アリアが毒に侵されちゃったよ、と。
では、本編どぞ。
◇
アベルは宿を出てアリアを捜していたのだが、彼女を見つけられず教会に出向いていた。
「いえ……こちらには来ていませんよ。月の綺麗な夜ですもの、どこかで月を眺めていらっしゃるのでは?」
シスターリリィが首を左右に振って、
「そうですか……あり……」
「……ところで昼間少し気になっていたのだけど、彼女はアベルのいい人なのかしら?」
「っ、えっっ!? い、いやっ?」
アベルはお礼を伝えて教会を後にしようとしたが、シスターリリィが急に質問してくるので、目を見開いてとぼけるように首を傾げた。
「……美人だし……とても素敵なお嬢さんね。昼間お水が欲しいって駆け込んで来た時は心配で堪らないってお顔をされていたのよ。あなた、具合が悪かったんですってね。女の子に心配掛けさせちゃダメじゃない」
「ぁ……アリアが……僕を心配……?」
「ええ、お水を用意するのにちょっと手間取ってしまったのだけど、その間何だか居ても立っても居られないって感じだったわ。ふふっ、アベルったら隅に置けないわね」
二人の関係がどうなのか気にはなったが、シスターリリィはアベルもそういう年になったのね、と微笑ましく思ったようで にこにこと目を細めていた。
「彼女が……僕の心配を……」
何だかくすぐったいな……。
けど、昼間のアレは申し訳ない……。
ごめん、アリア……。
僕は、君に邪なことばかり考えている。
アベルは心の中でアリアに詫びた。
◇◆◇
「……ありがとうございました」
シスターリリィにお礼を告げて、アベルは教会を出る。シスターリリィは優しい笑顔で手を振ってくれた。
そして、アベルは再びアリアを捜すことにする。
「アリアはどこに行ったんだ……?(ちょっと目を離すとすぐ居なくなる……)」
キョロキョロと辺りを見回し、ふと、アベルは自宅の方へと目をやった。
崩れた自宅前に、昼間にはなかった黒い物体が見える。
「……何だ? 昼間あんなものなかったはず……」
その物体が何なのかよくわからないので、アベルは自宅へ確認に向かった。
もし魔物が紛れ込んでいるなら追い払わねばならない。武器に手を添えながら警戒しつつ、足取りはゆっくりと音を立てずに進んだ。
だが近づくにつれ、それは魔物ではないとわかる。
「っ、アリアっ!?」
アベルは驚きに声を上げる。
なんと、自宅前でアリアが毒に侵されたまま倒れていたのだった。
アベルはアリアに気付くと武器から手を放して、走り寄る。
「アリアっ!」
「ぅ……?」
毒の水溜まりに倒れ込むアリアにアベルが声を掛けると、アリアは僅かに顔を上げる。
アリアはアベルを見つめた。
暗闇の中、彼女の瞳が赤く光っている。
「っ……!?(もしかしてこれが呪いか……っ!?)……アリアっ! しっかり!」
アベルがアリアに触れた途端、赤い瞳はいつものアメジストへと戻った。
「ぁ……ぅぅ……、アベルさん……、私……」
彼女はぐったりした様子で呻く。
「アリアっ!? 何があった!?」
「ぅぅ…………」
アベルが語り掛けるが、アリアは小さく呻いただけで瞳を虚ろわせるとそのまま目を閉じてしまった。
「っ……、すぐ宿に連れて行くから!」
アベルはアリアを抱き上げ、宿へと連れて行く。
アリアの意識は既になく、何があったのかアベルは知る術がなかった。
その晩、アリアが目を覚ますことは無く、アベルはしばらく彼女を見守っていたが、次第に眠くなり身体を休めたのだった。
◇
――次の日。
朝早く、アベルはシスターリリィとフィーロ神父を宿屋に呼び出していた。
「まあ……これは酷い……。毒が消えないのですか……?」
シスターリリィが椅子に腰掛け、毒を受けぐったりした様子で眠り続けるアリアの脈を測ると、
はぁ、はぁ……、はぁ、はぁ……、
苦しそうに浅く呼吸するアリアの息遣いが聞こえる。
アリアが眠るベッドの周りに、アベル達を始め、シスターリリィ、フィーロ神父、宿屋の夫婦が集まっていた。
「……さっきキアリーは掛けたんですけど……、昨晩随分長い間 毒に浸かっていたみたいで……」
アベルはベッドを挟んだシスターリリィの向かい側で、アリアの手を握りながらその手元を見つめ唇を噛む。
眉間には皺を寄せており“気付かなくてごめん”と小さくアリアに謝罪した。
二人を呼び出す前にアベルは朝起きてすぐアリアの毒状態に気付き、解毒呪文【キアリー】を掛けていたのだが、彼女には効かなかったのだ。
「フィーロ神父、見て下さい。彼女……」
シスターリリィは立ち上がり、フィーロ神父を呼ぶ。
ベッドの傍らに立っていたフィーロ神父は静かに頷き、シスターリリィと入れ替わりに座ると眠るアリアを見下ろした。
「……どれどれ……ふむ……、解毒が必要だね」
「……背中の方から……、感じませんか?」
「ん? 背中?」
「この辺りです」
フィーロ神父がアリアの頬に触れ様子を見ると、シスターリリィがアリアの身体を横にし、背に注視するよう告げる。
「…………っと。……こ、これ、は……。…………呪い、ですか?」
フィーロ神父がアリアの背に禍々しい呪いを感じ取ったようで、瞳をぱちくりさせた。
アベル達にはただの小さな背中にしか見えないのだが……。
「やっぱり……」
アベルはアリアの手をぎゅっと握ると、ギリッと歯軋りをする。
――ゲマの所為で穢れた……!
アベルが苦々しい顔をする中、フィーロ神父はアリアの背に手を翳して、唾をごくり。
そして、うーん……と唸ってから口を開いた。
「……随分と、強力な呪いですね……。申し訳ありませんが、私の力では解けそうにないです……。ですが、毒の治療なら可能ですよ」
「本当ですか!?」
やっぱり呪いは解けないのか、と思いつつも解毒は可能だと聞き、アベルは毒に侵された顔色の悪いアリアを泣きそうな顔で見つめる。
「ええ、お任せ下さい。ですが、少々お時間が掛かりそうです。今日の夕方までには治るでしょうから、彼女をここでお預かりしても?」
「え……」
フィーロ神父に云われ、アベルは目を瞬かせる。
心配だし、一緒についていた方がいいんだろうか……?
けど、父さんの部屋も気になるし……。
アベルがどうするか迷っていると、
「……アベル。預かってもらおうぜ。このままここで待ってたってオレ達には何も出来ないし、アベルの親父さんの部屋、気になってるんだろ? 解毒が終わってもアリアはすぐに動けないだろうし、一緒に洞窟に入るのは厳しいんじゃないか? だったら彼女を預かってもらってる間にオレ達はアベルの親父さんの部屋に行ってみようぜ」
ヘンリーがアベルの肩を叩く。
最もな意見だなとアベルは思った。
「あ……、っ……そうだね……。すみません。ではお願いします」
「ええ、任せて。きっと元気になるわよ」
アベルがアリアの手を放し立ち上がって頭を下げると、シスターリリィとフィーロ神父が力強く頷く。
アリアの事は心配だったがアベルは聖職者二人に彼女を任せ、ヘンリーとピエールと共にサンタローズの洞窟へ向かうことにしたのだった。
ゲマの呪い……。いつか解けるのかしらん。
ゲマ「ほっほっほっほっ……」
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