The 蛇足。レヌール城に寄ってみましたよ、と。
では、本編どぞ。
次の日、アベル達はレヌール城へとやって来ていた。
「へえ……ここがアベルが昔お化け退治したっていう城か~。夜中に子供の足でこんな所まで来るなんてお前もよくやったよな」
今はもう穏やかな空気しか感じないレヌール城を見上げると、ヘンリーが感心したように告げた。
「ここに……来たんですか……? 本当に……?」
アリアはちょっぴり怖いのか、手を胸の前で組んで不安そうに辺りを見回していた。
「うん、僕とビアンカとアリアの三人で夜にこっそり町を抜け出して、ね」
「三人で……、夜に……、すごい……」
昔のように怪しい気配は感じないとはいえ、廃城となってしまったレヌール城はそれだけで充分不気味なのである。
アリアは“夜は行きたくないです……”とふるふる震えていた。
「…………怖いなら、手、繋ぐ? 中は少し暗いよ?」
「へっ? ぁ……、っ……だ、大丈夫です……」
アベルが手を差し出すとアリアはぽっと頬を染めて頭を横に振る。
「……なんだ(残念……)……じょ、冗談だよ……」
「っ、冗談って……、も、もぅ……。からかわないで下さいっ。本気にしちゃうところでしたよ……」
アベルはアリアに断られたため、差し出した手を引っ込め頭の後ろを掻いた。
アリアはからかわれたと思い頬を膨らますが、アベルの引っ込めた手をじっと見つめていた。
「…………やっぱり、繋ぐ?」
「っ、繋ぎませんっ。ピエールさんが護って下さるから大丈夫です!」
アリアがピエールに「構いませんか?」と訊ねるとピエールは嬉しそうに快諾する。
「……そっか……」
アベルがもう一度手を差し出すが、アリアは繋ごうとはしてくれ無かったので、ガクッと肩を落としたのだった。
「はは! 振られてやんの!」
「……うう……、そういうこと言わないでくれないか……?(凹む……)」
ヘンリーに笑われ、アベルはジト目でヘンリーを見たのだった。
◇
そうしてせっかくここまで来たのだからと屋上の墓までやって来る。
「屋上にお墓……」
「城の屋上に墓を建てるなんて変わった王様だな」
墓の前でアベルが手を合わせると、アリアとヘンリーが墓を見下ろしそんなことを云う。
「……ここでゴールドオーブを貰ったんだけど……、いつの間にか消えちゃってたな……」
ゲマが壊したことなど知らないアベルは墓に向かって“失くしてすみません”と謝るのだった。
「…………私も手を合わせてもいいですか?」
「あ、うん。もちろん」
アベルが場所を譲ると、アリアは手を組み合わせ祈った。
十年前とお祈りの仕方が違うのは、やはり記憶を失くしているからなのだろう。
「アベルのお祈りって、変わってんのな」
「そうかな?」
「おう、真っ直ぐ手を合わせるんだな、初めて見たよ」
「…………うん」
――アリアがそうしてたから、真似してるんだ。
アベルは今は手を組み祈る、記憶のない彼女の横顔を淋し気に見つめた。
「よくお化け退治なんて思いついたよなぁ」
「……このお墓に眠る王様と王妃様に、お化け退治を依頼されたんだよ」
「このお墓の人達にお化け退治を頼まれたって? ……そんなバカな」
「ははっ、そう思うだろ? けど、本当なんだよ。夜に来ればまだ幽霊がいるかもしれないなぁ」
祈るアリアの後ろでアベルとヘンリーは話をしていたのだが、“幽霊”の単語が出た途端、アリアの肩がビクッと揺れる。
「っ、幽霊っ!?」
「あっ、大丈夫だよ。怖い幽霊じゃないから」
アベルは補足するが、アリアの瞳に涙が浮かんでくる。
「っ……(涙溜めて……可愛いなぁ……)」
アリアは泣くまいとしているらしく、口を引き結んでいた。
その様子にアベルは“きゅぅっ”と胸を締め付けられる。
「……ヤベーでしょ……(可愛いかよ……)」
ぼそっとヘンリーから呟きが聞こえると、
「……っ。へ、平気ですっ。ゆ、幽霊の一人や二人……!!」
アリアはやせ我慢するように半泣きで無理やり笑おうとして、眉を顰める。ちょっぴり“ぶちゃいく”な顔が男二人からは可愛く映ったのだった。
昔のアリアも幽霊を怖がってはいたが、こんな反応はしなかった。
子供の頃のアリアはいつも大人びていたというのに(幽霊に対しては騒いでいたが)、今のアリアは身体は大人なのに中身は少女のようで、庇護欲を擽るのである。
ギャップ萌えとはこういうことをいうのではなかろうか……。
((本当、この子どうしてくれよう……))
アベルとヘンリーは胸の高鳴りを必死に押さえ込んだ(ついでにピエールはぼーっと心を奪われたようにアリアを見ていた)。
それから城内を回ったが、アリアが何かを思い出すことはなかった。
◇
レヌール城を後にし、アベルは【キメラのつばさ】を使いアルカパまで戻る。
アルカパに着地する時、アリアのスカートが ふわふわと浮いて例の如く中身がちらりと見えたが男達三人は気付かない振りをしておいた。
日が少し傾きかけていた。
「……何も思い出せなかったな……」
「すみません……」
「あ、いやっ、いいんだ! いいんだよゆっくりで!」
ヘンリーの呟きにアリアが頭を下げると、ヘンリーは慌ててフォローを入れる。
アリアは申し訳なさそうに再び頭を下げたのだった。
「アリア嬢、お気になさらず。大丈夫ですよ、記憶が戻るような時は頭痛が起こるとも聞いたことがありますし、無理は禁物です」
「はい……」
ピエールがアリアを元気付けるように語り掛けると、彼女は小さく頷く。
まだ少し元気がなさそうなので、ピエールはアリアに元気が出そうな話をいくつか話してやるのだった。
ピエールとアリアが話込む中、アベルがぽつりと零す。
「……やっぱり
「ん? アレってなんだ?」
「あー……、うん。ラーの鏡」
「ラーの鏡……?」
「ああ、真実を映す鏡があるらしいんだ。もしかしたら、失った記憶も映し出してくれたりするのかなって思ってさ」
修道院で読んだ本に書かれていた【ラーの鏡】。
これだけ思い出の場所を回ったのに何も思い出せないなら、試してみるしかない。
「フム。なるほどな……。で、それはどこにあるんだ?」
「……修道院で本を読んだんだ。神の塔という所にあるらしいんだけど……」
「場所はわからないって……?」
「ああ。とりあえず、明日はラインハットに行ってみようよ。距離的にも先にそっちに行った方が近いしさ」
「えっ」
アベルの提案にヘンリーは目を丸くする。
「あれ? 昨日帰ってみたいって言ってなかったっけ?」
「あ、ああそうだけど……。アリアは大丈夫なのか? 狙われてるんだぞ?」
――ラインハットに行ったら、捕まっちまうんじゃないのか?
ヘンリーは心配になって聞き返していた。
「……そりゃ心配だけどさ……。置いて行ったら居なくなりそうで置いて行けないよ」
油断するとアリアはすぐ消える。
風のように掴めなくて困る。
追い掛けても、すり抜けていきそうで……。
アベルはアリアとの距離が近づいたり離れたりするのが不安なのか、眉尻を下げた。
「ん……?」
「彼女、すぐ居なくなるからね……。僕の傍に居た方が多分護ってやれると思う」
「…………お前、アリアの騎士みたいだな」
「騎士……?」
ヘンリーがからかおうとすると……、
ずずいっ……っと!
「それは私のことなのですが!?」
急にピエールがアベルとヘンリーの間に割って入って来たのだった。
「うおぉっ!?」
「わっ!? びっくりしたっ!!」
「アリア嬢の騎士といえば、この私ピエール唯一人!! 他の何人たりとも彼女の騎士を名乗ることは まかりなりませんよ!」
ヘンリーとアベルが驚く中、ピエールは腰に手を当て“ドヤァァ!”とふんぞり返った。
と、そこにはさっきまでピエールと話をしていたアリアの姿が見えない。
「あ、あれ……? アリアは……?」
「アリア嬢なら宿へ向かいましたよ。部屋を取っておくと仰っていました」
「「……すぐ居なくなる……」」
アベル達はアリアを追って宿へと向かった。
そろそろラインハットに向かわないとね!
次回はまだ行きませんがw
----------------------------------------------------------------------
評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。
読んでいただきありがとうございましたっ!