三階の部屋へとやって来ましたよ。
では本編。
――そうして、三階にやって来たアベルとアリアはというと。
「お邪魔します。わぁ……! 素敵なお部屋ですね!」
三階の客室にやって来るなりアリアは瞳を輝かせていた。
部屋の様子は十年前と変わっていない。
アリアは窓の方へと歩いて行くと、窓を開け放った。開いた窓からは心地好い風が入ってきて、アリアの髪を靡かせる。
ふわふわとスカートも微かに揺らすが、捲れることは無かった。
「いい眺めですね~っ!」
アリアは風に揺れる髪を押えながら、町を見渡している。
ここが町一番の高所になる為、広場のある湖が見え、水面がキラキラと輝く様や、教会の屋根の上の十字架に小鳥が止まる様、町を歩く人々の様子がよく見えた。
その後ろでは、
((っち、惜しい! もうちょっとだったのに!))
アベルとヘンリーは舌打ちをして互いに見合っていた。
『っ、何見てるんだ! ヘンリーはダメだよ!?』
『何言ってんだ、お前もだよ!』
こそこそと二人はいがみ合う。
「……あ。いけない。お部屋よく見てみなきゃですね!」
アリアがアベルとヘンリーに振り返ると、二人は互いに首元を掴み合っていた。
「え……、ど、どうしたんですか??(喧嘩!?)」
アリアが瞳をぱちぱちと瞬かせ二人を窺うと、二人は同時に手を放す。
「あ、い、いや……何でもないよ? なっ、ヘンリー?」
「ああ、な、何でもない。なっ、アベル?」
“オレ達は仲が良いんだぜ!”
ヘンリーは咄嗟にアベルと肩を組んで仲良しアピールをした。
アベルはアリアから わからないようにヘンリーの肩を強く掴む。
ギュゥゥゥゥ!
(地味に痛ぇ! アベルの奴!)
咄嗟にヘンリーはアベルに仕返しと、彼の足を踏んづけたのだった。
アリアとの間にベッドがあるので、踏んづけた様子は彼女からは見えない。
「いっ!!?」
アベルは眉を顰める。
「ふふっ、そうですか。喧嘩するほど仲が良いとも聞きますよね。アベルさんとヘンリーさんは本当に仲良しなんですね(あれ? 今アベルさん何か言わなかった?)」
アリアが二人を見つめるが、アベルとヘンリーはにこにこするだけで黙り込んでいた。
「……? どうかしましたか?」
何だか二人の様子がおかしい気がする……、とアリアは首を傾げるのだが、アベルとヘンリーは彼女に笑顔を向けながら互いに地味な争いを繰り広げる。
『っ、アリアをそういう風に見るなって言ったよね!?』
『うるさいな、可愛いんだからしょうがないだろ』
『君にはマリアさんがいるだろう!?』
『それとこれとは別だよ!(ってかそもそもアリアも好きなんだけど!?)』
ベッドの下で二人は互いの足を踏ん付け合う。
意地になってやり合い、二人はちょっぴり涙目になっていた。
こんなこと初めてしたような気がする……と、アベルは足を痛め涙目になりつつもこう思う。
(やっぱりアリアと居ると、退屈しないなぁ! ……痛い……)
ヘンリーに負けるわけに行かないので、決して“痛い”なんて口には出さなかった。
不意に、ピィ、と。
窓に一羽の小鳥が何処からともなく飛んで来て、窓枠に止まる。
「…………? あ、小鳥……」
アベルとヘンリーの様子を見ていたアリアだったが、小鳥の声に窓へと向き直った。
「ふふっ、小鳥さんこんにちは。私はアリア。あなたは……?」
アリアが人差し指をそっと小鳥の前に差し出すと、小鳥は小さな翼を羽ばたかせアリアの肩口に乗っかる。
“チチチ……ピィ”
小鳥がアリアに返事をするようにさえずった。
「へえ……、旅をしているの? ふふっ、私と同じだね」
“ピィピィ”
アリアが言葉を掛けると、小鳥がさえずる。
小鳥がさえずると、アリアは穏やかに目を細めて微笑んだ。
彼女のその様子にアベルとヘンリーはいつの間にか足の踏みつけ合いを止め、見惚れる。
((天使……いや、女神がいる……!))
つい、ぼーっとしてしまう二人。
そうしてアリアが小鳥と二言三言会話をし終えると、小鳥は飛び去っていく。
「またね」
アリアは手を振って、飛んでいく小鳥を見送っていた。
すると、
「……アリア」
アベルがヘンリーから離れ、アリアの傍へとやって来る。
「……あっ、ごめんなさい。私ったら小鳥に夢中になってしまって……」
「いや、いいよ。もしかして、アリアって動物と話が出来たりするのかい?」
アリアがアベルの声に振り返ると、アベルは優し気な瞳で彼女を見下ろしていた。
「え? あ、はい……何となく……ですけど……」
ほんのりと頬を赤らめ、アリアはアベルを見上げ小さく頷く。
「へぇ……何となくわかるんだね……」
身長差で自然と上目遣いになってしまう彼女にアベルは、
“くっ、可愛い……!!”
と、胸がきゅぅっと締め付けられ「ぉぅふっ!」と妙な声を上げてしまった。
「…………おふ?」
「っ……、な、何でもないんだ……。ぼ、僕は魔物の気持ちが何となくわかるんだ」
――アリアに見つめられると顔が熱くなるな……。
アリアが首を傾げるとアベルは視線を外し、彼女の隣に移動して窓枠に手を掛ける。
恥ずかしくて彼女の顔をまともに見れないので、町の景色を見下ろした。
「ふふっ、そうですよね。アベルさん、魔物を仲間にしちゃえるくらいですもの。すごいです」
アベルさん頬っぺが赤いです……。
もしかして、照れているのですか……?
アリアははにかみつつも、頬の赤いアベルの横顔を見つめる。
アベルはアリアの視線に、腋汗が滲んでいくのを感じた。
(アリアが僕を見てる……。嬉しいけど恥ずかしい。緊張する……!!)
アベルの鼓動がドクドクドクと逸る。
(い、言わないと……!)
ヘンリーやピエールといつも何を話しているのかはわからないが、僕だって話したっていいはずだ。
“アリアともっと話がしたい!”その一心でアベルは口を開いた。
「……ど、動物と魔物の言ってることがわかるなんて……僕達、に、に……」
「…………、……にに?」
窓の外を見下ろしながらアベルは話すが、どうにもうまく言えずに
最後の一言だけでも、彼女の目を見て言いたいものだ、と。
アベルは隣に立つアリアに顔を向けた。
「似てるよね……?」
「っ! …………、ぁ……、は、はい……」
アベルが恥ずかしさに打ち勝ちアリアに優しく笑い掛けると、彼女は小さく息を呑んでうんうんと頷く。
彼女も恥ずかしかったのだろうか……、俯いてしまった。
「……アリア……(何でそんな反応するんだ……?)」
アベルの位置からは髪の間から彼女の耳が見えて、その耳が赤く色付いているのがわかる。
――君がそんな反応すると、勘違いしてしまいそうだよ……。
可愛いからしばらく見てようかな……とアベルはアリアが顔を上げるまでじっと彼女を見下ろしていた。
そんな中、
「…………、オレ、ちょっと外で空気吸って来る。ここ、甘ったるくてヤダ」
ヘンリーが呟いて静かに部屋を出て行き、扉の閉まった音がした。
ヘンリー君、居た堪れないよね……。ごめんね。
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