誰かに辛い事を吐露するのもいいよね。
では、本編どぞ。
「そうだったのですね……。では、アリアさんは帰宅途中で魔物に襲われたのですね……そして、ご両親はその時に……なんということでしょう……」
ヘンリーの言葉にマザーが勝手に話を膨らませていく。
アリアはヘンリー達と別れた後に、魔物に襲われ大怪我を負ったということになったようだ。
「あ……、えと……ちが……(参ったな……)」
咄嗟に嘘言っちまったけど、大丈夫……だよな?
これ以上嘘を重ねなきゃ、いい……よな?
今更“アリアはアベルの父パパスと共に殺されかけたんだ”とは言えず、ヘンリーは訂正しなかった。
「そんなことがあったとは……アリアさんの記憶は戻らない方がいいのかもしれませんわね……」
「え」
「……ご両親が亡くなったのを目の当たりにしていたとしたら……心中察するに余りありますもの……」
そう云ってマザーは“うっ、うっ”と顔を覆って泣き始めてしまう。
「マ、マザー……、…………っ」
――嘘なんか吐くんじゃなかった……!!
マザーの涙にヘンリーは後悔し、彼女の肩を撫でる。
それでも“違う”と訂正する勇気は無かった。
◇
マザーから話を聞いた後でヘンリーは、アリアにどう声を掛けていいのかわからないまま、夕方にマリアの所へともう一度行き他愛もない話をして癒され客室へと戻るのだった。
(マリアさんと話をしていると、気が楽になるな……)
ほっと一息ついて、ヘンリーはベッドに腰掛ける。
マザーからアリアには自分から話すから、昔の知り合いだということは今は黙っておいて欲しいと頼まれた。
急に過去の話を突き付けたらアリアが混乱しかねないだろうという判断である。
ヘンリーが隣のベッドに目線を向けると、横たわるアベルは眠り続けたままで、時々「アリア……」と呟いている。
「……アベル……、アリアは生きていたぞ。良かったな……」
アリアが生きていたことは嬉しい……。
けど、オレ……、嘘を吐いちまった……。
ヘンリーは良心の呵責に
「はは……オレって情けねーの……」
……その日はそうして終わった。
◇◆◇
次の日の昼過ぎ――。
アリアが客室に新しいシーツを持ってやって来ていた。
「こんにちは、ヘンリーさん。シーツ、お取り返させていただきますね」
「あ、……アリアさん……。ありがとう……」
ヘンリーは部屋にあった椅子に腰掛け本を読んでいたのだが、顔を上げてアリアに会釈する。
昔大好きだった彼女なのに、アリアを前にしたヘンリーは後ろめたくて視線を合わせられなかった。
不意にヘンリーの心の中で葛藤が生まれる。
今彼女に記憶を思い出されたらオレは責められるんじゃないのか……?
彼女を居ない者として扱ったことがバレたら、薄情な奴だと後ろ指を指されるんじゃ?
当然アベルは怒るだろうし、アリアにも嫌われる。
それに、マリアさんにも嫌われたらオレは立ち直れない……。
ヘンリーは、アリアの記憶が戻って欲しくないわけではないのだが、気まずくて仕方なかった。
「アベルさんのご様子はいかがでしょうか?」
「あ、よく寝てる」
アリアはヘンリーのベッドのシーツを取り替えると、隣のベッドに眠るアベルを覗き込んでいた。
「…………、そうみたいですね(熱は無いかしら……?)」
『ァ……アリア……』
アベルの唇から声が漏れる。
「…………。アリアって……、私のこと……でしょうか……?」
「え?」
アリアはアベルの額に手を当て、熱がないか調べつつヘンリーに訊ねた。
熱は平熱のようで、アリアは安堵する。
アリアの手が触れると、アベルの唇が一瞬弧を描いたように見えたのは気のせいだろうか。
その様子を見たヘンリーは、“アベルの奴、アリアだってわかってんのかな……”と不思議に思うのだった。
そんなことは知らないアリアが口を開く。
「……時々、アベルさん、私の名前を呟くのですが……、人違い……ですよね……?」
「…………、あ、…………た、多分……?(あ、ヤベまた……!)」
ヘンリーは咄嗟に答えてしまった。
「……そうですか……。…………」
アリアは黙り込んで部屋から出て行こうと扉へと歩いて行く。
「あっ、アリアさん……、あの……、さ……」
「…………あ、そうだヘンリーさん。マリアさんが先程ヘンリーさんを捜していらっしゃいましたよ」
ヘンリーが呼び止めようとすると、アリアが振り返り、思い出したかのように告げた。
「えっ! マリアさんが!?」
「はい、もう動けるから少し外を歩いてみたいと仰っていて。私がお付き合い出来れば良かったのですが、あいにく仕事がありまして……。ヘンリーさんに案内して頂いたらどうですかと おすすめしたんです。先程祭壇でマザーとお話していらっしゃったので、良かったら行って差し上げてくださいませんか?」
「っ、ああ! 任せてくれっ!!」
「ふふっ、ではお願いします」
そうして、ヘンリーはアリアと共に客室を後にした。
アリアは部屋のすぐ傍の階段から一階へと下りて行き、ヘンリーは二階の通路を行き、祭壇に向かう。
祭壇ではマザーとマリアが雑談をしており、ヘンリーが辿り着く頃丁度会話を終えたのだった。
マリアと祭壇で合流し、まだ少し足元がふらつくマリアを時々支えつつ、ヘンリーは修道院の外へと彼女を連れ出し修道院脇にいる猫と戯れたり、海風に当たりながら、昨日のように他愛もない話をした。
マリアはアベルの事が気に掛かっていた様子だったが、「アリア……」と呟くアベルを見せるのは可哀想な気がして、ヘンリーは「気持ち良さそうに眠ってる」とだけ伝えて黙っておいた。
「そうですか……。早くお目覚めになると良いのですが……」
「はは……、そうだよな~……。一番最初に寝たくせによく寝るよなっ!」
二人は修道院前のベンチまで移動して、座りながら話を続ける。
「なぁ、マリアさん……。ちょっと質問なんだけどさ……」
「? はい……? 何でしょうか……?」
小鳥のさえずりと蝶が数頭舞う花々を前に、ヘンリーはマリアに質問を持ちかける。
「……これは、昔読んだ本の話なんだけどさ」
「本……童話ですか……?」
「うん……、ある少年が大人になり強くなって国を救うって話さ。その話の主人公は親に恵まれなくて、小さい頃はやさぐれていたんだ。けど、ある女の子がとても優しくしてくれて、主人公は彼女に恋をした」
「恋物語ですのね?」
「…………どうかな? けど、ある日、主人公が危険な洞窟に女の子を連れて行ったんだ。そしたら、その女の子は主人公の所為で命を落としてしまったんだよ」
「まあ……お可哀想に……」
ヘンリーの話にマリアは眉をハの字に下げた。
「……でも、実は彼女は生きていて、大人になって再会することができるんだ」
「……。良かったですわ……、冒険物語だったのですね」
マリアはほっと息を吐く。
「……けど、再会した彼女は記憶を失っちまっててさ。お互いが大人になっていたこともあって、彼女に気付くのが遅かった主人公は、彼女は自分の所為で死んだのではなく、始めから洞窟に行ってなかったんだ、と皆に話をしていたんだ」
「まあ……。何故そのようなことを……?」
ヘンリーが話す毎に、マリアが驚いたり、悲しんだり、目蓋を瞬かせたりと表情を変えていく。
「……っ……。彼女が亡くなった光景が目に焼き付いて辛かったんだ……。思い出したくない程に……。結果的に彼女は生きていて、記憶を失くしてしまって……今は後悔してる……」
穏やかな日差しの下で、ヘンリーは手を組み額に当てて俯いた。
「…………、…………ヘンリーさん……?」
マリアはヘンリーの様子にどうしたのだろうと、首を傾げる。
「…………と、書いてあったなっ。時系列的には、皆に喋った後で彼女と再会するんだけど、皆にも、彼女にも、本当のことが言い出せなくなってしまって……。…………そこで質問なんだけど……」
「……はい」
「……その主人公って酷い奴だよな。女の子のこと、すごく好きだったのに、居なかったなんて広めちまうんだからさ」
ヘンリーは少し涙目で口角を上げる。
「…………、…………ヘンリーさん……」
マリアはヘンリーのその顔に、そこまで感情移入出来る物語なのですね……とその本を読んでみたくなったのだった。
思いの外、ヘンリーの回想が長くなってしまい……。
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