今日は宿屋で一泊。
では、本編どぞ。
アベル達はヘンリーを追って宿へと到着する。
中へと入ると、かつては道具屋だった懐かしい土壁の部屋が広がっていた(道具屋の頃と家具の配置は変わっている)。
ヘンリーは既に宿屋の主人と話をしていて、話が終わると早々に奥の部屋へと歩いて行ってしまう。
「ようこそ旅の宿に、お代はお連れ様からいただきました。それではごゆっくりおやすみください」
アベルが宿屋の主人に話し掛けようとするなり、向こうから話し掛けられた。
「……って、まだ寝るには早いわよねえ。今お茶を出すから奥で寛いでちょうだい」
宿の女将が台所の方からティーポットを持ってやって来ると、アベル達を奥の部屋へと案内してくれる。
ヘンリーは既に、部屋にあったテーブル席に着いており、アベル達も空いた椅子に腰掛けた。
「昔ね、もっとちゃんとした宿屋だったけど兵士達に壊されちゃってねえ……。まあこんな所だけどゆっくり旅の疲れをとって行っておくれよ。このサンタローズは今じゃ何もないけど、昔は聖なる原石を掘りに学者まで来たらしくてね」
話しながら女将がお茶をカップに注ぎ、アベル達四人の前にそれぞれ置いてくれる。
「もしかしたら、今でも洞窟に落ちてる大きな岩なんかに埋もれているかもしれないよ。そうだねえ……、人が下敷きになるくらいの大きな岩ならその中に聖なる原石が残ってるんじゃないかい」
お茶を淹れ終えると女将は“ごゆっくり”と下がって行った。
「へえ……。聖なる原石、か……っ!?(熱っ! 熱過ぎない!?)」
アベルは女将の淹れてくれたお茶を啜り、あちちと舌を出す。
「あっ、大丈夫ですか? 熱いから火傷に気を付けて下さいね。私も舌をちょっと火傷しちゃいました。熱いお茶好きだからいいんですけど……火傷は痛いですよね」
「あっ、う、うん……」
アリアも火傷したのか赤くなった舌先をちろっと出して見せると、朗らかに笑った。
アベルは無邪気に微笑むアリアに目を奪われる。
その間、ヘンリーは黙ったまま何かを思案するように思い詰めた表情をしていた。
アベル達はヘンリーの様子を互いに目配せしながら見守る。
そうしている内に夜になり、ヘンリーは早めに就寝することにしたのかアベル達に背を向け、早々に横になってしまった。
「……ヘンリー……、一体どうしたんだ?」
「……どうしてしまったんでしょうか……」
「…………一国の王子として、何か思う所があるのでしょう」
アベル、アリア、ピエールがヘンリーの背後で寛ぎながら話をしている。
アベルとアリアがヘンリーの背を眺めていると、ピエールは椅子の傍ら、足元で眠るアンドレを撫でながら告げたのだった。
「……王子として……って、ヘンリーさんは何も悪くないじゃないですか……。攫われて、奴隷にされて…………っ」
アリアが苦しそうに顔を顰め口にするが、最後には声を詰まらせてしまう。
今にも泣き出しそうに瞳に涙を溜めてヘンリーの背中を見つめていた。
「アリア……、君って優しいね……(他人のことなのに自分のことのように……)」
ヘンリーが少し羨ましいかな。
君は昔もヘンリーに優しかったっけ……。
もしかしてヘンリーのことを……?
いや、でも求婚は断ってたよね?
――……わからない……。
アリアのことが全然わからない……と、アベルはヘンリーに優しいアリアの横顔をじっと見つめる。
「え……?」
「っ、……ヘンリーはさ、王子だから国の行いについて重く受け止めてるんだと思うよ」
アベルの言葉にアリアが視線を自分に向けるので、アベルはふいっと目線を外す。
「王子……だから……。……っ、王子さまって……、大変なんですね」
「……ん?」
「……国の事を常に考えなければいけないのですね……、お小さい時に攫われ奴隷にされたというのに、自分の事よりも国の事を?」
「アリア……?」
「…………私、そういうの、嫌いです……」
やにわにアリアは俯いてしまう。
「え……」
「……ヘンリーさんは何も悪くない。ヘンリーさんが背負う必要はない。でも……、それじゃいけないんですね……。ヘンリーさんは王子さまだから……」
――なんて不憫な方。
王子でなければそんな悩みを背負う必要はないのに。
いっそ、私のように自由だったなら良かったでしょうに……。
自由な身のアリアにはヘンリーの悩みは理解出来なかった。それでも彼の考えを尊重し、自身に言い聞かせるように呟く。
そして、ヘンリーの悩みが早く解決するといいなと願うのだった。
「…………アリア、僕も同意見だ。ヘンリーは何も悪いことはしていないよ。……けど、彼は責任感が強いから……」
自分の家族が非道な行いをしていたら、やはり悩んでしまうだろう。
自分がやったわけではないが、どう詫びればいいか考えてしまうものだと思う。
それが王族であるなら尚のこと……。
僕にはもう、その家族は居ないから想像の域を出ないけれど……。
ヘンリーは辛いだろうな、何を思ってるんだろうか……。
アリアの想いはよくわからなかったが、アベルは彼女に同意しつつもヘンリーにも同情したのだった。
「…………アベルさんが王子さま じゃなくて良かった」
ふと、アリアが零す。
「え?」
「……王子さまだったら、国の事を常に考えなくてはいけなくなります。私のこと、考える時間……、取れますか……?」
アベルをじっと見つめ、アリアはそんなことを訊ねて来る。
「えっ!!?(どういう意味!?)」
「…………ぁっ、な、何でもないです……。聞かなかったことにして下さい。わ、私、ちょっと外の空気吸って来ますっ!」
アベルが瞳を瞬かせると、アリアはハッとして立ち上がり宿屋を出て行ってしまった。
ほんのり頬が赤かった気がする。
「アリアっ!? 外真っ暗だよ……!?」
宿屋を出て行く彼女の背にアベルは声を掛けていたが、彼女は振り返らなかった。
「っ……、今の、……何? どういう意味……?」
「…………さぁ……、私には分かりかねます……」
アベルがピエールに視線を投げると、ピエールは下を向いてしまう。
「っ、ちょっと心配だから行って来る!」
「っ、はい……」
アリアを追ってアベルも宿屋を後にした。
◇
――宿を出たアリアはというと……。
「……私、何であんなこと言ったんだろう……。やだ……。もう……」
アベルさんに変な誤解を与えたらどうしよう……。
彼はただのお友達なのに……。
――友達なんだもの、少しくらいは私のこと考えてくれているに決まっているわ。
昨日だって、私を庇ってくれて。
今日だって、港まで送って下さったし……(乗れなかったけれど……)。
ピエールさんもアベルさんを信頼されてるみたい。
記憶を取り戻すお手伝いもして下さるって言ってくれている。
ヘンリーさんのこともよくわかってらっしゃるし、とても友達思いの優しい方だわ。
――なのに……。
物足りないって私、思ってしまった……。
もっと、私のこと考えて欲しい……だなんて……。
――どうして……?
アリアは熱い頬に片手を添え、サンタローズの村を歩く。
昼間見た懐かしい感覚を覚えた民家へと足が勝手に向かっていた。
「…………思い出せない。……どうして、思い出せないの? このお家、知っている気がするのに……」
玄関扉があったであろう場所に何となく心惹かれ、毒の水溜まりに足を踏み入れ崩れ落ち、残った外壁に触れる。
するとアリアの頭にチリッとした痛みが走った。
「……ぅ……。私……、やっぱりこのお家を知ってる……。……ここに、誰かを捜しに……、来た……? ぅ……ぅう……」
毒の水が頭を抱えるアリアの身体を侵食していく。
さっきの小さな頭痛と共に身体がだるくなる気がして、身体が鉛のように重くなっていった。
身体が自然と前のめりに倒れて行く。
誰を捜しに来たの……?
ここは、誰の家だったの……?
ここで私……、誰かに……会っ……
アリアは毒の水溜まりに倒れ込み、身体が毒に侵されていくのを感じながら月を見上げていた。
――やっぱり、思い出せない……。
ヘンリーが悩み始め、アリアも記憶を求め、アベルさん……一人楽しそうw
----------------------------------------------------------------------
評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。
読んでいただきありがとうございましたっ!