何故かマッシュがお気に入りに……!
では、本編どぞ!
「……確かに葡萄の香りがするね……って、ヘンリー!?」
ヘンリーを跳ね返すように、アベルが両手を前に突き出すと彼が離れて「はっ!?」と目を覚ます。
眠っていたようだ。
「さっき起きたばっかりなのに眠るなよ」
「悪い悪い。なーんかこの枕に顔を埋めたら眠くなっちゃってさ……」
アベルが注意すると、ヘンリーが急に眠くなったと首を捻っていた。
「……何か特別な効果があるんでしょうか……?」
「……うーん……。こういう時は、……インパス」
アリアは【安眠枕】に指をつんつんと押し込んでみる。柔らかい感触と葡萄好い香りがした。
アベルは鑑定呪文【インパス】を唱える。
すると【安眠枕】は戦闘中に使うと敵一体を眠らせる効果のある名産品だということがわかった。
「まあ。魔物を眠らせることが出来るんですね! 良いものをいただきましたね」
「だね。けど、ラリホーを使った方が早いかもしれないね。ラリホーの方が複数の敵に効くし」
「あ」
アベルの指摘にアリアはハッとする。
「アリアって、ラリホー使えるでしょ?」
「あっ、はい」
「じゃあ、これは馬車に置いておこうか」
「え?」
アリアは首を傾げる。
「馬車で君が休む時に使うといいよ。ぐっすり眠れるみたいだから。きっと疲れも取れると思うよ」
「ぁ……、ありがとうございます」
アベルがアリアに微笑み掛けると、アリアは ぽっと頬を染めお礼の言葉を口にする。
そうして【安眠枕】を抱えたままアベル達は宿を後にし、町の入口に置いた馬車までやって来るとキャビンに【安眠枕】を置いたのだった。
「……っと、これでよし。……あ。キノコが育ってる……!」
キャビンの中で眠るマッシュの傍に置いた原木には、小さな丸い茶色のキノコが複数生えている。
――いったい何のキノコなんだ……!?
「プフッ!」
アベルはアリアの希望で置いた原木に“こんなこと初めてだ……!”とつい吹き出してしまった。
「はぁぁ……(おはようやで、
マッシュはアベルがやって来ると目を擦ってアベルを見上げる。
「マッシュ……、それ、食べれるのかい?」
「はぁぁ……(当たり前や……、誰が世話してると思てんねん……めっちゃウマイでぇ)」
アベルの質問にマッシュはうんうんと頷いた。
アベルはマッシュの云っていることはよくわからないが、マッシュはアベルの言っていることを理解しているらしい。
質問したタイミングで頷くので食べられるということだけはわかった。
「……他のみんなはまだ寝てるか……(まぁ、まだ早いし寝かせておこう)」
マッシュ以外のスラりん、ドラきち、ブラウンは眠っていたので、寝かせたままにして、アベルはキャビンから下りる。
「じゃあ、行こうか!」
アベルがパトリシアの元へと行くと、アリアとヘンリー、ピエールが頷き、一行はアルカパを出発した。
◇
アルカパを後にし、アベル達は東へ進んでいた。
サンタローズを北に眺め、なだらかな山々を越えラインハットの関所を目指す。
地図を確認すると、そろそろ関所が見えて来る頃だ。
「ラインハットの関所……」
アベル達の前方にラインハットの関所が見えて来ると、アリアが呟いた。
「……アリア良かったのかい?」
「……あっ、はい。アベルさんが護って下さるって言うから……」
アベルが隣を歩くアリアに確認を取ると、彼女は上目遣いでアベルを窺う。
魅惑的な瞳に見つめられ、アベルは息を呑んでから自分の胸を拳で叩いた。
「っ、あ、ああ、任せてくれっ! ちゃんと僕の傍にいてね。でないと君を護れない」
どんとこい! ってなものだ。
「っ、はい……!」
アベルの言葉にアリアは“ぽっ”と頬を染めて返事をしたのだった。
そして、二人は時々見つめ合ったり、目を逸らし合ったり、微笑み合ったりと二人の世界を作り出していた。
「……あの二人はラブラブでいーよなー……(アベルの奴、悩みがなさそうで羨ましいよ……)」
「ははは……」
後方を歩くヘンリーとピエールがアベルとアリアの甘い空気に辟易する。
――目の前には関所が迫っていた。
◇
それから間もなくアベル達はラインハットの関所へと到着する。
関所には槍を持つ兵士が一人、険しい顔で見張りをしていた。
アベル達が近付くと、槍を構えて威嚇するように睨み付けて来る。
「……アベルさん、大丈夫でしょうか?」
「アリアは僕の後ろにいて」
「はい……」
不安気に訊ねるアリアにアベルは自分の後ろに彼女を匿った。
アベルは何とか交渉してみようと思い、兵士の元へと近づいて行く。
(……あ、あいつは……)
見張りの兵士の顔を見るや、ヘンリーが目を見開いた。
「ここから先はラインハットの国だ。太后さまの命令で、許可証のないよそ者は通すわけにいかぬぞ!」
兵士が槍を構えながら厳しい目付きで先頭のアベルに告げるや否や……、
「てぇぇえええーーーーいっっ!!」
げしっ!!
突如ヘンリーが馬車の後ろから走って来て華麗に跳躍し、兵士に飛び蹴りを食らわせたのだった。
ヘンリーの突飛な行動にアベルは目を丸くし、アリアが「きゃあっ!」と驚きの声を上げる。
「あたっ!!」
「随分偉そうだなトム!」
ヘンリーの攻撃に兵士がバランスを崩し、膝を床に着くと頭を抱える。
頭を蹴られたらしい(兜越しなのでそこまでダメージは酷くない)。
兵士を蹴った後ヘンリーは兵士の前で顎を突き出し腕を組み、胸を張った。
「あいたた! タンコブが……。無礼なヤツ! 何者だっ!? どうして私の名前を???」
兵士は兜を外し膨れ始めたタンコブに触れてから、怒気を孕んだ声で立ち上がると自分を蹴って来たヘンリーを睨み付ける。
するとヘンリーは唇を歪ませ、ニヤリと嗤った。
「相変わらずカエルは苦手なのか? ベッドにカエルを入れておいた時が一番傑作だったな」
ふふんっ、とヘンリーの悪戯っ子のような悪い顔に兵士、トムが固まる。
外した兜が手から床に零れ落ちた。
「………! そ、そんな……、まさか……」
トムの瞳に涙が滲んでゆく。
「そう。オレだよ、トム」
「ヘンリー王子さま! ま、まさか生きておられたとは……。お懐かしゅうございます! 思えばあの頃が楽しかった。今のわが国は……」
ヘンリーがニッと笑うとトムは破顔した……ものの、次には憂いの顔で瞳を伏せてしまった。
「なにも言うな、トム。兵士のお前が国の悪口を言えば、なにかと問題が多いだろう」
ヘンリーはそう云うとトムの落とした兜を拾い、彼の手にのせる。
「はっ……………」
ヘンリーの立派な言葉にトムは瞳をぎゅっと閉じてから頷いた。
「通してくれるな? トム」
「はい! よろこんで!」
トムの目尻に堪えた涙の粒がきらりと光る。
そうしてトムは道を譲ったのだった。
出会った途端飛び蹴りとかヘンリーヤバい人じゃね……?
そして安眠枕超欲しい……。
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