ヘンリー君は後ろめたい。
では、本編どうぞ。
「……マリアさんはどう思った? ……主人公を軽蔑する?」
「…………、…………、うーん……、…………、…………いいえ」
ヘンリーの問いに、マリアは深く考えてから首を左右に振る。
「え……?」
「……その主人公の方、後悔していらっしゃるんでしょう?」
「……うん。小さな嘘を一つ吐いたら、今更皆に違うとも言えず嘘を上塗りしていくことになって苦しんでる…………、って書かれてたな」
「……彼女は何て?」
「うーん……、どうだったかな……、記憶は失ったままで、主人公のことも憶えてなくて……けど、笑顔で挨拶してくれてた……とこまでしか読んでなくて……」
ヘンリーは頬をぽりぽりと掻く。
「未完なんですの?」
「あー……、と。いや、オレが読んでないだけだよ」
マリアの問い掛けにこれ以上嘘を吐きたくないので、ヘンリーは無難に躱した。
「そうですか……。その女の子は優しい子だったのですよね?」
「あ、うん。すごく優しい子だった。親の愛情に飢えた主人公を温かく包み込んでくれたんだ」
「……天使みたいな子なのですね……」
「…………っ、えと……そう、天使みたいな子だったって書いてあった……かな?」
――マリアさん鋭いな……!
ヘンリーの声が上擦ってしまう。
「……そういう子なら、小さな嘘くらい許して下さるのでは……?」
「え……?」
「主人公は彼女が消えてしまった光景を思い出したくない程、お辛かったのでしょう? でも、彼女は記憶を失ったとはいえ、生きていて、笑顔で挨拶してくれる。彼女の気質は変わっていないと思います。だから、思い出したらきっと笑って許してくれますわ」
「ぁ……」
マリアがにっこりと優しい笑みを浮かべると、ヘンリーはハッと我に返る。
――……そうだよ、アリアならきっと。
「人は誰しも自分が責められたくないと思うものですわ。小さな嘘を吐いた後で抱く後悔の気持ちがあるのなら、懺悔するか、彼女をサポートして差し上げれば良いのでは……?」
「懺悔か、彼女をサポート……」
神に懺悔? いや、この場合本人にか……?
もしくは、彼女をサポートする……か。
アリアをサポートする、思い出したなら全力で謝る。
……それくらいなら出来そうだとヘンリーは組んでいた手を外し、今度は腕組みをした。
(どうやって思い出してもらえばいいんだ……?)
「……先の展開がどうなのかわかりませんが、主人公は彼女と結ばれたいのでしょうか……?」
マリアは首を傾げる。
「あっ! それはないと思うっ!」
「え?」
「……主人公には他に気になる女性が既にいるって書いてあったから。ただ、やっぱ罪悪感ていうのかな……、それだけでも払拭したいんだ……、って書いてあった気がする。それに、昔のように友達として仲良く話したいとも書いてあったかなぁ?」
「なるほど……。主人公には既に別の想い人がいらっしゃいましたか……」
ムムム。
とマリアも腕組みをして唸り出してしまった。
「ん? もしかしてマリアさんは女の子と主人公がくっつく方がいいって思ってる?」
「そうですねー……、やはり始めに出て来た女の子を応援してしまいますわね」
「ふーん……。そんなもんかな……」
ヘンリーは女の子推しをするマリアを頬を掻きながら眺める。
……マリアさん、話を聞いてくれてありがとう。
少し、気が楽になったよ。
先ずは、アリアとちゃんと話が出来るようにならないとな……とヘンリーは今日またアリアに会ったら話し掛けてみようと思うのだった。
マリアに話を聞いてもらい、活路を見出したヘンリーであった。
◇
「アリアさん。手伝うよ」
「え? あ、大丈夫ですよ……?」
あれからマリアと別れ、ヘンリーは食堂で大きな鍋をゆっくりかき混ぜるエプロン姿のアリアに話し掛けていた。
鍋の中では魚介類が煮込まれている。
赤い色のスープからは魚介と香味野菜の香りが漂ってきていた。
「好い匂いがするなぁ! これ何だい?」
「あ、えと……、ヘンリーさん、近いです……」
ヘンリーが鍋を混ぜるアリアを覗き込むように近づくと、アリアがビクッと肩を揺らし頬を染めた。
「あ。ごめん……」
ヘンリーは咄嗟に一歩下がる。
「す、すみません……。後ろに立たれると何故かびっくりしちゃって……」
アリアは恥ずかしそうに上目遣いでヘンリーを窺った。
「……そうなんだ……」
――うっ、可愛い……。
つい、ヘンリーも釣られて頬を染めてしまう。
マリアに惹かれているというのに、どうしようもない男である。
「ふふっ、何故かはよくわからないんですけどね」
「へ、へえ……」
後ろに立たれると驚くって、ゲマが翼を引き千切ったから……かな……。
くそ……っ!
アリアの言葉にヘンリーは歯噛みする。
今更だが十年前攫われた時にアリアの手を掴んでしまったことが悔やまれた。
「……あ、ふふっ。今夜はトマトの魚介煮込みスープです。シスターと一緒に仕掛けた網で取れたお魚達がたっぷり! 楽しみにしていて下さいねっ」
何も知らないアリアはヘンリーに笑顔を向けると、味の調整をし始めた。
「あ、うん……」
くそ……、相変わらず可愛いな……。
何でオレ、こんな可愛い子を居ないものとして扱ったんだよ……。
酷すぎるだろ……。
ヘンリーは悔やんでも悔やみきれなかった。
……そうしてその日の晩、アリアはマザーからヘンリーとアベルが友達だったことを知らされた。
マザーが話した方がいいと判断したのだろう。
過去を知らされてもアリアは意外にもケロッとしており、ヘンリーはほっとしたのだが、アリアの変わらない遠慮がちな態度に余計に罪悪感が募ってしまったのだった。
◇◆◇
修道院に流れ着いて四日目の朝、ヘンリーはマリアの元を訪れていた。
「マリアさん……、昨日の話の続きを話してもいいかな……? 思い出したことがあって」
「あ、ヘンリーさん。構いませんよ、どんなことですか?」
「…………聞いて欲しいんだ……」
「…………、はい……」
ヘンリーはマリアに昨日の話の続きをした。
話の続きを思い出したが、やっぱり主人公は罪悪感で押し潰されそうなのだと告げる。
物語の話をするヘンリーの表情が何だか暗く感じて、マリアはただ黙ってヘンリーの話を聞いてくれていた。
アリアの記憶が戻るまで、悔悟の念は消えそうにもなかったが、マリアに話を聞いてもらうと癒されたのだった……。
◇
◇
◇
「……はぁ。マリアさんに逢いたくなって来たな……」
アルカパの宿屋、三階バルコニーでヘンリーはアルカパの町を見下ろし溜息を吐く。
目を閉じるとマリアの笑顔が浮かんだ。
そういや、彼女はアベルを想っているんだよな……。
さっきの雰囲気じゃ、アリアもか……?
アベルはアリアを選ぶだろうし……、
「てか、あぁ……オレ、どっちにしても報われなくない……? まぁ、嘘吐いた罰ってヤツか……」
頭を両手でぐしゃぐしゃと掻き回し、ヘンリーは考えるのを止める。
そこへ少し強めの風が吹き、ヘンリーの髪を揺らした。
――そろそろ戻るかな……。二人がくっつくのを応援してるけど何か腹が立つし、邪魔してやんなきゃな!
直ぐ手前で実り始めた葡萄が風に揺れる。
ヘンリーはその実を一粒取って、口に入れた。
「しっぶっ!!」
うえぇ……ぺっぺ!
思わず吐き出し、ヘンリーは部屋へと戻るのだった。
外伝にすれば良かったかなというエピソードでした。
ヘンリーとアベルのアリアに対する態度の違いを書きたかったのですが、上手く表現出来なかったかなぁ……。敗北。
もっと長くなりそうだったので、途中で切り上げてしまいました。
蛇足感半端ないっすね。笑って許してやってください。
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読んでいただきありがとうございましたっ!