元の桜を眺め瞳を輝かせる。
そんなヘンリーにアリアも同意するのだが、不意に瞳にまたしても一筋、涙が零れ落ちたのだった。
「…………アリア、泣かないで。このサクラはずっと咲き続けてる。友達から貰ったものだよ。君も知ってる筈なんだ」
アベルは無意識にそっと親指でアリアの涙を拭う。
「っ、ぁ……わ、私また……!? ご、ごめんなさい……。やだ……、別に悲しくないのに…………、ふふっ、何だかこの花を見ていると温かい気持ちになりますね」
アリアは頬を赤く染めて涙を溢し、嫣然たる様子でアベルを見上げた。
そのアリアの美しい笑顔に、つい。
「…………、……綺麗だ」
アベルの口からぽろっと漏れる。
「へ? あ、はい、とっても綺麗な花ですねっ」
「っ!? あっ、う、うん!! ど、どうぞっ! よく見るといいよっ! き、綺麗だから!!」
アリアが桜の花に視線を戻すと、アベルはハッと我に返ってその枝をアリアに渡したのだった。
恥ずかしいのか頬を染めアリアから目線を逸らすと、彼女から少し距離を取る。
「あっ、ありがとうございます。……ふふっ、可愛いお花ですね……。こうして見ていると、何だかとっても懐かしい気がするような……」
【サクラのひとえだ】にアリアは何を思っているのだろうか、優しい笑みで手元のそれをただじっと見下ろしていた。
「…………アリア、綺麗だよなぁ……、な、アベル?(照れもせずに綺麗とか言っちゃってさ~! 言った後で照れてるし……)」
ヘンリーはアベルの傍にやって来てこっそりと耳打ちすると、
つんつん、
彼の脇腹を肘で突いた。
「……うん……」
「…………アリア嬢……、美しい……」
アベルは素直に首を縦に下ろし、ピエールもアリアをぼーっと見つめている。
桜の花と美女、二種の花。
アリアの桜を愛でる姿を、男三人はしばらく惚けたように見ていた。
――しばらくして、
「…………ん?(視線……?)えと……、みなさんどうかされましたか?」
アリアは桜を見るのを止め、男達に視線を向ける。
「っ!? あっ、いやっ!?」
「そっ、そうそう!」
不意に目が合ってアベルは後ろ頭を掻くと照れたように笑った。
ヘンリーもアベルに合わせて首を何度も上下に下ろす。
「アリア嬢……、美しい……」
「え……、あっ、ピエールさんたら……。お花そんなに気に入られたなら言って下さればいいのに……、どうぞ。見終わったらアベルさんに返して下さいね」
アリアは自分が賛辞されているなどと露程も思っておらず、ピエールに【サクラのひとえだ】を渡した。
「え、い、いやっ、わ、私はこの花のことを言ったわけではなくですねっ!」
「ふふっ、可愛くて綺麗で素敵なお花ですよねっ」
「あっ……、……っ、……はい」
アリアに優しく微笑まれ、ピエールは頷くしか出来なかった。
その後ろで、ヘンリーはアベルにこそこそと告げる。
「ピエールの気持ちはアリアには伝わってないみたいだな、良かったな。お前の方が一歩リードって感じ?」
「っ……、ヘンリー何言って……」
「まあ、相手は魔物だし、お前の方が分があるだろ。……頑張れよなっ」
「っ…………、すぐ、そういう事言う……」
ヘンリーの言葉にアベルは否定せずに困ったような顔でアリアを見ていた。
「アベルさん、そろそろ行きませんか?」
「あ、もういいのかい?」
「はい。……やっぱり何も思い出せないみたいです」
アリアは地下室を見回し何かを感じてはいる様子なのだが、これといった確証は掴めていないのか頭を左右にゆっくりと振って眉をハノ字にして微笑むと、階段の方へと歩いて行ってしまう。
「そっか……」
やっぱり思い出せないか……とアベルは落胆しつつ、アリアが階段を上って行くのを見上げていた。
桜はいいですよねぇ。
アリアさん思い出せなかったみたいですね。
けど、身体は覚えているみたいです。
割と近い(?)内に記憶取り戻す予定なんですけど、アベルさん次第かなぁ。
頑張って欲しい。
気付かれているかわかりませんが、アベルさんアリアさんのこと呼び捨てになってるんです。
そして、それをアリアさんは受け入れているっていう……。
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