赤い扉は魔法の鍵が無いと開きません。
では、本編どぞ。
「あと怪しいところは……あの扉かな?」
「見慣れない扉ですね」
アベルとアリアは金細工の施された赤い扉の前までやって来ると、その戸に触れてみた。
「……僕の技術じゃ開かないみたいだな……」
「そうなんですね……。何だかこの扉、不思議な力を感じます」
アベルが扉に触れる隣でアリアも扉に触れ告げる。
扉からは魔力が感じられ、特殊な鍵でなければ開かなそうだった。
「だね……、ね、アリア」
「はい?」
「君、呪文は問題なく使えてるんだよね?」
「え? あ、はい、使えますけど……」
アベルがアリアを見下ろし訊ねると、急に何なのだろうとアリアは小さく頷いた。
記憶を思い出すきっかけになったら、とアベルは過去の話をしてみる。
「昔、君はどんな扉も開く呪文を使ったことがあるんだよ」
「っ!? わ、私がですか!?」
アベルの言葉にアリアは驚きを隠せないのか、口元に手を当て大きく目を見開いたのだった。
「うん。とても頑丈な扉をその呪文一言で開けてみせたんだ」
「……えと……? どんな呪文なんでしょうか……?」
「鍵穴部分に向けて唱えてたから、ここに立ってやってみて」
アベルはアリアの背後に立ち、彼女の肩に触れて鍵穴に近い自分の今居る場所を譲る。
「え、で、でも私そんなの憶えていませんよ……?」
「咄嗟に思い出すかもしれないよ?」
アリアが背後のアベルを窺うが、アベルはにっこりと彼女を安心させるように微笑んだ。
「っ、アベルさんはその呪文を憶えていますか?」
「んー……、なんだったかな……、“ア”で始まった言葉だったと思うけど……鍵穴に手を
あの時は必死だったから、アリアの云った呪文なんて憶えてられなかったんだよな……。
僕が使えなくても憶えておけば良かったなぁ……。
ごめんねアリア、と心で詫びながら、とりあえず彼女にやらせてみることにする。
アベルは横でじっと見ているよりは後ろに居た方が集中できるだろうと、アリアのすぐ後ろで様子を見ることにした。
「……“ア”で始まる呪文……??? っ、う~ん……」
アリアは鍵穴に手を翳すが、思い出せず難しい顔をする。
そして何とか思い出せないかと目を閉じ、記憶を探ってみるのだった。
――…………ア、……ア、ア、……バ……、バ! ……アババ……?
何とか二文字目まで思い出すのだが、その先が続かない。
「……アバババ……。…………お手上げです…………」
「…………、…………プッ! あはははっ!! それ呪文じゃないと思うよ?」
アリアが扉の前でお手上げポーズで首を横に振ると、アベルは思わず吹き出してしまった。
笑いのツボに入ったのか、アリアの後ろでアベルは腹を抱え笑っている。アリアには悪いと思いつつも、酒の所為もあるのか声が我慢出来なかったようだ。
「っ!? 笑うなんてひどいですっ。私憶えて無いって言ったのにっ!」
“はははっ!”とアベルは何が面白いのか笑い続けている。
笑われて恥ずかしくなったのか、くるりとアリアはアベルに振り返った。
「アベルさん、いじわるですよっ?」
「はははっ、ごめんごめん。何かツボに入っちゃっ…………て…………」
アリアがアベルを見上げて頬を膨らます様に、
はた、
と。アベルは黙り込んでしまった。
アベルはアリアの直ぐ後ろで、鍵穴を覗き込むように前のめりで様子を見ていたのだが、彼女が振り返ると思いの他二人の距離が近く、あと10センチで鼻先が触れそうな程だった。
「……ぁ……」
アリアも目の前に迫るアベルの顔に言葉を失う。
「…………っ、…………アリア…………」
アベルはアリアを扉と自分の間に挟み、自分の片手、前腕を開かない扉に押し付けると、彼女を扉に追い詰めるようにその距離をさらに縮めていった(所謂壁ドンである)。
「ぁ……、……アベ……ル……さん……?」
迫るアベルの影に覆われて、アリアの紫水晶に彼だけが映り込み、瞳の中の男の顔が段々と大きくなっていく。
アリアは動けないのか、真直ぐにアベルを見上げたまま頬だけ真っ赤に染めていた。
――アリアの唇まで、あと、5センチ。
盲目的にアベルは、酒の所為で血色の良くなったアリアの赤く艶のある唇だけを見ている。
――あと、3センチ。
ぷるぷると潤いのある真っ赤な林檎のような色をした唇が、薄く開いて小さく息を吐き出した。
「ぁ……(アリアの吐息……!)」
アベルにアリアの吐息が掛かると、アベルはその吐息を飲み込むようにスゥッと吸い込む。
……呼気が甘い気がした。
――あと、1センチ。
もう、殆ど距離など感じないくらいアベルの顔が近づくと、彼女の赤い唇が小さく震える。
ごくり、とアベルの咽喉が鳴った。
「……アリア……」
アベルは小さく彼女の名を
その瞳は獰猛さを少し孕んで、吐き出す息は熱かった。
「ぁ、ぁ……ぁの……っ…………、…………ぁ……」
彼女の鼻先にアベルの熱い吐息が掛かる。
アリアが欲しいとねだるようなアベルの甘い囁きに、アリアは観念したのか目を閉じた…………
――のだが、しかし!!
そうは問屋が卸さないのである。
「おーい! 二人とも! オレ眠いからそろそろ宿に行こうぜ~!」
ヘンリーの声が一階から地下室に降って来る。
そして、上で眠っていたはずのヘンリーが階段を下りて来たのだった。
「「っっ!!??」」
二人は慌ててそれぞれ逆向きに首を捻った。
その際、ふにっ、と僅かではあるが二人の唇に何かが触れた気がする。
「「っっ……!!?(今のはっ!?)」」
アベルとアリアの逸らした顔は耳まで真っ赤に変化していた。
アベルは扉に当てていた前腕を元に戻し、アリアはアリアでアベルから距離を取る。
二人はヘンリーが地下室まで下りて来るまでに離れたのだった。
「ん~……地下はカビ臭いなぁ……。何かいいもんでもあったかい?」
「えっ!? あ、い、いや……?」
ヘンリーが訊ねると、アベルは“はは”と乾いた笑いを浮かべて後頭部を掻く。
――いいとこだったのにっ!!
チッとアベルはヘンリーやアリアに聞こえないくらい小さく舌打ちをした。
アベルに訊ね終えたヘンリーが今度はアリアにも声を掛ける。
「……ふーん? アリアさん……、いや……、何か二人とも顔赤いな? 飲み過ぎたんじゃないか?」
「ぁっ……ぇと……」
じぃ~っとヘンリーに見つめられ、アリアも“はは”と乾いた笑いを浮かべて、上目遣いでアベルをちらっと見たのだった。
彼女は赤い顔で、恥ずかしそうにアベルを窺っている。
「っ!?」
アリア!? 何でそんな瞳で僕を見るんだ!?
さっきの……、あれ、アリアの…………だよね!!?
アリアの唇に触れたかもしれない事実に興奮を覚えたのか、アベルの瞳がカッと見開く。
そんなアベルの様子にアリアは、
「っ……、わ、私も酔っちゃいました……。宿に戻りましょう……?」
ヘンリーの手を取り歩き出すのだった。
「えっ、ちょ!?(な、何で!?)」
アベルはアリアの行動に驚く。
「っ、アリアさん、オレでいいの?」
「え?」
「……いや、まぁ、いいや。オレが宿屋まで責任もってお連れしますよ!」
ヘンリーはアリアの手を自分の前腕に持ち替えさせて、スマートにエスコートし階段を上がって行った。
「っ、アリア……、どうして…………」
さっき、目を閉じてたよね……? 気の所為?
何で、ヘンリーと手を組んで行くんだ……?
残されたアベルは訳がわからず二人の後について行く。
僅かに触れたかもしれない柔らかい感触に愉悦していたのも束の間、アリアの態度にアベルは不安を感じてしまうのだった。
実際は酒飲んだ後の息って酒臭いよね。(ぶち壊し)
決して甘くはないな。フィクションだから書けることですね。
ちゅー未遂の回でした!(触れたか触れないかはご想像にお任せします)
まださせてあげないからね、アベル君。
と、でも、初めてアリアを見つけた日、アベルってアリアに口移ししてるんですよね……。
先日ふと調べたいことがあって読み返してたら出てきてびっくり。
すっかり忘れてたんだけど……w
少年アベルの方は「ガンガン行こうぜ」で、青年アベルは「バッチリがんばれ」って感じですかね。
大人になると慎重になるものですね~。
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読んでいただきありがとうございましたっ!