ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

頬っぺた抓って、抓って。

では、本編どぞ!



第百六十六話 抓る

 

「ええっ!? な、なぜですか!?(え? え? ど、どういうこと???)」

 

 

 突然アベルが顔を上げアリアの手を握ると懇願したので、彼女は目を見開いた。

 ぼとりと、アリアの手にしていた水筒が地面に落ちる。

 

 

「頼むよっ」

 

「えぇぇ!? で、でも、私、人を殴ったことなんて……」

 

 

 アベルの頼みにアリアは困惑してしまっていた(当たり前である)。

 

 

「な、なら鞭で打ってくれてもいい!! 思いっきり!」

 

 

 ここ()でも、ここ()でもどこでもいいから!

 

 

 アベルは自分の腕や脚に触れながらアリアに鞭を振るうよう(こいねが)う。

 

 

「ええええっ!!? 人に向けて鞭を打ち付けたことなんて無いですっ」

 

 

 当然アリアは拒否していた。

 だが、アベルは諦めない。

 

 

「っ、じゃ、じゃあ、(つね)って?(いや、それとも昨日のように踏んでくれても……?)」

 

「つ、抓る!? っ、アベルさん、一体、ど、どうしちゃったんですか……?」

 

 

 食い気味に迫って来るアベルの肩をアリアはやんわりと押し返す。

 その片手をアベルが取ると、両手でぎゅっと包み込んだ。

 

 

「…………っ、僕は強くないんだ。だから、アリアに鍛えて欲しい」

 

「っっ、鍛えてったって……、アベルさん充分お強いではありませんか……!」

 

「っお願いだ!」

 

 

 尚もアベルは食い下がり、アリアをじっと見つめた。

 

 

「ぅ……、も、もぅ……。じゃ、じゃあ、ちょっとだけですよ……?」

 

 

 いつもすぐ目を逸らすのに、どうしてこんな時は見つめて来るの……?

 

 どうして?

 アベルさんの瞳を見ていたら逆らえないんですけど……。

 

 

 アリアは根負けして、アベルの頬に手を伸ばす。

 

 

「ああ! ……さあ、ぎゅーっと!」

 

「っ、…………ぎゅーっとって……。困ります…………、…………っ、えいっ」

 

 

 きゅっ。

 

 

 アリアは目を閉じ、恐る恐るアベルの頬を指で少し抓む。

 

 

「あ……」

 

「…………痛くないですか?」

 

 

 薄っすらと目を開いて、アリアはアベルの反応を窺った。

 

 

「っ……はい、痛くないです……。全然……、むしろ優し過ぎて……」

 

 

 ――物足りないけど、何だこれ?

 

 

 きゅぅ。

 

 

 アベルの胸の奥が小さく音を立てる。

 

 

「ふふっ、アベルさんのほっぺ、柔らかいですねっ」

 

 

 ぷにぷに。

 

 

 っと、アリアが優しくアベルの頬を抓みながら顔を綻ばせ、春の陽光ような温かく優しい笑顔をアベルに向けていた。

 

 

「ぁあ……、うん……」

 

 

 きゅぅぅううん。とアリアの笑顔にアベルの胸が甘く疼く。

 

 

 ――何だコレ?

 

 

 圧倒的多幸感……!!

 ぁあ……僕は今、幸せを感じている……!!!

 

 痛みなんかなくても、こんな気持ちになれるんだ……。

 

 

 アベルは痛みなど要らなかったのだと、漸く【ムチおとこ】の呪縛から解放された気がしたのだった。

 

 そしてアリアはしばらくアベルの頬をぷにぷにしながら微笑み、アベルはアリアの楽しそうな笑顔に見惚れていた。

 

 

 

 

 

 

「……なんだアベルの奴。具合悪いわけじゃなかったのか……。幸せそうな顔しちゃって……」

 

 

 教会から戻って来たヘンリーがアベルとアリアの様子に頬を膨らます。

 

 

 ――アリアも何かすげー楽しそうだし……。つまんねーの……!

 

 

 と。

 

 

 ヘンリーは当然面白くないので二人の元へと走って行く。

 

 

「おーい、二人とも! そんなとこでイチャついてないで教会で休憩させてもらおうぜ! ピエールは先に中で休んでるぞー!」

 

 

 走って来たヘンリーにアリアがハッと気付き、アベルの頬から手を放す。

 

 

「あ……」

 

 

 アベルは離れようとする手に触れ、留めようとするがアリアは恥ずかしいのかパッと手を引いてしまった。

 

 

「っ、……アベルさん、教会で少し休ませていただきましょう?」

 

「うん……」

 

 

 ――もっと触れていて欲しかったな……。

 

 

 照れたように頬を染め、耳に後れ毛を掛けるアリアの仕草を眺めながらアベルは立ち上がる。

 

 そして、

 

 

「……行こう、アリア」

 

 

 アベルは跪座するアリアに目を細めて手を差し出した。

 

 

「ぁ……、っ、はいっ」

 

 

 アリアがアベルの手を取り、立ち上がるとアベルはそのまま教会へと向かう。

 

 

「ぁっ、あのっ、アベルさんっ、手っ、手がっ……!」

 

 

 狼狽えるような彼女の声が後ろに聞こえるがアベルは顔を俯かせ、そのままアリアを引っ張って行った。

 ヘンリーも「お前、ずるいぞ!」と文句を垂れるが無視。

 アベルの耳は真っ赤に染まっていたが、教会に入るまで彼女の手を放すことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 僅かな距離を歩き教会へと到着すると、アベルはアリアの手を放す。

 

 

「……ぁっ……」

 

 

 アリアの声がすぐ後ろに聞こえる。

 少しだけ残念そうに聞こえたのは気のせいなのだろうか。

 

 

「……懐かしいな、教会は無事だったんだね」

 

「ぁ、そのようです。中にいたシスターが仰っていました」

 

 

 この教会に昔君も来たことがあるんだよ、とアベルは教会の扉を開け放った。

 中では見たことのある、雑巾を持ったシスター(また拭き掃除してる&十年前より少し落ち着いている気がする)と奥の祭壇に糸目神父が佇んでいる。

 

 教会の中には長椅子が二台。左右に配置されていた。

 左の椅子にはピエールが既に座っており、転寝中である。

 

 

「リリィさん。少し椅子をお借りします」

 

「ええ、どうぞ」

 

 

 アリアが声を掛けるとシスターが手を止め、頷いてから再び掃除をし始めた。

 リリィ……とはシスターの名前らしい。

 

 

「アベルさん、座って下さい」

 

「あ、うん。……シスターの名前、初めて知ったなぁ……」

 

 

 別に疲れてはいないんだけど、まぁいいか……、とアリアに右の椅子に促されアベルは腰掛けた。

 

 

「え? あ、そうなんですか?」

 

「うん……」

 

 

 アリアもアベルの隣に腰掛け足を伸ばして、とんとん。脹脛(ふくらはぎ)を叩き解す。

 ヘンリーもやってきて、アリアの隣に座ると手を組み背伸びをした。

 

 アベルは教会を見回す。

 

 

「……懐かしいな、君はどう……かな……?」

 

 

 懐かしいステンドグラス窓、懐かしい梁と柱、床と壁の匂い。

 変わらない燭台の配置に、今でも飾られている昔と同じ鉢植えの花々。

 頭で記憶していなくても身体が憶えている。ここに来るとあの頃が蘇るようだ。

 

 

 ――アリアもそうだといいんだけど。

 

 

 アベルは隣に座るアリアに訊ねていた。

 ところが、

 

 

「…………ぅ、うーん……。これといって何も……」

 

 

 アリアは眉をハの字にして首を傾げ、教会内部を見回す。

 けれども何も思い出せないようだった。

 

 

「ははっ、そっか。まぁ、そんな簡単に思い出せたらもう思い出してるか」

 

「ふふっ、本当ですね。でも……、ここはとても落ち着きますね……」

 

「…………そっか。それなら良かった」

 

 

 アベルの言葉にアリアは、奥の方で燃える燭台の揺らめく炎を見つめて呟き目を細める。

 この教会はシスターリリィがいつも手入れし綺麗に整えてくれている。

 思い出せずとも居心地の良さを感じ取ってくれているなら、それだけでいいとアベルはアリアの横顔を眺めて口角を上げた。

 




アベルさんが幸せを感じてくれたなら、それでいい。

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感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!
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