考え方は人それぞれ。
では、本編どうぞ。
アベル達一行はラインハットを目指し、平原を行く。
もうすぐ日も暮れて、闇夜の時間がやってくる。
夜は魔物の出現も増えるから、早くラインハットに入りたいところである。
アベルとピエールが馬車の前を、ヘンリーとアリアは後ろを歩いていた。
馬車の前後でそれぞれ話をしながらラインハットへと向かっていたのだが、ヘンリーとアリアの話は次第に重くなっていた。
「…………、……っ、あーっ、わかった! とにかく、ラインハットの様子を見てから考えればいいよなっ。君の処遇もどうにか出来たらしてあげるからさ」
ヘンリーはアリアを安心させるようににっこりと笑ってみせる。
「え……」
「忘れてるかもだけど、オレ、あの国の第一王子」
「あっ……! ありがとうございます、ヘンリーさんっ!」
前方に見えてきたラインハットの城をヘンリーが指差すと、アリアは花が綻ぶ様に晴れやかに微笑んだ。
「っと、へへっ。その笑顔可愛いなっ!(アベルのこと想ってないならオレにもワンチャンあるかな?)」
「っ!? ぁっ、ありがとうございます……」
ヘンリーに指摘されると、アリアは恥ずかしいのか頬を覆ってしまう。
「…………、…………ホント、カワイイなー……。アリアさん、オレの嫁にならないかい?」
オレは王族だし、アリアと、マリアさん……二人とも娶ってもいいかもしれない……。
ぐふふ……それめっちゃいい考えじゃないか!?
捕まってる他の嫁候補は解放してやって、二人に贅沢させてやって、アリアの記憶が戻るサポートしてやれば丸く収まるんじゃ……?
ふとそんな考えがヘンリーの脳裏に過った。
……その時だった。
『ヘェンリィー……くぅぅうん……?』
前方から不穏な空気を感じる。
前を見るとアベルの目が光り、恐ろしい形相でヘンリーを見ていた。
しかも既に【やいばのブーメラン】を手に構えているではないか。
一触即発のピンチである。
「っ!!? あっ、いや、何でもない何でもないっ!! アリアさん、きっと護ってやるから、安心してくれなっ!」
ヘンリーは頭上にモクモクと湧いた妄想を慌てて掻き消した。
美女二人に囲まれた結婚生活は男にとっては夢のある話だが、二人の女性を娶るというのは、やはり現実的ではない。
ハーレムではないにしろ、デールと同じことをしようとしているではないか。
な、何でバレたんだ!?
ちょっとそんなのもいいかなって思っただけなんだけどっ!?
アベル、あいつ地獄耳じゃね……?
ヘンリーは「はは、参ったな……冗談だよ……冗談……」と前方を見てアベルに許しを請う様に手を合わせたのだった。
「ぁ、はい……」
ヘンリーの言葉にアリアは思う。
ヘンリーさんはマリアさんの事がお好きなのではなかったのかしら……。
修道院であんなに楽しそうにお話されていたのに、何故私に求婚……?
隣を歩くヘンリーの横顔を“男の人って不思議ね”とアリアはじっと見ていた。
そして、ヘンリーを見つめる(見つめてない)アリアをアベルが前からちらっと見やる。
先程からアベルは時々アリアの様子を窺っていたのだった。
……そんな馬車を挟んだ前方では。
「……ピエール……。僕って報われないのかな」
「………さぁ? アリア嬢に関することはお答えし兼ねますとだけ……」
アベルが嘆くように呟くと、“はっはっは”とピエールが愉快そうに笑う。
「冷たい…………。……いや、でもいいんだ。僕は彼女の記憶を取り戻してあげたいだけだからね……」
アベルは淋し気にはにかんだ。
先程アリアが云っていた、
“私そんな気無いですよ?”
“……自分が何者かもわからないのに、誰かを好きになんて……、なれるわけありませんよ……。”
の声はしっかり聞こえていたのだ。
聞こえていたというのは語弊がある。馬車の中のスラりん達が聞いて逐一報告していた。
『主さま、主さま、アリアちゃんがね、アリアちゃんがねっ! …………――だって!』
『あ、うん……、それで……?』
アベルはアリアが気になってスラりん達にヘンリーとアリアの会話を報告するようお願いしていたのだった。
聞かない方が良かった……と、アベルは一瞬後悔したが、自分は彼女の友達だし、何度かやらかしているので嫌われていないことだけでもわかれば、今はそれでいいのだ。
「主殿……」
「……その後のことは、その時に考えることにする。今は彼女の傍に居られるだけでいいや」
「…………うむ……。アベル殿」
憂いの顔で口角を上げるアベルに、ピエールは改まって名を呼ぶ。
その声音は先程とは違い、何だか深刻そうに聞こえた。
「ん? アベル殿? うん。改まって何だいピエール」
アベルはピエールの口調の変化に首を傾げる。
「……ラインハットに女性達が囚われているのでしょうか?」
「ああ……多分、何人か攫われたって聞いたよ」
「……アベル殿もお気付きかと思うのですが、今までラインハットでそのようなことは無かったのです」
「あ…………、…………うん?」
ピエールに告げられ、アベルは瞳を瞬かせる。
……ん?
前回、サンタローズに入る直前に記憶がなだれ込んで来たから、今回もそろそろ記憶が降りて来てもいい頃か……でも、まだ来ていないんだけど?
けれど、ピエールは何が起こるか知ってる口振りだ。
ということは……。
「アベル殿にはまだ降りて来てらっしゃらない……?」
ピエールがアベルを窺うようにじっと見つめてくる。
「っ……ひょっとして助言……、かな? ……つまり、ピエールはラインハットで起こることを知ってる……?」
「…………ええ。まぁ……、そんな所でしょうか……」
ピエールの歯切れが悪い。
「ピエール?」
「……女性達を誘拐する事件など、別世界では起こっていなかったのです。これは……私も初めて経験することで……、少し困惑しております」
アベルがピエールに問うと、彼は頭を左右に振って額に手を当てた。
「っ、そうなのかいっ!?」
「はい、そうなのです。アベル殿はこれから未知の体験をすることになりそうです。どうか、気を引き締めて事に当たられますように」
驚きに声を上げるアベルにピエールは忠告する。
「っ……未知……。未知かぁ……、…………っ、……な、何かアレだな」
「はい?」
「…………ちょっとドキドキしてきた」
アベルは胸に手を当て、「そっか……」と小さく零した。
「不安ですか?」
「いや、不安というよりは……、新鮮って感じかな。不謹慎だけどね。攫われた女性達を解放してやらないとね……!」
そう口にしたアベルの瞳がいつになく煌めく。
ラインハットで一体何が起こっているんだ……!?
これってひょっとしてアリアの影響なのか!?
「……主殿……、不謹慎ですよ」
「っ、わ、わかってるよ! けど、ほらっ……、いつも同じことの繰り返しだったから、何か嬉しくてね」
ピエールが
「…………まぁ、そう思う気持ちもわからなくもありませんが……。……私は少々不安です」
アンドレを撫でながら、ピエールは近づいて来るラインハットを眺める。
「そうなんだ?」
「何度この生を繰り返したのかは憶えていませんが……、先が見えないということがこれほど怖いことだとは思いませんでしたよ」
ピエールはらしからぬ不安を吐露した。
アリアの前ではいつも強くあるよう振る舞うピエールだったが、アベルには弱音を吐けるようだ。
「…………、…………へぇ。そういう考えもあるのか……」
アベルはピエールの話に瞳を瞬かせる。
「そういう考え……とは?」
「……僕は、先がわかっていても何も変わらなかったから、それが嫌で仕方なかったんだよ」
「アベル殿……」
ピエールは知らないだろうけど色々あったんだよ……、とアベルは瞳を伏せた。
すると、ピエールは何かを察したらしく小さく頷いた。
「……未来に何が起こるかわからないから、今を生きれるんだ。もし未来が辛いものなら……それがどうあがいても変えられないのなら、それこそ絶望しかないよ。だから先の事なんて知らなくていい。僕はそう思っているんだ」
――だって、未来がわかっていたらつまらないだろう?
……アベル達の目前にラインハットの城下町が迫っていた。
アベルはピエールには色々相談してそうだなぁと思ったので。
考え方は違うけれど、同じ道を共に行く。
何かそういうのいいなっと。
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