じゅーななわ。
レヌール城までそんな直ぐには行かせないんだからねっ。
では、本編どうぞ!
……ビアンカが姿を消し、少し経ってからアリアが溢す。
「……えと……、…………、ははっ、さっきはごめんね、取り乱しちゃった。ぁはは……」
アリアは取り乱した自分を恥じたのか、頭をポリポリと掻いた。笑う仕草はするものの、その表情は強張り笑顔とは程遠い。
そんなアリアの様子をアベルはじーっと窺いながら静かに口を開く。
「……アリア、ドラキーがそんなに怖かったの……?」
「えっ……ぁ……、ぇと……っ、それが、よくわからないの……」
アベルに問われ、アリアは一瞬目を丸くしたかと思うと、頭を左右に振る。
「ん……?」
「……っ、昨日も洞窟でドラキーと遭遇したよね。アベルが倒してくれたけど……」
「うん、ドラキー、アリアが見えてたよね」
アベルは昨日、サンタローズの洞窟で出会ったモンスターの中にドラキーが居たことを覚えているよと、深く頷いた。
「……うん、みたいだね。けど、昨日は何ともなかった……、でもさっき……急に怖くなって……」
ぶるり。
アリアは身体を震わせ、身を護るように自らの手で両腕を掴むと身を竦める。
「……アリア?」
「どうしてだろう……、私、ドラキーが怖いというより、嫌い……? みたい……(可愛い顔してるのに……何で……)」
アリアは自分の言葉に目を瞬かせ、身体の震えを抑えるように言葉を零すと俯いてしまう。
「……そっかぁ……。じゃあ、ドラキーが出たら一番先にやっつけるね。だからアリアはドラキーが出たら逃げて?」
アベルは落ち着いた様子でアリアの両腕を擦った。
すると、アリアは顔を上げてアベルを見上げる。
「っ、あ、ありがとう……(あ、震え止まった……、……かも)」
「…………、もう震えてないね。大丈夫?」
「あ、うん……、ありがとう……。はは……、何か、私ってば情けない……(アベルに擦ってもらったら落ち着いちゃった……)」
……アベルがアリアを落ち着かせるように微笑むと、彼女は漸く乾いた笑いを浮かべた。
「ところで、アリアはどうしてこんな所にいたの? この先歩いて行ったらサンタローズだよ?」
「え……、そうだった!? レヌール城に行こうかと思ってたんだけど……」
アベルの言葉にアリアは目を瞬かせる。
涙はすっかり引っ込んだものの、涙が乾き頬が突っ張る感じがして、彼女は指先で頬を拭った。
「っ、あ、そっか。僕がレヌール城に行くって言って出たから……。ていうか、方向が逆だよ!!」
「そうなのっ!? 私レヌール城がどこにあるか知らなくって、すぐ追い掛けたつもりだったからアベル達にすぐ合流できるかと思ったの」
「……にしたって、方向が真逆だし……、アリアってもしかして方向……音痴?」
アリアの声がいつも通りに戻ったように感じられたアベルは、彼女をちょっとからかうことにした。
「っ!? そ、そんなはずは……!!」
「北はどっち?」
うろたえるアリアにアベルは方角を訊ねる。
すると、
「あっち!」
「ブッブー! そっちは南! 北はこっち!」
「っぐ……」
アリアが北だと思う方へと指で示すが、間違っているので、アベルは正しい方角を教えてあげる。
「西は?」
「っ、北がこっちだから……、あっち!(今度こそ!)」
北がわかったから、西はわかるよね。と訊ねてみるが、アリアは北を指差していた。
僕の話を聞いていなかったの? とでも言いたげにアベルの眉間に皺が寄る。
「……、……本気?」
「え……? あ、えと、そっち……?(っ、何か怒ってない?)」
訝しむアベルの視線に、アリアは自信なさげに今度は東を指し示す。
「……はぁ。……アリア、君一人で町に出ない方がいいと思うよ」
「っ、違ってた!?」
「うんっ! 西はそっち、あっちはさっき言った北だよ? 方向感覚がめちゃくちゃだよ……!」
方角くらいはさすがに覚えた方がいいと思うなぁ、とアベルは思った。
「うぅ……。だって、どこもかしこも同じような風景なんだもん……目印とかあんまりないし……(私にとったらここは土地勘も何もない異世界なんだから、多少の方向音痴はしょうがないのよ……)」
――まぁ、元々、方向音痴の気はあるけど……ねっ!
わかってはいたが六歳の少年に叱られ、アリアの瞳にじわりと涙が滲む。
「っぁ、ごめんごめんっ、地図持ってないもんね、わからないよねっ!」
アリアの半べそに、アベルは慌てて手を合わせて謝った。
……アベルは女の子の涙に弱いらしい。
「ぅぅ。アベルが優秀すぎるんだよ……」
今にも泣きだしそうなアリアが、涙を堪えて半目でアベルを見てくる。
「っ、そんなことないよ! アリアもこの地図見れば覚えられるからっ!(な、泣かないよね……!?)」
アベルは普段使いの道具袋からふしぎな地図を取り出し、アリアの目の前に差し出した。
……開かれた地図には現在地に目印が記されている。
「……何これ……え? ……すごっ! 何この地図! 見やすいね! ……ね、この目印……、もしかしてここが今いる場所なの?」
「うん。移動すると、その目印も動くんだよ」
「ま、マジックアイテムぅ~!!」
――スマホでもないのに現在地が表示されるなんて、凄い!
アベルの説明にアリアの瞳がキラキラと輝き出す。
興味津々で地図を覗いていた。
「ははっ、父さんから貰ったんだ。父さんの昔の友達? が作ったって言ってた」
「パパスさんのお友達ってすごいのね……。わぉ……(こういう時、本当、異世界って感じがするわぁ……)」
アリアは地図を見下ろしながらしみじみと実感する。
そうしてアベルに地図を返した。
「これがあれば、アリアも方向感覚確認できるから、見たくなったらいつでも言ってね」
アベルは地図を袋に仕舞いながら、にっこり笑う。
「うん、ありがとう……。……アベルって、大人びてるって言われない……?(妙に落ち着いてるよね、この子……)」
ぽつり、とアリアがそんなことを訊ねるので、
「えー……、そうかなぁ……? アリアも似たようなものだと思うけど……」
「……六歳っていったら、小学校一年生だよ……? 私、小学一年生の時なんか落ち着きなかったもの」
「小学校って……?」
アリアの言葉にアベルの首がこてんと横に倒れる。
大きな愛らしい瞳がアリアをじっと見ていた。
「っ、あっ! ……ふふっ、何でもない(反応が可愛いなぁ! こういうところは年相応だねっ!)」
「えー! 教えてよぉっ(アリア元気になったみたい。良かった!)」
アリアの様子にアベルは安堵して、彼女の隣に腰掛ける。
「だーめっ! って、そういえば、ビアンカちゃんは?」
「お花を摘みに……?」
「知ってるよ! 戻って来るの遅いから捜しに行こうっ!(あんな小さい子がこんな暗い森でなんて、心配だわ)」
アリアは立ち上がって、お尻に付いた土や樹の皮を払った。
「……そうだね、ちょっと遅いよね。ビアンカも結構強くなったから大丈夫だとは思うけど、捜しに行った方がいいよね」
アベルも立ち上がり、同じようにお尻を叩いたのだった……。
アリアって結構あざとい希ガス。
目的地までダラダラ伸びてしまう私の悪い癖が出てしまいました。
さっさとレヌール城に行けばいいのに~。
でも、まだ行きませんよっ。
その内行きます!(適当)
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!