教会にて暫しの休憩。
では、本編どぞ。
けれども、ヘンリーはそう思わなかったようで……。
「…………早く思い出してくれればいいのにさ……」
ぼそっと、ヘンリーが零す。
「……っ! ごめんなさい……。私、ダメダメですね……。早く記憶を取り戻さなくては……」
アリアはヘンリーに向き直り、頭を下げた。
「ヘンリー!? なんてこと言うんだ!? そんなのアリアの所為じゃないじゃないか!」
「っ、わ、悪い……、つい……。今のは、わ、忘れてくれ……」
アベルに諫められヘンリーは溢れ出した感情を抑え込む。
……オレだって、アリアのこと好きだったんだ。
何でも包み込んでくれて、オレに気安く笑い掛けてくれるアリアが好きだったのに……!
今のアリアはまるで別人じゃないか。
記憶喪失になるなんて聞いてない……!
見た目は確かに美人だけど、アベルは何で今のアリアに惚れてるんだ!?
彼女は快活でオレのこと手玉に取って、ちっこい癖に大人で、オレはそんな彼女の性格に惚れたのに。
――……あ。……オレの所為で記憶失くしたんだった……。
アベルとアリアの距離が近付いていることに焦りを感じたのか、ヘンリーはつい口を滑らせてしまっていたのだった。
自分は過去にアリアに振られているため、アベルに譲ると言ったものの、まだ完全に吹っ切れてはいないらしい。
そしてマリアのこともいいなと思っている宙ぶらりんの状態で、胸中は複雑なのだ。
目の前でイチャつかれたらイラっとするに決まってる! とヘンリーは自分でもよくわからない感情に振り回され行動していた。
「っ、ごめんな、アリアさん……」
「いえ……、私の方こそ思い出せず……」
ヘンリーが謝ると、アリアは首を左右に振って微笑んでくれる。
「ぁ……っ。そういうとこは……、変わらないんだな」
「え……?」
「…………、優しいところ。アリアさんは昔も今も優しい……」
以前と変わらぬアリアの優しい微笑みにヘンリーは思う。
……なあ、アリア。
オレは前の君と話がしたいんだよ。
――多くは望まない。
オレを励まして、慰めてくれたらそれだけでいいんだ。
昔のように抱きしめてくれるなら尚いい。
だから早く記憶を取り戻しておくれよ。
アベルのことが好きでもいいからさ……。
「……そう……ですか? よく、わからないです……」
アリアは眉尻を下げ、困ったように目を細めた。
「……君の記憶を取り戻すの、オレも協力する。だからオレを頼ってくれてい……」
ヘンリーは膝に置いていたアリアの左手に触れようとする、と。
アリアの手が膝から消える。
「…………ぁっ」
彼女の手は右隣のアベルに取られ、胸の高さで握られていた。
「……アリア。僕が必ず記憶を戻してあげるから、安心していいよ」
「っ、あっ、アベルさん……、っ、ん……。はぃ……、ぁ、ありがとうございます……(恥ずかしい……)」
アベルが真直ぐにアリアを見つめるので、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「…………ね? ヘンリー?」
――アリアは僕に譲るって言ってたよね?
俯いたアリアの隣のヘンリーに、アベルは冷ややかな視線を送るのだった。
「っ……」
ごくり、ヘンリーの唾を飲み込む音が聞こえる。
「……ヘンリーはもう一度マリアさんに会いたいんだったっけ……?」
「っ……。ぁ、ああそうだよっ!?」
「…………今度会いに行こうね?」
「ッチ……。だなっ」
アベルが冷たい口調で告げるので、ヘンリーは頷くしかなかった。
二人の間に険悪な空気が流れる。
「…………、……あの、お二人ともどうかされたんですか……?」
アリアが不穏な気配を察知し、アベルとヘンリーを交互に窺う。
「え? ううん、何でもないんだ。……アリアの手って、柔らかいね」
「っ!? ぁっ!」
アベルに指摘され、アリアは慌てて手を引っ込める。
「あ(もっと触っていたかったのに)」
「っ……、わ、私あっちの椅子に座ります!」
アベルが見つめる中、アリアは居心地が悪くなったのか立ち上がってピエールの座る椅子へと移動してしまった。
そして、ちらちらとアベルの方を見てくる。
「……可愛いなぁ……」
ぽつりと溢して、アベルは口角を上げた。
するとアリアは恥ずかしそうに俯いてしまう。
さっきまでの僕と真逆だなぁ、なんてアベルはふっと吹き出した。
「……アベル。……おい、アベル」
「ん……?」
「……オレさ……アリアのこと……」
不意にヘンリーがおずおずと口を開くが、
「…………僕の記憶が間違ってなければ、ヘンリーはもうフラれていたと思うんだ。だから、君はアリアに関わらないでくれないかな?」
「なっ、はっきり言うな~!」
アベルが不機嫌にはっきり宣言するので、ヘンリーはムッとする。
「……僕は、今の彼女も気に入ってるよ。記憶があろうとなかろうとね」
「っ、オレは前の彼女がいいけど?」
「……出来れば僕もそれがいいけどさ……。今の彼女も可愛いじゃないか……」
アベルは左の長椅子で、眠るピエールに自分のマントを外して掛けてやるアリアを優し気に見つめる。
アリアはマントを掛け終えると、ピエールの隣で休むアンドレにぎゅっと抱き着き嬉しそうに目を細めていた。
「一理ある。けど、オレはやっぱり昔のあの子がいい……」
「……十年経てば色々変わって当然だよ。君も変わったし、僕もきっと変わった。ありのままの彼女でいいじゃないか」
「お前……、そこまであの子のことを……?」
アベルの発言にヘンリーは目を丸くする。
「どうなんだろう、よくわからない。ただ……、彼女が笑ってくれてたらそれでいいかなって……思ってるかな」
「…………お前、すごい大人だなー……。オレはそんな風には思えないよ」
――記憶が戻ったらアリアに してやりたいことが たくさんあるんだ!
ヘンリーはアベルの懐はでかいな、勝ち目無し……と肩を落とした。
「そう? やっぱり、繰り返してるからかなぁ……」
「ん? 繰り返してってなんだ?」
「ははっ、何でもない。けど、誰かに取られるのは嫌かなー……」
アンドレを抱きしめ、うとうとし出したアリアを眺めつつ、アベルは愛おし気に彼女を見ている。
「はは……。やっぱもう自覚してたんじゃん?」
「…………さあ?」
「奥手なくせにさぁ~」
「ははっ、どうかなぁ?」
((可愛い寝顔……。))
二人は喋りながらアリアの転寝姿を優しく見守った。
アベルさん、絶対はっきり言わないんだっ。
多分ずっと言わないと思うなぁ。
もっとサクサク進んだ方がきっといいのだろうなぁ。
しかし、鈍足。
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