伝説の武器……あ、持ってるけど? って言っちゃダメ。
では、本編どぞ!
◇
「ラインハットにお勤めに出ていたうちの息子が帰って来たんだよ。偉くなるまで帰らないぞ! なんて言って飛び出したのに情けないよね。でもあたしゃホッとしたわ。これが親心なのかねえ……」
湖を渡った先の民家を訪ねると、先程の兵士服を着た青年の母親なのだろう。中年女性が安堵した顔で頬に手を当て嬉しそうに微笑んでいた。
アベルは「良かったですね」と一言残して、民家を後にする。
三人は元来た道を歩いていた。
「母親ってのはああいうもん、なのかな? ……って、お前に聞いてもそんなことわかんないか。ま、オレも似たようなもんだけどな」
「……うん、母親か……」
母さん……今どうしてるんだろう……。
辛い目に遭ってなければいいけど……。
きっと見つけ出して助けてみせるから……と、アベルは顔も覚えていない今は遠い母親に想いを寄せる。
「……私も記憶が無いからよくわかりませんけど……。私が母親なら、自分の子供が元気で帰って来てくれたらやっぱり嬉しい……と思います。帰って来たら抱きしめて、お腹いっぱいご飯を食べさせてあげたい……です」
アリアは優し気に微笑むと“その前に結婚出来るかはわかりませんけど……”とサイドの髪を耳に掛け、瞳を伏せる。
背中の傷の所為で結婚は無理だと思っているようだ。
「……アリアはいいお母さんになりそうだね」
結婚かぁ……。
まだ早いけど、僕は君となら…………って、わぁーーーー!!
僕は一体何を考えて……!!?
なんてアベルが妄想に顔を赤くしていると。
「主殿!」
「あ、ピエール!」
湖の入口近くでピエールが うろうろしていたのだった。
「皆様ご一緒でしたか。道具屋で会計を済ませて振り返ったら誰もいらっしゃらなかったもので」
「ピエールさん、ごめんなさい」
アリアはピエールを置いて行ったことを謝罪する。
「いえいえ! 町中で良かった。町の入口に馬車もあるから外には出られていないと踏んで、見通しの良いここでお待ちしていたのです」
「ピエール、君、頭いいね!」
「ははは……いや、それ程でも……」
アベルが褒めると、ピエールは照れたように兜の目庇を掴み上げ下げした。
「ンンッ!?」
――今ピエールの顔が見えたような気がしたけど!?
と、アベルはピエールの兜の中が見えた気がして目を丸くする。
「ん? 主殿、何ですかな?」
「あ、いや……、今ピエールの素顔が見えた気がして……」
ピエールに近付いてアベルが覗き込もうとするが、
「…………主殿は助平ですね」
アベルの動きに気付き、ピエールはアンドレを巧みに操ると彼から距離を取った。
「えっっっ!!? どういうこと!?」
「……私の素顔を見てもいいのはアリア嬢ただお一人のみ……(まだ見せたことはありませんが……)」
驚くアベルにピエールはちらっと、アリアに目線を向けて小声で呟く。
その声はアベルにも、アリアにも聞かれることは無かった。
「ピエール?」
「…………ピエールさん、どうかしたんですか?」
アベルとアリアの二人は ぽけーっと同じ顔で首を傾げる。
「……いえ、町の散策を続けましょう」
「ああ、そうだね」
ピエールと合流し、アベル達はしばらく町を歩くことにした。
そうして歩いていると、髭をわっさわっさと蓄えた赤い甲冑の男がアベル達に寄って来る。
「私は伝説の武器を求めて旅をしている。この町に伝説に詳しい男が住んでいるらしいのだが……」
「っ、伝説の武器!?」
男の言葉にアベルは驚いて声を上げてしまった。
「ん……? 何か知っているのか!?」
「あっ、いや……、伝説の武器なんて、は、初めて聞いたから……」
男がアベルとの距離を縮めると、アベルの目が泳ぐ。
そして、額に汗粒が浮かんだ。
アベルは嘘がつけないタイプらしい。
アベルの後ろでヘンリーが“バカッ! 知らないって言え!”と首を横に振って口パクで教えるのだが、男はヘンリーの様子も目聡く見ていたのか、何か訳知り顔だと判断したらしく……、
「何か知っているのだな!? ならば教えてくれっ!! 伝説の武器は今どこに!?」
アベルとヘンリー、二人に語気を荒げ詰め寄ったのだった。
「えっと、本当に僕達は何も……、な、ヘンリー……?」
「っ、そうそう……、オレ達は何にも知らな……」
「いいや、嘘だ! 私は職業柄、人を見る目だけはあるのだ。君達は何かを知っている!!」
二人よりも二回り以上離れているであろう男が、瞳をぎらつかせながらアベルとヘンリーを順に眼球鋭く窺う。
言葉も丁寧で、特に乱暴を働くようなこともない男だが、相当な場数を踏んで来たのだろう、よく見れば甲冑には無数の傷が付いていた。
歴戦の猛者なのかもしれない。
(この人ならもしかしたら伝説の武器を装備出来るかもしれない、ならばこの人が勇者……?)
アベルは一瞬思ったが、勇者にしては歳を取り過ぎているような気がすると思い黙っていた。
「…………っ(どうしよう……)」
面倒な人に声を掛けられたもんだと、どう切り抜けるかアベルは愛想笑いを浮かべながら考える。
が、
「…………あの……、実は私達もそれを知りたくて旅をしているのです。この町に伝説に詳しい男性がいらっしゃるんですね? おじ様、良い事を聞かせて下さりありがとうございます」
アリアが後ろから歩み出て甲冑の男を見上げると、嫣然たる様子で手を組み頭を下げた。
「ん……? っっ!!? こっ、これはなんと……女神っ!!?」
男の顔がアリアを見て一瞬で真っ赤に染まる。
戦いばかりの長旅の所為なのか、女性に対して耐性がないようだ。
見目麗しいアリアにタジタジである。
「…………え? 女神像なら教会に行けばあるのでは……?」
アリアは男の言葉の意味が分からず不思議顔をする。
「いっ、イヤッ、この町の教会に女神像は置いていないっ!」
「まあ、そうなのですね! 私、修道院で暮らしておりましたので、おじ様にお祈りを捧げますわ。伝説の武器が見つかりますように……」
茹で蛸のように顔を真っ赤にする男の手を、アリアはそっと両手で包むと目を閉じ静かに祈る。
その行動に男の目が見開いたかと思うと、次にはアリアの手の触り心地良さからか先程の鋭い眼光がふにゃふにゃに溶けていた。
アリアが祈りを終えると……、
「……そうかぁ。君も伝説の武器を求めていたのか……、そうか……。そうだよなぁ……お互い頑張ろうなぁ……」
男はアリアにデレデレした様子で、先程とは打って変わって彼女に優し気に語り掛けていた。
「……はいっ! 競争ですよっ?」
「見つけたら君にあげようなぁ……」
にこっと、はにかむアリアに男はぼーっと見惚れている。
「アリアすごいな……、おっさん魅了しちまった……(って、見つけたらくれんのかよっ!?)」
「…………はぁ」
アリアと男のやり取りを見ながらヘンリーが零すと、アベルは溜息を吐く。
――僕以外の男の手に触れないで欲しいんだけど……。
けれど窮地は脱したのは事実なので、アベルは何も言えなかった。
「では私達はこれで」
「う、うむ。お嬢さんも頑張れよ!」
アリアがデレデレした甲冑の男に会釈して、アベル達は男から離れるのだった。
アリアはシスターではないので祈りが届いているかは不明です。
アベルとヘンリーって嘘吐けなさそうだよなぁ、そして顔に出そう……と思ったので書いてみました。
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